ヒーロー殺しの少女たち 〜ヒーローの輝く裏で〜 作:ゴウ・フェトア
ベストジーニストさんの個性が原作調べてたら思ったより強かったので紫吹さんは素っ裸に紙の鎧をまとっております。
「はぁ……はぁ……」
「ジーニストさん!」
息が上がっているのはベストジーニスト。それを心配して他のヒーローたちが駆け寄ろうとするが、それをジーニスト自身が止めた。
「やめろ……。お前たちは他のヒーローを呼べ。私では足止めが精々だ」
にらみつけるのは紙の鎧に身を包んだ青髪の少女紫吹。
「まだ足止め続けるつもりなんですか?」
ガチャン、と新たに対戦車ライフルの装填を終える紫吹。その表情は余裕そのもので大した疲労は見られず。
そして、再び弾が放たれる。
「う、おおおおおお!!」
繊維を鞭のようにしならせ弾の軌道を全力で逸らすジーニスト。だが完全にずらしきることはできず肩をかすめる。
それは戦車でさえ貫く弾丸。かすめただけで肩の肉がえぐり取られてしまう。
「ぐう……う……」
だがジーニストは折れない。動けずとも敵を睨み続ける。
「ジーニストさん! もう逃げてください! 俺たちのことはいいですから!!」
戦うのを止めようとするのは他のヒーロー。すでに被弾し、動くことすらままならなくなっている者たちだ。
そもそもジーニストがこうして矢面に立って攻撃を受けているのももとをたどれば彼らを守るためだ。
そして、どんなに血を流してもジーニストは彼らを見捨てない。
「ダメ……だ! 私たちはヒーロー。生きている限り……敵と対峙し、罪なき人々を守る義務がある! 決して背を向けるようなことはできない」
「ジーニストさん……」
力強く言い切るジーニスト。だがその体はもう動かない。もう一撃来たら今度は防げないと彼自身が直感する。
だが、次は来なかった。
「これぞヒーロー……」
「?」
シブキが頬を染めて呟く。ヒーローたちは何事かと構えるが少女が武器を構える様子はない。
「私決めました! ジーニストさんのことは殺しません! あなたのその行動こそヒーローだと思います! ちょっと実力が足りない気がするけどそこは目を瞑るです!」
先ほどよりもほんの少しだけテンションが上がっている様子のシブキ。その顔は心の底から喜んでいるようにジーニストたちには感じられた。
不気味な気配を感じながらも足を銃で撃たれ動けなくなっていたヒーローが紫吹に尋ねる。
「そ、それじゃあこれ以上の攻撃はしないってことでいいのか?」
ヒーローの一人がジーニストに肩を貸しながら少女に問う。それに対して少女はきょとんとした顔になり
「? ジーニストさんはいいですけど……あなた達は殺しますよ」
新たに呼び出すのは機関銃。ジーニストが健在であればすべての弾丸を繊維でからめとることができたのだがすでに満身創痍の彼にそんな芸当はできない。
「ではでは、ヒーロー殺しとして働かせていただきます」
引き金に少女の指がかかり容赦なく弾がヒーローたちに襲い掛かる。
ジーニストには当たらないようにしているがそれ以外は容赦なしに殲滅するつもりの銃撃だ。
「やめろ……やめろおおおお」
すでに個性の発動すらままならなくなっているジーニスト。なすすべもなく周りのヒーローが撃たれ血をまき散らし地に倒れ伏すのを眺めることしかできず、精々できるのは相手に向かって吠えること。
「ああ……良いです。この苦難と不幸こそがヒーローを強くするんです。ジーニストさん、もっと絶望してください。もっと心を殺してください。そうすればあなたはもっと高みに登れるはずです!」
どんな人生を送ってきたらそんな価値観を人に押し付けることができるのか、少女の銃撃は止まらない。動く影を見つければすぐにそちらへ銃口を向け動かなくなるまで弾を装填し続ける。
いつまでも続くかと思われた地獄。
だが幸いにも、比較的早く止まることになる。
「紙女あああああああああああ」
女、恐らく全身に服ではなく紙札を纏っているシブキのことを指しているのだろう。銃撃をしているシブキの真上からその声は聞こえてくる。
「あら、私の方が先に見つけてしまったのですか」
銃口を迷うことなく声が聞こえてきた方向へと向ける。恐ろしい数の弾丸が声の主に向かって放たれる。
しかし、声の主は『個性』を使い、空中で小爆発を起こす。自身の位置を変えることで襲い来る弾丸をすべて躱しきる。
「な……なぜ君が……」
「ああん? この前くそったれじゃねえか。なんでやられてやがる」
空から降ってきたのは爆豪克己。襲い来る弾丸をすべて躱してみせた彼は地上に降り立つと周囲の惨状に顔をしかめる。
彼にとってベストジーニストは職場体験でのこともあってあまり好ましい対象ではない。たが、その実力だけは高く認めていた。
「確認です。あなたが爆豪勝己で間違いありませんね?」
そんな爆豪に紫吹は問いかけながら持っていた銃器を手放す。
「ああん?! おまえか? こんなふざけたことしてくれてんのは」
爆豪はバチバチと手のひらから火花を散らし少女を睨む。それを答えとして受け取ってシブキは新たに体からお札をはがし、新たな武器を手に握る。
現れたのは鞭。赤黒く光り、長さは数十メートルはあるのではないかというほどの長大さを誇るそれを紫吹は己の周りに展開する。
「ヒーロー殺し紫綿場紫吹と申します。予測解答パターンに類似しました。対象を爆豪と認定し交戦、開始します」
「ヒーロー殺しぃ? ステインとかいうやつのシンパか」
少年と少女がにらみ合う。
○
「おらおらおらおら!」
「威勢のいいのは口だけですね」
縦横無尽、空中すらも自由自在に飛び回る爆豪。だがその掌打はただの一つも少女にかすらない。
「ちまちま逃げやがって……」
「あなた、今何かに焦ってますか? 事前に予測していたよりも攻撃が単調ですよ?」
少女の言葉に空中移動していた少年の動きがわずかに狂う。
「ほらまたです」
鞭が爆豪の体に裂傷を刻む。
「ぐ……」
爆豪勝己。先日ベストジーニストの事務所にて職場体験を行った少年。
彼の心は少女の言う通り焦りで満ちていた。と、言うのも原因は緑谷の急速な成長だ。
無個性だと侮っていた彼が、オールマイトに認められた。フルカウルという新たな力を手に入れた。
ヒーロー殺しステインの逮捕も、世間ではエンデヴァーの功績だと言われているが緑谷の言動から爆豪は直感していた。こいつも一枚かんでいると。
本来ならば期末試験でオールマイトが指摘し、少しは軟化するはずだった爆豪の心の問題。
それを目の前の少女にははっきりと見破られていた。(流石に詳細を知られているはずはないが)
「私商売柄そういうのには敏感なんですよね。ですが安心してください」
「ああん?」
すぐに調子を取り戻した爆豪。高速でしなる鞭を躱しながら少女を睨みつける。
「あなたはヒーロー足りえません。ヒーローなりえません。なのでその焦りも、怒りも無駄なものです」
「うっせえぞ!」
敵の言うことにいちいち真に受けない。それは間違った行動ではないのだが。
「まず一つ目にその言動。ヒーローにあるまじきです」
鞭が爆豪の手を弾き、爆風をあらぬ方向へと変えてしまう。
「二つ目、あなたの過去です。調べました。敵を知るには情報から。知りました。あなた、無個性の少年をいじめていましたね?」
「ああん? なんであいつが出てくるんだよ!!」
駆ける爆豪。だが視界の端を縫うようにしてちかづいてきた鞭が彼の足をからめとる。
「聞きましたよ。いろいろひどいことをしたそうですね。持ち物を爆破、自殺教唆、恐喝、これがヒーローになる者の姿とは呆れますね。別に更生したわけではないようですし。あ、言い訳があるなら聞きましょう。それが大嘘だというのなら調べ直しましょう。で、ご意見は? 自身が犯罪行為を行っていたという罪の意識は?」
「うるっせえええええ」
鞭に対し、足に絡まった瞬間に爆破し逃れようとする爆豪。だが鞭は彼の爆破を受けても傷一つつかない。
「あなたのことは調べたと言いました。この鞭は耐熱性に優れ、なおかつ耐久性に重きを置いて作っています。あなた程度の個性では傷一つつきませんよ」
鞭を振るう。爆豪の足に鞭を絡めたまま少女はそれを振り回し壁に、地面に、樹木に、少年をぶつけ痛めつける。
「が……は……」
「我らがリーダーは個性云々で人を馬鹿にする人が許せなくてですね。無個性を馬鹿にした人に対してはこうして制裁を与えてから殺すようにしているんですよ」
場所を移動しながら戦闘をしているせいで他のヒーローたちが援護に入るタイミングをつかめない。爆豪は自分でこの鞭をほどくしかないのだがそう簡単にほどけるようにはなっていなかった。
さんざんあちらこちらに叩きつけ、ようやく満足したのか少女の鞭が少年を開放する。
すでにヒーロー装備のうちで無事なものは何もなく、全身も裂傷や刺し傷、打撲だらけだ。
「おれ……は……」
「これで避けられませんね。さようならです。偽物のヒーロー」
少女が構えたのはピストル……だが、爆豪に向けていた右手が急にブレる。
狙撃が、六発の弾丸が少女の右手に当たったのだ。腕に巻かれた紙が直撃を防いだもののその衝撃は爆豪から照準を外すには十分。
「ふむ、紙がない場所を狙わねば効かないようだな」
紫吹と、そして爆豪には聞こえないその呟き。
それは遙か遠くから紫吹を狙って狙撃したスナイプのもの。
同時に爆豪を救うべく複数のヒーローが紫吹に襲いかかる。
プレゼントマイクは全力の雄叫びを紫吹に浴びせる。
イレイザーヘッドは個性を発動されないように自身の個性を発動し、同時に包帯で爆豪勝己を救い出す。
雇われヒーローのマウントレディが少女を踏み潰さんとその巨大な足を振り下ろす。
巨大な土埃が舞い、全員の視界が閉ざされる。
「やったか!!」
プレゼントマイクが目を凝らしながら凝視する。しかしマウントレディが否定した。
「いえ、残念ですが踏み外しました……というかかわされたんですけど! どんな反射神経してるんですか!」
「ちゃんと個性は消しておいた。それがあいつの素の動きだと知っておけ」
爆豪の状態を確認しながらイレイザーヘッドは二人のヒーローに注意を呼びかける。
やはり……煙の中で何かがうごめいた。イレイザーヘッドは個性が解除されないよう瞬きしないように気をつける。
「カホッカホッ。これは、マウントレディさんですかね……ちっ、個性も使えませんか」
「マウントレディ! もう一度やれ!」
「はい!」
マウントレディの足踏みが周囲を均す。だが手応えはない。
「不意打ちでさえなければ大きなだけの単調な攻撃。オウタカさんでなくても避けられます」
声がしたのは遥かに遠く。鞭を使って木をつたい移動したのだろう。
「マイク! 俺の個性が残っている間に!」
「おおぉぉぉぉぉけぇえええええええ!!」
だが、ここに来て土埃が邪魔になる。狙おうにもマイクの指向性を持たせた攻撃では高速で動き回る敵に有効打は与え辛い。
そして、
「ふむ、個性が使えるようになりましたね」
そんな声とともにミサイルがマウントレディめがけて発射される。
「きゃああああああ」
「大丈夫か……うおおおお!?」
同時にプレゼントマイクにも銃撃が襲いかかる。
「さあ、ヒーローとは守る者のこと! 爆豪君を守ると言うならばあなた達がヒーローに足りうるのか、私に見せてもらいましょう」