「何か、やっこさん方に」
「何です、ヤザン隊長?」
「何やら、オモチャがいるらしいじゃねえか?」
その隊長の言葉に、ラムサス・ハサはトリアーエズを調整するその手を止め、しばしの間考え込む。
「確か、巨人やらなにやらですか?」
「そう、それだ」
「単なる噂じゃないですかね、隊長」
「気に入らねぇな……」
もっとも、彼ヤザン・ゲーブルがここ最近機嫌が悪いのは、いきなり地球連邦軍とジオン公国の戦争が勃発したからではない。むしろ逆だ。
「せっかくドンパチが出来るってのに、セイバーフィッシュが故障しちまったからな」
「トリアーエズでも、何とかやってみましょうよ、隊長」
「こいつは火力は悪くはないが、動きが単なる宇宙の衛星固定砲だ」
そう言いながらため息をつくヤザンの気持ちはラムサスには解らなくはない。確かにトリアーエズという「宇宙戦闘機」は対費用効果を重視した挙げ句、単なる弾薬運搬機と成りはてている。
「せめて、セイバーフィッシュならばスイスイ動けるのだがね」
「そんな事よりも」
その愚痴を言い合う男二人にとかけられる、凛とした女の声。
「早くトリアーエズの追加ミサイル、そして機動の調整を済ませてください」
「へいへい、解りましたよ……」
一応はこのメイリーの方が、技術士官とはいえ階級が上に当たるのだ、ヤザンはその硬い肩を竦めつつ、トリアーエズの調整にと戻った。
――――――
「ジオンの奴らもよ」
ヤザンはトリアーエズの多弾頭ミサイルの確認を終え、出撃までにハンバーガーで軽く食事を取る。
「ハデにやってくれるが、気に入らねえ……」
「コロニー落としの事?」
「そうに決まってんだろ、メイリー大尉どの」
やはりトリアーエズでは運動性に問題がある。メイリーに頼んで向上はしてもらったが、今度は推進剤の問題が出てきた。
「何をやらかすか、知れたもんじゃない……」
「戦略の事、それとも戦術の事?」
「俺だって、戦略と戦術の違いくらいは知っているさ」
正直、戦略面では一個人であるヤザンが出る幕はない。単に彼が気にしているのは相手のなりふり構わないやり口と。
「ミノフスキー粒子か……」
「電子機器に多大な干渉を及ぼすって粒子ね」
「パイロットが、単なるミサイル運び屋で生涯を終えないって所では、歓迎すべきモンなんだが……」
だが、トリアーエズにしろセイバーフィッシュにしろ電子機器、特にレーダーありきの戦いを前提とした宇宙戦闘機だ。
「それを封鎖するってことは、敵さんにレーダーに頼らない戦いが出来る……」
「でも、そんなこと言っても」
「ラチが空かねぇよな……」
そう、苦笑いをしながらヤザンはバーガーの最後の一口を頬張り、その空き袋を「宙」にと放り投げる。
「ちょっと、整備の人が迷惑するでしょ……」
「いちいち細けぇ女だな、お前も」
「規則違反だし……」
「嫁の貰い手なくなるぜ、大尉?」
「もう!!」
ヤザンにしてみれば、正体が解らない相手を前にした緊張を少しでもほぐそうと、馬鹿をやっているだけだ。
――――――
「敵、ジオンの戦力はガトルだけではあるめぇ……」
「だから巨人ですって、隊長」
「そうかい、ラムサス」
棺桶、まさに電子機器が封鎖され外部モニターにとノイズが疾るトリアーエズのコクピットはその表現が似合う。
「自分の肉眼が頼りか……」
「俺のトリアーエズも、ミサイル機器に影響が出ています」
「落ち着けよ、ラムサス……」
だが、そのヤザンにしてもほぼ初めての経験であるがゆえに、深くパイロット・スーツのヘルメット内で深呼吸をする。
「ジオンも、厄介な物をばらまいたもの……」
「隊長、接敵します!!」
「わかってるって……」
先のコロニー落としでの戦いで人数割れを起こし、自分の部隊から二人もパイロットを引き抜かれたヤザンの機嫌は、やはりよくない。
「このウサ、戦いで晴らさせてもらうぜ!!」
「隊長!!」
「今度はなんだ、ラムサス!?」
「巨人です!!」
「へえ、あれが!!」
巨人、有視界で見える緑色をした「人形」は確かにそう見える。例のミノフスキー粒子の影響で電子機器に完全な信用は置けないが、相対距離からして。
「大きさは約、二十メートルといった所か……」
だが、その宇宙での相対距離を見誤ったのか、近くにいた別のトリアーエズ隊から火線が疾る。
「まだ、早い!!」
ヤザンの悪態は射撃兵器の威力の減衰に対してついたものではない。そのような空気抵抗は宇宙には存在しない。存在するのは。
フワゥ……
命中率だ。
「身軽にかわしやがる、巨人め……」
愚痴りながらも、ヤザンは内心その早すぎたミサイル発射については感謝している。相手の底知れない性能を、その回避機動で実感したからである。
「ラムサス!!」
「はい、隊長!!」
「敵からの反撃が来るぞ!!」
バゥ!!
始まった艦隊戦、それのビーム艦砲射撃をその背にしながら、その一機の巨人が持つ火器から、何かが発射された。
「マシンガン!?」
その相手の手から発射されるのは、無数の「砲弾」であり、それが先程ミサイルを放ったトリアーエズ隊を襲う。
「大砲をあれほどのスピードで連射できるのか!?」
驚愕するヤザンの視線の先で、トリアーエズ・コクピットのノイズに包まれたモニターにと次々、その僚機が撃破されていく。
グゥ!!
「よし、近づいた!!」
だが、その光景を見ても闘志を失わないのがヤザン・ゲーブル、パイロット選抜実地試験でトップクラスの成績を叩き出した彼の真骨頂である。
「しかし、巨人さんの装甲は厚いようだ!!」
ラムサスもヤザンに続けて多弾頭ミサイルを放ったが、その応急的に取り付けたミサイル群は想定の威力を発揮せず。
「あとはバルカンのみか、くそ!!」
「こちらにはまだ残り弾があります、隊長!!」
「一気に仕留めるつもりが……!!」
火力が高いミサイルで撃破出来なかった物を、バルカン砲としては大口径であるがトリアーエズのそれで破壊出来るはずもない。その時。
ズゥ……!!
「何だ……!!」
ヤザン機からやや上方、そこに大規模な炎の球が出現する。
「まさか、核か!?」
無意識の内に「巨人」が放った砲弾をかわしつつ、ヤザンはその光景に目を奪われまいと、必死で自機のコントロールに専念する。
「無線も通用しないか、どうするべきかな!?」
ラムサスが最後のミサイル群をその巨人へと放ち、ヤザン機から敵の目を逸らそうとしている事に感謝をしつつも、ヤザンは状況判断に努める、が。
「よし、撤退!!」
「え、隊長!?」
「勝てねぇんだよ、引くぞラムサス!!」
ミノフスキー粒子散布下ではどのみち母艦「サラミス」との連絡はつかない、またしても拡がった核の光を見やりながら、ヤザンはトリアーエズを急旋回させる。
ズゥ……!!
その隙を見逃さないとばかりに、先の巨人とはタイプが異なる、機体のあちらこちらに動力パイプを露出させた敵がそのヤザン達を追おうとするが。
「その一つ目、伊達じゃないだろうよ!!」
トリアーエズから警報が鳴り響く位に負荷をかけた反転、それから続くバルカン砲の連射により、ヤザンはその「一つ目」の目を潰し、一矢を報いる。
「サラミス、無事であってくれよ……」
「目」を潰された為に機体に異常をきたしたのか、照準がおぼつかない砲弾の連射をする巨人を尻目に、ヤザン達は独断で母艦へと帰投した。