「ヴァースキだと?」
久々の休暇である。特に両親の墓参りににも行こうという気にもなれず、ただイェメンの街中をブラブラとしていたヤザンは。
「お前のような小僧が、連邦の使いっぱしりをしているのか?」
「悪いか、ヤザン兄ちゃん?」
「兄ちゃんって、おい……」
連邦内でしか伝わらない符合をこの目前の少年、歳の頃は十五、六歳と思われる彼が知っていた為に、連邦の密偵をしているのは確かだとは思ったが、それにしても。
「俺の弟は、すでに死んでいるぜ」
「でも、兄ちゃんは兄ちゃんだ」
「訳がわからねえ……」
全く意味不明な事を言うこのヴァースキという少年を前にして、ヤザンはどうしていいか対応に困る。
「まあ、喫茶店にでも入らねぇか?」
「じゃあね……」
そのヤザンの言葉などは全く無視をし、ヴァースキ少年はそのまま駆け足で街の街路を去っていく。
「何なんだ、全く……」
何か、キツネに摘ままれたような気分となってしまったヤザンは、気分転換の為に。
「コーヒー、一つ」
露店で、飲み物を注文する。
――――――
「てな、事があったんだが」
「変な話だな、ヤザン」
菓子を摘まみながら、ギャリーはそのヤザンの今日の出来事に、軽く笑ってみせる。
「で、連邦の伝言とは何だったんだ?」
「それがな、ギャリー……」
ソファーに寝っころびながら、ヤザンはそのヴァースキと名乗った少年からの伝言を。
「この前の基地襲撃、それに関わったジオン兵を発見したら、連れてこいって話だ」
「捕虜って事か?」
「に、しては曖昧だ」
「うん、しかしなヤザン」
自身もあまり納得してはいないが、一応ギャリーにも伝えた。
「何か、この前の戦いで基地に敵の特殊部隊が侵入したそうだ」
「その関係かな……?」
「だろうな」
律儀にも食べ終わったスナック菓子の空き袋をゴミ箱へと捨てにいった後、ギャリーは。
「ちょっと、ジムのシミュレータで遊んでくる」
「何か機嫌が悪くないか、お前」
「その基地の秘密やら何やらと関係しているかどうか知らんが、憲兵から取り調べを受けてね……」
「ふむ」
「まあ、俺達とは関係がない話だとは思うが」
そのまま立ち去っていくギャリー・ロジャースの後ろ姿を見やりながら、それでもヤザンは。
「俺の死んだ弟の名を語る、アイツは何もんだ……?」
偶然の一致かもしれないとは感じつつも、ヤザンは死んだ双子の弟の名を語る少年の顔が、頭から離れない。
――――――
「このモビルスーツ達も、手酷くやられているな」
「別にあなたのせいじゃない、ダンケル」
「わかってはいるが、カタリーナ……」
それでも、先程から整備員達を手伝い何とかジムを直そうとしているダンケルにカタリーナ。
「構造上の問題が……」
そのジムの状態を、メイリー少佐は自分を納得させるかのように声にと出しつつに、記録を録っている。
「このコルベット、ジムと合体出来るんだって?」
「そうみたいですよ、ラムサスさん」
「ふぅん……」
ベルカ少年のその言葉に、どこか感心したようにその首を振るラムサス・ハサ。
「連邦のお偉方も、別に無能という訳ではないようだな」
「でも、ラムサスさん」
「ああ、ああ……」
しかめ面をしながら、ベルカ少年が指を指した先には一機の大型戦車の姿。
「さすがに、あれはコルベットじゃ運べねぇよな……」
「ガン・タンクというモビルスーツらしいです」
「戦車だろ?」
「いや、書類上ではモビルスーツだと、この基地の整備の方が言っていました、ラムサスさん」
「しかし、な」
そう言いながら苦笑するラムサスの気持ちはベルカにも解らなくはない。確かにそのガン・タンクとやらは戦車を大型にしたような形状をしている。
「カウンターウェイトが付いてある所を見る限り、気が利いているんだかいないんだか……」
その時、基地の整備員からラムサスの陸戦型ジム、それの調整を行って欲しいという言葉が天井スピーカーを通して、ハンガー内へと伝わり。
「ちょっと、行ってくる」
「はい、ラムサスさん」
ラムサスはベルカとの話を止め、早足で自機の元へと向かった。