教習用モビルスーツとして配備されたジムではあるが、ヤザンがダンケルを鍛えるつもりで使ってみた所。
「よーし、いいぞダンケル!!」
「ハッ!!」
「よし、降りるぜ……」
決して悪い機体ではない、むしろ素直な操縦系統は、連邦初のモビルスーツ「ザニー」よりもジオンのザクのそれに近い。ザニーがあまりに試作タイプに過ぎたのだ。
「もうそろそろ、この基地の連中に乗り方を教える時間です、隊長」
「ラムサス、お前が出来るか?」
「はい、大丈夫だと思いますが……」
「では、やってみろ」
未だにこの基地には本格量産タイプのジムは配備されていないが、それでも上の人間は、いずれの事を考えているのであろう。
――他の基地の連中にも、このトレーナータイプのジムが先行配備されているらしいですよ――
情報通である通信兵ベルカによれば、この教習用ジムがすでにいくつか量産されている、らしい。
「一応、ヤザン隊長が教えるのが筋じゃないですか?」
「俺はすぐに怒鳴るからよ、新兵がかわいそうだろ、カタリーナ?」
「まあ、確かに」
今日はやけに暑いため、薄着であるヤザンとカタリーナはそう言い合いながら、互いに軽く肩を竦め合う。
「トレーナーの中の方が、涼しいんだけどな……」
「もう少し我慢しろ、ダンケル」
「はい……」
先程ヤザンとダンケルが入っていたトレーナータイプのジムには、豪勢にもクーラーが完備されていた。彼ら二人は訓練を積んでいる時も薄着であったが、そのお陰で肌寒くもあったのだ。
「こんどは、暑いぜ……」
額に浮いた汗をその腕で拭いながら、ヤザンはラムサスが指導している基地の新兵、そのパイロットが操縦するジム・トレーナーの動きを実と見やる。
「ん?」
その時、基地のハンガーの方からもう一機の教習用ジムが、その黄色い姿を表した。
「もう一機、あったのか?」
「さあ……」
ヤザンのその声に、ダンケルは軽くその首を振ってみせる。
「ヤザン・ゲーブル中尉!!」
「おや……」
そのジム・トレーナーから響いた声、それにヤザンは聞き覚えがあった。
「まさか、あの」
「一手、ご指導願います!!」
「ヴァースキとかいう小僧か?」
パイロットだったのか、ヤザンはそう軽い驚きを感じながらも。
「よく、わからねぇが……」
ラムサス達にと、ジム・トレーナーを貸してもらうようにと、大声を張り上げた。
「何もんなんですかねぇ……?」
ラムサスと基地の新兵が降りてくる姿を見つめながらポツリと呟いた、そのダンケルの言葉にはヤザンは何も答えない。そのまま。
「銃器はもちろん、サーベルもない」
ただ単にモビルスーツの操縦技術を競う、そういう事だろうとヤザンは何とか解釈する。
「ご苦労、ラムサス」
「気を付けて下さいよ、隊長」
「うむ……」
「ガキらしいが、得体のしれません……」
そのような事はラムサスに言われるまでもなく、ヤザンには解っている。
――――――
ヤザンが少しジム・トレーナーの拳を振り上げた所、それを寸前でかわした彼ヴァースキの動きを見て。
「悪くはない……」
素直にヤザンはそう感じる。ヴァースキがそのお返しとばかりに繰り出した前蹴りを見てもだ。
「むしろ、ガキのくせにどこでこんな技術を身につけたんだ?」
無言でモビルスーツの「格闘技」を放ち続けているヴァースキ、そしてそれを同じく無言で捌き続けているヤザン。彼らの乗るジム達をラムサス達は無言で見つめ続けている。
「変な戦いだ……」
「そうですね、ラムサスさん」
そのラムサスとカタリーナの言う通り、その無言で、黙々と手合わせをしているジム・トレーナー二機は不思議な空気を砂漠の地にと醸し出している。
「あっ……」
任務が終わり、見物に来たベルカとメイリーの目の前で、ヤザン機がヴァースキの機体のバランスを大きく崩させ、そのまま。
ズゥ、ン……
ヴァースキ少年の機体は、砂地へと倒れこんだ。
――――――
「結局、あの小僧……」
イェメンの地にと浮かぶ満月を見つめながら、ヤザンは一人タバコを吹かし続ける。
「あの戦いの後、俺に顔の一つも見せなかったな」
近頃、禁煙でもしようかとも考えていたヤザンではあるが、頭にと少年の事が浮かび続けている為、それを振り払うのにヤザンはタバコにと頼る。
「ヴァースキ、か」
明後日の休暇には弟の墓参りでもしよう、そう思いながらも、ヤザンは再びタバコにと火を付けた。
「もっとも、アイツには墓石もないがな……」