機動戦士ガンダム「野獣の一年戦争」   作:早起き三文

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第18話「ホンコン・シティ」

  

「休暇なんだか、任務なんだか……」

「半々、という所でしょうかね、ヤザン隊長」

「そうかい」

 

 このヴァースキという少年は、ヤザンにしてみれば昔死んだ弟が大きくなっていればこんな顔だろうと思ってしまうが故に、彼ヤザンは何かこの少年といると気持ちが落ち着かない。

 

「このシベリア鉄道でも、モビルスーツは運べるんだな……」

「そうみたいですね、隊長」

「駅弁を食べるか、喋るかハッキリとしろ、ダンケル」

「ハハッ……」

 

 それでも、喋りながら向かいの席で弁当を食べ続けるダンケルに、ヤザンは苦笑するしかない。

 

「ラムサスの奴はすでにホンコンに着いているのかな、カタリーナ?」

「さあ……」

 

 ヤザンはあまり食欲がなく、結局カタリーナがヤザンの分の弁当まで食べてしまった事に。

 

「太るわよ、カタリーナ」

「はーい……」

 

 やや離れた席にと座っている、メイリー少佐が呆れたように声を出す。

 

「シベリア鉄道から乗り換えでホンコンに行って、どうするんでしたっけ、隊長?」

「ルオ商会、そこに行くんだとよ」

「ルオ商会、ねぇ」

「俺も詳しい事は知らねぇ、ベルカ」

 

 鉄道の窓から見えるのは、一面の銀世界。最初はヤザン達もその景色を実と見つめていたが、しばらくしたら飽きたのか、雑談に興じるようになった。

 

「どうやら、チャイナ地方の大商家みたいだが」

「そんなところに、僕達はなんの用で行くのでしょうか?」

「正確には、そのルオ商会ではなく」

 

 そういいながら、ヤザンは旨そうにアイスクリームを食べているヴァースキ少年の顔をチラリと見て。

 

「その商会と取引をしている、ムラサメ研究所という場所にいくんだよ、ベルカ」

「ムラサメ研究所?」

「ああ……」

 

 どこか、なにか吐き捨てるようにそう呟く。

 

「表向きは人体の健康などを研究している場所らしいが」

「何か、別の面があると?」

「どうやら、人体実験やらサイボーグを作るような事もしているらしい」

「へえ……」

 

 そのムラサメ研究所の風評、それはヤザンがギャリー・ロジャースから聞いた話だ。

 

「なあ、ヴァースキ」

「なぜ、僕に同意を求めるんですか」

「さあ?」

 

 そう言いながらヤザンは自身の両肩を竦めて見せた。どうも彼ヴァースキと「線」が繋がっているような気がしてならないのだ。そのムラサメ研究所とやらは。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ホンコン土産は、何が良いかな……」

「変な物を買わないでよ、ラムサスさん」

「なんなのさ変な物って、メイリー少佐どの?」

「知らないわよ……」

 

 何やら妙な馬鹿話をしている二人を無視し、ヤザンはルオ商会の支店へと行こうとしたが。

 

「何だ、ありゃ?」

 

 そのホンコンの街から離れた海の上、そこを妙な形をした戦艦が、ちょうど南の方向にと向かっている。

 

「何だが解るか、ヴァースキ?」

「もしかして、木馬という艦ではないでしょうか?」

「モクバ?」

「我々が極秘利に持ってきた、あのガンダムとやらの完成品、それが搭載されている艦らしいです」

「フゥン……」

 

 このチュウゴク地方の都市、ペキンはジオンの勢力圏となっている。今のヤザン達はあくまでも内密ということのホンコン来訪なのだ。

 

「ごくろうなこった」

「何でも、その木馬の乗組員たちは、皆歳が若いって噂が……」

「おいおい……」

 

 珍しい文字で書かれている店々の看板を興味深そうに眺めながら、ヤザンは。

 

「それをお前が言うか、ヴァースキ」

「はは……」

 

 軽く、ヴァースキ少年にと笑いかけた。

 

 

――――――

 

 

 

「これはこれは、連邦の方々……」

 

 中国服にとその身を包んだ年配の男が、豪華な調度品に埋め尽くされた部屋の中でにこやかな笑みを浮かべたまま。

 

「うちのテスト・Vはお気に召しましたか?」

「テスト・V?」

 

 謎の単語を発し、そのままヤザンにと握手を求める。

 

「もしかして、あの陸戦型だというガンダムって名前の機体か?」

「いやはや、お上手な……」

 

 どうやらムラサメ研究所の研究者と思われるその男は、そう言った後に。

 

「後で実験データを取るよ、テスト・V」

「……はい」

 

 ヴァースキ少年、彼の事をチラリと見たのは、ヤザンの気のせいであろうか。

 

「ムラサメ研究所の人だったな、これが手渡すように頼まれた書類だ」

「確かに受けとりました、ヤザンさん」

「あの、よ……」

「はい?」

「この、ヴァースキの事なんだが……」

「いやいや、それは」

 

 ヤザンがその頬を指で掻きながら、ボソリとした声で訪ねたその疑問について。

 

「企業秘密でして」

「ふむ……」

「秘密なのです、はい」

 

 男は、にこやかな笑みを浮かべたままに、お茶を濁すような返事を返す。

 

「あの陸戦型とかいうガンダムも、渡してくれませんか?」

「そう書類に書いてあったのか?」

「はい、左様で……」

 

 やや、慇懃無礼にそう答えた男はその手に持つ書類の一ページ、それをヤザンの前にと差し出した。

 

「あの俺が乗っていた機体なら、列車の中に分解して入ってあるハズだ」

「いやはや、どうも……」

 

 その時、男の目に鋭い光が灯ったのを、歴戦の戦士であるヤザンは見逃さない。

 

「タヌキだな……」

「はい?」

「いや、何でもない」

 

 ポォン……

 

 その時、恐らくは金細工で出来たと思われる鳩時計が、夕刻の時を知らせる。

 

「では、ヤザンさん……」

「おう、邪魔したな」

 

 何か居心地と気分が悪い、そう感じたヤザンはこのホンコンにあるホテルにと着いているはずのラムサスと会おうとして、さっさと立ち去ろうとしたが。

 

「では、ヤザンさん」

「お前はここに残るのか、ヴァースキ?」

「はい、仕事がありますから……」

「……」

 

 そのヴァースキの言葉に後ろ髪を引かれる思いがするヤザン、ではあったが。

 

「まあ、頑張れよ……」

 

 結局、深入りしないことに決めた。

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