「宇宙に上がれと?」
「そうだ、ヤザン君」
その「カイゼル髭」はそう言った後、葉巻の煙を軽くその口から吐き出す。
「ルナツー、そこでモビルスーツの教師をやってもらいたい」
「誰かに教えるってはのは、小官の性に合わないが……」
「それでも、モビルスーツの戦闘に関しては」
腕を組みながら、カイゼル髭はその手に持つ葉巻をポンと皿にと突きつけながら。
「君たちは数少ない、経験者だ」
「所詮は、地上のみの戦いしかしらない俺たちですよ?」
「その経験、宇宙に生かしてもらいたい」
「ハッ……」
「それに」
その上官、カイゼル髭はその目を鋭く光らせつつに。
「近々、行われる大規模作戦の為に、陽動を行ってもらう必要があるからな」
「いよいよ、連邦が攻勢に出ますか」
「この作戦、成功するか否かで今後の地球の運命が決まる」
その声を低くして、ゆっくりとヤザンにと語る。
「そのための布石となってもらいたい」
「まあ、どちらにしろ」
「何だ、言いたまえヤザン中尉」
「モビルスーツは、宇宙で戦うために作られたって言いますからな」
「そういう事だ」
そのカイゼル髭の言葉に、ヤザンはニカと笑いながら。
「初期型のジムね……」
自分達の部隊にとあてがわれる、モビルスーツのリストにとその目を通す。
――――――
「ガディ艦長、久しぶりですな」
「元気そうでなりより、ヤザンよ」
宇宙にいた頃、世話になった「ガディ・キンゼー」のその手を固く握りながら、ヤザンはニホン基地で宇宙へと打ち上げる予定である。
「このサラミス、改良が施されているな」
この季節の深い霧に包まれるサラミス級巡洋艦、それの姿を実と見やる。
「モビルスーツ格納庫も付いているぞ、ヤザン」
「そりゃ、いいな……」
「それと……」
そう、何かを言いかけてガディは。
「いや、何でもない」
一つ咳払いをした後、サラミスの周囲で警護をしているジム達の姿を見る。
「ジ、ジムと量産型ガンタンクか」
「量産型のタンクだったのか、コイツは」
そのカタリーナが乗っているガン・タンクは、ヴァースキとダンケル、そして。
「やはり、このジムは動きに問題があるな……」
前から「ジム」に対しての文句を止めない、ギャリー・ロジャースの機体に囲まれて、上空のディッシュ偵察機との通信を取っている。
「ミノフスキー粒子が濃すぎて、レーザー通信にも影響が出ています、ダンケルさん」
「レーザー通信でか、カタリーナ?」
「はい、です」
ミノフスキー粒子が濃いのは良し悪しだ、敵からの「視界」を眩ますのは確かだが。
「何事もなきゃいいけどよ……」
ダンケルの懸念の通り、こちらからも敵、不明機の接近が解らなくなるという点がある。
「こちら、ベルカ」
サラミス内からのベルカ通信兵、彼からの「声」も粒子の為に聴こえづらい。
「まもなく、このヨコスカからサラミスを打ち上げます」
「こちらギャリー、了解」
そのベルカの声はヤザン達にも伝わり、彼らも配置に付こうとした、その時。
「こちら、メイリー!!」
先程から、ヤザン達の隣で霧の中の海を眺めていたメイリー技術士官が、突如として警告の声を上げた。
「どうした、メイリー少佐!?」
「あれを、ヤザン中尉!!」
ヤザンの服を引っ張りながら上げたメイリーの声、それを聞いたヤザンとガディはその海の中へと視線を向ける。
「潜水艦だと!?」
サラミスを宇宙へと打ち上げるマスドライバー。そのレールのすぐ横へと、数隻の潜水艦が霧と海の中から姿を表した。
「ジオンか!?」
そのヤザンの声を聞く前に、ダンケル達のモビルスーツが臨戦態勢をとり、その手に持つ火器を潜水艦の辺りにと向ける。
「識別が不明だが……」
ギャリーの声の通り、潜水艦の外見からは連邦かジオンの船かは判断出来ない。もともと潜水艦とはそういう物であるし、たとえ前もった通信が無くてもジオンの物とは限らない。判断材料として。
「ザク達よ!!」
カタリーナが量産型ガンタンクから確認した、その搭載モビルスーツの「型」が挙げられる。
「サラミスの発進を急げ!!」
「連中の目的はサラミス艦か、ガディ艦長!?」
「そうだ、間違いないヤザン!!」
やけに強い口調で断言したガディ・キンゼー艦長に、やや不審な目を向けたヤザンではあるが。
「ギャリー達、やれるか!?」
「やるしかないだろう!!」
「すまねえ、頼む!!」
ヤザンやラムサスの乗るモビルスーツはこの場には無い、そのままヤザンとメイリーはガディに続き、すでにラムサスが居るサラミス級へと駆け足で向かう。
「くそ、霧のせいで出力が!!」
確かスプレー状のビームを発射するビームガン、それをザクに向けて放ったヴァースキが、その幼い声で悪態を上げた。
バゥ!!
そのザク達、潜水艦から岸まで「泳いで」きた事を見るに水中用のモビルスーツと思われるそれらが、身を海へ横たわらせたまま、その手に持つミサイルランチャーらしきものをサラミスに向かって放つ。
「させるか!!」
ギャリーが素早くそのサラミス級とザク達との間に入り、大型シールドを駆使し、ミサイルだかロケットだかの幕を遮ろうとした、が。
「このザクども、陸ではカッパと見える!!」
罵声を上げるギャリーのシールドには数発しか弾は命中せず、残りのロケットは明後日の方向にとバラバラに散る。一、二発かはサラミスに命中したが、その艦の装甲を撃ち破れる程の威力はない。
「一機撃墜!!」
「こちらも撃墜!!」
陸にと揚がって来る前に、カタリーナのガンタンクとダンケル機のビームガンがそれぞれそのザクを撃破し、その合間を縫ってヴァースキのジムが進出する。
ゴゥウ……!!
サラミスに取り付けられた大気圏離脱用の超大型ブースターがその火を灯し、戦場となっている発進場から離脱を試みる、それを見ていたジオンの潜水艦から、新たな敵影がその姿を表す。
「揚陸用のホバークラフトか!!」
ヤザンは、しかしそう叫んだは良いがもはやサラミスは離陸寸前、ダンケル達に任せるしかない。助けといえばマスドライバー基地の対潜水機であるドン・エスカルゴ達が発進した事である。
「カタリーナ、二機撃墜!!」
ジオンの揚陸用ホバークラフト達ははそれほどスピードが速くはない。砲撃用の量産型モビルスーツ「ガンタンク」やヴァースキ達にとっては良い的である。
ザァ!!
陸にと揚がってきた水中用のザク、それらがダンケル機が連続して放ったビーム・スプレーガンにより溶解させられる。霧がカーテンとなって威力が減衰しているとはいて、ビーム兵器はビーム兵器であるようだ。伊達ではない。
ゴゥ!!
とはいえ、ジオンもただやられているのを待ってはくれない。ホバークラフトにと乗った異形モビルスーツの腹部からビーム砲、それがサラミスにと放たれ。
「ジオンがビームなんて、生意気なんだよ!!」
罵り声を上げるギャリー機に向かい、霧に隠れてよくは解らないが「グフ」と思われるモビルスーツがホバークラフトから大きくジャンプをして飛びかかる。
「あのサンドカラー!?」
サラミスにいるヤザンにとっては苦痛の時間だ、このまま指をくわえて待っているだけというのは。
ビュウア!!
その「サンドカラー」から鞭状の武器が飛び出し、その振るわれた鞭が。
「もう少し、早く反応をしてくれれば!!」
そのまま、シールドごとギャリー機を捉えてしまう。
バァリ!!
「グゥア……!!」
どうやらその「鞭」はなにやら電流のような物を流す仕組みのようだ。ギャリーのジムが痙攣したようにその場で微動する。
「くそ、ギャリー!!」
叫ぶヤザンではあるが、その時に対熱用のウィンドウ・カーテンがサラミスを覆ってしまう。外の様子が解らないことになってしまった為、ヤザンの隣にいたラムサスが悪態の声を上げる。
「サラミス、発進する!!」
その時、ガディ艦長の声が薄暗くなったサラミス艦内にと響く。