「やあやあ、遠からん者は音に聞け……」
「何をやっているんだ、ヤザン少尉?」
「あ、ガディ艦長」
小惑星の上にと乗り、鹵獲した「人形」でなにやら踊っていたヤザンは、自らが所属していたサラミスの艦長「ガディ・キンゼー」の声に、コクピット・ドアを開ける。
「もうすぐ、このザクもルナツーへ送るんだぞ?」
それでも、せっかく入手した「モビルスーツ」に乗ってみたいというヤザンの気持ちは、ガディにも解らなくはない。
「いや、世の中は何があるかわかりませんな、艦長」
「戦争か、それとも?」
「このロボットですよ」
そう言いながら、ヤザンは待たしてもその「人形」の腕を振ってみせる。
「チャンバラが出来そうだ」
「遊んでないで、艦のセイバーフィッシュの手入れでもしてろ、少尉」
「抜けば飛沫をあげる、この刀……」
鉄の廃材を振り回しつつ、その光景をサラミスの皆に見せつけるヤザンに対し、ガディも含めて艦の連中は悪い風には思っていない。むしろ痛快だ。
「ほらほら、降りろ……」
「ハイハイ……」
無重力空間でガディからのヘルメット越しの「声」を聞きつつ、ヤザンは渋々と「ザク」から降りる。
「戦争に、決まり事が出来たんですってね、艦長」
「南極条約だよ」
「人殺しに規則とは、不思議なもんだ」
「それを言ったら、このザクも不思議な兵器だよ」
「まあ、な……」
艦へと戻る途中、ヤザンは名残惜しげにチラリと。
「モビルスーツ、か……」
ザク、ジオン公国が創り上げた新兵器の姿を実とみやる。
「あれから、もう何日も経つのか」
「ルウムでの敗北は忘れろ、ヤザン少尉」
「我ながら、よく生き延びたもんだな」
後に聴いた話では、おびただしい数の軍にいた知人が帰らぬ人となった、その事を聞いたヤザンは自らの幸運にやや、驚いたものだ。
「しかし、戦争はまだ続いているな……」
「手柄を立てる機会もあるか、少尉?」
「それ以前に」
宇宙基地ルナツーに程近いこの暗礁空域で鹵獲機のテストを行っていたヤザンの気持ちとしては。
「トリアーエズやセイバーフィッシュでは、コイツに勝てねぇ」
「もちろん、お偉方は連邦製のモビルスーツを開発しているさ」
「何しろ、装甲が厚過ぎるんだ」
一撃で相手を倒せない兵器と、その一撃で相手を落とせる兵器との戦いでは、その有利不利は明らかだ。
「地球ではともかく、宇宙でこの巨人と他の兵器で戦うには、何か強力な武器を持った奴が必要だ」
「たとえば、ビーム砲か?」
「実験では、セイバーフィッシュのミサイルですら、一撃では倒せなかったと言うじゃねえかよ、艦長……」
だが、その巨人をもってしてジオンは、近々地球を侵略するつもりらしいという事が、このサラミス級のクルー達の噂話にもなっている。
「連邦のモビルスーツとやらも、まだまだ完成しないんだろ?」
「そうだな……」
プシュ……
艦内にと入った二人の男は、その話題を続けながらハンガーデッキ、ヤザンの機体も配備されているその場へと向かう。
「しばらくは戦闘機や、陸の戦車で相手をするしかない」
「そうかい……」
手柄を立てたい、戦いたいという気持ちはヤザンという男の心を強く占めているが、彼としても。
「互角の土俵じゃねえんだよな……」
ハンガーにいたラムサスとメイリーが振る手に答えながら、彼ヤザン青年は険しい顔を崩さない。