機動戦士ガンダム「野獣の一年戦争」   作:早起き三文

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第26話「オデッサの傷跡」

  

「こりゃ、また……」

 

 連邦軍が占拠したばかりのオデッサにと降りてきたヤザンは、その地の惨状をみて、軽く苦笑する。

 

「ずいぶん派手にドンパチやったみてぇだな、え?」

 

 何しろ、今だ破壊されたモビルスーツや戦闘機の撤去作業も全く終わっていない。

 

「なむ……」

 

 無論、仏さんもだ。

 

「しかし、俺も加わりたかったな」

 

 先程、略式の念仏を唱えていた男の言葉ではないが、所詮は野獣と呼ばれた男である。血が騒ぐ。

 

「さて……」

 

 「戦場跡」での散歩も終わり、ヤザンにも仕事が待ち受けている。

 

 

 

――――――

 

 

 

「このジム・ライトアーマーって言ったっけ?」

「そうだよ、ギャリー」

「良い機体だな、ヤザンよ」

 

 オデッサでの「後かたづけ」を手伝っているヤザン達は、そう言いあいながら、モビルスーツの訓練を兼ねた。

 

「俺にあてがわれたんだ、慣らしておかないとな」

「壊すなよ、ギャリー」

「解っているって……」

 

 ギャリーが乗っている、宇宙から持ってきたジム・ライトアーマーを地上で運用した場合での、実地テストを行っている。

 

「おおい、そこのジム!!」

「あん?」

 

 何やらブルドーザー、それで瓦礫の片付けを行っていた少年が、その席からヤザン達にと大声を張り上げた。

 

「何の用だ?」

「このグフ、少しどけてくんねぇかな?」

「あいよ……」

 

 最初、ヤザンが乗っている宇宙で製作されたジムは地上での戦いには不向き、強度に問題があるとルナツーのワッケイン少佐から言われてはいたが、特に今の所不具合はない。

 

 ガァラ……!!

 

 そのグフ、破損状態がそれほど酷くないその機体を横たわらせて、ヤザンはそのブルドーザーを操っている少年へ、モビルスーツの腕を使って手招きする。ギャリーは別の場所を片付けている様子だ。

 

「すまないね、へへっ……」

「このグフ、俺達がジムで持っていくぜ、兄ちゃん」

「ああ、そうしてくれ」

 

 微かに破損の傷跡が見えるグフをジムで引っ張りながら、無線で手空きのジム達を呼び寄せるヤザンを尻目に。

 

「カイさん、こっちの瓦礫も片付けてくれ!!」

「あいよ!!」

 

 そのブルドーザーは、騒音を立てながらその場から立ち去る。

 

「お、来たか」

 

 ヤザンの元にとやってくる、ヨタヨタ歩きのジム・トレーナー二機、どうやら新兵が操縦しているらしい。

 

「このグフ、鹵獲品として司令部に届ける」

「ハッ!!」

「三人で持つ」

「了解しました!!」

 

 その新兵達のおぼつかないモビルスーツ操縦の事をヤザンは少し心配しながら、それでも三人がかりでグフを持ち運ぶ彼らヤザン達。

 

「隊長、何をやっているんですか?」

「見て解んだろ、ダンケル……」

「大変そうですね」

「それだけかよ、おい」

「俺には別の仕事があるので……」

 

 そう言いながらジムを操り、そこらをブラブラしているダンケルを。

 

「全く……」

 

 恨めしそうに、ヤザンは見つめながら。

 

「こら、もっとしっかり持て!!」

「す、すみません!!」

 

バランスを崩しそうになる新兵へと檄を飛ばしつつに、彼等はそのグフを運ぶ。その近くではベルカ通信兵がホバートラックを運転しながら。

 

「ヴァースキ、身体の調子は大丈夫?」

「うん、何とか平気だよ、ベルカ」

 

 助手席にと傷が治ったばかりのヴァースキを乗せ、どこかへ伝令にと向かっているようだ。

 

 

 

――――――

 

 

 

「少佐、でありますか?」

「そうだ、ヤザン・ゲーブル君」

 

 未だ戦場の混乱が残ったままのビッグ・トレー、動く要塞とも言われるその陸戦艦艇の豪華な居室の主。

 

「君の、ここ最近の活躍は目覚ましい」

「はあ……」

 

 レビル将軍は、葉巻の先をナイフで切り落としながら、呼び寄せたヤザンに向かってゆっくりと語りかける。

 

「自分は、ただ目先の戦いに夢中になっているだけであります」

「充分だ、ヤザン君」

「将官というのは、どうも……」

「命令だよ、ヤザン・ゲーブル」

 

 葉巻から煙を立ち上らせるレビルは、その時その自身の細い目を。

 

「拒否権はない」

 

 刃のごとくに、鋭くさせた。

 

「……お受けいたします、将軍」

「いずれ、正式な命が来るはずだ」

「ハッ……」

「もっと、嬉しそうな顔をしたまえよ」

 

 とはいっても、二階級特進というものは、あまり縁起の良い話ではない。パイロットとしてのジンクスだ。

 

「用件は以上である、ヤザン少佐」

「……」

「下がって良い」

 

 そう言われて、暫しの間ヤザンはその居室で立ちすくんでいたが。

 

「ヤザン・ゲーブル、失礼します」

 

 この場にいても仕方がないと思い、踵を返して分厚いクラシックな扉を両の手でこじ開けた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「よかったわね、ヤザン」

「これでお前と同格か、メイリー」

「あらあら……」

 

 遅い夕食、インスタント食品を食べているヤザン少佐とメイリー技術少佐は、そう言い合いながら軽く笑う。

 

「この前の同衾、あれは大人の事よ」

「へっ、言ってくれる……」

 

 ビッグ・トレーの食堂は薄暗い、オデッサでの戦いで電気系統に異常が発生し、制限があると二人は聞いている。

 

「だから、俺はお前が気に入らねえ……」

「フン……」

 

 ヤザンは別に悪気があって言った訳ではないが、その言葉にメイリーは。

 

「女には、もっと気の利いた言葉を言うべきね、ヤザン」

 

 少し、気分を悪くしてしまったようだ。彼女は駆け足でカップラーメンを掻き込むと。

 

「おやすみ、ヤザン」

「おう……」

 

 そのまま、食堂から足早に立ち去っていく。

 

「女が戦場に出ると、こういう事があるからよ……」

 

 別に誘ったのはどちらともない話なのだが、どうもヤザンにしてみれば自分が悪い事をしてしまったような気になってしまうのだ。

 

「さて……」

 

 食べ終わったヤザンにも軽い眠気が襲ってきて、彼は軽くあくびをした後。

 

「ラムサスは、まだ働いているんかね……?」

 

 確か事務仕事を手伝っているはずだ。そのラムサスをからかおうと思い。

 

「差し入れでもしてやるか」

 

 ヤザンはビッグ・トレーの事務ルームへと、暗い通路の中を歩き始めた。

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