「へえ、これが」
連邦の本部「ジャブロー」の内部大工房、そこに大きく鎮座している戦艦「木馬」の姿を見て、ヤザンは感嘆の声を上げる。
「ガキだけで、戦場を潜り抜けたっていう話の奴か」
「そうみたいだな、ヤザン」
ジャブローで合流したギャリー・ロジャースが、そう言いながらブラブラとジャブローの天井、そこからぶら下がっている鍾乳石の姿に見入っている様子だ。
「よほど、ガンダムって奴とそのガキのパイロットが良い素質を持っているんだろうな」
「早熟のパイロットは、いるにはいるさ、ギャリー」
そういうヤザンにしても宇宙戦闘機時代、ドッグファイトなどの「前時代的」な実技では二十の歳にも満たないのにトップクラスの成績だった。
「そのパイロットのツラ、見てみてえもんだな……」
先程、数人の少年少女達とすれ違ったが、ヤザンには誰がその「ガンダム」のパイロットなのかは解らない。
――――――
「ドミナンス、調子が悪いというのは本当か?」
「はい、ヤザン隊長」
「フゥン……」
何故か「木馬」と同型の、緑色をしたもう一隻の木馬がジャブロー大工房にと入港した姿を見やりながら、ヤザンは自身の後ろにと続くヴァースキの方にと振り返る。
「特別製なのか、あのジムは?」
「北米のオーガスタ研究所、そこからムラサメ研究所にニュータイプ研究の駆け引きとして渡された機体です」
「ニュータイプ?」
その聞き慣れない言葉に、ヤザンは自分にとあてがわれた機体のリストを見る手を止め、立ち止まりながら彼の顔を実と見つめる。
「なんだ、それは?」
「なんでも、モビルスーツを上手く動かせる人間の事を言うそうです」
「だったら、さあ……」
その緑色をした木馬から這い出てきた二機のモビルスーツ、以前ヤザンが乗った事がある陸戦型のガンダムによく似たその機体が、重い足音をたてながら機体調整用のハンガーへとその脚を進める。
「俺もニュータイプって名乗ってもいいかい、ヴァースキ?」
「何でも、精神面の話もあるそうで……」
「騎士道か、じゃあ俺には無理だな」
「未来予測、そういった力も当てはまるみたいです」
「なるほど、オカルトな話だな」
白い木馬、先程ホワイトベースと聞かされたその艦からも、何機かのモビルスーツが艦内から出てくる。どうやらそれらも調整が必要な様子だ。
「だから、ムラサメだかオーガスタだかの研究所で取り扱っている、そういう話が出てきているわけか」
「そう聴きましたか、ヤザンさん?」
「メイリーとベルカから聞いた」
そう言ってヤザンは少し上を向いた後、その足を再び動かし始める。
「このストライカーな?」
「機体系列的には、ギャリーさんのライトアーマーに近いそうですね」
「何にしろ、乗ってみないとな」
何でも、アイネ整備員達の話によればレビル将軍からヤザンへの「昇進祝い」だそうだ、そのジム・ストライカーという機体は。
「おや、あれは……?」
その時、目の前から複数の人物に連れられて歩いてきた、太った高官らしき人物がヤザン達の視界に入る。
「確か、ゴップ大将……」
ヤザンにはその高官に見覚えがある。確か彼が正式に連邦宇宙軍に配属することになった時に、大勢を前にして挨拶の口上を述べた男だ。
「おや……?」
その「デカブツ」であるゴップ大将もまたヤザン達にと気が付き、その視線を向ける。
バッ……!!
正直、ヤザンにとっては「雲の上」の人物過ぎて会いたくない人間であったが、会ってしまった以上、手を挙げて敬礼をせざるを得ない。
「任務、ご苦労……?」
そう言ったゴップ大将ではあったが、ヤザンの背後にいるヴァースキの顔を見たとたん。
「ヴァースキ君ではないか?」
「ゴップ大将……」
その肥えた顔を、微かに綻ばせる。
「知り合いか、ヴァースキ?」
「ええ、まあ……」
ややに緊張を帯びたヴァースキのその声にヤザンは違和感を感じたが、この二人の間柄を何も知らない彼が言う事は何もない。
「いつから、このジャブローに?」
「ついこの前、ヤザン隊長に連れられて……」
「そうではなく、いつから戦いの場に身を置くことになったかと聞いているが、私は?」
「僕が軍属とお気づきに?」
「違うか?」
「いえ違いません、ゴップ大将」
その時、ゴップ大将の付き添いの兵が、彼ゴップの耳にと何かを囁く。
「失礼、時間だ」
身をヨタリと動かしながら、ゴップはそのまま下方部へと続くエレベーターへと歩もうとする。
「ヴァースキ君、いずれまた」
「ハッ……」
「ヤザン君とやら、彼をよろしく頼むよ」
その言葉にヤザンは何かを言おうとしたが、ゴップの側近の兵が首を横に振ってそれを遮り。
「何なんだ、一体……」
呟くヤザンを尻目に、彼らはこの大工房から去っていった。
――――――
「ドミナンス、やはり調子が悪いみたいだな」
ストライカーとの模擬戦の相手になってくれたヴァースキ、彼の機体はやはりどこか挙動がおかしい。
「何か、機体に施されたマグネットコーティングの調子が悪いのかもしれません」
「マグネットコーティング、だと?」
「関節に磁石の油を差すようなものです、隊長」
「ああそういう事か、なんとなく解った」
半ばその言葉を聞きながしながら、ヤザンは自機であるジム・ストライカーの接近戦用プログラムの様子を確かめている。
「ダンケルのジム、いやグフからのプログラムを使っているらしいが……」
大型格闘武器であるビームスピアはそれなりにそのプログラムの恩恵を受けているが、このジャブローでの整備員が勝手に取り付けたヒートワイヤー、何やらジオンの技術を入手して開発したその武装の様子があまり芳しくない。
「ま、所詮は盗み武器だからな」
「それでも、このドミナンスよりは格闘戦に強いと思います、ヤザン隊長」
「そうかい……」
今度はギャリーのライトアーマーとでも模擬戦をやってみようか、そう思ったヤザンではあったが。
「さ、ヤザン隊長」
どうも、不調のドミナンスだというのに、ヴァースキはヤザンと戦うのが嬉しくてたまらない様子だ。
「元気なこった……」
「兄さんみたいで、嬉しいです」
「言ってくれる、小僧」
その言葉を受け、仕方なくジム・ドミナンスとの戦いを続けるヤザン・ゲーブル。
「そのドミナンスとやらも、接近戦に弱い訳ではないがな」
「機体の不調は、格闘戦にモロにでるんですよ」
「たりめぇだ、解っているよ」
――――――
「カスタムの様子はどうだ、トーマス?」
「悪くない、グフよりはよほど使える」
キャリフォルニア・ベースから発進したガウ空爆の中で、トーマス・クルツは新しく授与されたモビルスーツの様子に、やや機嫌が良い様子だ。
「しかし、ジャブロー攻めねぇ……」
そのジャブロー地下から挟撃するという作戦らしいが、どうもトーマスにとっては。
「無茶を考えすぎじゃねえか、お偉いさんは」
歴戦の兵である彼にしてみれば、無茶な作戦に思えてしまう。