機動戦士ガンダム「野獣の一年戦争」   作:早起き三文

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第36話「ニュータイプ研究所」

   

「研究所ってのは」

 

 普段着にその身を包んだヤザンは、そのオーガスタ研究所の内部、それを覆っている白塗りの壁を見ながら。

 

「何か、居る心地の悪いものなのだなあ……」

 

 どこか、呆れたような声を出す。

 

「ところで、メイリー」

「何よ、ヤザン」

「どうして、俺らがここにいるんだっけな?」

「あのね……」

 

 勿論、ヤザンは自分達がここに呼ばれた用件は解っているが、その内容自体に今一つ理解し難い物があるのだ。

 

「俺達がにゅーたいぷ、かどうかですよ、隊長」

「お前はそのニュータイプってのを知っているのか、ラムサス?」

「知るわけないでしょう、そんな妙な物……」

 

 椅子に座りながらテーブルを囲っているヤザン達、その近くのテーブルではダンケルやベルカ、アイネなどのチーム・ヤザンの面々が軽い夕食を取っている。

 

「俺もここにいる意味があるのか、ヤザン」

「俺が知るもんかよ、ギャリー」

「ちぇ……」

 

 ソファーベッドに寝っころがりながら雑誌を読んでいたギャリー・ロジャースは、そうヤザンに声を掛けた後、再び雑誌にとその視線を落とす。

 

 スゥ……

 

 その時、音もなく。

 

「クルスト博士がお呼びです」

 

 自動ドアが開き、その中から白い上っ張りを着けた研究員がその姿を現した。

 

 

 

――――――

 

 

 

「この場にはいないが、ヴァースキから聴いている」

 

 そのクルストという名らしき博士は、ヤザン達の顔をジロリと一瞥した後、無愛想にそう言い放った。

 

「君たちはモビルスーツに対する適性は高いようだな、ヤザン君とやら」

「それがどうかしましたかね、博士さん」

「ニュータイプの素質があるかもしれん」

「ニュータイプ、ね……」

 

 愛想の欠片も無い、そのクルストの言葉ではあるが。

 

「ハッキリと言う感じの人、強引だわ……」

「僕には、どっかの誰かさんみたいに感じます」

 

 その妙な感想を言うカタリーナ達はともかくとして、別にヤザンは嫌な感じはしない。

 

「フン……」

 

 多分に彼クルストの「雰囲気」がインテリじみた所がないせいかもしれない。どこか岩を切り崩したような、ガッチリした印象を他人にと与える人間なのだ。

 

「なあ、クルストさん?」

「何だ?」

「結局の所、ニュータイプとは一体全体なんなんだ?」

「ふむ……」

 

 そのストレートなヤザンの質問に、クルスト博士は宇宙の「地図」が描かれているタペストリー、部屋の飾りを眺めながら。

 

「人類の革新の事だ」

「革新、ねぇ……」

「新たなる人類の事だよ」

 

 ボソリとした声で、そうヤザン達にと告げる。

 

「ヴァースキから、何も聞いていなかったのか、ヤザン君?」

「少しだけ聞いたが、今一つハッキリと理解できなかったんだよ、俺は」

 

 その言葉は、まさしくヤザンの本音である。概念的すぎる話題なのだ。

 

「宇宙に適応した新たなる人種、それがニュータイプだ」

「フム……」

 

 その言葉を聞いて、顎に手を当てて首を捻るダンケルではあるが、彼にしてもどこまで理解出来ているのかはヤザンにも解らない。

 

「それは良いことなのですか、クルスト博士?」

「ニュータイプという人種だけにとっては、良いことだ」

「はい?」

 

 ベルカのその質問は、全く良く解らない答えでクルストから返ってきた。そのクルスト博士も自身の答えに説明不足な面があると思ったのか。

 

「ニュータイプになりそこねた人間にとっては、不幸な事になるであろう」

 

 と、付け加えるように言葉を足す。

 

 ガ、チャ……

 

「博士、遅くなりました」

「ヴァースキか、遅いぞ」

 

 研究所で他の用事があるとか言っていたヴァースキ少年が菓子の包みを片手に、その広めの会議室へと入ってくる。

 

「私、このドーナッツ大好きなの」

「言ってろ、メイリー……」

「何よ、ヤザン?」

 

 とはいえ、そのヴァースキの気の効いた差し入れで場の雰囲気が和んだのは確かだ。

 

「今、私はな」

「はい、クルストさん」

 

 クルストは甘いものが苦手なのか、ヴァースキが勧めたドーナッツを断り、ふと目が合ったアイネ整備員の方を向き。

 

「ニュータイプに勝てる仕組み、それを考えているのですね?」

「ほう……」

 

 そのアイネからの唐突な返事、それに対して感心したような声を上げた。

 

「君がそう考えたのか、それとも思い付いたのかね?」

「いえ、キャリフォルニアにいたときに、アルフさんという技師から」

「ああ、あやつから聴いたのか……」

 

 どうもそのアイネの答えはクルストの気を落としてしまったらしい。微かに彼クルストは眉間にシワを寄せ、一つ咳払いをした後。

 

「私はニュータイプに勝てる仕組み、ソフトとハード面の仕事をしている」

「あのよ、クルストさんよ」

「なんだ、ヤザン君?」

「あんたの話を聞いていると」

 

 プレーンドーナツを頬張りながら、ヤザンはチラリとヴァースキの方を向いた後。

 

「そのニュータイプとやら、まるで地球に侵略にきたエイリアンみたいな敵のようだな」

「外れてはいないな……」

「そうか……」

 

 僅かに気を使いながらクルストに、どこか訊きづらい質問をした。

 

「ニュータイプ、ね……」

「そう、人類の敵だ」

「……」

 

 その博士の断言、それには今度はヤザンが鼻白む事になる。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ニュータイプ、か」

「すでに、その対ニュータイプ用のモビルスーツは実戦配備をされています」

「へえ……」

 

 夜の研究所を散歩しながら、ヤザンは隣にと並ぶヴァースキ少年に缶ジュースを投げて渡してやる。

 

「もしかして、そのモビルスーツとやらは、キャリフォルニアの時の蒼い機体か?」

「はい、勘が良いですね隊長」

「なるほど……」

「もともとは、僕達が乗る予定でしたが」

「フン……」

 

 「達」という言葉に引っ掛かる物を感じたが、ヤザンは深くは追及しない。昼間のクルスト博士の説明が、未だに消化不良なのだ。

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