機動戦士ガンダム「野獣の一年戦争」   作:早起き三文

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第37話「ゲルググの脅威」

  

「ヨーロッパの未確認モビルスーツ?」

「そうだよ、メイリー君」

 

 馴れ馴れしくその顔を近づける「カイゼル髭」から心持ち、身を離させながらメイリー少佐は彼から手渡させた資料にとその目を通す。

 

「ジム中隊が、その一機のモビルスーツで全滅……」

「アフリカから渡ってきた部隊、それが所持しているモビルスーツらしいがな」

「しかし、私達は宇宙にと上がる予定では?」

「他にな、メイリー君……」

 

 「カイゼル髭」はややに嫌らしい笑みをその顔に浮かべながら、彼女の細い瞳を実と見やり。

 

「手空きの部隊がいないのだよ」

 

 ニヤリと、口の端を歪めて笑う。

 

「イベリア半島ですか……」

「そうだよ」

 

 スゥ……

 

その手を尻の方にと伸ばす「カイゼル髭」の腕をピシャリと叩きながら、メイリーは。

 

「セクハラで訴えますよ」

 

 強い口調でそう言ったが、その言葉にカイゼル髭はせせら笑うのみである。その彼を無視し、メイリーは豪華な執務室から出ていった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「全く、あのオヤジは嫌になるわ」

「いいじゃねえか、減るもんじゃねえし」

「ヤザン、あなた本気でそう言ってるの?」

「ハハ……」

 

 ブラジャーを着け終えたメイリーはそのヤザンの笑いに対し、顔にと不満の色を浮かべながらその口を尖らす。

 

「んで、その見慣れぬモビルスーツってのは何だ?」

「知らない、何か狼みたいな顔をした機体みたいだけど」

「狼、ねえ……」

 

 例のドムに続いて新型か、そうヤザンが想像を拡げていると。

 

――何か、ザクFZ型って奴がいるみたいですよ――

――へえ、ザクの新型か――

 

 ベルカ通信兵との会話、何かザクの呼称について「ややこしい物だな」と雑談をした時の事が思い出させられる。

 

「所詮は、マイナーチェンジじゃねえのか?」

「マイナーチェンジでも、ジムの中隊が壊滅する程の機体よ」

「なるほど……」

 

 ならば戦いがいがありそうだ、衣服を身に付けているメイリーの姿をぼんやりとながめながら、ヤザンは「闘志」が湧いてくるのを感じていた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「あの基地か、ベルカ?」

「そうみたいですね、中継では」

 

 コルベット、コルベットブースターを使い潜水艦から飛び立ったチーム・ヤザンは、そのヤザン機ストライカーを先頭としてアフリカ大陸沿岸の砂漠に。

 

「ボロい基地だな……」

 

 恐らくは仮設として設えたのであろう、太陽の光に照らされたその小さい基地の様子をガン・カメラを通じて、潜水艦内部で情報分析を行っているベルカ達にと送っている。

 

「ギャリーの奴がいれば、撹乱戦闘ができるのにな」

 

 その高機動戦闘を得意とするギャリー、ギャリー・ロジャースは愛機のライトアーマー、ジム・コマンド・ライトアーマーと共に宇宙へと上がっている。宇宙での戦端の先を越された感じだ。

 

「まあいい、いくぞ!!」

「了解、ヤザン隊長!!」

 

 そのダンケルの答える声と同時に、ヤザンは自機を支えているコルベットからミサイルランチャーを発射する。ここまでヤザン達が接近しても対空砲火も何も無いということは、それだけミノフスキー粒子が充満しているのであろう。

 

「濃すぎるんだよ!!」

 

 ヤザンのその言葉通り、強すぎるミノフスキーのカーテンは良し悪しなのだ、敵の接近も感じさせられなくなってしまう。

 

 ドゥ!!

 

 ヤザン達がコルベットから放ったミサイルがその基地周辺へと着弾し黒煙を上げるなか、ヤザンはそのままコルベットで滑空をし。

 

「いたぞ!!」

 

 基地の格納庫から慌てて出てきたと思われる、新型と思わしきザクをその目で確認する。

 

「隊長、行きます!!」

「おう!!」

 

 ラムサス達もそのザクに気がついたらしい、コルベットに吊るされたままコマンドからビームガンを連射し、目に付いた敵モビルスーツを上空から攻撃していく。

 

 バ、シュ!!

 

 ヤザンはコルベットから機体を分離させ、そのままの勢いでビームスピアを機体前にと突き出させる。後続のカタリーナ機からビームによる支援の元、彼ヤザンはその槍をもってコクピット周りが赤い、新型のザクを貫いていく。

 

「一丁上がり!!」

「こちらも!!」

 

 喝采を上げるヤザン機の隣では、グフを仕留めたらしいヴァースキのドミナンスがビームガンを片手に、辺りへ注意深い視線を向けている。

 

「ジオンの新型ってのは、どれだ……!?」

 

 その油断がないヴァースキの姿を頼もしそうに見やりながら、基地周辺にその目を張り巡らせるヤザン。

 

「まさか、このマイナーチェンジのザクじゃあるめえ……」

 

 ヤザンはもちろん、今のチーム・ヤザンの面々ではこの程度の相手では全く物足りない。今回の目的はあくまでも。

 

 シュア……!!

 

「来たか!?」

 

 ジム中隊を壊滅させたという、敵の新型機なのだ。

 

「どこだ……!!」

 

 どこからともなく飛来したビームの光条、焼け落ちた建物を背にするようにヴァースキ達に伝えながら、ヤザンはその「勘」を研ぎ澄まさせる。

 

 ジャア……

 

「そこか!!」

 

 黒煙がなびいたと共に何かが振り下ろされる音、それを聴いたヤザンはスピアをその方向にかざすが。

 

「何もいない、しかしに!!」

 

 何も無いその空間、それを確認したとたん、ヤザンは機体を大きく跳ねられる。

 

「やるな、連邦!!」

 

 その先程までヤザンがいた場所を一振りのビーム刃が叩き、そのまま敵の不明機は、その空いた左腕からグレネード弾を発射する。

 

「くそ!!」

 

 ジャンプ中での姿勢制御が僅かに遅れ、ヤザンのストライカーはそのグレネード弾爆発による攻撃を装甲にと受けてしまう。反応装甲リアクティブ・アーマーを発展させたウェアラブルによる破砕効果でそのグレネードの破片は致命傷とはならないものの。

 

 グゥ、ン!!

 

 その「不明機」が大地を蹴り、飛び上がりつつにビームサーベルを続けざまにヤザン機にと押し込む。

 

「ちぃ、新型め!!」

「このロイ・グリンウッド!!」

 

 防戦一方のヤザンはどうにかしてその相手のビームサーベルの猛打から逃れようとするが、どうやら相手のビームサーベルは上下からビームの刃が発生するしくみらしい。その変則的な攻撃に、ヤザンはビームスピアを繰り出す隙を見つけ出すことが出来ない。

 

「ゲルググ、使いこなしてみせる!!」

 

 その声と共に自由落下を始めたヤザン機ストライカーに対して、またしてもその左腕にくくりつけられた小盾、そこからグレネードを発射するゲルググとやら。

 

「ふん!!」

 

 微かに辺りを見渡したヤザンの視界にはドムの改良タイプと渡り合っているダンケル達の姿、キャノン砲をグフに切り落とされたカタリーナ等の姿を見るに、ヤザン達が優勢という訳ではない。

 

「ならば!!」

 

 ヤザンが裂帛の声を上げると同時にストライカーのビームスピアを鎌状へと変化させ、そのまま大振りで相手、ゲルググを一旦怯ませる。

 

「ちぃ、連邦のパイロットが!!」

 

 そのままロイ、ロイ・グリンウッドが操るゲルググとやらは身を翻し僅かにヤザン機との距離を取る。その間にジオンの新型はビームサーベルを納め、ライフル状の武器を取り出し。

 

 シャア……!!

 

「くそ、もう一機いたか!!」

 

 ちょうど十字射撃にとあたる位置にいたヤザン機のスレスレを、二条のビームが迸った。そのビームを回避したヤザンの腕前にグリンウッドは新型のコクピット内で感嘆の吐息を漏らす。

 

「やるじゃないか、連邦!!」

「まずいな、これは!!」

 

 その時、新型ザク二機を撃破したヴァースキのドミナンスがその茶色、ジオンの新型にと飛びかかる。

 

「無理はするなよ、ヴァースキ!!」

「無理をしなくて、どうしろっていうんですか!!」

「そりゃ、そうだがね!!」

 

 ヴァースキがその新型を受け持ってくれるのなら、ヤザンがやることは一つだ。もう一機あった新型、茶色ではなく緑色にと塗装されたその敵機に、ヤザンはスピアを大上段にと構えたまま一気に飛び掛かる。

 

「茶色よりも動きが鈍い!?」

 

 二連射されたビーム、ビームライフルをブースターを駆使してかわしたヤザンは、自機が上げた軽い悲鳴を無視して、そのままスピアを叩きつけるように新型にと斬りかかる。

 

 ギャウ、ウゥ!!

 

 その緑色の新型もビームサーベル、両刀のそれを持ち出したが、幸いな事に出力はジム・ストライカーのビームスピアの方が上であったみたいだ。そのまま袈裟斬りに敵の新鋭機にとビーム刃が深く食い込む。

 

「止め!!」

 

 そう気を吐くヤザン機の背部モニターではドミナンスが敵の攻撃により腕を切り落とされる光景が見えたが、今はそれを気にしている場合ではない。そのまま新型を伏させたヤザンは、即座に周囲の様子を確認する。

 

「ダンケルもやられたか!?」

 

 どうやらドムのバズーカ、それの至近での射撃を受けてしまったらしい。片膝をついているダンケル機ジムコマンドを襲おうとしていたザクをヤザンはヒートワイヤー、急造の隠し兵器を使い牽制しながら。

 

「降伏しろ、ジオン!!」

 

 やや虚勢が入った降伏勧告を、外部スピーカーから張り上げる。敵も味方も損害が大きい事を見通しての、一種の賭けだ。

 

 パァン、パァ……!!

 

「信号弾……!!」

 

 遠くの砂丘から上がった数発の信号弾、それが揚がったと同時に。

 

「さらばだ、連邦……!!」

 

 敵の生き残りのザク、それを先頭にしてドムや「茶色の新型」がしんがりにつきながら、ジオン軍はその信号弾が揚がった方向にと撤退していく。

 

「チッ……」

 

 コクピット内で舌打ちをしたヤザン、身体の痛みを堪えている彼の心境としては「勝たせてもらった」ような気分であり、あまり良い気持ちではない。

 

「しかし……」

 

 追撃などは出来る状態ではない。五体満足で無事なのはラムサス機くらいな物であり、ヤザンのストライカーも何か挙動がおかしい。警報が鳴り響いている。

 

「アフリカにはジオンの勢力がまだまだいると聴くし、ビーム装備の新型も出てきやがった……」

 

 詳しいことは一機だけ破壊した「新型」を調査すれば解ることだが、ヤザンの実感では、同じビーム兵器搭載のジム・シリーズよりも底力がありそうな気がした。

 

「さて……」

 

 潜水艦に乗っているベルカからの通信に返事をしながら、ヤザンはぼんやりと片腕を切り飛ばされたドミナンス、ヴァースキ機を見つめつつ。

 

「お偉方は、どう出るかな……?」

 

 今後の戦い、あまりヤザン個人にとっては興味のないそれについて、ある程度の考えを巡らせていた。

 

「俺達は宇宙にと出る予定だが、な」

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