機動戦士ガンダム「野獣の一年戦争」   作:早起き三文

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第39話「野獣対幻獣」

  

「なあ、ギャリー」

「何だ、金なら貸さねぇぞっと……」

 

 ライトコマンドに乗る、その見も蓋もないギャリー・ロジャースの間髪入れぬ言葉にはヤザンも苦く笑うしかない。

 

「ところで、お前は給料を何につぎ込んでいるんだ、ギャリー?」

「さあな、使うアテも無いから溜め込んでいるだけだ」

「羨ましいこって……」

 

 そういうヤザンにしても、金を散財する癖は無い、多少の酒と女を買う金があれば満足である。それに衣食住は軍にいる以上、保証されている。

 

「もうそろそろ、暗礁宙域だな……」

 

 ライトコマンド、ジム・コマンド・ライトアーマーの中でヤザンは軽くその身を強ばらせる。ギャリーと同型機であるそれは、結局の所ストライカーの宇宙用調整が上手くいかなかったが為に借り受けた機体である。

 

「悪い機体じゃねえんだが……」

 

 だが、ヤザンにとっては少し癖がある機体に感じられ、慣熟飛行が必要と判断したのだ。

 

「ヤザン、ビームライフルの様子を確かめてみないか?」

「いや、位置がバレる……」

「やはり、ここら周辺に展開しているらしきキマイラ隊とやらが恐いかよ、ヤザン」

「挑発すんなよ、ギャリー……」

 

 だが何かその「キマイラ隊」とやら、名前に威圧されている訳ではないのだが。

 

「怯えているのか、この俺が?」

 

 得体のしれないプレッシャー、それを先程から感じているのだ。

 

「……フン!!」

 

 ジャア……!!

 

「お、おいヤザン?」

 

 急に宙へと向けてビームライフルを発射したヤザンに驚くギャリーを無視し、ヤザンは二発目のライフル、それを近くにあったモビルスーツの残骸へと向け、撃ち砕く。

 

「さて、どうでるかね……」

「敵をおびき寄せようとしているのか、ヤザン?」

「さぁてね……」

 

 ヤザンにしても自分が何をしているのか、何を望んでいるのかは解らない。ただ解っている事は。

 

「来やがったぜ……」

 

 遠くから光を放つ物体、それが暗礁宙域のスペースデブリをかわしつつ、ヤザン機とギャリー機にも向かってくる姿だ。

 

「やってみるか、ギャリー?」

「やってみるも何も、ここまで接近されたら」

 

 ヤザン機のコクピット内部コンソールには、その敵機は「ゲルググタイプ」と表示されている。以前にアフリカ北部で戦ったジオンの新型モビルスーツの事だ。

 

「やるしかねぇだろ、ヤザン?」

「敵も二機いる、ちょうど良いな」

「誰のせいだと思っているんだ……」

 

 遠距離、未だに相対距離が長いそのゲルググから発射されたビームをギャリーは身軽にかわしつつ、自らの機体の手にと持つビームライフルの調子を確かめ。

 

「まあ仕方がない、いくか!!」

 

 ギュア……!!

 

 そのライフルを敵機「ゲルググ」にと向かって撃ち放つ。その光景を見てもヤザンはすぐには動かない。

 

「格闘戦をしかけるか、それとも射撃で様子を見るか……」

 

 珍しくヤザンは戦場において、次に自分が出す「手」を悩んでいる。自分から相手に挑発行為をしたにもかかわらずにもだ。

 

「キャノン付き、砲戦用か?」

 

 続けてギャリーが放ったビームライフルを、障害物を利用してかわしたそのキャノン付きの機体、サンドカラーという塗装に何か引っかかる物を感じながらも、とりあえずの所はヤザンも臨戦体勢を取る。

 

 パァ……!!

 

「うわっと!?」

 

 その「キャノン付き」とは違うもう一機のゲルググ、その紅い機体がその手に持つ大型の火器から、マシンガン状のビームを撃ち放つ。

 

「ビームのマシンガンか、ジオンも大したもんだ!!」

 

 あと少し反応が遅ければ、ヤザン機ライトコマンドはその弾幕に捕らわれていただろう、その事が彼ヤザンに「火」を付けた。

 

「いくか!!」

 

 ライトコマンド、赤と白の機体色に塗装されたその高機動型ジムがその身を捻り、キャノン付きから発射されたビームキャノンをかわしつつ。

 

「そらよ!!」

 

 お返しにとばかりにライフルを二連射する。その攻撃に僅かに怯んだように見えたキャノン付きに。

 

 ザォ!!

 

「もしかして、お前は!!」

「その声、ヤザン・ゲーブルか!?」

 

 急速加速を行い、サンドカラーにと一気に飛びかかるヤザン。細かいスペースデブリなどは機体に当たるに任せ、そのまま。

 

「今日こそ、このトーマス・クルツが!!」

「やらせるかよ!!」

 

 相手機ゲルググ、それの付き出すビームサーベルと自らのサーベルをかち合わせる。漆黒の宇宙の中、淡い青色の光が瞬時に弾けた。

 

 ガッ!!

 

 ヤザン機が繰り出した前蹴り、それはそのゲルググのビームキャノンを振り上げらせ、そのまま相手機ゲルググが微かに揺らぐ。

 

「トーマス!!」

 

 少女、その声がヤザン機の無差別通信の中にと入り込み、声と同時に一条のビームがヤザン機のすぐ脇を通る。あと一歩ヤザンが身を引くのが遅かったら、直撃を食らっていた所だ。

 

「アンタのお相手はこっちだ、嬢ちゃん!!」

「くぅ!!」

 

 だが、そのトーマス機を支援しようとしたゲルググの追撃はこない。ビームサーベルをもろ手にと持ったギャリーからの連続格闘攻撃に、防戦一方となっている様子だ。その代わりに。

 

「くそ!!」

「ガタイの差だな、ヤザン・ゲーブル!!」

 

 トーマス・クルツ機が繰り出した押し蹴り、それによって相手のゲルググと比較して重量が軽いヤザン機ライトコマンドはその身をはね飛ばされてしまう。

 

「しかし!!」

「うお!?」

 

 ライトコマンドに搭載された隠し武器、ワイヤーを使いヤザンは。

 

「接近してしまえば!!」

 

 強引に敵機ゲルググを引き寄せ、そのままビームサーベルで相手の左腕、小盾の部分へとそのビーム刃を軽く滑らす。

 

「そこまで俺が甘いかよ、ヤザン!!」

 

 ボフゥ!!

 

 その小盾の内部から炸裂弾が噴射され、それがヤザン機ライトコマンドの胴に当たると同時に。

 

「くそ、まずいぜ!!」

「そらよ!!」

 

 ゲルググのビームキャノンがライトコマンドにと照準を定め、零距離射撃を行う。

 

「くぅ!!」

 

 ライトコマンドの右肩をえぐりとられたヤザンは、それでも勝機を見出だそうと相手にと組み付くが。左手に持ち替えたサーベルはゲルググのそれに防がれ、そのまま彼我との「体格差」を利用されて押し込まれる。放った頭部バルカンは相手にかすり傷しか負わせられない。

 

「ここまでだな、ヤザン!!」

「そうかい!?」

 

 明らかに不利な状態にも関わらず、ヤザン・ゲーブルという男の闘争本能は収まる気配がない。どう勝つか、それしか頭にない。

 

「引くのも、難しそうだしな!!」

 

 だが、そのヤザンの「強気」が運を呼び寄せたのかもしれなかった。

 

 ギィイ……!!

 

 彼方から、高出力のビームがトーマス機。

 

「俺のゲルググキャノンが!?」

 

 ゲルググキャノンの肩部ビームキャノンを撃ち抜き、それに続いて宇宙戦用にと換装されたダンケルのジム・コマンドがビームガンの連射をトーマス機にとお見舞いする。

 

「連邦の増援か!!」

「よく間に合った、ダンケル達!!」

 

 カタリーナとラムサスのガンキャノン、マスプロ・タイプとして生産されたその砲撃戦用のモビルスーツがポジション取りをしているなか、今度はヤザン機と同じく被弾しているギャリーの機体を。

 

「連邦の狙撃タイプ!?」

 

 ジオン兵の少女が呻く声もよそに、ヴァースキ機ジムスナイパーⅡがその狙撃用ビームライフルをもって、自由な動きをさせないようにする。

 

「ヤザン隊長!!」

「どうした、ヴァースキ!?」

「敵の増援が来ます!!」

「解るのか!?」

「見えます!!」

「そうか!!」

 

 ヴァースキが正対している相手、大型のビームマシンガンを持ったゲルググが、そのビーム弾幕をヴァースキ機にと向け。

 

「……ヴァースキ!?」

「イングリッドか!!」

 

 僅かなコンマの間静止していた後に、そのマシンガンをジムスナイパーⅡに向けて乱射を始める。

 

 ボゥフ!!

 

「あう!?」

 

 量産型ガンキャノンからの砲撃、油断でもしていたのか、それをまともに食らった少女の機体は、バランスを大きく崩し。

 

「ごめん、イングリッド!!」

 

 スナイパーⅡが放つビーム照射の中に消えた。

 

「やったか、カタリーナ?」

「いえ、あれを見てください、ラムサスさん」

 

 しかし、その敵機撃墜の希望は新しく現れた紅い機体によって、ビームマシンガンを持ったゲルググを強く抱えられている姿により否定される。

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