「ヴァースキの奴め……」
「どうしたんすか、隊長?」
「どうもこうもよ、ベルカ」
その異動をおこなったヴァースキからの手紙、その中には。
「アイツめ、いまになってよ……」
ヴァースキという少年、そしてオーガスタとムラサメ研究所が行った「新種の人間」を作る概要、具体的な中身は書かれていないが、まさしくその概要が描かれている。
「水臭いんじゃねえの……」
――――――
「何だろうな、今の光……?」
「ソーラ・システムよ、ラムサス」
「メイリー少佐、なんだいそれは?」
「ソロモンの宇宙要塞を砕く為の、大規模破壊兵器」
しばらくのあいだ、その遠くに光る「帯」は存在を続けていたが、やがて。
「つまり、ジオンの前線宇宙要塞であるソロモンが落ちたということよ、ラムサス」
その光は、暗黒の宇宙の中に消え去っていく。
「ってことは、戦争も終わりかね、メイリーさん?」
「あと、ア・バオア・クーという防衛線が残っているわ」
「戦争が終わったら、あんたもヤザン隊長に会えなくなるかもな」
「何が言いたいのかしら、ラムサス?」
「別に……」
そこまで言い、嫌なニヤケ笑いを浮かべて見せるラムサス、そしてメイリー達の隣では。
「ミノフスキーが強すぎて、通信が上手くとれません、艦長」
「レーザー通信はどうだ、ベルカ君?」
「ここらはジオンの勢力圏です、迂闊なレーザーは危険です」
その、ガディ艦長に上申するベルカの傍らではアイネ整備員が。
「ヴァースキが残したスナイパー、調整しますね」
「長所を潰してしまう、あの調整方法か?」
「ヤザン隊長が言っていました、スナイパーⅡは支援機とするには勿体無いと」
「解った、許可する」
そのままガディ・キンゼー艦長の前から立ち去り、その腕を絡ませようとするアイネを捌いているベルカの様子を見つめながら。
「いいねえ、若いのは……」
「何年寄りみたいな事を言っているのよ、ダンケルさん」
「いいじゃねえかよ、カタリーナ……」
稼働モビルスーツの全容、それを報告しようと、ダンケルとカタリーナが艦長の元へとやってきた。
「Gライン、なんだそれは?」
「噂だがな、ヤザン」
コーヒーチューブをその手に取っているギャリーはそう、声を潜めながら。
「何でも、ガンダムとやらと同等の性能を誇る量産機らしい」
「そのガンダムとやらが、俺にはよくわからねぇんだよ、ギャリー」
「まあ、そうだが……」
戦争が長期化すれば、連邦軍に配備されるかもしれない。そのモビルスーツの名前をそっとヤザンにと伝えていた。
――――――
「イングリッドと会ったというのは」
「はい、レビル将軍」
「本当のようだな、ヴァースキ君」
火の付いていない葉巻をくわえながら、このジオン本国攻めの総指揮官「レビル」はヴァースキから受け取った、手書きのその書類へとスッと、刃物のように目を通した。
「このソロモンを落とす前後に、ポケットの中の戦争に過ぎない事が、二つあった」
「ハッ……」
「EXAMと、ニュータイプ専用機の件だ」
その話はヴァースキには聞いたことがあるが、詳しい顛末までは知らない。
「どちらにしろ、大勢には関係の無い話だ」
「……」
「とはいえ、戦後を考えたら」
ポッ……
形を崩さない葉巻を灰皿に落としたきり、レビルは暫しの間無言で外を、漆黒の宇宙を眺めている。
「大きな影響があるかもしれんがな」
「しかし将軍、自分は……」
「兄の元へ居たいか?」
「たとえ、クローンとしてのエッセンスがイングリッドに大幅に取られたとしても……」
「血は濃いな?」
「ハッ……」
「しかし」
そこまで言い、レビルはその執務机から数枚の書類を取り出し。
「不許可だ」
「はい……」
「身売りされた君をムラサメとオーガスタは引き取った、その恩を売りつけるとするか」
「無情ですね、将軍」
「すまんな……」
そう、うつ向いたまま申し訳なさそうにいったレビルの表情は、面を上げたままのヴァースキには読み取れなかった。
――――――
「なあ、メイリー」
「何、ヤザン?」
「お前、兄弟姉妹はいるか?」
「そんなもの、疎遠です……」
裸の胸を自身に押し付けるメイリーを軽く抱き締めながら、ヤザンはその胸から低く息を吐き出す。
「どうしたの、ヤザン」
「いや、少し戦後の事を考えてな」
「戦後、気の早い」
「まあ、そうかもな……」
ヤザンには政治というものはよく解らない、しかしこの戦争は。
「単にジオンを倒して、終わりじゃあるまい……」
その位の想像は出来る、ヤザン・ゲーブルである。
――ブルゥ――
その時、ヤザンの身を軽く。
「何、だ……?」
妙な、寒気が襲った。