「やはり、このジム・スナイパーⅡとやらは」
小規模なジオン哨戒部隊と遭遇したヤザン達、しかしその哨戒部隊は。
「普通の使い方をした方が、割りにあっているぜ……」
プログラムをメイリー少佐にと頼んで接近戦用機としたヤザン機スナイパーⅡ、ヴァースキから譲り受けたそれを中心としたチーム・ヤザン達の奮戦により、容易く蹴散らされる。
「敵には宇宙戦用のドムもあったみたいですけどね、隊長」
「だが、それもお前達が蹴散らしたじゃねえかよ、ダンケル?」
「へへ……」
テネス達から受け取った新しいジムコマンド達、微調整が行われ性能が向上したそれらの機体の前では、かつての強敵「ドム」でさえ、大きな障害ではない。強いて言えば。
「だが、その発展型みたいなドム、そいつは油断できねぇ……」
遭遇したムサイ、ジオン軍の巡洋艦に搭載されていたドムの中、明らかに動きの良いドムが何機かいた事に、ヤザンはその顔を渋くする。そのドムのマイナーチェンジと思われる機体によって、カタリーナのマスプロ・ガンキャノンが、決して軽くはない被害を被っている。
「まあ、一旦は戻るか……」
味方に通信を送りながら、ヤザンは宇宙空間で遠目に見える歪な要塞、ジオン軍の最終防衛ラインである「ア・バオア・クー」の姿を実と見つめる。ヤザン達もその要塞攻略に参戦することが決まった以上、無駄な労力を使っている暇はない。
「前方に、ジオンのチベ級を発見!!」
「ちっ……!!」
そのベルカ通信兵からの声にヤザンは舌打ちしつつ。
「相手の様子はどうだ!?」
「どうも、こちらから離れていく様子です」
「そうか……」
敵の撤退を想像させられるその言葉、コクピット内でヤザンはそれに頷きながら。
「俺とダンケルだけ残れ、後は艦の中にいろ」
「大丈夫か、ヤザン?」
「心配すんなって、ギャリー……」
このサラミス級に搭載されているモビルスーツ達にと指示を出す。ヤザンの見立てでは、ジオンもア・バオア・クー防衛の為に戦力を温存しておきたいはずだ。
――――――
「どうも、キマイラ隊ってのが」
「ああ、それか……」
「この艦の受け持つ戦闘宙域、そこに展開するみたいっす」
コクピットに潜って自機の様子を確かめているヤザンに向かい、アイネ整備員がそう、やや低い口調で声をかけてくる。
「ジオンも、もう後がないっすね」
「ソロモンで戦力を潰してしまったらしいな……」
そう言いながら、ヤザンは隣にとそびえ立つライトコマンド、ギャリー・ロジャース機の様子をちらりと見る。その機体も少しアイネの手により強化されたようだ。
「しかしですね、ヤザン隊長」
「カタリーナさん、その装甲板寿命らしいっスよ」
「あ、そうなの?」
使わないと勿体無いからという理由でボール、支援用の戦闘ポッドにと通信設備を取り付け、あたかも宇宙用ホバートラックとしているアイネの横では。
「ええとグラナダです、ヤザン隊長」
「グラナダ、あの月面が何だって?」
「そこにまだ、戦力が温存されているみたいです」
コソッとした口調でそう言いながら、カタリーナが先の戦闘で被弾したマスプロ・ガンキャノンの調整を行っている。
「まだまだ、予断は許されない訳ね……」
その言葉を吐いたのはメイリー技術士官だ。彼女は先程までに全モビルスーツのOSを調整し終わり、今は軽い軽食を取っている。
「アイネ、このコクピットの座席だけど」
「はいはい、カタリーナさん?」
「何か、様子が変なのよ」
二人して量産型ガンキャノンの中にと潜り込むカタリーナとアイネ、そのガンキャノンの横にはダンケル、ラムサスのジムコマンドがあり、ヤザンが帰投する前から、黙々とラムサスがジムスナイパーⅡからの部品移植。
「やはり、コマンドではバイザーの電圧がな、エラーが出る……」
ヤザンが使わないからと取り外した、狙撃用機器の取り付けに励んでいる。
「おおいヴァースキ、と……」
もう彼はいないのだ、その事を失念していたヤザンは、仕方なくマグネットコーティングのコクピット内からの調整を一人で行う。この「機械油」に関してはこの艦ではヴァースキが一番、知識があった。
スゥ……
「メシ、いりますか?」
「おう、少しくれ……」
少しの間休憩をしていたダンケル、ヤザンは彼からカロリー・バーを受け取りながら、コーティングの調整に励む。
「おおい、アイネ」
「きゃあ!?」
ガンキャノンをカタリーナと共に整備中、ダンケルにいきなりノーマルスーツ越しに尻を蹴られたアイネ整備員は。
「なにするんすか、ダンケルさん!?」
「ちょっとアイネその、そこ触らないで!!」
「あたしのケツは、ベルカのもんなんですからね!!」
そのまま抱きつくような形で、機体内にといたカタリーナと密着した。
「そのベルカが呼んでいたぞ」
「ちょっとアイネ、股ぐらから手を離して!!」
「何でも、各機体との通信能力を強化したいらしい」
地なのか疲れているのか、わめき散らすカタリーナを無視し、ダンケルはカロリー・バーを二人に投げ渡しながらブリッジからの伝言を伝える。
「わ、わかったっす!!」
「もう、このバカ!!」
そのヘルメット内の顔を真っ赤にしているカタリーナの胸から手を離し、アイネはそのまま量産型ガンキャノンから離れていく。
「何をやっているんだ、カタリーナ?」
「あなたが仕出かしたんでしょ!?」
「俺は何もやってねえよ……」
あくまでもそううそぶくダンケルに対して、カタリーナは受け取ったばかりのカロリー・バーをその腕を振り、思いっきり投げつける。
「ちょっとダンケル、あんまり彼女を苛めちゃダメよ……」
その光景を呆れた顔をして見つめていたメイリーの隣にはラムサスの姿、どうやらジムコマンドのOS関係で聞きたい事があったらしい。
「騒がしいこった……」
口の端を歪ませ、その光景を苦く笑うヤザン。彼にしてみても。
「まあ、いい……」
ヴァースキがいなくなってから時おり感じる、妙な「気配」を忘れる、気が紛れるのは良いことだ。
――――――
「ジオンの艦、グワジン級か……」
マゼランの窓から外を覗くヴァースキ少年の視線の先には、ジオン軍の艦がレビル将軍の乗る艦へと、連絡用チューブを繋いでいる姿が見える。
「たしか、デギン公王が乗っている艦だと言っていたな……」
一応、この事については箝口令がひかれているが、当の艦内部での一人言ならば構うまい。
「と、いうことは」
政治には疎いヴァースキといえども想像は出来る。おそらくジオン軍の名目上の最高権力者「デギン公王」と連邦の前線での最高権力者「レビル将軍」との間で行われている密談なのだ。
「もしかして、戦争は早く終わるかな?」
だとすると、ヤザン隊長は不満が溜まるかもしれない、その自身が敬愛する隊長の仏頂面を思い浮かべて、ヴァースキは一人ほくそ笑む。
「まあ、戦争が早く終わったら、僕もイングリッドを探しに行けるし」
良いことだ、そうヴァースキは心の内でそっと胸を暖める。
シィ……
「ん?」
その時。
「何だ、光……?」
何かが光った、そうヴァースキが思った瞬間。
ガァア!!
二隻の艦と、彼ヴァースキの存在は消滅した。