「くそ、何だってんだ!?」
あたかも宇宙を引き裂くように、何処ともなく出現した一条の閃光、それが終息すると同時に。
「各員、戦闘配備に着け!!」
ガディ・キンゼー艦長、彼からの声が就寝中のヤザンを叩き起こす。
「ちっ……」
何か、寝不足とは違う感覚で痛む頭を抱えながら、ヤザンはサイドテーブルにと置かれている錠剤を口に含みつつ、ハンガーデッキにと向かう。
「ヤザン隊長!!」
「おう、ダンケル!!」
「ソーラ・システムです!!」
「なんだって!?」
やや小走りに走りながら、ヤザンとダンケルの二人は常夜灯の付いている艦内通路を駆ける。
「確か、ソロモンの時に使われたっていうヤツか?」
「同じものをジオンも開発していたんですよ、きっと……」
「そうか……」
曲がり角を曲がり、ハンガーデッキへの中継地点、そこで二人は宇宙服ノーマルスーツにと着替え、そのまま重力調整室へと飛び込む。
ザァ……!!
人工重力が解除され、宙に浮いたままハンガーのモビルスーツに漂う二人、すでにラムサスは自らにあてがわれた射撃戦用のジム・コマンドの前にと待機している。
「こちらハンガーデッキ!!」
「ベルカです、ヤザン隊長!!」
「状況はどうなっている!?」
「未確認ですが、レビル将軍が戦死なされたようです!!」
「総大将がやられたか……!!」
「今は、ガディ艦長からの指示を待ってください!!」
「よし、解った……!!」
そのまま自機「スナイパーⅡ」の前で漂っているヤザン、しばらくしているとカタリーナやギャリー、そしてアイネもこのハンガーにと飛び込んできた。
「ヤザン隊長、ワイヤーアームの調整は完了したっす」
「おう、アイネ!!」
「マグネットコーティングの様子も完璧っすよ」
「解った……」
ジ、ジッジ……
「各員、これより我々は他の残存部隊と協力して、ア・バオア・クーにと取りつく」
「結局、混戦か……」
その呻くようなラムサスの声は無論、ブリッジから通信を入れているガディ艦長には通じない。
「キマイラ隊もいるかもしれん、皆注意してかかれ」
その間にもこのサラミスに搭載されている各モビルスーツには、様々なデータがベルカの手によって転送されてくる。
「さて……!!」
スナイパーⅡ、それのコクピットにと潜り込んだヤザンの目線の先には、想定されるジオン軍の総数、あまりあてにはなりそうにないが。
「ここが、アガリのマスになるかな……?」
だが、戦局などなんだのは偉い人が考えれば良いだけの話だ。ヤザンにしてみれば。
「まあ、やってみりゃ解るか!!」
余計な事を考え、時間を潰すという趣味はない。
――――――
奇怪な形状のヘルメットを被ったザク、物知りなベルカによれば「フリッツヘルム」というらしいその頭部形状をしたザク二機を瞬く間にキャノンで粉砕したカタリーナの腕前には、ダンケルが口笛を吹いて囃し立てる。
「あのムサイは別の連中がやってくれる!!」
「了解、隊長!!」
そのヤザンの言葉通り、フリッツヘルムを放ったムサイ巡洋艦には別部隊のジムが、そのバズーカをもって落としている姿が目に見える。
「高速機接近!!」
偵察型ボール、ベルカ機からの通信に、ヤザンは自機を近くにあった戦艦の装甲板、それの影にと隠れさせる。
「光が速い、並みの機体じゃないぞ……」
ラムサス、ダンケル達も物陰に潜み、その不明機の接近に備える。何かカタリーナが息を飲む音が通信機越しに聴こえた。
「ありゃ、モビルアーマーってやつかもしれんな」
「そうか、ギャリー?」
「ああ、噂で聴いた……」
そう、ヤザンが近くの岩にと隠れているギャリー・ロジャースの話を聞いている内に。
「……ちら、八十二小隊!!」
「あん?」
「誰か、支援を!!」
ちょうどその接近をしかけてくる高機動機、そこらの辺りから悲鳴のような音声が聴こえてくる。
「ラムサス、バイザーで確認してくれないか?」
「了解……」
ジム・スナイパーⅡの狙撃用バイザーを拝借したラムサスのコマンドが、その高機動機を確認しようと物陰からその身を乗り出す、ヤザンはそれをいつでも支援出来るような形で、新型のライフルを構え直した。
「このライフル、ショートレンジ型の狙撃銃だというが……」
「ヤザン隊長!!」
「おう!!」
「モビルアーマーにジムが取りついています!!」
それと同時にラムサス機からの画像、それがベルカの観測ボールによって処理され、調整された映像が各機へと送られてくる。
「しょうがない、助けてやるか……」
どこか「貧乏くじ」を引いたというような感のヤザンの言葉ではあるが、それでも彼は接近をしてくる高機動機とのタイミングを合わせる。一気に仕留めるつもりなのだ。
「三、二、一……」
敵機を表す光点はこちらに一直線に向かってくる。ヤザンのカウントの途中で、誰かが唾を飲み込む音が聴こえた。
「ゼロ!!」
ガォウ!!
それと同時に先に「表」へと出ていたラムサス機へのビーム照射、ラムサスのジム・コマンドはそれを身軽に回避し、その敵機の画像を皆にと送る。
「良い趣味してんじゃねえかよ!!」
緑色の怪鳥を思わせる風貌に、その身体から突きだされた二対の鉤爪、それをダンケルは笑うと同時に、その手に持つバズーカを発射する。
「ヤザン隊長!!」
「よし、ダンケル!!」
そのバズーカは牽制だ、その敵機のスピードに追い付くものではない。そのバズーカからの回避により機動が制限された怪鳥に、ヤザン機スナイパーⅡが急加速して取りついた。
「速さに振り回されたか……」
怪鳥の身体には二機のジムコマンド、それが突き刺したビームサーベルを軸に身体を支えている。ヤザンにはその中のパイロットが無事であるかどうかは解らないが。
「そらよ!!」
ズゥ!!
大出力のビームサーベル、どこぞの新型から流れ着いたその大型ビームサーベルをもって怪鳥の身体を突き刺しつつ。
「よし、ギャリー!!」
「おう!!」
ギャリー機ライトコマンドたちにも、その「分け前」を与えようとする。その集中攻撃を仕掛けているヤザン達の先で。
「あぶねぇぞ、ベルカ!!」
「う、うわ!!」
ブゥン!!
観測を行っていたベルカのボールに、危うく衝突しそうになった。あまり時間をかけると良いことは無さそうだと感じたヤザン。
「恐らく、ここがコクピット!!」
目星をつけた場所へとサーベルを一気に降り下ろす。それと同時に怪鳥は。
「よし、皆このデカブツから離れろ!!」
あらぬ方向へと蛇行を始め、あやうくスペースデブリと衝突しそうになったヤザンは、取り付いていたジム・コマンドの内一機を小脇にかかえ、怪鳥から離脱する。
「たぶん、こいつ気を失ってやがるぜ……」
もう一機のコマンドを救助したギャリーはコクピット内で苦笑いをしつつ、そのジム・コマンドを宙に浮かせた。
「おい、ベルカいるか!?」
「は、はい!!」
「このジム・コマンド達を」
この小競り合いで自機の調子は良好だと判断したヤザンは、やや機嫌のよい声でベルカのボールを呼び寄せ。
「俺達のサラミスまで運んでやってくれ」
「は、はい解りました……」
「その後、お前はサラミスで待機だ」
「やはり、ボールでは駄目ですか?」
「危険だ、足手まといにもなる」
その見も蓋もない言い方、それには当のベルカではなくダンケルやらラムサスの方が肩を竦めてしまう。
――――――
「ちぃ!!」
テネスのジムスナイパーⅡがその「キマイラ隊」の集中攻撃を受け、なおも健在であるということは、彼の操縦技術の高さの現れではあるのだが。
「しかし、反撃の糸口が見えん……!!」
ゲルググを中核とした敵部隊、それらは徐々にとテネス隊を押し込んでいく。特に。
ギュ、ア!!
「速い!!」
フランシスのスナイパーⅡから放つ狙撃銃、それをことごとく回避する紅いゲルググの素早さには、敵ながら感心するしかない。
「司令塔レビル艦が潰された以上、散発的な援軍しか来れない……!!」
そして、その二、三機のモビルスーツが駆けつけた所で、各個撃破されてしまうのが、今のア・バオア・クーでの戦場なのだ。
「ジオンの兵は少ない、しかし!!」
再び襲ってくる紅いゲルググとその随伴機と思われる青いゲルググ、それの連携から逃れるのは、彼テネスやその一の部下、フランシス・バックマイヤーといえどもいつまでも続くものではない。
ビュウ、ア……
「味方の援軍か……!!」
遠距離からのビーム射撃、流れ弾かも知れないなとテネスが、敵機に注意を払いつつもそのビームが放たれた「元」を確認するに。
ギィ……!!
テネスと同型のスナイパーⅡ、そしてサンドカラーのキャノン付きゲルググが互いにサーベルを合わせている傍ら。
「動きが遅い、敵に差があるのか!?」
ビームガンをもってして、ぎこちない動きのゲルググを撃破したばかりのジム・コマンドの姿である。