機動戦士ガンダム「野獣の一年戦争」   作:早起き三文

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第44話「ア・バオア・クーの獣達(後編)」

  

「俺がパワー負けしているだと!?」

「そうみたいだな、トーマス・クルツ」

 

 バァン!!

 

 しかし、それでもトーマス機から放たれる斬撃は的確であり、ヤザンと言えども気を抜くことは出来ない。

 

「ちぃ!!」

 

 敵はこの「サンドカラー」だけではない、他にも遠距離から狙撃を仕掛けてくるゲルググもいるため、ヤザンとしては短期決戦を挑みたいところだが。

 

「さすがに手強いな!!」

「そうだとも、ヤザン・ゲーブル!!」

 

 他に余力を残している味方もいない。ダンケルとラムサスは赤い、狙撃タイプと思われるゲルググに脚を止められているし、カタリーナやギャリーにしても宇宙戦用ドム、それの改良タイプの攻撃を受け、ヤザンの援護に回るどころではない。

 

 バォ!!

 

「うお!?」

 

 バルカンによる牽制からの一回転蹴り、それに虚を突かれたらしき風であるトーマス機からヤザンは一旦離れ、自機の背に装着させてあるショートレンジ・ライフルの弾丸をサンドカラーのゲルググにと叩きつける。

 

「くそ!!」

 

 狙撃用ライフルを改良したショートレンジはゲルググの硬い装甲にも有効であったようだ。しかしそれでもトーマスは怯むことなく、その背のビームキャノンの砲門をヤザン機にと向ける。

 

「そうはいくかってんだ!!」

 

 ヤザンはそのまま自機「スナイパーⅡ」の推進力をフルに使い、ビームによる攻撃から身をかわすが。

 

 ガァ!!

 

 そのビームキャノンを避けたヤザン機とラムサスのジム・コマンドが接触し、ヤザンの身体に大きな衝撃が疾った。

 

「なにしてやがる、ラムサス!!」

「そんなことを言っても、隊長!!」

 

 即座に機体の態勢を整え直す二人、その二人の脇をビームキャノン、そしてビームによるマシンガン掃射が宙を駆ける。

 

「スイッチングだ、ラムサス!!」

「りょ、了解!!」

 

 ジムスナイパーⅡの推力は極めつけだ、即座にその狙撃型ゲルググと距離を詰めたヤザンは、ショートライフルを牽制として放ちつつ、ビームサーベルを抜き撃つ。

 

「なめるな!!」

「女か、気に入らねぇな!!」

 

 一瞬ヤザンはその女、少女の声に聞き覚えがあった気がしたが、その雑念をすぐに振り払い、頭部バルカンにて相手の装甲を叩く。

 

「そこで!!」

 

 一撃目のビームサーベル斬撃はその狙撃タイプにとかわされたが、続けてヤザン機から放たれたサーベルによる刺突、それが相手ゲルググの脚部を焼く。

 

「ちぃ、連邦め!!」

 

 大型のビームマシンガンは接近戦では取り回しが効かない、しかし彼女はそれでもその銃器を保持したままビームサーベルを取り出し、ヤザン機スナイパーⅡと刃を交える。

 

「はぁ!!」

「甘いぜ、女!!」

「女で悪いかしら!?」

「どうだろうな!!」

 

 やはり、彼女の声には聞き覚えがある。しかしそうは思いながらもヤザンのサーベルはグイグイとゲルググ狙撃型を押し込んでいく、相手が未練がましくビームマシンガンを放擲しないのもあるが、大型のビームサーベルを持つヤザンの方が接近戦に分があるようだ。

 

「何をやっているんだ、イングリッド!!」

 

 ヤザンのスナイパーⅡの前身に当たる機体を撃破した紅きゲルググ、それが背部ブースターから眩い光を発しながら、ヤザン機に追突を仕掛けるかのような勢いで、そのイングリッドとやらの機体を救援しには入る。

 

「動きが良い、リーダー機か!?」

 

 その勢いに、ややに飲まれてしまったヤザンはショートライフル、狙撃用無反動砲をショートレンジにと改良したライフルをその紅い機体にと放ったが、それはことごとく回避され、そのゲルググが取り出したサーベルを。

 

「く、くそ!!」

 

 間一髪でかわす、がその隙を狙われイングリッドの狙撃ゲルググの腕から機関砲のような物がヤザン機の、これもやや脇をすり抜ける。その連携攻撃をかわしつづけたヤザンのスナイパーⅡが、各部関節から悲鳴のような音がなる。

 

「マグネットコーティングがいかれてるのか、ヴァースキめ!!」

 

 ここにいない者に悪態をついても仕方がない、支援に駆けつけたジム隊からのビームスプレーガンによる威嚇に助けられた形となり、ヤザンは一旦そのゲルググ二機から距離をとった。

 

「支援の数が多い、いけるか!?」

 

 ヤザンの言う通り、確かに支援部隊の数はかなり多い、その部隊は複数に別れ他のゲルググ、それぞれがパーソナルカラーにて塗装されているキマイラ隊の敵機に当たってくれている。

 

「ならば、俺は敵の隊長機を!!」

 

 ドゥ!!

 

 その支援のジムを払った紅いゲルググ、その機体をキャノン砲で牽制してくれているカタリーナに感謝をしつつも、ヤザンは今度こそ必中を掛けてショートライフルを、援護をしてくれているギャリー機ライトコマンドと合わせて、その紅い機体にと放つ。

 

「うおっと!?」

 

 同時に所属不明のパイロット、テネスからのライフルも同時に放たれたのがよかったらしい。集中された射撃がその紅いゲルググの脚部を大きく破損させる。

 

「深紅の稲妻が泣くぜ!!」

「ジョニー隊長、こいつら強いです!!」

「泣き言を言うな、イングリッド!!」

「しかし、キシリア様も!!」

 

 何やらわめいているゲルググ狙撃型が放つマシンガンの軌道はヤザンにはすでに見切られている。

 

「あのサンドカラーは!?」

 

 その一瞬、彼ヤザンはトーマス・クルツ機の方にと目をやり、その敵機がダンケル、ラムサスの二人と互角の戦いをしている事を見やった後、一つ安堵をしながら果敢に紅いゲルググにと斬りかかってくる。

 

「くそ!!」

「紅い奴、会ったことがあったかい!?」

「さぁてね!!」

 

 負傷しているとはいえ、その「紅い奴」はそれでもヤザン機の大型サーベルを上手く捌き、隙あればその逆腕にと持つバズーカ、ロケットランチャーにてスナイパーⅡをはね飛ばそうと試みている様子ではあるが。

 

 ピュア……

 

 味方の増援、何かジオンの防衛網に穴でも空いたのか、次々に支援にと駆けつける味方機達が「キマイラ隊」とやらを押し潰そうとしている。

 

「くそ!!」

 

 そして、ついに青いゲルググ、敵リーダーの随伴機にとバックマイヤーの狙撃銃が命中し、そのままその敵機は後退を余儀なくされた。

 

「キマイラ隊、キマイラ隊!!」

「ジョニー隊長、キシリア様が戦死なさいました!!」

「解るのか、イングリッド!?」

「吹き飛ばされる光景が、頭の中に!!」

「キマイラ隊!!」

 

 恐らくはそのリーダー機は撤退を指示しているのであろう、だが。

 

「ここで、退くわけには!!」

 

 ラムサス達、そしてカタリーナの援護によって半壊したキャノン付きゲルググの闘志は衰えない様子ではあるが。

 

「グラナダにいくぞ、キマイラ!!」

「俺達に逃げる場所なんてあるのかよ!?」

「無駄死にはするな、トーマス!!」

「くそ!!」

 

 的確なロケットランチャーによる射撃、それによってダンケルのジムコマンドが吹き飛ばされる、それと共にトーマス・クルツのゲルググキャノンもまた。

 

「ここでまた、逃げる事になるとは!!」

 

 悔しげにそう罵りながら、先導するゲルググ狙撃タイプにと、その機体を追尾させている。

 

「逃がすか!!」

「止めろ、ヤザン・ゲーブル!!」

「何をいってやがる、ここで……!!」

「戦争は終わったんだ!!」

「何だと!!」

 

 その自機の肩を掴まれたままに放たれたテネスの言葉に、ヤザンは軽く息を呑む。

 

「ジオンの総大将、ギレン・ザビが戦死したらしい」

「何だって……?」

 

 その言葉の意味することは、すなわち。

 

「この戦争、終わったのか……?」

 

 ヤザンの独白の通り、戦争終結の証しであるといえた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「停戦ラジオ、聴きましたか?」

「ああ、聴いたぜ……」

 

 艦へと戻ったヤザンにベルカ通信兵が開口一番に語りかけた言葉、それを聞き流しながら、ヤザンはダンケル達の事を労う。

 

「それと、ヴァースキの事もな」

「誰から聞きましたか、ヤザン隊長?」

「あのテネスとかいう御仁だよ、ベルカ」

 

 戦争は終わった、それでもメイリーとアイネ達はモビルスーツの整備を行っている姿を見ていると。

 

「何だ、この感覚は……?」

 

 何かが終わっていない、そう本能で察知してしまうヤザン・ゲーブルである。

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