「文句はあるか、ヤザン君?」
「いえ、ありません」
「フム……」
正直、ヤザンにしてみれば二階級降格で済んだだけ、目の前にデンと居座るゴップ大将には感謝している。
「他の面々にも、追って沙汰を伝える」
「ハッ……」
「まあ……」
そう言うと、ゴップ大将はニコリと笑みを浮かべ。
「気持ちは理解できるし、君が責任を取るというのであれば」
「……」
「大袈裟にはしないし、出来もしない」
「気に入りませんでしたので……」
「ま、グローブでの事は内密にな……」
結局、メイリーの犠牲も虚しく、グローブ・コロニーでの連邦軍による蛮行は止めることは出来なかったのだ。
――――――
「あのジオン兵」
「トーマス・クルツの事か、メイリー?」
「どうなったの、ヤザン」
「死んじまったよ、メイリー……」
「そう……」
病院のベッドで呼吸器を外していたメイリーは、そのまま激しく咳き込むと、医者から呼吸器を付ける事を勧められる、が。
「でも、最後にヤザン」
「あん?」
「良いことをしたわね、私たち」
「人殺し、軍人がか?」
「言ってくれるわ……」
再び激しく咳き込むメイリー、医者がこれ以上喋らすなと、ヤザンにサインを送る。
「……」
医者によれば、ヤザンの古くからの馴染みであり、愛人でもあったメイリー少佐の命はもう残り少ないらしい。スナイパーⅡを破壊された時に致命傷を負ってしまったのだ。
スゥ……
呼吸器を付けられたメイリーはヤザンに、その目で意思を伝え。
「あばよ、メイリー……」
ヤザンは、それに言葉をもってして答える。
――――――
「冷や飯食らいも、飽きたな」
「あら、ヤザン隊長」
メイリーの墓前に花束を手向けたカタリーナ、髪を僅かに伸ばした彼女は、ダンケルに寄り添いながら。
「私たちは忙しいわよ、ねえ」
「まあ、な……」
軽く、ウィンクをしてみせる。確かに。
「ラムサスの奴も、一年ぶりに顔を見せればいいのによ……」
ジオンの残党狩り、それによってラムサスはメイリーの一周忌にも顔を出す事が出来ない。
「でもですね、ヤザン隊長」
「何だ、ベルカ?」
「はい、これ」
この一年で少し背が伸びたベルカ通信兵、彼が一通の手紙を差し出すと同時に、アイネからも手紙が差し出される。
「研究所のテストパイロットの誘い?」
「そうっすよ、ヤザン隊長」
「フゥン……」
アイネ整備員もまた、この一年で肉付きがよくなった、と彼女の恋人であるベルカがややに下卑た笑みを浮かべて言ったものだ。
「まあ、暇をもて余していた所だ」
「それでこそ、ヤザン隊長」
「乗せられている気もするけどな、ダンケル」
「ギャリーさんも忙がしいみたいだ、隊長だけのんびりとしていると、バチが当たる……」
「好きでのんびりしている訳じゃねぇ……」
その無遠慮なダンケルの言葉に少しムッとした顔を見せたヤザンではあったが。
「あの世にいるこいつのせいだ、ダンケル」
「ふふん……」
「笑ったな……」
風になびく花の海、メイリーの墓を包むその青い花達が。
――待ってるよ、お兄さん――
何か、別の人物の言葉をヤザンにと伝えた。
「フン……」
しかし、その手の事を信じないヤザンにとっては。
「幻だ、なあヴァースキ?」
その声が意味する事は、理解出来ない。
――――――
「パプテマス・シロッコとはどういう男だった?」
「はて……」
この十年で、またしても「貫禄」が増したゴップの前で。
「面白い奴でしたよ」
「そうか、ヴァースキ君」
「こそばゆいですな、小官には」
「君が言い出した名前だろう?」
「いや、そうではなくてですな……」
別にヤザン、ヴァースキにしてみれば自らが言い出したその名が悪い名前、であるとは思っていないが。
――人が沢山死んだんだぞ!!――
――お前もその内の一人にしてやるってんだよ!!――
そう、強敵であり得体の知れないパワーを使う相手に対して、そういう台詞を吐いてしまったことは。
「ダンケルにラムサス、それにギャリーか」
それは長年「つるんで」きた戦友の名前、そして死人の名前。
「カタリーナ、そしてベルカやアイネもグリプスの戦いで戦死しちまったしなあ……」
その言葉、それはそのまま彼ヤザンへの、皮肉に満ちたカウンターとなり。
――成仏しろよ、ダンケルにラムサス、そして皆――
「ヴァースキ」を含めた、かつての仲間達の顔を思い出させてしまうのだ。
~完~