機動戦士ガンダム「野獣の一年戦争」   作:早起き三文

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第8話「続く敗北」

  

「良いザクだな、こいつは……」

 

 頭部に「角」がついているザク、それにと乗りながら、ヤザンはその機体の手に持つヒートホークを、出力させないまま軽く振る。

 

「動きが素直だよ、ギャリー」

「なんでも、そいつは」

 

 奇跡的にも無傷で入手したザク、それは誰にあてがわれるか、または試験用に使われるかは分からないが、どうやら。

 

「指揮官用のザクだという事だ、ヤザン」

「ふぅん……」

 

 他のザクとは違う、特殊な調整が行われたザクだということだ。

 

「もしかして、ジオンの赤い彗星とやらが乗っているザクか?」

「かも、しれん」

「へへ……」

 

 そのギャリーの言葉を受け、またしても嬉しそうにヤザンはヒートホークを振ってみせた後。

 

 トゥ……

 

 ザク、モビルスーツのコクピットから昇降用ロープを伝いながら身軽に降りる。

 

「まあ、この人形もまた」

 

 そう言いながら、ヤザンはそのザクの隣にと立つ、噂では「高機動型ザク」と呼ばれるその愛機へと視線を向けた。

 

「騎兵隊カラーに塗られるのかな?」

「味方からの誤射はたまらんだろう、ヤザン?」

「俺の専用であるこのザクの色、あまり好みではないのだがね……」

 

 別にその「陸戦用・高機動型ザク」のパイロットがヤザン・ゲーブルのみと決まっている訳ではないが、以前にラムサスを始めとするパイロットに乗らせてみた所。

 

――こんなヘンテコな物、ヤザン隊長にしか乗れませんよ――

 

 ザニーから派生したモビルスーツ・コントロールシステム自体は戦闘機と戦車の折衷であり、正規の訓練を受けたパイロットであればすぐに習熟出来るものではあるが、このヤザンのザクは元から余りにも特殊であるらしい。

 

「まあ、ともかく」

 

 真夜中のハンガーデッキ、しんと静まったその空間の中でヤザンは高機動型ザクへのタラップを上がり、そのコクピットにと入り込みながら。

 

「せっかく配備された、100mmとやらを試してみる機会もあるさ」

 

 

 

――――――

 

 

 

 ヨーロッパ戦線もオデッサ、地球有数の鉱山基地をジオンに占拠されて以来、そのジオン勢力圏は徐々に周辺の地域へと浸透している。

 

「連邦の汚らわしい色合いのザクめ!!」

 

 だが、そのジオン軍に対抗せんとして、ゲリラと化してでも徹底抗戦の構えを見せている物達も存在した。

 

「くそ!!」

「どうした、ヤザン!!」

「100mmがジャムった!!」

 

 そのヨーロッパの森林の中で孤立した部隊の救援、それが今回ヤザン達にと与えられた任務である。

 

 ザァ!!

 

 ギャリー・ロジャースのザクが素早くヒートホークを振るい、敵のザクを脅えさせた所に。

 

「二丁目、いくぞ!!」

 

 背部ラックから新たな100mmマシンガンを取り出したヤザンが、そのザクに止めの弾丸をお見舞いする。

 

「61式隊、連邦ザクに続け!!」

「しかしエイガー、砲弾がねえ!!」

「ちくしょう!!」

 

 ゲリラをやっている部隊の補給線はすでにジオンによって切断され、航空戦力どころか戦車、そして軍用ホバークラフトすらおぼつかないような状態だ。それゆえ。

 

「一機、撃墜!!」

 

 ジオンの攻撃機を破壊するラムサス達のセイバーフィッシュですら、充分な戦力となりうる。その攻撃機から飛び降りたザクを、ヤザンは。

 

「はあ!!」

 

 脚部ロケットで勢いを増したキック、それをもって森の木々ごと蹴り飛ばす。

 

「さすが、ヤザン隊長のコマンドサンボ!!」

「そうなのですか、ラムサスさん?」

「俺とてカラテをやっているが、ヤザン隊長には勝った試しがないよ、カタリーナ」

 

 別にモビルスーツはパイロットの肉体能力をトレースするOSは積んでいないが、それでも四肢をもつ以上。

 

「はあ!!」

 

 ヤザン、そしてギャリー・ロジャースと同じように、キックにより牽制位は出来る。

 

 バッバ……!!

 

「くそ、また故障だ!!」

「あと100mmは残り何個だ、ヤザン!?」

 

 武器交換の隙を狙ってきたジオンのザクを鹵獲品であるザク・マシンガン、それの 片手撃ちで威嚇をしながら、このヤザン隊の「嘱託」となっているギャリーは、機体を動かしながらヤザンにと尋ねた。

 

「何個かって!?」

「あと、最後の一つの!!」

「ヒートホークは!?」

「動かねえ、さすが模造品!!」

 

 慣れない、整備不良の機体で奮戦しているヤザン達を、カタリーナとダンケルのフライマンタがミサイルをもって支援する。

 

「ヤザン隊長!?」

「何だ、女!?」

「カタリーナです!!」

「どうした、カタリーナ!?」

「敵の数は少ないです!!」

「それだけかよ、くそ!!」

 

 そのカタリーナ軍曹が言った少ないというのは、おそらくモビルスーツだけの事であろう。まだまだ森林の中に垣間見れるジオンの戦闘車両は数多く。

 

 ボゥ!!

 

「く、くそ!!」

 

 どうやら、ジオンの一人乗り用ホバークラフトにより、脚部に吸着爆弾を取り付けられたギャリーのザクが大きくよろめく。そしてヤザンの得物である100mmが。

 

「ちくしょう、またジャム・アンクルだ!!」

「何だよ、ヤザン!?」

「手持ち火器が無くなっちまったって事だよ!!」

 

 弾丸の排出不良を起こし、苛立ったヤザンがその100mmマシンガンを、手近なジオン戦車に向かって投げ飛ばす。

 

「敵さん、様子はどうだ!?」

「引いてはくれるみたいですが……!!」

「ですが何だ、ラムサス!?」

「遠目に、ジオンの陸戦艇が見えます!!」

「ちくしょう!!」

 

 歩行が困難になったギャリーのザクを自身の肩にと抱えながら、ヤザンは。

 

「聴こえるか、戦車達!?」

「こちらエイガー、聞こえるぞ!!」

「燃料の続く限り、ジオンの勢力圏から引け!!」

「そのザクで何とかならなかったのか!?」

「すまねぇ、無理だ!!」

 

 そう怒鳴り散らしながら、武装無しのヤザン機は脚部ロケットを使い、どうにかジオンの増援から距離を置こうとする。

 

「撤退、撤退だラムサス達!!」

「了解だ、隊長!!」

 

 そのヤザンの叫び声は広域無線を伝い。

 

「ひたすら逃げろ、逃げるんだよ俺達エイガー隊は!!」

 

 そのエイガーと名乗った戦車乗りが所属する部隊にも、強く響く。

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