「本当に模擬弾なんだろうな、アアン?」
複数の61式から放たれる「模擬砲弾」を身軽に回避しながら、ヤザンはコクピットの中で。
「ふむ、ギャリーめ上手くやる」
隣で同じく、戦車からの砲弾をかわし続けているギャリー・ロジャースのザクの姿にとその目をやる。
「一ダースなら、安くなるっと……」
どこかで聞いたその言葉、それを口ずさみながら、ヤザンはまさにその「一ダース戦車」からの砲弾を、ただひたすら回避し続けた。
「ヤザン機、二発命中」
「なるほど、こんなもんか」
メイリー大尉のその声に答えながら、ヤザンは軽く疲労を感じ始めている。何しろ朝からずっとアグレッサー機、仮想敵の相手を演じ続けているのだ。
「明日には、空からのアグレッサーもやらなくてはならねぇ……」
「ギャリー機、六発命中」
「おいおい……」
そのギャリーの被弾レートに、ヤザンはザクのコクピット内で軽く苦笑する。
「腕が落ちたか、戦車の弾は直線的だぜ?」
「このザク、脚が完全に直っていないんだよ、ヤザン」
「だから、ザク・ライトアーマーという名まで付けられるほど、装甲を落として軽くしたか」
「実戦には、多分使わん事を祈りたいね」
確かに、もしも61式の戦車弾が実弾であれば、ギャリーのザクは蜂の巣になっていた事だろう。
「最後の仕上げよ、ヤザン少尉」
「へいよ、メイリー大尉」
そのメイリーからの言葉の後、一ダース戦車の指揮官がハッチから身を乗りだし、手旗信号を他の戦車にと送り。
ボゥ……!!
その原始的な知らせを受けた61式が、一斉に模擬弾をヤザン達へと浴びせる。
「61式の砲弾は、ザクのマシンガンよりも弾速が遅いと聴いていたが……」
とはいえ、ミノフスキー粒子散布下といえども、電子機器がマヒしたハイテク・システム戦車といえども、砲弾による弾幕は有効であることが。
「よし、撃ち方止め!!」
手旗信号を送り続ける、エイガー隊長の指揮の元、証明はされている。
――――――
「何か、ザニーとは違うみたいだな」
「ジム、それがこの機体の名前」
ラムサスがゆっくりとその歩を進ませるモビルスーツ、それを見上げながら、ヤザンは隣にと立つメイリーに機体の名を教えてもらう。
「もっとも、これが制式採用される事はないと思うけどね」
「見た感じ、悪くはねぇと思うが……」
「この先行量産型はコストが高くて、その上」
ヤザンとしては、その目前にとそびえ立つ、滑走路を踏みしめたジムとやらは、どこか武骨な感じがして気に入っているのだが、どうやら。
「陸上専用なのよ、これは」
「なるほど、な」
「地球での戦線を維持するために、急造されたモビルスーツよ」
「そうかい……」
タバコを吸いながらそう解説するメイリーによれば、そういう事らしい。
「先がねぇか」
「それでも、今は」
ドゥ……
ラムサスが慣らし操縦を終え、降りてきた後に。
「次は俺が乗りますよ、ラムサス先輩」
「壊すなよ、ダンケル」
次には待ってましたとばかりにダンケルがその「ジム」のコクピットへと乗り込む。
「宇宙では使えなくても、このようなモビルスーツが必要」
「そうだな……」
そう言いながら振り向いたヤザンの視線の先には、ザニーにと乗るカタリーナの姿がある。
「たしか、あのザニーは明日のアグレッサー試験で破壊される予定だったっけな、メイリー?」
「あなたのザクと同じくね」
「ヤレヤレ……」
正直、ヤザンにしてみればなかなかに愛着が湧いてきた「鹵獲機」なだけに、その上層部の決定には不満があるのだ。
――――――
「よーし、良いぞ!!」
「はい、ヤザン隊長!!」
陸戦型高機動ザクにと乗っていたカタリーナが、そのヤザンからの通信の言葉を受け、タラップを伝いながらそのザクから身軽に降りる。
「ダンケル、お前もザニーから降りな!!」
「解ってますって、隊長!!」
ヤザンのザクとザニーを標的とした「攻撃、爆撃機連携実証実験」は終わり、いよいよ。
「こいつで見納めか」
「そうですよ、ラムサスさん」
「言ってくれるね、カワイコちゃん……」
軽く汗をかいているカタリーナ、彼女にラムサスが「コナ」をかけるのは初めてではない。彼女がヤザン隊に入ってから、ずっとの事だ。
「イチャついてくれちゃってよ、ナア……」
「妬いているんですか、ヤザン?」
「メイリー、俺はいまそれどころじゃねえって……」
何しろ、しばらくの間付き合ってくれたザクを破壊されるのだ、その複雑な心理に加え。
「やはり、一ダースか……」
三機掛ける四の菱形の編成、どうやらそれが空軍が導きだした、飛行部隊による対モビルスーツ戦術なのだろう。
ギォ……!!
フライマンタが前列の九機、そして純粋なる爆撃機デプロッグ三機がその後ろにと付き。そのままザクとザニーに向けて。
「あばよ、ザク……」
絨毯爆撃を仕掛ける。その凄まじい爆撃の後には。
「まったく、見事に……」
「やられちゃいましたね、ヤザン隊長」
「全く、気に入らねぇな……」
苦笑しながらそのザクだった物を見やるヤザンの心境は、やはり複雑である。
「後は、これが机上の空論で無いことを祈るのみ……」
「よお、あんた……」
「あん?」
そのどこか軽薄な声に振り返ると、そこには一人の美青年が立っている。
「さっきまで、あんたの隣にいた美人は誰だい?」
「メイリーか、しらんな」
「それと」
フワゥとその男は髪をなびかせ、そのまま人差し指を。
「あの子は」
ラムサスの「口説き」をいなしている女パイロット、カタリーナにと向ける。
「カタリーナか?」
「可愛いね」
「口説くんなら」
無愛想な返事ではあるが、愛機が破壊されたばかりである。ヤザンの機嫌が悪いのは当然だ。
「俺に許可なんか求めんなよ……」
「レディキラーとして、ね」
「レディだかボディだか知らんが、今の俺に話しかけんな」
「ヒュウ……」
その空気を読めない男を尻目に、ヤザンは早足でこの場を去っていく。気晴らしにギャリーの顔でも拝もうと思ったのだ。