初恋とはほろ苦いものである。
誰が言ったんだかは知らないがだいぶ広まっている言葉だろう。
そんな誰でもする『初恋』。
確かに俺もほろ苦い終わり方をした。
いや、正確には終わっていない。
だってその終わりをはっきりとはまだ見ていないのだから。
まだ俺が5歳の頃。始業式はすぐそこまで近くに来ていた春休みの時。
祖父の家に遊びに行った俺は
その時の美羽姉は確か・・・制服を着ていた気がする。その理由までは覚えてない。
「みうねえみうねえ。なにそのカッコ」
「制服だよ。男の子と女の子の違いはあるけれど、純もいつか着るもの。ふふ、カッコイイでしょ?」
「うん、カッコイイ」
でも実際思ってたことは違うんだ、美羽姉。
思い出補正かかってるし、まだまだ子供だった俺だけど、美羽姉がキラキラして、綺麗に見えたんだ。
そんなマセガキの俺の、倫理観を手に入れた今の俺からすれば気持ち悪い初恋が始まったのはその日。
その4年後、美羽姉は俺から姿を消した。
「・・・イ。オイ!」
「━━━ッ」
誰かに呼び止められて我に返って振り返る。
そこには俺とは違い、綺麗に新品の制服を着ている少年がいた。
「大丈夫か、アンタ?ボケーとしながら歩いてたけど」
「あ、ああ、大丈夫」
あの言葉を数年ぶりに発して数十分。数人の入学試験を見た俺は入学式の舞台、講堂へと向かっていた。
その道中、道端で綺麗に咲いている桜を見て全ての始まりを思い出していた。あの日も今より少ないけど桜が咲いていたから。
その途中で彼に話しかけられたみたいだ。
「アンタ新入生だろ?俺もなんだよ」
「違うって言ったら?」
「今すぐ敬語に戻します!」
「いいよ戻さなくって。俺も新入生だから」
「なんだよ、ビックリさせんなよ・・・。俺は
「俺は
「もしかして名前漢字1文字か?あだ名つけられねぇじゃねぇかよ・・・。つまんね〜」
「心から信頼している親が名付けてくれたこの名前になんてことを」
「悪い、悪かった姫っち」
「姫っちはやめてくれ。俺は女じゃないんだ」
「えーと、じゃあ・・・」
「素直に姫矢か純でいいんじゃ。小中ずっとそうだったし」
「仕方ねぇかぁ。んじゃよろしくな純!」
「ああ、よろしくな龍也」
龍也にはあだ名を付けたがる癖があるらしい。覚えておこう。
「しっかしいい学園だよな、ここは。さっきの試験に合格するだけで入学決定だもんな」
「失格だったら受験のやり直しで浪人が怖いけどな」
「た、確かに!どうしてそこに気付いたんだ純!」
考えてなかったのか・・・。出会ってからの言動を見て、能天気というかなんというか。・・・バカ?
いや、早速できた高校生活初の友達だ。悪くいうのはやめよう。
「あとは・・・確か学校にいるのに何故かお金が支給されるとか」
「パンフレットに書いてあったな。完全寮制で入学金等は一切無し」
「クラスは1クラスしかないとはいえようやるよ。確か中高大一貫校じゃなかったか?」
「ああ。中等部から存在するな」
「ちぇっ、だったら中学からここにすりゃあよかったぜ」
「確かにいい事づくめ・・・ではないか」
「ん?なんか言ったかぁ?」
「いや、別に」
タダより怖いものはない。昔からそんな言葉がある。誰が言ったんだっけな。忘れた。というか少し間違えてる気がするけどまぁいいか。
これだけいい事づくめだと何か裏があるとしか思えない。それに、入学試験のことだ。
この俺たちがいる
この薬物を注入されることによって通常の人より身体能力の上昇及び、もう一つの力を手にする。
つまり俺たちは既に人ではない。改造人間と言われてもおかしくない存在になっている。
ちなみに適合しない場合はあっても死ぬケースは1度たりともないらしい。
・・・そこまでの道のりは果てしなく怪しいが。
それに上記した校風。
ここの存在を知ってから思っていたが明らかに普通じゃない。
今から始まる入学式。そこでも何かあるに違いない。
「━━━純?」
「っと。どうした?」
「まーた考え事か?頭ぐちゃぐちゃしてる奴だなぁ」
君は能天気過ぎる。
「確かに今日は少し呆けることが多いな」
「気をつけろよ?人にぶつかって大事故!なんてことにならないようにな〜」
「ああ、気をつけるよ」
「ところでさ。いきなりなんだけど。なんでそんなに制服着崩してるわけ?」
「本当にいきなりだな。・・・さっきから先輩らしき人達が通るんだけどだいぶ緩い校則からなのか制服のカスタマイズが多くて。新入生といえども着苦しくて」
「確かにネクタイしてない人とかいんな。観察眼いいな」
「それほどでも」
なんて言っていたら講堂に辿り着いた。中では60程の席が並べられていた。
・・・60席?
おかしい。保護者は入学式に参加不可(これも怪しい)。
確かパンフレットには1クラスと━━━。
「君」
また意識が戻された。
振り向くと眼鏡をかけた大男がそこにはいた。
「ここは入口です。そこに立っていると通行人の邪魔になります」
「いやぁ、すいません。コイツ今日ずっとこんな感じでして」
出会って10数分でそこまで言われる筋合いはないが。
「すみませんでした。確かに今日は呆けることが多くて」
「気をつけて下さい」
「わかりました」
それだけ言うと大男は席のその奥、ステージの横へと向かっていった。
「おお、怖い怖い。あんな大男の先生もいるんだな」
「大きいだけならまだいい気がするけどね」
「ん?なんか」
「言ってない」
君は難聴系主人公か。話しているのだからちゃんと聞いてほしい。
身体強化及び、特異な能力の付与。そんな生徒達を相手する先生達が普通の人だとは思えない。多分彼らも・・・
「なぁ、純。そろそろ座ろうぜ。確かに邪魔だし少し疲れたし」
「そうだな」
空いた席に座る。床は・・・いきなり開いて落ちる、というような感じではない。
席も普通のパイプ椅子。いかにもな入学式だ。
「式って何時からだっけ?」
「10時から。あと15分はある」
「なっが!おい、どうするよ」
「黙って席座って話してた方がいいと思うよ」
「なら仕方なし」
「・・・意外だな」
「よく言われる。案外潔いいのさ。それもそのはず。実は俺、小学生から剣道しててさ・・・」
そこから俺達は式が始まるまで話した。
高校生活初の友人との話は盛り上がり15分なんてあっという間だった。
式が始まる。始まってしまった。
話している途中で講堂が暗くなる。
小声で龍也が話しかけてくる。
「おっ、始まるのか。もっと話したかったぜ」
「入学式が終われば話せるさ」
「だな」
ステージが明るくなる。これ以上の私語は厳禁だ。
明るくなって壇上に現れたのはゴスロリ少女。
「・・・誰?」
「パンフレットに載っていただろう。彼女はこの学園の理事長だよ」
「あのロリっ子が?もしかして天才っ子?」
「そこまでは知らない」
再び私語を止める。解決しない疑問は後々解決する方が早い。
「はじめまして。昊陵学園 理事長、
九十九朔夜。理事長である彼女が何故俺の入学試験を見ていたのか。大体予想はつく。
そもそもこの学園に呼んだのは彼女であるし。
「挨拶はそこそこに。これより当学園の伝統、《資格の儀》を行いますわ」
案の定か。何かしからの追加試験はあるの予想はしていたが入学式早々。
「今よりあなた達は自らの入学を賭けて隣の者と戦っていただきます。勝利した者は入学。それ以外は早々と帰って頂きます」
講堂がざわつき始めた。それもそうだ。いきなり戦えと言われても。
けど、《黎明の星紋》を投与されてから、いや、投与される前から予想はできたはずだ。
身体能力の向上、及び特異な能力の付与。
それが意味することなんて、わかり切っていたはずなのに。
どいつもこいつも能天気過ぎる。
・・・いや、俺もだ。入学試験がここに来る予想なんていくらでもできたのに。龍也と後々話せるなどと。
と、1人のポニーテール少女が立ち上がった。
「負けたら入学できないなんて、あんまりじゃないですか!?それに・・・普通の試験ではいけないんですか!」
「あなた達は遠くない未来、戦いへと身を投じることになります。戦いとは誰が敵かわかりません。そう、隣の人かもしれませんよ?その相手を討つ覚悟がないのなら、今すぐお帰り下さい」
言い返せなくなったのか黙って座る。
代わるかのように隣の男子生徒が立ち上がった。
「相手を変えることはできませんか?」
「貴方は戦場で敵を選べると?」
「でも・・・」
男子生徒が俯く。甘い。俺達は入学したら絶対に━━━
「さぁ、戦いなさい!己の運命を勝ち取るため!魂の力、《
講堂が静まり返る。しかし、その時間は長くは続かない。
「《
ついに、誰かがその言葉を口にした。
そこからはもう静かな講堂ではなくなった 。
武器がぶつかり合う音。
悲鳴を上げて講堂から逃げる生徒。
何もかもが始まってしまった。
そんな講堂で端に座った俺の敵は一人しかいない。俺は黙って立ち上がる。そして、隣の唯一の友人に声をかける。
「龍也、君は」
「聞かないでくれ、純。覚悟が鈍る」
「・・・・・・」
「ぶっちゃけ何がなんだか俺にはさっぱりわからねぇ。なんで戦わなきゃいけねぇのか、その理由も理解できてねぇさ。でもな」
彼も立ち上がる。
「ここまで来た。ここまで来ちまったたんだ。なら、逃げたら
「・・・それが、君のここにいる理由」
「ああ。今までの弱い自分とお別れしてぇ。本当の
そして彼は胸に手をかざした。
「ウォォオオォォォオォォッ!《
その言葉と共に彼の胸から焔が顕れる。そしてその焔は彼のかざした手へと収まり、赤色のヒビのような模様の黒い刀へと変わった。
これが、己の魂を具現化し、武器とする。
《
それが《
「先手必勝だこの野郎ォォォォッ!」
龍也が刀を上段の構え突っ込んでくる。
バックステップでギリギリ回避する。その刃は床に当たり小さなクレーターを生み出していた。
いい破壊力。だが《
《
が、《
理由は不明。たぶんこれも魂同士ということが関係しているのだろう。
そんな事を考えながら床に刀を当ててしまい、隙ができた龍也に近付く。
「悪い、な!」
右のジャブを顔面に喰らわせる。また怯む龍也。
再び右のジャブ。
そして、3度目のジャブ。・・・が、さすがに受け止められた。
「捕まえたぜぇ・・・!」
「バカでしょ」
刀でガードすれば良かったのに。いや、拳に竹刀を合わせるなんて考え、ある訳が無いか。
とにかく。至近距離に長物は邪魔でしかない━━━!
左ストレートが龍也の顔にクリーンヒットする。
「カッ・・・」
「隙がぁ・・・多い!あと舌噛まないでくれよ!」
離された右手で揺らぐ龍也の顎を撃ち抜く。
倒れるいく龍也。悪いな、龍也・・・。
「そういうお前も・・・隙が多い・・・なぁ!」
突然、左胸に、魂の根源と言われる場所に《
間近にある龍也の顔が、血を流しながら不敵に笑っていた。
「身体強化で思ったより頑丈になってて助かったぜ」
引き抜かれる《
意識が黒く染められる。膝から崩れ落ち━━━
「てぇぇぇぇ・・・たまる、かァアアアァアアアァアアァッ!」
なんとか踏ん張る。絶対に耐えきる。
そして状況を把握する。
手加減は・・・した。してしまった。友人にこの拳を振るうのを躊躇ってしまっていた。
それに、普段の俺なら殴った腕はすぐに引っ込めるはずだ。なのにそれをしなかった。だから龍也に掴まれ、カウンターを喰らってしまった。
・・・覚悟を決めた、なんて。俺もまだまだ青い。
けど倒れなかった。それだけで十分。
「なんだよ・・・。口調柔らかでもの優しそうなのに根性あんじゃねぇか・・・」
「龍也こそ、タフが過ぎる・・・!」
なんて言い合ってても、互いに限界。根性で立ってるようなものだ。
「次の一撃で決まる。・・・ってやつかぁ。燃えるなぁ・・・!」
「萌える・・・じゃないのか?」
「男に萌えて、どうすんだ」
「・・・だな」
「その前に聞きてぇんだけどよ」
「・・・本当に唐突だな、君は」
「悪ぃな。疑問はさっさと解決しときてぇんだ。・・・なんでお前は《
「・・・諸事情だ」
「まさかお前出せねぇのか!?」
「出せるよ。出せなきゃここにいない」
「だよな。じゃあ言い難いし、出したくもないから、出さない?」
「ああ。別に手を抜いてる訳じゃない。どっちかと言えば
「なら、いい。・・・さぁ、決めようぜ」
「・・・ああ」
お互い、少し笑いながら構える。距離は・・・5mあればいい方だ。
確かに次の一撃で決まる。・・・でも、2発ぶち込むのには耐えれるはずだ。
龍也は中断の構え。
小手打ちか、面か、それとも突きか。
どれでも厄介だ。明らかにあっちの方がリーチがあり、有利。
それでも、俺は。負けられない。負けたら、俺は・・・!
龍也の右足が動く。
身体強化されたすり足は絶対に早い。
だから俺は龍也が動いた瞬間、足で床を
「なっ━━━」
ぶち抜いた床の破片が目隠しとなり盾になる。
そして俺は反動で宙に舞う。正確には後ろに飛んだ。
あんまり動かない戦いでよかった。それに端で助かった。おかげで壁が近い━━━!
壁を蹴り、龍也に突っ込む。
気付く龍也。
でもな、龍也。俺の勝手な予想だけど。
剣道は飛んだりしないよな。すり足で近付き、その竹刀を振るう。ある意味、2次元的な戦い。
つまり宙に浮いた人からの攻撃なんて予想してないはずなんだ。
拳を握る。できたばかりの友人を撃ち抜くために。勝つために。
「次元覇王流・・・」
龍也の顔が見えた。それでも負けないとすり足を無理矢理止め大振りに刀を振る。
それでも、俺は
「聖拳、突きィィィッ!」
友の胸を撃ち抜いた。それでは止めず、床に倒れさせる。
そして、クレーターが出来上がり、龍也はその中に半分埋まった。
友から拳を離す。勝った。勝てた。けど・・・
「・・・やり過ぎた」
最大出力じゃないといけないと思って俺の技で最高威力を持つ『次元覇王流 聖拳突き』を使ったけどここまでではなかった。
クレーター作って人を埋めるなんで技、俺は知らない。
それだけこの身体が強化されている・・・ということか。
・・・調節できるようになってから撃とう。
そう心に誓った。
しかしもう限界だ。まだ戦っている人もいるし(というかほとんど決着が着いてない。一番乗りではないにせよ、3、4番目ぐらいか)、邪魔にならないように壁に寄りかかってるか・・・。
壁に近付く。そこで俺ははしっこで縮こまって泣いている少女を見つけた。
1人余って逃げることも出来ずに縮こまっているのだろう。疲れた頭ではそんなテキトーな事しか考えられなかった。そんなはずは無いのに。
と、1人の男が《
瞬間、俺の脳裏にはあの日が浮かんで━━━。
疲れきったはずの身体が加速する。
「泣いてる女の子にぃ・・・」
加速した身体ごと突っ込むかのように頬に拳をめり込ませる。
「何やってんだァァァアアアァアアァッ!」
『次元覇王流 疾風突き』。破壊力はそこまで期待はできないものの。その突きの早さは牽制、及び中距離からの突撃に使われる。
吹き飛び、ステージ横の壁にめり込む男子生徒。
・・・またやっちゃったよ。調節できるようになってからって言ってるでしょうに。
あ、やば。本当に限界。
龍也に魂を刺された反動はやはり大きかった。《
そこで視線に気付く。
縮こまっている女子生徒は泣きながらも俺を見ていた。
「・・・あー、ごめん。君の相手倒しちゃって。たぶん合格ってことになると思うから・・・。まぁ、その合格おめでとう?じゃ、じゃあ!」
そう言って俺はダッシュで女子生徒から離れる。
とにかく早く休みたかった。
それに、なんだろう。この、どこかで感じた事のある感情は。
が、疲弊しきった俺の身体で考えれる訳がなく。
様々な戦場を掻い潜り、講堂の出入り口に辿り着いた俺は、その場で目を閉じてしまうのだった。
サブタイトルのルビと二字熟語に同様の意味はありませんので悪しからず