アブソリュート・デュオ -特異点-   作:九牙タイト

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第4話 進展(befriend?)

目が覚めると俺は美羽姉におんぶされていた。

「・・・美羽姉?」

「あ、起きたの?」

「うん・・・」

寝る前はバスに乗った気がする。確か、一緒に市民プールに行った覚えがある。きっと疲れて寝てしまったのだろう。

あの日、美羽姉はすごく優しかった。いや、いつも優しいんだけど。その日は特に優しかった。

夕日に照らされながら美羽姉の体温を感じる。

美羽姉喪失の一年前。最後の一緒にプールに行った日だ。

 

 

全員が驚いて俺を見ていた。

「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ・・・」

自分で言うのもなんだけど、今までで素手の組手ではほぼ負け無しの俺は息も切れ切れに、そこに膝をついていた。

授業開始から一週間。

俺もショックを受けている。

「なぁ、姫矢」

相手をしてくれた橘が声をかけてくる。

「な、何かな・・・」

「まさかとは思うが・・・」

「言わなくてもわかってるよ・・・」

今日発覚した驚愕の事実。

━━━剣術がめちゃくちゃ弱かったです。

 

 

授業を一通り終え、いつものように食堂で夕飯を口にする。

「いやぁ、まさか純が剣術苦手だったとは・・・」

「自分でもびっくりです・・・」

剣道の試合等を見た事がない訳では無い。

そうでなければ剣道をやっていた龍也に勝てなかった・・・と思う。

だとしても、剣術初心者も普通にいるクラスメイト全員に負けるとは・・・。

ええ、穂高さんにも負けましたよ。

そして何より月見先生に笑わられたのがなぁ。

「・・・剣術クソザコナメクジ」

「くっ・・・」

浅川にも言われてしまった。

というかこの無口貧乳口を開けば毒しかないのはなんなんだ。

「お前に言われたくないクソザコナメクジ」

そして考えを読むのもやめて欲しい。

「えっと、弓弦ちゃんはなんの話を・・・?」

「クソザコナメクジの話」

「俺のあだ名をクソザコナメクジで定着させようとするのはやめようか浅川さん・・・!」

「剣術クソザコ」

「剣術を付ければいいってもんじゃない」

「ナメクジを消した」

「そういうことじゃない!」

「まぁまぁ。剣を握ったことは?」

「覚えてる限りじゃないかな。たぶん今日が初めて」

「あれは慣れていない、ではなく長物での戦闘が理解できてない、と言った感じだな」

「あぁー、そんな感じかも。剣を握ったら距離感も掴みづらくなったし」

「拳法を主としてる姫矢ではそうかもしれない。だいたい零距離での戦いが多かっただろうし」

「まあね。剣術の中距離は牽制程度にしかならない距離だから」

「弓弦ちゃんは何を言ってるかわかる?」

「弓道しかしてないからわからない。ずるるる」

「そのラーメン何杯目・・・?」

「5杯目」

話の横で浅川めっちゃ食べてる・・・。なのに貧乳とか人体とはまだまだ謎が多い。

「剣術ヘタクソ」

「・・・一応俺には姫矢純という名前があるんだけど」

「《新刃戦(しんじんせん)》でぶっ潰す」

「「新人戦?」」

穂高さんと声が重なる。

「新しい刃の戦いで《新刃戦(しんじんせん)》。正式な《絆双刃(デュオ)》が決まったらやるって先輩に聞いた」

顔に手を当てため息をついてしまう。

この学校造語が多過ぎる・・・。たぶん理事長の趣味。

「純はこの学校は苦手なのですか?」

「だいぶ苦手です・・・」

厨二病患者がめちゃくちゃ来そうなこの学園本当に苦手です。

「そういう君たちは厨二病的ルビとか気にならないの?」

「いいや、別に」

「ナイ」

「特に気にしてない。ずるるるる」

ハートが強すぎる。ただ単に厨二病を理解してないだけかもしれないけど。というか7杯目に入るな浅川。

残りの二人はというと穂高さんはハテナ状態。橘は少し赤面してた。

「橘さん?」

「・・・やっぱりおかしいよな」

「うん、おかしいよ。なにもかも」

橘と握手する。まともな感性に感謝。

他の4人は俺達の会話が理解できてないっぽい。

知識があるのも困りものということか。

初めて無知に憧れた。

 

 

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

ちゃぶ台の上にお茶を置く。

俺も座ってお茶をすする。

「はぁ、休まる・・・」

「本当にいいお茶だね」

「爺ちゃんの時からあるお店の茶葉使ってるからね。確かそのお店、学校の近くのショッピングモールに入ってたよ」

「本当?お母さんに送ろうかなぁ」

「少し値は張るけどね」

「あんまり使いたくないけど一応学生証あるし・・・」

「ああ、あれね・・・」

自分としては生活必需品は揃えてあるから使う機会はない・・・と思う。食材も実家から月に一回送られて来ることになってるし。

後で返せと言われてもおかしくは無いので使いたくないのもあるのだが。

「ところで穂高さん、明日は走り込みらしいけど大丈夫なの?」

「運動は苦手かな・・・。勉強もそこまでできないし・・・。姫矢くんはどうなの?」

「勉強は平均。運動は得意、なはずなんだけどね・・・」

今日の訓練を思い出してしまった。運動が苦手な穂高さんに負ける俺・・・。

「ご、ごめんね嫌なこと思い出させて」

「いや、俺が弱いのが悪いんです・・・」

自業自得ってやつだ。はぁ・・・。

「きょ、今日はもう寝よう?多分明日の方がもっと疲れるだろうし」

「・・・うん」

お茶を飲み干す。

いつも感じる苦味が薄く感じた。

 

 

翌朝。疲れは抜ききっていたのだけれど授業も走り込みということで今日の朝練はやめておいた。

剣の動きでも練習しようかと思った時もあったものの、相手がいないと練習にならない、ということでそれもやめにした。

「・・・やることがない」

ベッドの上で嘆く。

二度寝は・・・したら寝坊しそうだ。

仕方なく制服とパーカーを持って洗面所に入る。

唯一作ったルールとして着替えは洗面所で鍵を閉める。

あとのルールは特に必要なかったので作ってない。

顔を洗い、寝癖を直し、制服に着替える。

洗面所を出て時計を見てもあと2時間半はあった。

ゲームはやらない訳では無いが気分ではなく、テレビをつけた場合穂高さんが起きる可能性がある。

持ってきている本はほとんど読み終えてるし。

・・・本当にやることが無い。

やっぱり二度寝すればよかったかなぁ。

スマホを見る。

待受は小さい頃の照れている俺と、制服を着た笑顔の美羽姉。

この待受を見られる度に両親や中学の時の友人に変えろと言われ続けて、一度たりとも変えることのなかったこの待受を眺める。

なぁ、美羽姉。なんで美羽姉はこの学園と関係があるんだ?

何故俺の前から消えたの?

待受を見る度にその疑問を投げかける。

もちろん答えは帰ってこない。

考えようにも情報なんてほとんどない。

それでも待受を眺め続ける。

「ううん・・・」

声が聞こえてすぐに画面を消した。

「あれ・・・?姫矢くん今日は帰ってくるの早いね・・・」

「今日は朝練をしてないからね。おはよう、穂高さん」

「うん、姫矢くんもおはよう」

起きた穂高さんが背伸びする。

今日も長い一日が始まりそうだ。

 

 

午前中の通常授業はあっという間に過ぎ、昼食を食べ、体操着に着替えて校庭に集まっていた。

それぞれが念入りにストレッチや準備運動をしている。

俺はいつも通り簡易版ラジオ体操を始める。

「姫矢くん」

「ん?なにかな」

体操中、穂高さんに話しかけられ運動を止める。

「なんでいつもラジオ体操をしてるの?」

「よくは知らないんだけど学校で習うストレッチの方が固くなって怪我しやすくなるんだって」

「初めて聞いたかも・・・」

「俺もよく原理はわからないけどそうらしいよ。ラジオ体操の方が体暖まるしね」

「私もこれからラジオ体操にしようかな」

「いいんじゃないかな。うろ覚えといえども体を動かすことには変わりないし」

二人でラジオ体操を始める。

・・・うん、だいぶ暖まった。これなら大丈夫かな。

「・・・よし」

体の調子も平均的。疲れも残ってない。行ける。

「穂高さんは大丈夫そう?」

「どうだろ・・・。体を動かすのは苦手だから」

そう言って穂高さんは苦笑した。

 

 

さすがに一週間走り続けていたので、この学園での長距離走も身に染みてきた。

「このスピードでも息切れが少なくなってきたな・・・」

次からは少し速度を上げてもよさそうだ。

「おぉー《特異点(エスペシャリー)》君は早いねぇ。体力があって偉い偉い」

・・・月見に話しかけられてしまった。ほとんど二人きりみたいな状況だし仕方ないか・・・。

「・・・だからそのエスペシャリーって呼び方直して頂けませんか?」

「《特異点(エスペシャリー)》君の心の中でも璃兎先生って呼ぶようになるまでは呼ぶ☆ZO」

「先生は読心術でも持ってるんですか?」

「君がわかりやすいだけだよ」

そんなにポーカーフェイスが苦手とは思わないのだが。

・・・いや、これも何かしらへの揺さぶりかもしれない。

無視した方が身のためか。

「無視は酷いなぁ」

「そのエスペシャリー呼びが続くなら返事しない方がいいじゃないですか」

「やめておいた方がいいよ〜」

「どうしてです?」

純粋に疑問に思って素で返してしまう。

と、月見が俺の耳に近付き━━━

 

「私が君より確実に強いから」

 

入学式の時と同じ空気を味わい鳥肌が立つ。

顔は見えない。一体どんな表情をしているのだろうか。

身構えようとするも、構えようとした右腕を抑えられた。

「ね?君より強いでしょ?」

やっと見えた表情はいつもの月見だった。

やはり、この学園の教師は普通じゃない。おそらく俺達と同じ・・・

「それ以上踏み込んだらダメだぞ☆まだまだ秘密なんだから」

やっと月見が離れた。同時にバックステップで距離を取る。

「あらら、嫌われちゃった」

「自分で言っておいて、何を」

「そんなに怯える必要ないのにぃ。可愛いなぁ」

貴女は全く可愛くない。

本当に、確実に俺より強い。

精神面でも、戦闘面でも。

「璃兎せんせー!ひめやんもなにしてんのー?」

走り終えた女子生徒の一人が遠くから声をかけてくる。

「なーんにも」

本当に何事もなかったかのようにそう答える月見。

「それじゃ、続きは《新刃戦》でね、《特異点(エスペシャリー)》君。あ、あと」

女子生徒の方に向かおうとしていた足を止める。

「・・・まだ何か」

「仮とはいえ《絆双刃(デュオ)》だからね。ちゃんと相手を見てるんだよ」

「何のはな━━━」

「双葉ちゃんが呼んでるから、まったねー!」

そう言って今度こそ月見は女子生徒の方へと走っていった。

「どういう意味だ・・・?」

ちゃんとデュオを見ろ?意味がわからない。

「またいつもの戯言か?」

だが、確実に俺よりこの学園に詳しい人物だ。胸に留めておいてもいいかもしれない。

 

 

「・・・遅いな」

「・・・遅いね」

「・・・遅い」

時は夕暮れ。他の皆は走り終えて寮に戻っていた。

そんな中、校庭で穂高さんを待つ橘、俺、浅川(なにやらむしゃむしゃ食べてる)。

走り終えたからと言って寮に戻っていい訳ではなく、デュオが帰ってきてやっと寮に戻れる。

月見は帰った。あの適当講師は・・・。

一応、戻ってきた生徒たちに安否を確認したのだが、頑張って走っているらしい。

なので俺達も頑張ってほしい、なんてエゴの為に待っている訳だが・・・。

「そろそろまずいと思うぞ。様子を見に行ったらどうだ?」

「ああ、そろそろそうするべきだと思ってたよ」

さすがに遅すぎる。運動が苦手と言ってもちゃんと帰ってはきていたのだ。

「俺は穂高さんを探すから先に戻ってていいから」

「わかった帰る」

「弓弦!少しは躊躇え!」

橘と浅川のやり取りを背中に余っていた体力を使い始める。

穂高さんの捜索は意外と早く終わりを告げた。

しかし、トラックの上で倒れていた。

すぐに駆け寄り手首に触れる。脈はある。

「穂高さん、穂高さん!」

体を揺すりながら呼びかける。

「ぅ・・・ん・・・」

反応がある。が、危機はまだ脱していない。

穂高さんを仰向けにし、呼吸をしやすくする。

たぶん熱中症でこうなってると思うのだが・・・。

「姫矢・・・くん・・・?」

「穂高さん、俺の声が聞こえる?今から日陰の方に連れてくからね」

穂高さんを背負い、大きな木の根元まで運ぶ。

「私・・・倒れちゃったの・・・?」

「うん。よかった、意思があるようで。水分補給はできる?」

「ありがとう・・・」

穂高さんは俺の手からスポーツドリンクを受け取り、少しずつ体内に収めていく。

「給水はできる・・・か。どう?少し休んだら歩けそう?」

「どうだろ、自信ない、かな」

返事がしっかりしてきた。意識はだいぶ戻ったようだ。

が、体に力が入らないという感じか。

「わかったよ。おぶっていくから、しっかり捕まっててね」

「ちょっと待って!わ、私、その重いし迷惑だと思うから・・・」

あー、こういうとこ女子だなぁと思いながら穂高さんの目を見る。

少し逸らされたが関係ない。

「穂高さん、敢えてキツく言わせてもらうよ」

少し息を吸って、また口を開く。

女の子にこういうことを言うのは気が引けたからだ。でも言わなきゃならない。

「このままの方が迷惑だから」

ショックを受けて声が詰まる。

でも事実だ。ここに居続けても俺以外の人に迷惑がかかるだけ。なら、俺一人で迷惑がかかる今のうちに解決した方がいい。

「じゃあ失礼して」

動きが止まった穂高さんをおんぶする。背中の感触はできる限りシャットダウンして。

・・・さすがに少し強く言いすぎたか。ちょっとだけ場を和ませるつもりで、罪の意識を減らしてもらうためにもう一つ事実を言う。

「あと、一つ言わせてもらうと身体強化されてるから重くない」

「あ・・・」

どうやら忘れてたようだ。

全く重さを感じない訳じゃないけど、背負えないという程じゃあない。

というか穂高さんのスタイルなら絶対に背負えないってことはないと思うけど。

「ご、ごめんね、迷惑かけて」

「いや、別に。仮とはいえ、デュオなんてやつだしたぶんこのぐらい普通だよ」

「それでも・・・」

ああ、仮にもデュオなんだからって意味少しわかった。

俺達は会話はしてるけど、ちゃんと相手を見てない。

俺達は、ちゃんとお互いの人格を理解していない。

少しでも理解していれば、今日の事だって防げたはず。

そういうことなら、やることは一つ。

「穂高さん、好きな食べ物は?俺はチヂミとか韓国料理が好き」

「え?えっと、その、どういうこと?」

「さっきどっかの誰かさんに言われたんだ。仮とはいえデュオなんだからちゃんと仲良くしなよ的なことを。確かに俺達は会話したりはするけどもお互いの好きな食べ物すら知らない。お互いのことを少しでも理解していればこんな事件起きなかったかもしれない、ってこと。どう?」

「確かにそうかも・・・」

「それに、正式なデュオにならなくても3年は関係が続くんだ。なら友達ぐらいにはなっとかないと」

「友達になってくれるの?」

「まぁね」

「そっか・・・」

言葉が途切れた。たぶん何を言おうか迷っているのだと思う。

「ねぇ、姫矢くん」

「ん?なんだい」

「友達になるんだったら、その・・・名前で呼んで欲しい、かな」

「・・・?」

何を言われたのかわからない。穂高さんを名前で呼ぶ?

・・・ああ。そういうことね。友達だから名前呼びは普通だよね。うん。

「べ、別にいいけど?」

・・・なぜ声が震えてるんですか、俺。

「ほ・・・。ごほん。・・・み、みやび・・・さん」

かしこまってしまった。友達になろうとしてる人の名前呼ぼうとしてるだけですよね俺。

今理解した。これが異性を名前で呼ぶ緊張か。

今まで異性を名前で呼んでも大丈夫だろうと思ってたけどいやはやここまで緊張するとは。

ハートが弱い。

「「・・・・・・」」

変な空気になってしまった。顔は見えないがたぶん赤くなってる。

「じゅ・・・」

耳元で何か聞こえた。なんだろう。

「ん?」

「純、くん」

今度ははっきりと、俺の名前を口にした。

心臓が大きく跳ねた・・・気がする。

名前を呼ばれるってここまでドキドキするものだったか?

「な、なに、かな?」

ダメだ。声が震えて真っ当な返事ができない。

しかも顔が熱い。今4月だよな?8月並の熱さを感じる。

再びほ・・・みやびさんの口が動く気配がした。

不整脈なんじゃないかと思う動きをする心臓を無理矢理無視して、耳を傾ける。

「友達として、私の話を聞いてくれる?」

「・・・いいよ、話して」

「純くんは夢ってある?」

「・・・いいや、ないよ」

「私も、ないんだ」

「それはそうじゃない?高校生で夢を持ってる人もいるだろうけど、少ないと思うけど」

それに俺は夢を見つける前にやらなきゃいけない事がある。夢を探してる場合じゃない。

「でも私は焦っちゃうんだ。昔はね、ちゃんと夢があったんだ」

「へぇ。どんな夢?」

「私の家は旅館なんだけど、その旅館の女将さんになりたかったんだ」

ここは黙る。まだ続きがあることが何となくわかったから。

「でも、次の跡取りにはお姉ちゃんがいるの」

「・・・お姉さんがいたのか」

「うん。お姉ちゃんは後を継ぐ気で」

「でも、女将さんになれなくても旅館で働くことはできるんじゃ」

「そうなんだけど・・・。でも、なんて言うんだろう。お姉ちゃんと一緒に働きたい気持ちもあるんだ」

「けど、一緒に働いたら働いたで、嫉妬して働くことができなくなりそう、か・・・」

「うん。だから離れてみることにしたんだ。それに私、弱いから」

「それはどういう?」

「一週間隣で見てきたからわかると思うけど、勉強はできないし、運動も苦手で・・・。尚更夢に迷っちゃって。でもこの学園で強くなれたら何か夢が見つかるかもしれないって」

「なるほどねぇ・・・」

強くなりたい、か。

「俺も強くなりたいってのは同感かな」

「え?でも純くんはすでに強いと思うよ?」

「いーや、まだまだ。昨日だってみんなに剣術で負けてる。強いと言っても、たった一部分だけさ。勉強だって赤点は取らないけど優秀って程じゃあないレベルさ」

「それでも私よりは・・・」

「みやびさん。強くなりたいならまずはそこを直さないと」

「そこ・・・?」

「自分を卑下するところ。確かに誰だって苦手がある。俺が剣術ができないようにね?でも、苦手を乗り越えられない訳じゃない」

一拍置いて

「昔俺はカボチャが苦手だったんだ。幼少期にお婆ちゃんに『カボチャが好き』って言ったら山程食わされてね。で、嫌いになっちゃった。でも今はカボチャを食べれる。そう、まったく解決しない訳じゃないんだ」

「あっ・・・」

「そう、卑下すると自分ができないって気持ちになる。だからできる限り前向きになるんだ。苦手なものは少しずつ得意になれまでとは言わない。得意にはならなくてもできることにはできるはずなんだ。ピーマンが苦手な子供が食べれるようになるように、ね。

『努力は必ず報われる』なんてセリフもあるぐらいだしね。誰が言ったのかまでは知らないけど。またキツく言うことになるけど、みやびさんは自分を諦めて努力することを忘れてるだけなんだ。

俺だって体力は普通だった。でも毎日走って体力を付けてきた。喧嘩だって弱かった。でも師匠と鍛錬を積んでここまで強くなれた。人間、できないことは基本的にないんだよ。まぁ、俺の勝手な持論だけどね」

「できないことは、ない・・・」

「そっ。あ、でももう一つ。上げて落とすことになるけどこれも必要。『努力すれば天才にも勝てる』って言葉あるよね。あれ嘘だから」

「えっ」

「確かに勝てることもあるかもしれない。でも基本的には勝てない、って思った方がいい。確実に差があるから」

「それはどういうこと?」

「この学園に入ることになったからもう関係なくなったけど、高校入試あったでしょ?その模試でできるだけ上に行こうなんて考えたんだ。そこから猛勉強。で、模試を4回受けたんだけども、100位が関の山。いくら猛勉強したところでそれ以上上には行けなかった。努力が足りなかっただけかもしれないけど、天才達には勝てないって悟ったよ。だから俺は天才に勝とうとは思わなくなった」

「じゃあどうやって上を目指すの?」

「俺の場合は簡単といえば簡単。昨日の自分を超えること。これに関しては筋トレに例えようか。腕立てが10回までできます。でもそれ以上はキツいと思ってます」

「うん」

「その、限界を超えるんだ。今日は10回でも繰り返せば10回もいつの間にか楽になるはず。そしたら次は11回に挑戦するんだ」

「焦らなくていいっていうこと?」

「そういうこと。いきなりやってもダメなんだから自分が出来ることをまず染み込ませる。染み込んだなら次のステージに。テスト勉強だっていきなり教科書の単語全部叩き込んでも出来るわけない。意味も知らないといけないしね。反復練習だよ。習ってからテストまで期間があるのもそういうことだしね」

「・・・そっか。私焦り過ぎてたんだ」

「そうだね。いつも長距離走をリタイアしないことはすごい事だけど、限界だと思ったらちゃんと止めなきゃ。もしかしたら明日が無くなるかもしれないからね。

さてと。長々と話しちゃったけどもう大丈夫そう?」

「うん。少し楽になったかな」

「それはよかった。まだ俺達は高校生。今の医療的にもあと60年以上生きることになるんだ。だから大学含めて七年使って見つけ出せるはず。その頃には今よりもっと長く走れるかもしれないしね」

「そうだね。だから決めた。私も毎朝走る」

「いいね。付き合うよ」

「ありがとう、純くん」

「仮とはいえデュオ、だからね。ところでそろそろ歩けたりしない?このまま寮に戻るのはやばい気がするんだけど」

「え?あ、ああ・・・!」

顔が真っ赤になっていく。

「ご、こめんね、もう大丈夫だから!降りるから!」

「いやそんなに謝られると逆に困るんだけど・・・。とりあえず降ろすよ?」

みやびさんの足が地面に着く。

本当にもう大丈夫そうだ。

「さーて。そろそろ夕飯だし早く寮に戻って着替えないと」

「うん、そうだね。ねぇ、純くん」

「どうしたの、みやびさん」

「呼び捨てでいいからね」

「・・・なにゆえ」

「だ、だって純くん男の子を名前で呼ぶ時はいつも呼び捨てにしてるから・・・」

それは彼らが呼び捨てを許可してるだけなんだけど・・・。

今のみやびさんに言っても無駄そうだ。

「・・・みやび」

「う、うん・・・」

・・・・・・。

時計塔が鳴った。食堂が開いたのだ。

「あ、食堂が開いたみたいだし早く寮に戻って着替えないと!行こう!」

「そ、そうだね!」

最後の最後で謎テンションになってしまった。

結局、寮に戻って着替え、食堂で橘に声をかけられるまで俺達は無言だった。

 

 

夕食後。純の後にシャワーを浴び始めたみやびは自分の心臓が大きく動いていることを自覚し続けていた。

男の人の名前を呼び始めたこと、男の子に名前で呼ばれるようになったこと。

それに、励ましの言葉まで貰ってしまった。

(大きい、背中だったなぁ・・・)

細身ながら筋肉が着いている体も忘れられなかった。

(な、何を考えてるの!?)

首を振って忘れようとする。

でもおぶられながら間近で見た純の顔を思い出し、顔が熱くなる。

(純くんは友達、純くんは友達・・・!)

そう思い続けても純の顔は離れず、心臓の大きくなった動きも治まらず。

みやびはその日、最後まで悶々とした気持ちでいるのだった。

 

 

Next episode『この場所に誓う』

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