朝4時半。俺は洗面所の前で立ち尽くしていた。
「閉まってる・・・」
鍵が締まっていた。確かに一段目のベットを見るとほた・・・みやびがいない。
昨日決めた朝練を本当にするらしい。
「まぁ、やる気を出すことはいいことか・・・」
本人がやると言ったことに口出しはよくない。せっかく前向きになっているのにそれを否定することになるからだ。
洗面所の戸が開いた。
「おはよう、純くん」
「ああ、おはようほた・・・みやび」
ううん。まだ名前呼びに慣れない。昨日の今日なので仕方ないといえば仕方ないのだが。
「今日は早いね」
「うん。私も走り込みを始めようと思って」
「それはいいことだ。よし。今日から専属コーチになろう」
「よろしくお願いします。でもその前に着替えないと」
「そうだね。少し待ってて」
洗面所に入り鍵を締める。
今日から距離が短くなりそうだけどそこは何かで補うとして。
「よし」
今日も一日気合を入れて頑張ろう。
朝練は早めに切り上げた。
昨日の今日だし、いきなり長距離を走ったところで無駄に負担がかかるだけ。
それにシャワーの時間等を考えた結果だ。
少し物足りないが、それは今日の訓練で発散しよ。
お互い軽くシャワーを浴び、制服に着替え食堂へと向かう。
いつもの席にはいつものメンバー。
・・・だけじゃなく虎崎とそのデュオであるタツがいた。
「珍しいね。虎崎君達がこっちに来るなんて」
「いつもの席が空いてなかっただけだ」
「ふーん。あ、おはよう、橘さんと浅川さん」
「ああ、おはよう。今日もよく食べるな」
「浅川さんほどじゃないけどね」
「そう、少ない」
「弓弦ちゃん、今日は何杯目?」
「5杯目」
相も変わらずよく食べますねこの人。背ちっさいけど。
「おい《
「その呼び方やめて欲しいんだけど」
「例え思考だけだろうと低身長と胸はいじるなわかったな」
「はいはい」
テキトーに流す。頭の中ぐらい自由に発言させて欲しい。
俺の隣に肉が置かれた。これだけでだいたい判別はつく。
「おはよう透流。今日もバランスよく食べるべきだと思うよ」
「おはよう。いいんだよ。育ち盛りなんだから肉だけ食えば」
よくないから言ってる。
「おはようユリエちゃん」
「ヤー。みやびもおはようございます」
「・・・・・・」
橘がみやびを見ながら透流の皿に野菜を乗せていた。
「どうしたのさ」
「みやびが少し明るくなった気がして。昨日何かあったのか?」
「まぁね。友人として少し人生相談に付き合っただけだよ」
そう言いながら野菜炒めを口にする。うん、美味しい。
隣では俺の肉がーとか聞こえるけど毎日のことなので無視。いい加減肉だけ食べるのは許されないと理解できないのだろうか。
「理解のない男」
・・・浅川と思考が一致したことが何か悔しい。
「うるさいぞ透流」
「だったら頼むよトラ。この野菜の山減らすの手伝ってくれよ」
「断る。自業自得だ」
是非もなし。
そこからはゆったーりした時間を過ごした。
剣術では相変わらず負け続け、体術ではほぼ負け無しだったり。
朝食も夕食も透流の皿に野菜が盛られたし。
朝に走り続けて、少しずつ走りなれてきたみやびもいた。
勉強に関しては小テストで真ん中の成績だったり(本当に真ん中でびっくりしたのだが)。
英語の小テストで赤点を取った透流に補習の前の勉強会を開いたり。つーかこいつは戦闘の事しかできないのか。
その勉強会はほとんど透流と橘の漫才で終わったし。
そんな中相変わらず正体が掴みきれない月見に翻弄されたり。
目まぐるしく・・・までは行かないけどそれでも俺達は高校生活を満喫していた。
そして遂に、正式なデュオが明日決まろうとしていた。
「はいどうぞ」
「ありがとう」
いつも通り夕食から戻ってきてシャワーを浴びた俺達は暖かいお茶を飲んでいた。
「これも今日が最後かぁ」
「明日正式な《
「俺は・・・誰でもいいから申請しない」
誰がパートナーでもやれる自信はついた。それに誰が言ったのかは覚えてないけど『残り物には福がある』なんて言葉もあるし。大丈夫だろう。
「そういうみやびは誰に申し込む気なんだ?」
「私は巴ちゃんか弓弦ちゃん、ユリエちゃんに申し込もうかなって」
「まぁ妥当だよな・・・」
透流は虎崎と組むと言っていたし。ということは俺はタツと組むことになりそうだ。
筋肉語完全に理解できるかな・・・。そこが不安になってきた・・・。というか何故月見は筋肉だけで言葉を一切発さないタツを理解できるんだ。
「じゃあ今日で解散だな。でも体力作りのコーチは続けるよ。どうせこっちも毎日走り込みするしね」
「本当?じゃあお願いしようかな」
みやびが笑う。
その笑顔を見て、このままデュオを申し込んでいいのではないかという考えが出てくる。
けど、そこで胸騒ぎが起きる。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
そう断ってトイレに入る。
同時に吐き気が押し寄せてくる。
「くっ・・・」
歯を食いしばってそれを抑える。吐いてしまったら、みやびに心配をかける。
最近いつもこうだった。みやびと一緒にいたいと考える度に起きる。確か・・・3週間前、みやびに人生相談を受けた後ぐらいから。
最初はまったくわからなかった。けど最近理解してきた。
俺は俺に嫌悪感を抱いている。
お前が叶えたい願いはそこじゃないと。お前が幸せになっていい訳が無いと。
それに何より。
みやびと一緒になり続けたらお前は美羽姉を忘れるんじゃないのか?
「こんなんで、みやびに申し込める訳ないよな・・・」
俺が誰でもいいと言った一番の理由。
それにきっと、美羽姉への真実に近付く度にみやびを傷付けてしまうかもしれないという恐怖もあった。
だから、これでいい。これでいいはずなのだ。
なのに。
本当に人間は厄介だ。
それでもみやびと一緒にいたいなんて思ってしまうのだから。
全ての授業を終え、それぞれがデュオの申請しに向かっていった。
俺は誰に申し込む気もなくて、屋上へと足を運んだ。
屋上は静かだった。
けど、人の気配が一つ。
「君一年生?」
「・・・そうですけど」
屋上の更に上の場所にその人はいた。制服を着ていたが違和感があった。
「そうかそうか。僕は二年の
「一年、姫矢です」
「おー、君か最近《
「その呼び方やめてもらっていいですか。自分はそんな二つ名を望んでないんで」
「おっと、それは悪かった。しかし姫矢君。君は悩んでるね。話にのるよ?」
「別に悩んでないです」
「そうかい?僕には悩んで見えるが」
「気のせいです」
「言い切るね」
「悩んでませんからね」
「・・・なら、それでいい」
「ところで一ついいですか」
「なにかな?」
「その姿で八神はないでしょう。それに演技がヘタクソですね」
金髪に蒼碧。日本人だとしても外国味が強過ぎる。
「アンタは一体誰だ?」
「・・・バレては仕方がありません。確かに私はこの学園の生徒ではない」
拳を握る。いつでも放つ準備はできている。
「そうですね・・・。Kとだけ名乗っておきましょうか」
「K・・・?」
「今日はただの視察です。それでは」
瞬間、周りが煙に包まれる。
「ちぃ━━━!」
回し蹴りで纒わり付く煙を吹き飛ばす。が、Kと名乗った男は既にいなかった。
教師陣に報告すべきかと思ったが騒ぎが起こってない辺り、監視カメラ等に映らないよう行動してるはず。
戯言と取られて終わるだろう。
「俺もまだまだ子供ってわけだ」
証拠という証拠もないし、諦めてここで風景を眺めてた方が時間の有効活用というものだ。
本当にこの学校はモダンというかなんというか、風勢がある。
一番目立つ時計塔からの景色はどんなものなのだろう。
風が吹く。なかなかに気持ちがいい。
朝日に照らされてこんないい風に揺られては寝てしまいそうだ。
・・・いや、寝てもいいか。
どうせパートナーが決まらなかった人と組むのだ。別にここに居続けても問題はない。
「はいおやすみー」
壁によりかかり瞼を閉じる。
やはりいい風が吹いていた。
声が聞こえる。俺を呼んでるような・・・。
目を開ける。
「姫矢、起きたか」
「・・・橘?」
何故橘がここに・・・。浅川も・・・。
「姫矢はみやびを見てないか?」
「見てない・・・。ずっとここで寝てたし・・・」
「授業が終わってから?」
「終わってから。それでみやびがどうしたって・・・」
聞くと二人とも怪訝な顔をする。なんで・・・。
「口調が違う気がするんだが・・・寝惚けてるのか?」
「あと穂高みやびを名前呼びしてる」
なんの話だ・・・。いいから本題を・・・。
「・・・まあいい。授業を終えて姫矢が教室を出た後にみやびも教室を出たのだがそれ以降一切見ていない。姫矢は居場所を知らないか?」
「いや、何も知らないが・・・。透流達には聞いたのか・・・?」
「虎崎とタツには聞いた。しかし九重はユリエの所に行ったらしい」
「へー・・・」
透流はシグトゥーナの所に行ったのか。この二人がデュオになったってことはきっと透流は・・・。
「・・・ん?」
急速に目が覚めていく。
「姫矢?完全に起きたのか?」
「情報を整理したい。透流はいつ頃シグトゥーナの所に向かった?」
「だいたい30分前ぐらいか?」
「実はユリエ・シグトゥーナに《
「それで申請しに行ったところで九重と虎崎に会って・・・」
「私達が組むことを話したら走っていった」
「虎崎は少し凹んでいたな・・・」
「そこはどうでもいい。つまり透流はシグトゥーナと組むことになったと考えていいんだな?」
「あ、ああ」
「あれはそういうことでしょ」
ポケットからハイ○ュウを取り出して噛み始める浅川。
つまり虎崎かタツがみやびと組む・・・?
その考えが頭をよぎった瞬間俺の体は動いていた。
「どこに行く気だ姫矢!?」
「みやびを探しに行くんだよ!虎崎にはタツと組んでくれって言っておいてくれ!本当にすまないって!」
そう吐き捨て、階段を駆け下りる。
俺はまだみやびの事をあまり知らない。誕生日と好きな食べ物、夢がないことを聞いただけだ。
だから居場所もわからない。
けど問題はそこじゃない。
最低だとはわかっている。でも、他の男がみやびと組むことが嫌だ。
こんなのただのワガママだ。エゴ丸出しの俺の勝手な願いだ。
例え申し込んでも、断られる可能性なんて大いにありえる。
でも動かなければ申し込むことすらできない。
どこだ?どこにいる?
予想なんて全くつかない。本当にどこにいる?
一人になれる場所・・・。時計塔か?
時計塔の階段を駆け上がる。
が、展望台の階には誰もいない。
「はぁ・・・。はぁ・・・」
時計塔から降りると息が上がっていた。
探しながらの全力疾走に、この敷地で一番高い建物を上がり下りして、息が上がらない訳がない。
でも関係ない。見つけなければいけない。
他の建物の屋上も見る。無人だった。
誰だよ水分補給が大事だとか言ったやつは。
そんなこと無視をして走り続ける。
もう完全に意地で脚を動かしていた。
穂高みやびは、寮の自室にいた。
電気も着けず、部屋の隅で体育座りになっていた。
橘巴と浅川弓弦が《
だとすると聞いていた限りではユリエ・シグトゥーナと組むしかなかった。
だが、勇気を持って申し込むことができず、今日になってしまった。
そして今日、ついに勇気を持って申し込むことにしたのだが、時計塔で九重透流がユリエに申し込んでいるところを目撃。
それからずっと、こうして寮に引きこもっていた。
(自業自得、だもんね・・・)
今まで、引き伸ばし続けた自分が悪かった。
巴や弓弦から聞いた情報では自分以外の女子は既にパートナーが決まっていた。
つまり、このまま残ればあまり話したことの無い男子と組む可能性が高かった。
自業自得であることはわかっている。でも、一人だけ、そう一人だけ。実はユリエよりも《
その名を思わず呟いてしまう。
「純くん・・・」
涙が流れそうになった、その時。
部屋のドアが強く開かれた。
ドアを開いた主は━━━
「やっと、見つけた・・・」
息が荒くなり、言葉が途切れ途切れになりながらも言葉を発せた。
なら、会話はできる。
疲れきった脚を動かし、みやびに近付く。
「みやびはさぁ・・・かくれんぼが得意なのか?」
少し文句を言う感じになってしまった。言いたいことはそうじゃないのに。
「純、くん・・・」
目が赤くなっていた。泣きそうにでもなっていたのだろうか。
「断られたならさぁ、俺を呼べばよかったのに。そうしたら、少しはいい方向にできたと思うんだけど」
体育座りで部屋の隅にいるみやびの前に座る。
違う。俺が言いたいのは文句じゃない。
「でも・・・」
助けに来てくれたヒーローを見るような目をされる。そんな人間じゃないんだけどなぁ。
「きっと迷惑だからとか思ってるんでしょ?じゃあはっきり言うよ。迷惑なんかじゃない」
今自分が何を言ってるのかわからない。
走り続けてて酸素は頭に行ってないだろうし、水分補給だってしてない。
でも、きっと本心だ。だから口を動かす。
「ここに来た理由わかる?他の男子とデュオ組まれるぐらいなら俺を選んで欲しいって思ったから来たんだ。気持ち悪いだろ?でも言わせて欲しい」
たぶん話になってない。支離滅裂だ。でも、一番言いたい言葉を言う。
「穂高みやびさん、俺と《
「え・・・」
「俺もまだまだ未熟だし、教えれることだって限られてる。みやびをどれだけ強くさせれるかもわからない。でも、夢を探すのを手伝いたいし、そして何より、俺はみやびのそばにいたい」
もう何を言ってるんだろう。デュオになることを申し込む理由をちゃんと言ってくれてるのだろうか。
「ワガママなのはわかってる。でもデュオになるのなら俺を選んで欲しい。だから穂高みやびさん、俺は君と《
たぶん言いたいことは言い切った、はず。これで断られても後悔はない。
「いいの・・・?私弱いから戦う時脚を引っ張るんだよ・・・?」
「なら強くなるまで俺が守る。そのために俺も強くなるから」
「勉強もできないし、運動もできないのに・・・?」
「関係、ない。人間なんだって苦手なものは攻略できるからそれまで付き合うよ」
「でも、でも・・・!」
ついに泣き出してしまう。あーあ、女の子泣かせて。なにやってんだか。
「迷惑とかそんなの関係ない。俺はただみやびと一緒にいたい。それだけなんだ」
その言葉を聞いて、みやびの手を握る。
「この場所に誓う。俺は君を守る。そして強くする。だから、俺と《
ああ、なんてエゴまみれなんだろう。でもこれが俺の本心なんだ。気持ち悪がられたって変わらない、俺の気持ち。
もうダメだ。俺完全に吹っ切れてるなぁ!
「・・・ねぇ、純くん」
「なに?」
「私もワガママ言っていい・・・?」
「いいよ。俺ばっかりワガママ言うのはズルいし」
「私も、私もね。《
「迷惑なんかじゃ、絶対に迷惑なんかじゃない。俺だってそうだから。俺もみやびがいいんだ」
「うん、私も純くんがいい」
「じゃあ」
「うん。姫矢純くん。私と《
「よろこんで」
みやびも俺の手を握る。
ああ、みやびとデュオになれたのか・・・。
安心した瞬間、世界が揺れた。おりょ?
「ふむ・・・?」
そのまま何か強い衝撃を受けて。目の前が真っ暗になった。
目が覚める。
「・・・知らない天井だ」
いや、新世紀ごっこしてる場合じゃない。本当にどこだここ?
「保健室よ」
カーテンが開かれる音がする。起き上がると女教諭が立っていた。
「はて?なぜ俺は保健室に?」
「脱水症と疲労よ。あなた話に聞くとぶっ通しで走ってたらしいじゃない」
「oh・・・」
水分補給の大切さを説いた俺が水分補給の大切さを身に持って知るとは。急いでいても水分はしっかり取らねば。
「彼女も心配してたのよ?」
「彼女・・・?」
そういえば下半身が重い。特に左足の太もも付近。
俺のパートナー、みやびがそこで寝ていた。
「あなたの《
「ええ、俺のパートナーです」
「ふーん。男女の《
「良いじゃないですか。例外一つや二つあっても」
「・・・それもそうね。それより早く起こした方がいいわよ。ホームルームまであと・・・5分ぐらいといったところかしら?」
「・・・oh」
2回目が出てしまった。いや、そんなこと言ってる場合じゃねぇ!
「みやび起きて!」
「純くん・・・?」
「落ち着いて聞いて。ホームルームまであと5分しかない」
「え!?」
「よし起きたね迷惑をかけて申し訳ありませんでしたでは失礼します!」
まくし立ててみやびの手を引き保健室を後にする。
教室に急いで入ると視線が集まった。
「セーフだったね、《
「そのあだ名やめてくださいよ!みやびが困ってんでしょうが!」
全員驚いた目をする。何故。
席に着いた瞬間チャイムが鳴る。本当にギリギリだった・・・。
「はい、みんなおはよう!正式な《
そう言って透流と俺を見る。
「ヤー。透流とは相性がいいので」
「身体の?」
「性格です!」
「姫矢君はどうなのかなー?」
透流のツッコミを無視した。やはり強い。
「俺は・・・俺はみやびと一緒にいたいと思っただけなので」
・・・ん?俺は何を口走った?
「そうかそうか〜」
めっちゃニヤニヤしてるし視線が集まる。
「なんでそんなニヤニヤしてるんです?ってか何故みんなこっちを見るの!?透流とシグトゥーナさんまで!?」
隣のみやびは俯いていた。前の橘は耳が赤い。浅川は隠れてガム食ってる。一応ホームルームも授業のはずなんだけどなぁ・・・。
「よし!正式な《
「話逸らすなー!」