夕暮れ時の教室。
黒板の目の前には俺、姫矢 純。
教室の奥では九重 透流とユリエ・シグトゥーナ。
そして教室の中央を陣取り、夕焼けに照らされているのは介入しないはずの担任、月見 璃兎。
その手には大剣が握られていた。女性が振るうには歪で大きな剣。《
シグトゥーナは足を斬られたらしく、持ち味の機動力を発揮できない状態。
だが、それは俺も同じこと。右足には痛みが残っている。
いや、右足だけじゃなく左腕もだった。
左腕の袖から血が垂れてくる。
教室の真ん中にいる月見へと突進していたとはいえその手にある剣が当たる距離ではなかった。
つまり剣が伸びたということ。
「蛇腹剣・・・か」
蛇腹剣。剣がある程度のパーツに別れ、糸で繋げられた剣。
その射程はもちろん通常の剣よりも長い。
だが、ほぼ鞭のようなもの。狙ったとこを斬り裂くことは難しい。というか斬ること自体難しいのだ。
それができるのは・・・《
「なーんだよ《
「ああ、《
「やっぱり秀才はつまんねぇ。100点満点の答えボンボン出しやがって、よォ!」
月見が剣を振るう。
この前に鉄鎖が相手でよかった。ある程度の対策が取れる!
脳を興奮状態にしアドレナリンを分泌。痛みと血を止め、立ち上がり黒板を砕いた。
破片が俺の前に来る形になり、蛇腹剣の軌道を逸らす。
━━━ことは叶わなかった。
逸らされたはずの刃が俺に向かってきたのだ。
「━━━ッ!?」
首が狙われてることを察し、身を低くし頭を守るが背中を斬りつけられる。
「くっ・・・!」
だがこちらも興奮状態。血も痛みもすぐ止まる。
「なるほどねぇ。自分の目の前に無数の物質を用意し軌道を逸らす。なかなかいい手段だ。《
二度その蛇腹剣を振るう月見。
床を転がりその剣を回避する。
そうだ、自分で言ったんだ。《
つまり破片のような小さく、操作できない物で防ぐことは不可能。
ならば・・・。
と、月見が俺と戦ってる間に透流が距離を詰めていた。
「はぁ!」
拳を振りぬこうとするが・・・蛇腹剣の背がその腕に当たる。
ボキッ。その音が俺にも聞こえた。
透流の右腕が折れたのだ。
「ぐっ・・・ああああああああああああああ!」
痛みで透流が叫ぶ。
俺は月見へと駆け出した。
使いたくはないが今、目の前にいるのは3人。どうせ1人は知ってるだろうし問題ない。
「何度も同じ手を━━━!」
もちろん月見は俺に気付いた。
その剣を俺に向ける。
そして首に刃が当たる━━━ことはなかった。
「あぁ!?」
俺の右手には焔が握られていた。そして、形となり。
青みがかかった白い剣になった。
「ジュンの《
「白い・・・!?」
シグトゥーナと透流が俺の手に具現化された《
だがそんなことはどうでもいい。
蛇腹剣さえ弾ければ、近付くことは容易い。
「次元覇王流・・・疾風突きぃ!」
突撃技としては最大出力の拳を放つ。
が、蛇腹剣を大剣に戻し、その背で防がれる。
「はっ、ようやく本気出してきたな《
「そうでもしないと勝てないと思って、な!」
拳を振り抜き月見を下がらせる。
この隙を逃す理由はない。
白い片手直剣をしっかり握り月見に近付く。
月見が大剣状態のまま振る。机や椅子が俺に近付いてくる。
突進速度を変えず飛んできた机と椅子を全て叩き落とす。
対人での剣の間合いの読み合いはまだ苦手だがただ突っ込んでくるだけの物を叩き落とすことは出来るらしい。
このままこの拳をと構えるが・・・。
月見の姿はそこになかった。
瞬間、脇に痛みが走る。
そして壁に衝突した。
「カッ・・・ゴホッゲホッガァッ!」
血が吐かれる。肋が折れたのか胸が燃えてるかの如く熱い。
「付け焼き刃の戦い方でよくやるよオマエ。でもまだまだだなァ」
蹴られた・・・?いつの間に横に?
そうだ。あの機動力が優れてるシグトゥーナが怪我をしている。つまりスピードもあるに決まってる。
何を勝手にトリッキーなパワータイプだと思ってるんだ俺は・・・!
なんとか膝立ちになることができたが、冷静になってしまったが故にほぼ全身から痛みが知らされる。
こうなってはエンジンはかかりづらい。
左側の視覚が赤く染る。頭も斬ってしまったらしい。
視界まで悪くなるなんて。運がないというかなんというか。
けど諦める訳にはいかない。俺はまだ、美羽姉の真相を聞いていない。
「おやー?純君はまだやるのー?元気だねー」
いつも通りの月見の声音。どっちも月見 璃兎なのだろう。
「ノン。ジュンだけではありません」
凛とした声が響く。
シグトゥーナが透流の前に立ち塞がっていた。
「あれー?ユリエちゃんも頑張っちゃう〜?」
「ヤー。私はトールの《
「なるほどねぇ〜。期間は短くても《
考えろ考えろ考えろ。今のうちに考えろ。逆転の道がどこかに・・・。
痛みに堪えながら頭を回転させる。
その時、透流が叫んだ。
「ユリエに《アイ》を!」
瞬間、透流の考えがわかった。何故ならそれを教えたのは・・・。
「はっ!なんだ?死ぬ前に愛の告白ってかァ!?どこまでもお似合いの《
「なら俺は、《トゥ》・・・か」
静かに、言う。
「は?何言ってんだオマエ?まぁ、いいや。瀕死のお前には何もできねぇ。まずはそっちの2人だァ!」
月見が蛇腹剣をシグトゥーナに放つ。
シグトゥーナはそれを弾く。
まず、《
その隙に左足で全力で床を蹴る。そして、剣を槍の如く投げつけた。
「ここで教えてやるよ、《
弾かれた蛇腹剣をそのまま俺の《
笑う月見。
だがまだ、《
「は?そんなの常識だろ」
「・・・あ?」
だが俺は倒れない。気絶もしない。
「な、なんで・・・」
「俺に、集中し過ぎだぜ、月見・・・」
俺の剣とは別に、砕けた音がする。
月見の《
「あ・・・」
倒れる月見。
「悪いな無茶させて・・・。透流」
そう、月見の蛇腹剣を砕いたのは透流だった。
というかどっちでもよかった。
恐らく透流の《
だから俺達はその剣を砕くために隙を作っただけ。
二段階の隙でも危なかったけども。
「いいや、そもそもこの無茶は俺が言い出した事だし」
「でも・・・トール、右腕は大丈夫ですか?」
「いやめちゃくちゃ痛てぇ・・・」
「だろうな・・・」
「そういう純はどうなんだよ?」
「痛い。めちゃくちゃ痛い」
右足と左腕及び背中に深めの切り傷、肋の骨折、左頭部は・・・どうなってるんだこれ。
とりあえず損傷が激しい。
これ戦闘継続は難しいな・・・。
と、教室に誰かが入ってくる。
「純くん!」
耳に届いた途端、心が落ち着く。
「ああ、みやびか。虎崎とタツは?」
「それより純くんだよ!大丈夫!?」
「全然大丈夫じゃないけど」
「そんなさらっと!?」
こんな怪我で大丈夫だと思うんですか?バカなのー?
「そうだ、巴ちゃんからこれを」
「うん?あ、生徒手帳・・・」
窓ガラス割るのに使ってたの忘れてた。あの後拾ってくれたなんて・・・あとで感謝しとかないとな。
しっかし・・・。
「でもこれ・・・」
「うん、継続できるのかな・・・?」
ここにいる4人のうち3人が怪我してるし・・・。俺なんて《
と、鐘が鳴った。
「何の鐘だこれ?」
「終了の合図じゃないでしょうか?」
「その通りです」
いきなり低い声が響いて驚く。驚いて痛みが走る。
「あだだだだだだだだだだだ!」
「月見璃兎・・・まさか繋がっていたとは」
「繋がって・・・?いだだだだだだだだだだだだ痛いぃぃぃぃぃ!」
何?どういうこと?学園側からの指示じゃない?は?というか何故ここにこのメガネさんが・・・?
つーか痛い怪我しなさ過ぎて痛覚が敏感にああああああああああああああああ!
「橘巴及び浅川弓弦から報告を受けた次第です。彼女はこちらで処罰します。医療班、彼らを医務室に」
後ろにいた男の人たちが俺達のところに来る。
「ゆっくり、ゆっくりでお願あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そーいえば斬られたこともないし、骨折も久々すぎるし痛いに決まってますよあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!いだいいだいいだい!
新人戦から4日が経った。
人体というのは凄いもので食う寝る食う寝るを繰り返してるうちにほぼ完治していた。
少し肋が痛むぐらい。
このぐらいの痛みなら慣れてるので問題なし。
怪我した直後って怖ぇ。アドレナリン出しすぎるのも問題ということか。
俺はリビングで茶を嗜んでいた。
最低でも5日は自室で安静にしろと言われたので食事も橘達が持ってきてくれる。
つまり明日に運動が解禁されるので早速走ってやろうそうしよう。
ずずずとお茶を啜る。
うん美味し。
みやびは今シャワーを浴びている。
さっきまで校庭を走っていたようだ。
「あー、シャワー浴びたい」
怪我をしていたために身体を拭くことしかできなかった。明日朝イチのシャワーも楽しみだ。
そういえば。
「4日前の時点でシャンプー切れそうだったよな・・・」
それが1人だけとはいえ女の子。しかも一日に二回入るのだからそろそろ切れてもおかしくない。
俺は押し入れからシャンプーを取りだし洗面所に入る訳だが・・・。
一糸纏わぬとはこの事か。
髪を拭いていたみやびが視界に収まる。
「「・・・・・・」」
あかーん!俺の中のダイスケが言うてる。これはあかん。
ダッシュで洗面所を出ようとするのだが・・・。
「ぎぃ・・・!?」
いきなりの激痛。なんだ、まだ肋の骨折完治してなかったのか。動かなかったからわからなかった。
痛みで蹲る。
「だ、大じょ・・・」
と、みやびが駆け寄ってくるが・・・。
この洗面所、床とタオルの間に摩擦が発生しない。
結果みやびが俺に密着する形となり━━━。
「カッ!」
肋にまた痛み。あと柔らかさ。
そして、目の前にはみやびの顔があった。
「「あっ・・・」」
お互いの息がかかる。
目を背けようとするがその綺麗で黄色い瞳から目を離せない。
その下には潤った唇。
理由は分からない。でも何故か惹き付けられ、互いに顔が近くなり・・・。
ガチャ。
「・・・は?」
「どうした弓弦・・・え?」
「なっ」
「ほぇ?」
音と声の方を見る。そこには俺達の夕飯を手に持った浅川と橘がいた。
「「「「・・・・・・」」」」
時が止まった。
このまま玄関を開けっ放しにされるのはまずい。そう思い口を開く。
「これはその・・・ちゃうねん」
またダイスケが出てきたよ。できれば祭に戻って欲しかった。
「あああああああああああああああああああ!姫矢の破廉恥ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「きゃあああああああああああああああああ!」
「ちょっと待てマジで聞いてくれ橘ァァァァァァァ!ア"ァ"?!ちょっと待って肋がァァァァァァァ!」
「・・・ゲスが」
阿鼻叫喚。なんだこれ地獄かね?
そんな地獄を経験しても時は流れるというもので。
教室は修復され休みも終わった。今日から授業再開だ。
「しかし担任どうするんだろうね?」
「月見先生は捕まったもんね・・・。別の人が来るのかな?」
「俺は別に誰でも構わん」
「私もだ。また裏と関わってる先生は御免だが」
「そうそう同じミスをあの理事長が犯すとは思えないけど」
「ノン。わかりません。人はわからないものですから」
「ユリエ、そんな哲学的な話じゃないんだが・・・」
あの教室で月見と戦った生徒は全員完治。こう、気持ちのいい(?)登校を迎えていた。
このままの日が続けばいいなんて少し思ってしまった時背中から声がかかった。
「やっほー!みんな元気ー?」
その声を聞いた瞬間、みやびの前に立ち拳を握る。
他の全員も臨戦態勢に入っていた。
「待って待って〜。これからHRなのにドンパチやらかすつもりはないよ?」
「なんでアンタがいるんだ?月見、璃兎」
「先生に向かってアンタはダメだよ《
「んなことはどうでもいい。九十九と敵対組織と手を組んでたって聞くアンタが何故ここにいるかの方が重要だ」
「んー、それはねー。理事長の方がいい条件だったから、かな?」
つまりは金次第か。このゲスが。
「ゲスがとか思ってそうな顔してるね〜」
いつの間にか俺の横に立っていた。
『!?』
そして耳元で囁いてくる。
「そこまでにしとけよ《
「いや、俺が勝つ」
「そうか。そうか・・・。んふふふ。じゃあ本当にあたしに勝てるようになるまで待っててあげる!じゃあ急ごうね!ホームルームを始めるよ!」
そう言って教室に入っていく月見。
本当に俺達とやり合う気はないらしい。
複雑な心境の中、俺達はゾロゾロと教室に入った。
「なー、K〜。オタク《新刃戦》見に行ったんだろーん?良い奴いたーん?」
「2人ほどいいのが」
「2人もいんの?どんなのどんなの!?」
「1人は《
「ほんほん」
「そしてもう1人は・・・」
「もしかしてこの《
「ああ━━━姫矢 美羽の《
「ホームルームのラストを飾るのはまさかまさかの転校生ー!」
月見が担任に復帰した驚いてから10分足らず。
「・・・何言ってんだアイツ」
「転校生・・・?まだ5月だよね?」
「うん、1年生の」
本当に異常だなーこの学校。
「さーて入ってきてもらおうか!《
入って来たのはユリエ・シグトゥーナの正反対。
金髪巨乳長身。
そして俺は悟る。
━━━またとんでもない嵐が巻き起こる、と。