Dear…【完結】   作:水音.

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第46話 Invisible Cords ―絆―

「そいつにそれ以上言っても無駄よ」

 

 腰まで伸びた金糸の髪がこの薄暗い第4の宮には場違いな存在感を放っていた。

 

「乱菊……」

 

 振り返った体勢のまましばし硬直していた沙羅は、その名を口にして我に返る。

 

「なんで乱菊がここにいるの!?」

 

 もう二度と会えないことも覚悟した無二の親友。けれど今は再会を喜ぶ気持ちよりも驚きのほうが遥かに大きかった。

 

「あんたを追ってきたに決まってんでしょ」

「追ってきたって……」

「こっちはあんたの行動パターンなんてお見通しなのよ。ったく手がかかるんだから」

 

 呆気に取られる沙羅を尻目に、乱菊は大袈裟に吐息を吐きだして続ける。

 

「今朝、浮竹隊長からあんたが辞表を置いて姿を消したって聞いてすぐにわかったわ。彼に会いに行ったんだって。で、現世へ下りて浦原商店へ向かったの。あんたが虚圏に行くとしたら、頼れるのは浦原さんぐらいしかいないでしょうからね」

 

 乱菊の話を聞いても尚、沙羅は彼女がここにいる現実を呑み込めなかった。例え沙羅の失踪の背景に浦原の存在を嗅ぎ取ったとしても、彼が正直に口を開くとは思えないからだ。

 沙羅との約束云々の前に、白状するメリットがない。隊士の出奔に手を貸したとなれば尸魂界から余計に厄介視されるだけだ。

 

「わかってないわね」

 

 沙羅の疑問をそのまま読み取って乱菊は笑う。

 

「浦原さん、隠すどころかあっさりと話してくれたわよ。むしろもう少しあたしが行くのが遅かったら自分から話しに行くつもりだったとまで言ってたわ」

「どうして……そんなことしたって浦原さんには何も──」

「バカね。あんたを放っておけないからに決まってるでしょ」

 

 さも当然のように告げる乱菊に沙羅は言葉を失った。

 こんな自分勝手な行動を取って、もう縁を切られることも覚悟していたはずなのに。それでも追いかけて来てくれた親友。

 そして、沙羅の唐突な申し出を聞き入れるだけでなく、その身を案じて行動を起こそうとまでしてくれた現世の協力者。

 そんな彼らに対してどんな言葉を向ければ良いのかわからなかった。

 

「で、あたしもあとを追ってきたんだけど……まさかこいつとまで鉢合わせることになるとはね。これも運命ってやつかしら」

 

 黙り込む沙羅から視線を後方にずらして、乱菊は自嘲の笑みを浮かべる。

 憂いなのか喜びなのか見分けのつかない色を灯した双眸は、その先に佇む銀糸の髪の幼馴染をまっすぐに捉えていた。

 

 

 沙羅と乱菊のやりとりを、ギンは口を挟むことなく見守っていた。

 恐らくは彼も乱菊の登場に意表を突かれたのだろう。一度固めた構えを解いて、刀からは手を離している。

 その姿を目に留めて乱菊は再び沙羅に顔を向けた。

 

「この先に彼がいるんでしょう? 早く行きなさい」

「え……」

「ここはあたしが引き受けるわ」

「でも」

「あたしはこいつと話があるから。だめとは言わせないわよ、ギン」

 

 鋭い眼光で射抜かれてギンは肩を竦める。

 

「そう言われてもなぁ。ボクも立場上沙羅ちゃんをこの先に進ませるわけにはいかんねん」

「あんたの都合なんて知ったこっちゃないわよ。こっちはあんたに訊きたいことが山ほどあるんだから」

「…………参ったなぁ」

 

 有無を言わせぬ乱菊の剣幕に、ギンは眉尻を下げてポリポリと頬を掻いた。その間に乱菊は沙羅に目配せをして頷く。

 

「──乱菊。これ」

 

 束の間逡巡し、沙羅は乱菊に駆け寄った。その掌に小さな緋色の石を乗せて。

 

「浦原さんから預かったものなの。乱菊が持ってて。これに霊圧を注げば虚圏を脱出できるから」

「なんであたしに渡すのよ。あたしはあんたを追って来たのよ?」

「うん。だから」

 

 彼女の掌に強引に石を握らせて、沙羅は柔らかな笑みを浮かべる。

 

「ウルキオラを連れて、戻って来るから。そしたら一緒に帰ろう?」

 

 なんの迷いもない鮮やかな笑顔だった。

 

「……約束よ。帰るときは一緒だからね」

「うん」

 

 念を押すように沙羅の瞳を覗き込んで、そこに偽りがないことを確かめて、乱菊は浦原の魔霊石を懐にしまい込んだ。

 そう、これは預かっておくだけだ。帰るときは必ず沙羅と──そして彼も一緒でなければならない。

 最後にもう一度乱菊と目線を交わして、沙羅は瞬歩でその場を離れた。ギンの横をすり抜ける際にわずかに緊張が走ったが、彼がその場から動くことはなかった。

 

 

「……なんで行かせたん?」

 

 沙羅の霊圧が遠ざかっていく中、ぽつりとギンの声が回廊に木霊する。当然その瞳の先には乱菊の姿がある。

 

「連れ戻しに来たんとちゃうの? 死んでまうで、あの子」

「言って聞くような子じゃないのよ。あんたと一緒でね」

 

 皮肉を乗せた乱菊の返答にもギンは眉を潜めたまま。

 

「乱菊かてそうやろ。いくら沙羅ちゃんを助けるため言うても、ひとりで乗り込んでくるなんて無謀すぎるわ」

 

 彼にしては珍しく、その口調ははっきりと乱菊の行動を咎めていた。

 

「無謀か。確かにそうかもね。あたしだってまさか虚圏に乗り込むことになるなんて思わなかったわ」

 

 対する乱菊の口ぶりは軽やかだった。過去の自分を思い返すように瞼を伏せて、ふっと口元を緩める。

 

「でも、あの子を見てて思い知らされたのよ。逃げてたって何も変わらない。ちゃんと向き合わないと、あたしはいつまで経っても前に進めないって」

「……」

「だからここへ来たのよ。あんたに会って、確かめるために」

 

 乱菊の一番の目的はもちろん沙羅を連れ戻すことだ。けれどそれ以外にも彼女にはここで為すべきことがある。

 それは、何も言わずに自分の前から姿を消した幼馴染と向き合い、その真意を確かめること。

 

 今までは、ただ帰りを待つことしかできなかった。

 ギンは昔からそうだったから。

 行き先を告げずに黙って出て行って、戻って来ても何も語ることはなかったから。

 そんな日々を重ねるうちに、いつしか乱菊もギンに行き先を問うことはなくなった。

 

 でも、もう待つだけではいられない。

 ギンが戻って来ないのなら、自分の足で追いかけて。

 ギンが何も語らないのなら、口を開くまで問い詰める。

 そうしなければ前には進めない。乱菊はそれを沙羅の姿勢から学んでいた。

 

「それとね、ギン。悪いけどあたしひとりじゃないわ」

 

 向かい合うギンから少しも目を逸らさずに乱菊は告げた。

 

「知ってるでしょ? うちの連中が向こう見ずの集まりだってことぐらい。特に沙羅の周りには、あの子に負けず劣らずの無鉄砲がいっぱい集まってるんだから」

 

 そう言って乱菊は勝気な笑みを覗かせた。

 

 

 *

 

 第4の宮の中枢部には藍染が放ったであろう多くの破面が待ち受けていた。

 個々の能力は決して高くはないが、それにしても数が多い。

 

「だいぶ息が上がってきたようですね。そろそろ観念しては如何ですか?」

 

 葬討部隊(エクセキアス)隊長のルドボーンと名乗った男が、肩で呼吸をする沙羅を見下ろして冷ややかに告げた。

 先程からもう数え切れないほどの破面を倒しているのだが、この男が次から次へと新たな兵士を生み出すためにキリがない。本体を攻撃しようにも、兵士たちが幾重にも折り重なってルドボーンを守ろうとするので、それを斬り伏せている間にまた兵士を生み出され──の繰り返し。

 

「誰が観念なんて……」

 

 唇を噛んで沙羅は斬魄刀の柄を握りしめた。できれば霊力を温存しておきたかったが、卍解を使って退けるほかないだろう。

 意を決して夢幻桜花を振り上げた、そのとき。

 

「次の舞──白漣(はくれん)!」

 

 沙羅の眼前を巨大な凍気の渦が通過していった。

 

「えっ……」

 

 凍気に包まれた葬討部隊の兵士たちはことごとく凍りつき、動きを止めている。それは沙羅がよく見知った技だった。

 

「ルキア!?」

 

 振り返った先に純白の斬魄刀を構えた小柄な姿が映る。そして、

 

「咆えろ『蛇尾丸』!」

「面を上げろ──『侘助』」

「弾け、『飛梅』!」

 

 その後方から次々に現れた姿に沙羅は瞠目した。

 

「恋次……? 吉良、雛森!」

 

 そこには霊術院時代の同期であり、同じ副隊長を務めていた仲間たちが各々斬魄刀を構えて立っていた。

 彼らは瞬く間に葬討部隊を圧倒し、最後はルキアがルドボーンを袖白雪で凍り漬けにして決着した。

 

 

「みんな……なんで……」

 

 驚きの余り二の句を告げない沙羅に、刀を納めたルキアがつかつかと歩み寄る。そして、

 

「たわけっ!!」

 

 目の前で鳴り響いた怒声に沙羅は首を引っ込めた。

 

「なぜこんな無謀な真似をした! なぜ私たちに何も言わない!!」

「ルキア……」

 

 こんなにも憤りを顕わにしたルキアを目の当たりにするのは初めてのことで。

 

「ごめん……私……」

 

 言いかけて、言葉に詰まる。

 一体何から伝えればいいのだろう。どこから話すべきなのだろう。

 

「……浮竹隊長から事情は伺った」

 

 俯く沙羅に、ルキアは声のトーンを落として語りかけた。

 

「おまえが悩みを抱えているとは気づきもしなかった。……力になってやれず、済まなかった」

「……違うよ。これは全部私の我儘で、私が勝手に──」

 

 (かぶり)を振る沙羅の前に、すっと金色の腕章が差し出される。

 希望を司る花が刻まれたこの世にふたつとない副官証。

 

「受け取れ、沙羅。これはおまえの物だろう」

「……」

 

 ルキアの声色はとても優しいものだったが、目の前で強くしなやかに咲き誇る待雪草に沙羅は手を伸ばせなかった。

 一度は自ら手放したものだ。十三番隊副隊長の責務とともに。

 

「浮竹隊長から伝言だ。叙任式を執り行わなければ副官証の返還、即ち副隊長の辞任は認められない。どうしても辞めたいと言うのなら直接返しに来いと仰っていたぞ」

「隊長が……?」

「それから、これも不要だと」

 

 ルキアが懐から取り出したのは、沙羅が瀞霊廷を離れる際に書き残していった辞表。封がされたままのそれに読んだ形跡はない。

 ここまで言われれば浮竹の想いは十分に汲み取れた。

 全てを捨てて飛び出してきた私に、あの人はそれでも帰る場所を用意してくれている。

 

 ……どうして? 

 

 嬉しさよりも、今は痛みのほうが大きかった。

 だって私は隊長の──みんなの信頼を裏切ったのに。

 

「……受け取れないよ。自分で置いて行ったんだもん」

 

 苦しげに目線を落として沙羅は小さく呟いた。

 

「だからそれが認められないと言っているんだ。正式に叙任式を行わない限り、おまえはうちの副隊長なのだからな」

「でも私は、ただ自分の大切な人に逢うためにここに来てるの……。 相手は十刃で……立場上は敵なのに」

「沙羅……」

「今更戻りたいなんて都合が良すぎるし、私の我儘にみんなまで巻き込むことはできない」

 

 弱々しく首を振ると、ビシッと額を小突かれた。

 

「った! 恋次、何するのよ!」

「おいコラ、自惚れてんじゃねえよ。別に俺らはおまえのために来たわけじゃねえっつーの」

 

 デコピンをかました右手を腰に当てて恋次がふんぞり返る。

 

「これも任務だ任務! 虚夜宮の内情を偵察して、藍染の隙を突くためのな!」

「まったく……阿散井くんは素直じゃないな」

「なんだよ。別に嘘はついてねえだろ」

「まあ総隊長から直々に偵察任務を与えられたのは事実だけどね。浮竹隊長が根回ししてくれたおかげだろ」

 

 恋次と吉良の会話を聞いて沙羅は余計に胸が締めつけられる想いだった。

 長い付き合いだからこそわかる。彼らはいつだって、恩を感じさせない言い方を選ぶ。

 

「沙羅ちゃん。あたしたち全員、自分のためにここに来てるんだよ」

「雛森……身体は大丈夫なの?」

「もう大丈夫。それにね、あたしも沙羅ちゃんみたいに闘わなきゃって思ったんだ」

 

 気丈な笑みを浮かべる雛森からは、もう以前の儚さは感じられない。

 

「今まで現実を受け入れるのが怖くて逃げてばかりいたけど、桑島くんのことがあってはっきりわかったの。みんなを護りたいと思うなら、あたしもちゃんと立ち向かわないといけないって」

 

 じっと己の斬魄刀を見つめてから雛森は沙羅を見上げた。

 敬愛した上官の裏切りを受け入れられず、目を背けようとしていた雛森。けれど今はその瞳にはっきりと覚悟を滲ませていた。

 

「そう思えたのは沙羅ちゃんのおかげなんだよ」

 

 自分の意思で、自分の足で。

 雛森は五番隊の副隊長として必死に前へ進もうとしていた。

 

 仲間たちとの思わぬ再会に言葉が出てこない。

 嬉しいと思う気持ちはもちろんある。

 けれどそれ以上に、申し訳ないという思い。

 個人的な問題に巻き込んでしまったという自責の念。

 俯いたまま黙り込む沙羅に、ルキアはふっと笑みを浮かべて語りかけた。

 

「おまえの出奔が明らかになって、うちの隊は大騒ぎだったんだぞ? 虎鉄三席や小椿三席は今にも飛び出さんばかりの勢いでな。他の隊士に示しがつかないだろうと隊長が一喝していたが……本当は浮竹隊長自身が一番ここへ来たかったはずだ」

「……」

 

 浮竹、清音、仙太郎。そして十三番隊の隊士たちの顔が次々と浮かんでは消える。

 護廷十三隊に入隊してからずっと、日々をともに過ごしてきたかけがえのない仲間たち。

 

「どうして……」

 

 ぽつり、と沙羅の重い口が開かれた。

 

「私はみんなを裏切って……瀞霊廷を出たのに」

「そうだ。仲間想いで自分のことなど省みず隊に尽くしていたおまえが、自分の想いを遂げるためだけに副隊長の重責を捨てて飛び出した」

 

 固い口調で言い放つルキアは、そこでふと声色を変える。

 

「そうまでして救いたいと思うほど、大切な相手なのだろう?」

 

 思わず顔を上げた沙羅に穏やかに微笑んで。

 

「私は何度もおまえに救われた。海燕殿が亡くなったときも、藍染に貶められたときもそうだ。だから今度は、私がおまえを助ける番だ」

 

 勝気な瞳で沙羅を見据えるルキアに同調して、恋次が頷く。

 

「ま、そういうわけだ。ここは俺らに任せて、おまえはおまえのやるべきことをやってこいよ」

「そうだね。ちょうど僕らの相手も来たみたいだし」

 

 吉良が顎先で示した方向からは、またしても無数の破面が押し寄せていた。

 

「ほら、何をボケッとしている! さっさと行け!」

 

 躊躇う沙羅の左肩に副官証を固く縛りつけて、ルキアがポンと力強く押し出した。

 

「みんな……!」

「説教はあとだ! 先へ進め、そして戻って来い!」

「つーかルキア、おまえまだ説教するつもりなのかよ」

「当然だ。この程度では気が済まん! 大体沙羅はいつも周りのことばかり気にかけて、肝心の自分のことをちっとも人に頼ろうとしないで──」

「……説教覚悟で戻って来たほうが良さそうだね、草薙くん」

「沙羅ちゃん、気をつけてね!」

 

 追いすがる沙羅に手を振って、仲間たちは後方から迫る破面の群れの中へと飛び込んでいった。

 

「……っ」

 

 左肩に戻ってきた副官証をぎゅっと握りしめて沙羅は踵を返す。

 立ち止まれば泣いてしまいそうになる。今はとにかく進まなければならない。

 ありがとうも、ごめんねも、全ては戻ってきたときに言うべき台詞だ。

 そう、この先にいる彼とともに。

 

 ウルキオラが捕らわれている牢はもう目と鼻の先まで迫っていた。

 

 

 *

 

 ──それはひどく苦しいまどろみだった。

 

 身体は眠りについているはずなのに

 意識はちっとも途絶えない。

 

 あらゆる思考を停止したいのに

 脳はぐるぐると活動を促している。

 

 やめろ

 やめろ

 

 俺はもう何も考えたくない

 

 このまま闇に葬ってくれ

 

 目覚めのない永久の眠りに堕としてくれ

 

 今の彼にとって、消滅こそが唯一の希望だった。

 己を戒め続けるこの苦しみから逃れるにはそれしかないと。

 

 けれど、そう願えば願うほどに意識は呼び覚まされていく。

 五感が鮮明に研ぎ澄まされていく。

 

 両手を後ろ手に縛り上げている鎖の冷ややかな感触も、懲罰房のじめじめとした不快な空気も、肌を刺すように如実に伝わってくる。

 とうとう抵抗を諦めてウルキオラは瞼を押し上げた。

 光の鎖されたこの狭い牢の中で、瞳に映るものなど何もない。

 

 はず、だった。

 

 

『……ようやく目覚めたか』

 

 闇に浮かぶ白い影にウルキオラは目を凝らした。

 見えなかったわけではない。視覚に優れた彼の瞳は、瞼を開いたその瞬間に全てをはっきりと映し出している。

 だからこそ、目を凝らした。

 今目にしているものが幻覚ではないと確かめるために。

 

「おまえは……」

 

 そう呟いてウルキオラは呼吸を止めた。

 鼓膜を震わせた自分の声が、ほんの一瞬前に響いたそれと全く同じであることに気づいて。

 

 もう一度、目の前の影を凝視する。

 背丈は自分とほぼ同じだった。

 線の細い身体。流れる黒髪。

 瞳は──闇の中でも十分に映える、透き通った翡翠。

 鏡を見ているわけでは、ない。

 

 なぜならその男には仮面がなかった。頬を伝う仮面紋(エスティグマ)もなかった。

 そして肌は陶器のような白ではなく、人間に近い色をしていた。

 否、彼は人間だった。

 

 

「おまえは……誰だ」

 

 

 動揺を滲ませた声がふたりの間で木霊する。

 自分で問いかけておきながらウルキオラは返事を聞くのが恐ろしいと感じていた。半ばその答えを知っていたからこそ戦慄したのかもしれない。

 数拍おいて返ってきた声は、やはり自分と同じものだった。

 

 

『俺はおまえだ』

 

 

 そう、訊ねるまでもなくウルキオラは男を知っていた。

 男の名を知っていた。

 

 彼はかつての自分。

 

 人間だった頃の自分。

 

 

 桐宮紫苑、だったのだから。

 

 

 

 ***

 

 

 




《Invisible Cords…絆》

 それは目には見えないけれど、確かに彼らを繋いでいる強い糸。
 次話から紫苑の番外編に入ります。彼の視点から追った百年前。
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