『俺はおまえだ』
自分と同じ風貌の男が紡いだ言葉を、ウルキオラは信じられない思いで聞いていた。
違和感なく頭の中に溶け込むこの声を少し前にも聞いた気がする。
……ああ、思い出した。
『──また逃げるのか?』
市丸に追い詰められ、意識を手放しかけたあのとき。脳髄の奥深くで響いたのも確かにこの声だった。それを振り払うようにして自分は瞼を伏せたのだ。
『散々呼びかけていたんだがな。ああもことごとく拒絶するとは、我ながら呆れる』
嘆息する紫苑をウルキオラは食い入るように見つめる。
その姿は、確かにかつて己が象っていたもの。口調も、仕草も、全て。
だが──
「違う……」
ぽつり、と。渇いた声が喉からもれた。
この男と自分とでは、決定的に違う部分がひとつある。
それは、彼が人間であり、自分は破面であるということ。
「俺は……おまえとは違う」
今度はくっきりと感情をあらわにしてウルキオラは紫苑を睨み上げた。鋭い眼光が『かつての自分』を捉える。
「……俺になんの用だ」
『なんの用だと?』
向かい合う紫苑に臆する様子はない。
『それはおまえ自身が一番よくわかっているはずだろう』
「……」
『俺がなぜおまえに呼びかけていたか──見当もつかないとでも言うつもりか』
自分以上に激情をこめた眼差しが紫苑から放たれる。返答に窮するウルキオラに紫苑は更に糾弾を浴びせた。
『いつまで逃げ回るつもりだ。おまえひとりが目を背けたところで、何も変わりはしない』
「そんなことは……わかっている」
『ならばなぜ動かない? 沙羅がどうなってもいいのか』
「違う……俺はただ」
『あいつはたったひとりで虚圏まで乗り込んできたんだ。おまえを救うために──』
「やめろ!」
畳みかけるような紫苑の台詞を、ウルキオラは咄嗟に遮っていた。
「俺は……こんなことは望んでいない。俺はもう……あいつの傍にはいられない。例え二度と逢えなくとも、沙羅には沙羅の生きるべき世界で、平穏に暮らしてほしい」
『それで沙羅が幸せになれるとでも?』
「黙れ! おまえに何がわかる!」
思わず声を荒らげる。
ウルキオラにとって、目の前に立つ男は己の半身などではなかった。今や失われた、かつての自分。人間であった頃の、自分。
「……おまえにはわからない。わかるはずがない。俺は、あいつを──」
震える拳を強く握りしめる。思い返したくもないのに、白い柔肌を斬り裂いた感覚ははっきりと甦った。
「あいつを殺そうとしたんだ……」
──ウルキオラ……──
涙に濡れた苦しげな瞳が、まっすぐにこちらを見つめている。
今度こそ護ると誓ったのに。二度と傷つけないと決めたのに。
その彼女に剣を振り下ろしたのは、他でもない自分だった。
そう、あのとき
虚の本能に支配された俺は
沙羅を喰らおうとした──
『それがどうした』
血が滲むほどにギリギリと唇を噛みしめていると、頭上から冷たい声が降ってきた。
「……なんだと?」
『それがどうしたと訊いている』
淡々と告げる紫苑にウルキオラは怒りが湧き上がるのを感じた。
人間であるこの男は、抗いようのない破壊衝動に襲われることなどないだろう。それによって愛する人を傷つけたときの絶望も、恐怖も。
「おまえに……」
『わかるはずがないと言ったな。ああ、確かにわからない。おまえは沙羅を殺したいのか? 護りたいのか?』
あまりにも馬鹿げた問いにウルキオラは答えるのも億劫になった。
護りたい。誰よりも、何よりも護りたい。
けれどその想いとは裏腹に、何かの衝動で理性が失われたときに沙羅を殺しかねない本能も己の中には確かに存在するのだ。
「俺は沙羅を護りたいだけだ。だが俺自身が沙羅を傷つける可能性がある以上、あいつの傍にいるわけにはいかない」
『傷つけるかもしれないから離れると?』
「俺はもう……あいつが傷つくところを見たくない」
『ならばおまえの見ていないところで沙羅が傷つくのは構わないと言うのか』
「そうじゃない……」
『だが、現に沙羅は今もおまえのために闘い続けている』
「……っ」
『おまえは逃げているだけだ』
否定しようにもそれに見合う言葉が出てこなかった。図星だったのかもしれない。
それでもウルキオラは立ち上がる気にはなれなかった。沙羅を傷つけたときの恐怖を知っているから、こそ。
「俺では……だめだ」
覇気を失った双眸で紫苑を見上げる。
「おまえが行ってやればいい。そうすれば沙羅も……今度こそ幸せになれる」
そう、この男なら。
破面と死神という、敵対する立場に苦しむこともない。
いつ暴走するともしれない虚の本能に怯えることもない。
桐宮紫苑が相手なら──
『……できるものなら、とうにそうしているさ』
羨望にも似たウルキオラの眼差しに、紫苑は哀しげに声を潜めた。
『おまえが俺を羨むとはな。……皮肉な話だ』
ふっと視線を落とし今度は自嘲の笑みを浮かべる。
『あいつの望みを叶えられるのはおまえしかいないというのに』
「望み……?」
虚ろな瞳を向けたウルキオラに、紫苑は瞼を伏せて続けた。
『今沙羅が求めているのは俺じゃない。おまえだ』
「それは俺に……おまえの面影を重ねているからだろう」
『そう思うのか?』
「そうでなければ沙羅が俺を求める理由などない。こんな……化け物を」
自らを忌み嫌うようにウルキオラが呟くと、紫苑はわかり易く吐息をもらした。ほとほと呆れる。そう言わんばかりに。
『おまえはあいつの何を見てきたんだ?』
静かな声色で、うなだれるウルキオラに問いかける。
『おまえと逢って、確かに沙羅は幾度となく傷ついただろう。だが──それだけか?』
紫苑もまた、ウルキオラの一部として沙羅を見守ってきた。だからこそ知っている。
『おまえはずっと見てきたはずだ。沙羅が幸せそうに笑う姿を』
──ありがとうウルキオラ。このお礼は必ずするから。
──呼んだ? 今私の名前呼んだの!?
──この桜が満開になったらお花見しよう? 約束ね。
きらきらと瞳を輝かせた鮮やかな笑顔が甦る。
あの桜の下での出逢いから、ウルキオラは何度も沙羅を傷つけた。何度も沙羅を哀しませた。
けれどそれ以上に、何度も沙羅は笑ってくれた。
『それは全て、おまえが隣にいたからだろう』
そう、他の誰でもない、自分に向けて。沙羅は笑ってくれた。
──私はね、前世の記憶を取り戻したからウルキオラに逢いたかったわけじゃないよ。
──仮面があるからなんなの? ウルキオラはウルキオラでしょ? 破面でも虚でも、私の気持ちは変わらない。
──もうひとりにさせない……全部私が一緒に受け止める! だからもうひとりで苦しまないで……!
強い決意がこめられた沙羅の言葉が甦る。
沙羅は、俺を、愛してくれたんだ。
破面であるこの俺を。
「沙羅……」
忌々しいとしか思えなかった己の存在も、沙羅が望んでくれるのなら必要だと思えた。
この身も、この心も、沙羅が求めてくれるのなら──
「俺に……できると思うか?」
迷いを滲ませた表情でウルキオラは紫苑を見上げた。
「沙羅を幸せに──」
『できるかどうかよりも、おまえ自身がどうしたいかだろう』
ウルキオラの葛藤を射抜くような眼差しで紫苑は返す。
『自分が傍にいなくても、沙羅が幸せになれるのならそれでいい? 聞こえのいい戯言はやめろ。そう簡単に割り切れるものか。おまえはそこまでできた男じゃないだろう』
す、と紫苑が一歩近づいた。
『自分を正当化する必要などない。おまえの願いはもっと単純なはずだ』
「願い……」
ウルキオラの脳裏に屈託ない笑顔の沙羅がよぎる。
沙羅に笑ってほしい。
沙羅に幸せになってほしい。
それが俺の願いのはず。
自分の存在がその枷になるというのなら、俺は喜んで沙羅の前から姿を消す。そう納得しようとしたところで、別の自分がそれを否定する。
違う。俺はそんなことは望んでいない。
沙羅を笑わせるのが俺だったら、沙羅を幸せにするのが俺だったらどんなにいいか。
……いや。それさえも綺麗事だ。
例え哀しませたとしても、傷つけたとしても、俺は──
『答えろ。おまえの願いはなんだ』
様々な思考が錯綜する中で、紫苑の力強い声がウルキオラを導く。
「俺は……」
沙羅の傍にいたい。
沙羅の声が聞きたい。
沙羅に触れたい。
俺は
「……たい」
「沙羅に……逢いたい」
まるで己に残された唯一の言葉であるかのように、それはすとんとウルキオラの口から紡がれた。
対面する紫苑の口元がふっと綻ぶ。彼はそのまま微笑を浮かべて告げた。
『あいつはとうに逢いにきてる』
一度口に出してしまえば、脳内に纏わりついていた邪念は嘘のように消え去った。
これまで散々思い悩んだ時間を馬鹿らしく感じながらウルキオラは意識を研ぎ澄ます。
この虚夜宮にあって一切の淀みのない澄んだ霊圧──沙羅の存在はすぐそこまで近づいていた。もうこの第4の宮の内部まで来ているのだろう。
「……沙羅の元へ行く」
翡翠の双眸に決意を灯し、拘束された腕に力をこめようとしたところでウルキオラは思いとどまった。霊力を高めることでまた己の中に潜む虚の一面が表面化してしまったら──
『恐れるな』
ウルキオラの不安を看破したように紫苑が一喝した。
『無理に抑えようとするから暴走するんだ。否定せず、ありのままの自分を受け入れろ。虚である部分も含めておまえ自身なのだと』
そう語りながら歩み寄り、ウルキオラへと手を伸ばす。
『虚の本能など俺が抑え込んでやる。もう二度とおまえが心を失うことのないように』
「……そんなことが」
『できるさ。おまえが俺を受け入れればな』
額にかざされた手は、触れるというよりもまるで己の内部に溶け込んでくるようだった。
不思議と違和感は覚えない。失った身体の一部が戻ってきたような、そんな感覚。
そのときになってウルキオラは初めて気づいた。
これまでの俺は、どこかで桐宮紫苑という存在を拒絶していたのかもしれない。獣じみた欲望も殺戮本能もない、只の人間として生きていた過去の自分が、今の自分には眩しすぎたのだ。
……沙羅を想う心は何も変わらないというのに。
「わかった。おまえを信じよう」
身体の力を抜いて瞳を閉じると、目の前の男がふっと微笑んだ気配が伝わった。
『……これでようやく沙羅に顔向けできるな』
「何……?」
目を開くと同時にウルキオラの視界は白く染まった。
光に包まれた世界で、かつて紫苑として生きていた頃の記憶が走馬灯のごとく通り過ぎていく。一瞬一瞬がつい昨日の出来事のように鮮明に。
それらを懐かしい思いで見つめながら、ウルキオラは抜け落ちていた記憶の隙間が埋められていくのを感じた。
そして、夢幻桜花が生み出した夢の中で、紫苑と沙羅が再会したときの記憶も。
──私だって失いたくない!
──絶対に助ける。だから、待ってて。
──私は死なないし、ウルキオラも死なせない。そのために行くんだから。
頑なな意志を固持し、紫苑が諦めるよう促しても決して譲らなかった沙羅。そうして夢幻桜花の卍解を会得して、彼女は単身虚圏まで乗り込んできた。
俺を救い出す、そのためだけに。
……そうだ。死なせるものか。
俺を残して二度も先立つなど、断じて許さない。
護るんだ。今度こそ。
『解放しろ──おまえの持てる力の全てを』
頭の中で響く紫苑の声に導かれ、ウルキオラは解号を口にした。
即ち、己の真の姿を顕わにする解放の言霊を。
「鎖せ──」
「
黒い雨が辺り一面に降り注ぐ。
両腕を拘束していた鉄の鎖は跡形もなく砕け散った。身に纏っていた白の死覇装は形状を変え、背には巨大な翼が生える。それは破面が本来の力を発揮する
だが、ウルキオラの自我はこれまでのどんなときよりもはっきりと理性を保っていた。人間としての紫苑の意識がウルキオラの自我の根幹を支えている。
「ウ……ウルキオラ様!?」
突如爆発的に膨れ上がった霊圧に驚いたのだろう、先程の給仕の青年が血相を変えて牢へ飛び込んできた。彼は姿を変えたウルキオラに驚愕したものの、その霊圧の濃さに気圧されなすすべもなく膝をつく。
「どうか……力をお収め下さい、ウルキオラ様。第4以上の十刃は……天蓋の下での解放を禁じられているはずです……!」
「俺が従うべきは藍染様ではない」
「何、を……」
「俺は、俺の心に従う。……沙羅の元へ行く」
漆黒の翼を大きく一振りし、立ち上がることもままならない青年の横をすり抜ける。
「なぜ……ですか……」
すがるような声にウルキオラは一瞬だけ立ち止まった。
「藍染様のために……この身を尽くすと……それが我々破面の存在意義だと──!」
そう。確かにそう信じ込んでいた。
自分たちは生み出された存在。ならばその創造主に仕えることが唯一にして絶対の使命。それ以外の意味など見出すことができなかった。
沙羅と出逢うまでは。
「私を滅して、主に尽くす……僕はそんなあなたに憧れて、今日まで仕えてきたのに……」
床に手をついたまま呻く青年の声は震えていた。彼もまた、心の拠り所を求めていたのだろう。
破面となることで生じる不完全な理性と自我。それは同時に、自我を失うことに対する恐怖をも生み出す。
だから彼らは存在意義を求める。
何のために。誰のために。
いつ崩壊してもおかしくない脆弱な自我を、己の存在を定義づけることによってどうにか保とうと。
けれどそれもまた己の自我を縛っているに過ぎないのだ。
「……おまえも破面なら、ものを考えるだけの頭はあるだろう」
肩越しに青年を振り返ったウルキオラは静かに口を開いた。
「自分の存在意義を、他者に丸投げするな」
それはまるで、かつての己を叱咤するように。
「自分の未来は自分で切り開け。……願いは自分で叶えるものだ」
相変わらず抑揚のないその声には、しかしどこか温かみがあった。呆然と座り込む青年に背を向け、ウルキオラは今度こそ牢を出ていく。
──それが君の答えか、ウルキオラ──
そう微笑む主の声が聞こえた気がしたが、飛び立った黒い翼はもう羽ばたきを止めることはなかった。
*
キィンッ!
乱菊やルキアらの助力もあって第4の宮の最奥部へ進んだものの、ウルキオラが囚われている牢まであと一歩というところで沙羅は門番役の破面の足止めに遭っていた。
もう少しなのに
もう少しでウルキオラに逢えるのに
焦りは呼吸の乱れを生じ、強引に突破しようとしてもすぐに回り込まれてしまう。そうこうしているうちに後方からは続々と新手が迫っていた。
顔を歪めた沙羅が夢幻桜花の柄を握り直した、その瞬間。
ドンッと重く圧しかかるような霊圧が突然辺り一帯を支配した。
「なっ……」
「これは……!?」
破面たちはあまりの霊圧の濃さに呻きを上げ、身動きを取ることすらままならない。その中でただひとり沙羅だけが降り注ぐ霊圧に意識を研ぎ澄ませていた。
「この霊圧……」
絶え間なく降り注ぐ黒い霊子の粒は、まるで漆黒の雨のよう。けれどちっとも恐ろしいとは思わない。
なぜならそれは──
──跳べ!!
不意に頭の中で響いた声。それが誰のものか考えるよりも早く、沙羅は反射的に足場を蹴っていた。
壁の窪みに足をかけて更に高く跳躍する。直後。
「
高く舞い上がった沙羅の眼下を、緑色に縁取られた黒い霊圧の塊が爆発的なエネルギーをもって通過していった。
それは一瞬にして軌道上のあらゆるものを飲み込んでいく。立ちこめる煙の中着地すると、周囲は跡形もなく吹き飛んでいた。
「……」
夢幻桜花を握りしめたまま、沙羅は瞬きひとつ溢さずに虚閃が放たれた方向を見据える。
次第に薄れていく煙の奥に浮かび上がる影には大きな黒い翼が生えていた。
長く伸びた髪。頭部を覆う仮面には鋭い二本の角。
どれも沙羅の知っている姿ではない、けれど。
その霊圧は
黒くて冷たくて、なのにどこか優しいその霊圧は
間違いなく沙羅が知る彼のものだった。
「ウルキオラ……?」
呆然とその名を口にして、あとから感情がついてくる。
「捕まってたんじゃ……」
目の前にいるのが信じられないと思いながらも、沙羅は彼がウルキオラであることになんの疑いも抱かなかった。
身に纏う白の死覇装は形状を変え、以前の彼よりも数段強力な霊圧を帯びてはいるが、本質は何も変わっていない。沙羅のよく知るウルキオラの霊圧だ。
「ウル──」
「なぜここへ来た」
呼びかけようと口を開いた沙羅を遮ったのは、馴染みのあるウルキオラの声だった。
ただし沙羅が期待したよりもずっと低い声音で。
「なぜこんな無謀な真似を……俺がこんなことを望むとでも思ったのか!」
彼にしては珍しく感情を顕わにした声が放たれたが、沙羅は怯むどころかきゅっと唇を引き結んで顔を上げた。
なぜここへ来たか?
そんなの問われるまでもない。
そしてそれをウルキオラに咎められる言われもない。
「逢いたかったから来た……それ以外に理由なんてない!」
愛しい人に逢いにくることが、なんの罪になるというのか。
くっきりと意思を灯した瞳で見つめ返す沙羅にウルキオラは言葉を失った。幾ばくかの沈黙のあと、今度は消え入りそうな声をもらす。
「俺が……恐ろしくはないのか?」
「え……?」
その目に深い哀しみが宿っているのを沙羅は見た。続く台詞でその意味を知る。
「俺はおまえを……殺そうとしたんだぞ」
ああ、憶えているんだ……
あの夜、約束の桜の下で、私に剣を向けたことを。
私の肩を斬り裂き、虚の本能に飲み込まれたことを。
その事実は──彼をどれほど傷つけたろう。
どれほど自分を、責めただろう──
胸が痛んで目頭が熱くなる。涙を見せるのが嫌で唇を噛んだが、それでもすぐに視界は歪んだ。
「……ない」
恐ろしくなんか、ない。
それよりももっと恐ろしいことを私は知ったから。
「ウルキオラに逢えなくなることのほうが、怖かった……っ」
こらえきれず涙が一粒目尻からこぼれたのと同時に沙羅は飛び出していた。すぐに懐かしい温もりに抱きとめられる。
白く、けれど沙羅よりもずっと逞しい腕を背中に感じ、彼の背から映えた漆黒の翼はまるで沙羅を護るようにその身を包み込んでいた。
「すまない……」
喉から絞り出したような声で呟くウルキオラにぶんぶんと首を振る。
そっと背中に腕を回すと、一層強い力で抱きしめられた。
「俺も……逢いたかった」
「ウルキオラ……」
「逢いたかった…………沙羅……っ!」
苦しさを覚えるほどの抱擁が今はただ嬉しかった。
この身を包み込む温もりも、自分の名を紡ぐ声色も、何もかも。
お願い、どうかもう誰も
私たちを引き離さないで。
ウルキオラの存在を全身で確かめながら、沙羅は静かに涙を流した。
***
《Fly Away…翼開くとき》
(二重の意味で)お待たせしました。ようやく再会。