Dear…【完結】   作:水音.

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第49話 Growling Wolf, Creeping Dog ―天に牙剥く狼、地を這う犬―

 沙羅とウルキオラの再会から時は少し遡り──第4の宮へと繋がる回廊では十刃同士の激しい闘いが繰り広げられていた。

 

「ハッ! だいぶ息が上がってきたんじゃねぇか!?」

「てめえもなッ!」

 

 振り下ろされた大鎌を剣で弾き、すかさず斬り返すグリムジョー。しかしそれをノイトラの鎌の柄で防がれ両者は再び距離を取った。

 ともに十刃に名を連ね、それもNo.5・No.6と拮抗した実力を持つふたり。息もつかせぬ攻防は辺りの地形さえ変えるほどで、互いに無傷とは言えない状態だった。

 

「──ッ!」

 

 体勢を変えながら放った蹴りはノイトラの右腕一本で受け止められる。細身な外見とは裏腹にノイトラの鋼皮の硬度は十刃中最高であり、半端な攻撃は易々と止められてしまう。

 一瞬怯んだグリムジョーの隙を逃さず、ノイトラはお返しと言わんばかりに鳩尾へ強く蹴り込んだ。ドォォンという地鳴りのような音とともに回廊を支えていた支柱へ激突し、天井が崩落する。

 

「グリムジョー!」

 

 傍らで戦況を見つめていたディ・ロイがたまらず飛び出しかけたが、それは隣に立つイールフォルトによって制された。

 

「手を出すなと言われただろう」

「けどよォ!」

「俺たちは邪魔が入らないよう見張っていればいい。それともおまえはグリムジョーがノイトラに負けると思っているのか?」

「そうじゃねえけど……!」

 

 歯痒そうに唇を噛むディ・ロイの後方からシャウロンが歩み寄る。

 

「いずれにしろ我らの介入する余地はない。かえってグリムジョーの足を引っ張るだけだ」

 

 薄く細められたその視線の先には、立ち込める白煙の中瓦礫を押しのけて立ち上がるグリムジョーの姿が。口内に溜まった血を吐き出してノイトラを睨みつけるその形相はさながら獣のようだった。

 

 第5十刃(クイント・エスパーダ)、ノイトラ・ジルガ。

 長身痩躯な体格もあってか常に他人を上から見下す節があり、自らを十刃最強と豪語して憚らないこの男。グリムジョーにとってウルキオラとは違った意味で気に食わない相手だった。

 人の弱味と見るやすぐにつけ込み、嫌味な物言いはお手の物。だが何より気に喰わないのは奴が口先だけの男ではないということだ。

 

「クソが……」

 

 小さく悪態を突いて腕を振るう。ノイトラが放った蹴りを寸前でガードしたものの、受け止めた左腕にはいまだ痺れが残っている。するとその様子を見ていたノイトラが不愉快そうに眉を潜めた。

 

「わかんねえな」

「あァ?」

「なんでそこまであの死神に肩入れする? てめえにゃなんの義理もねえだろうが」

 

 ノイトラの疑問は至極当然と言える。だがグリムジョーはきっぱりと言い放った。

 

「あいつは関係ねえよ。ただ俺が許せねえだけだ。俺たちを駒扱いしてる藍染も、奴の手の上で転がされてるウルキオラもな」

「駒扱いだと?」

「てめえだってそうだ、ノイトラ。口では偉そうなことばっかほざいてやがるが結局藍染の言いなりじゃねえか」

 

 罵倒するグリムジョーにノイトラは呆れたように目を細めた。

 

「偉そうにほざいてんのはどっちだよ。だったらてめえはなんでここにいる? 藍染様に仕える以上、俺たちは闘うしかねえんだよ。そのための十刃だろうが。それともなんだ、てめえは違うとでも言うつもりか?」

 

 各々に全く異なる思想や価値観を持つ十刃がそれでもひとつの組織として成り立っているのは、主・藍染惣右介の絶対的な力の前にひれ伏したからだ。そこには純粋な忠誠心もあれば、従わざるを得ないという畏怖の念もあるだろう。

 様々な思惑が交錯する中で十刃は表面上の統制を保っている。己の存在意義を確立するために。しかし望まぬ支配を甘んじて受け入れて、主の命令ひとつで右にも左にも転がる者が、果たして己の意思で生きていると言えるのだろうか。

 

 そう考えたところでグリムジョーは低く舌打ちした。

 だから自分はウルキオラに拘っていたのかもしれない。

 生真面目で忠実で、藍染が最も信頼を寄せていたウルキオラが、草薙沙羅と触れ合うことで確固たる意思を持つようになった。従順な翡翠の瞳に時折反抗の意を覗かせるようになった。それはかつてのウルキオラを知る者からすれば想像もつかないことで。

 そんな姿を見て、知らず知らずのうちに期待を寄せていたのかもしれない。藍染の支配下にありながら、それでも個を保つことはできるのだと。何者にも染められず己を貫くことができるのだと、示してほしかったのかもしれない。

 変わりつつあるウルキオラに希望を託して。

 だから、ウルキオラが再び藍染の操り人形へ戻ったと知って怒りを抑えきれなかった。その怒りこそがグリムジョーの失望の大きさを物語っていた。

 

『あの女がどうなろうと俺には関わりのないことだ』

 

 数刻前、天蓋の外で草薙沙羅のことを問い詰めた際に、感情のない瞳で吐き捨てたウルキオラを思い出す。

 結局自分たちはどう足掻いても藍染の支配から逃れることはできないのだろうか。

 

「俺は……」

 

 剣の柄を握る手が緩みかけたとき、今度は別の声が甦った。

 

『あなたたちにも心があるじゃない。心を縛る権利なんて、誰にもない』

 

 それは敵であるはずの女が告げた言葉。破面を獣でも化け物でもなく、対等な存在として向き合おうとする風変わりな死神の。

 彼女はこうも言っていた。

 

『試してもみないうちから不可能だなんて決めつけたくない。諦めなければ終わりじゃないでしょ?』

 

 その小柄な身体には不釣り合いな強さを秘めて、たったひとりで敵地へ乗り込んできて。臆することなく突き進んでいる。

 あんな細腕で一体何ができるというのか。けれど不思議と希望を抱きたくなるような逞しさがそこにはあった。

 

「……負けるかよ」

 

 一度は緩んだ右手をきつく握り締める。

 

 死神の女なんかに負けてたまるかよ……この俺が。

 

「俺たちは人形なんかじゃねえ!」

 

 空色の瞳に鋭い闘志を宿したグリムジョーが、対峙するノイトラに向けて踏み込んだその瞬間だった。

 崩落した天井の隙間から黒い雨が降り注いだのは。

 

 

「……なんだ? これ……」

 

 ディ・ロイら従属官たちが驚いた様子で天を仰いでいる。

 雨と思われた黒い粒子は彼らを濡らすことはなかった。代わりにずしんと重苦しい霊圧が頭上からのしかかる。

 

「これは……ウルキオラの霊圧か?」

 

 同じように上方を見上げていたノイトラが訝しげに呟いた。

 

「どういうことだ? 第4以上の十刃は天蓋の下での解放が禁じられてるんじゃねえのかよ」

 

 それは他ならぬ彼らの主君・藍染惣右介が定めたこと。第4以上の十刃は特に強大な力を持つが故に、その解放によって虚夜宮を破壊しかねないと。人一倍主に従順なウルキオラがその命令に背くとは考えにくい。

 

「……へっ」

 

 沈黙を破ったのはグリムジョーのかすかな笑い声だった。

 

「何笑ってやがる?」

「てめえの言う通りだよ。ウルキオラには天蓋の下での解放は認められちゃいねえ。だが今のは間違いなくあいつが帰刃した霊圧だった」

 

 そう語る表情はどこか嬉しそうでもある。

 

「あの優等生が断りもなく大事な大事な藍染サマの言いつけを破るはずがねえ。奴にとっちゃ藍染の命令が全てだからな」

「だったらなんで──」

「ただの操り人形のあいつなら、の話だ」

 

 ニィッと口の端を持ち上げてグリムジョーはノイトラを見据えた。

 そう、数刻前に会ったときのウルキオラならば、いかなる理由があろうとも主の命に背いたりはしない。

 ならばなぜ奴は解放したのか。グリムジョーには妙な確信があった。

 もしもあの無愛想な人形にわずかなりとも心が残っていたとするならば、それを動かせるのは草薙沙羅を置いて他にない。

 

「てめえと遊んでる暇はなくなった。さっさとカタをつけるぜ」

「あァ? 遊んでやってんのはこっちの──」

 

 皮肉を返そうとしたノイトラだったが、次いでグリムジョーが剣の刀身に爪を滑らせたのを見て形相を変えた。

 

「グリムジョー……てめえ」

「言っただろ。遊びはしまいだ。──(きし)れ! 豹王(パンテラ)!」

 

 解号とともに霊圧を溜めた指先で刀身を引っ掻くと、グリムジョーを中心とした巨大な旋風が巻き起こり辺りは爆風に包まれた。

 破面の象徴である右頬の仮面は額へ再形成され、蒼い髪が腰の辺りまで伸びる。鋭い爪と牙、尖った耳、脚力に特化した脚に長い尻尾。その出で立ちは地の果てまで獲物を追い詰め喰らわんとする荒野の豹を彷彿とさせる。

 己の本来の力を解放したグリムジョーを前に、ノイトラの表情からも笑みが消えた。

 

「いいぜ……てめえがその気ならぶちのめすまでだ」

「ノイトラ様──!」

「黙ってろ、テスラ」

 

 有無を言わさぬ声色で従属官を下がらせたノイトラは、大鎌を高々と掲げ霊圧を解き放った。

 

「祈れ! 聖哭螳蜋(サンタテレサ)!!」

 

 *

 

 ふたりの十刃が同時に刀剣解放を行ったことで辺りは異様な濃度の霊圧に満ちていた。

 従属官たちは固唾を呑んで見守ることしかできない。彼らの主が放つ闘気は今にも弾けそうで、近づくことさえ躊躇われてしまう。

 一方で、解放による高揚感に包まれながらもグリムジョーの精神は落ち着きを保っていた。

 対峙するノイトラの腕は6本に増え、それぞれが鋭利な鎌を握り締めこちらを狙い澄ましている。奴の帰刃──聖哭螳蜋とはよく言ったものだとグリムジョーは思った。顔つきといい性格といい、奴の本質がカマキリであるというのなら納得がいく。

 

「てめえには似合いの姿じゃねぇか」

 

 嘲笑交じりに告げるとノイトラは「てめえもな」と返して構えを取った。それに合わせてグリムジョーも低く身を屈める。

 一呼吸ごとに感覚が研ぎ澄まされていく。向かい合うノイトラから放たれる強大な霊圧も、そこに触れる空気が熱を帯びていく様も、くっきりと感じ取れる。

 だが決して敵わぬ相手ではないはずだ。十刃は殺戮能力が高い順に数字を与えられてはいるものの、その序列は絶対的なものではない。

 いくら高い数字を手にしても、より力の強い者が現れればその地位は容易く剥奪され十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)となってしまう。真に力を有する者が上に立てるよう構成されているのだ。

 

 今の数字がどうであろうと、負けるつもりはない。

 ノイトラにも、──そしてウルキオラにも。

 

「……俺がブン殴りてえのはてめえじゃねえんだよ」

 

 回廊の先から確かに感じられるウルキオラの霊圧にグリムジョーは口の端を上げた。

 

「行くぜ、ノイトラ」

 

 視界の中央にノイトラを捉える。しかしそのとき既に異変は起きていた。

 いつもは切れ長なノイトラの瞳が、グリムジョーを越えて更に奥を見据え、驚愕に見開かれていた。

 それは少し離れた場所にいた従属官たちも同じこと。皆一様にある一点を見つめ愕然としている。

 グリムジョーが彼らの目線を辿って振り向くのと同時に、その中のひとりであるディ・ロイが震える声を漏らした。その瞳の先には。

 

 

「藍染様……!!」

 

 

 *

 

「藍染だと……?」

 

 グリムジョーの呟きが耳を掠める中、ノイトラの思考は完全に停止していた。

 視線の先、崩落した瓦礫の上にこの虚夜宮の支配者である藍染惣右介が立っている。なぜここに、と考えるよりも早く彼はこちらへ向かって踏み出した。

 

「何をしている?」

 

 低く淀みのない声音。けれどそれは安堵をもたらすものではない。むしろ正反対の重圧を伴って──

 

「何をしていると訊いているんだ」

 

 一歩、二歩と距離が詰まるごとにノイトラは場の空気が薄くなっていくような息苦しさを覚えた。渇いた喉に無理矢理唾を流し込み、口を開く。

 

「こいつが……グリムジョーが死神の女の手引きを」

「私は草薙沙羅を捕えるよう命じたはずだ」

「……」

「仲間割れしろと命じた覚えはないが?」

 

 ノイトラの弁解はその一言で封じ込められる。表情こそ変化はないものの、主が纏う空気は確実に重みを増している。返答に窮するノイトラに藍染は立て続けに言い放った。

 

「武器を収めるんだ」

「……ですが」

「二度は言わない」

 

 その声にはあらゆる反抗心を根こそぎねじ伏せるだけの力があった。藍染がほんの一瞥をくれただけでノイトラは金縛りにあったように動けなくなり、6本の手から鎌が力なく落ちていく。

 視線に耐えきれず膝をつくと同時にノイトラの帰刃も解かれた。戦意の喪失の証だ。それほどに藍染から放たれる霊圧は凄まじいもので、直接言葉を交わしていない周囲の者たちまで息を詰まらせていた。

 ただひとり、グリムジョーを除いて。

 

「グリムジョー。君にも言ったつもりだが」

 

 ゆっくりと、藍染の目線が移る。しかしそれを受けるグリムジョーの表情に動揺はない。

 

「聞こえなかったのか?」

 

 藍染の声色が一層低くなると、傍に控えていたグリムジョーの従属官たちはすぐにでもこの場から逃げ出したい衝動に駆られた。無論そんなことができるはずもなく、息を呑んで見守る。

 すると次の瞬間、グリムジョーの口から信じがたい言葉が放たれた。

 

「誰だよてめえは」

 

 敵意を剥き出しにした空色の瞳が自身の主君へと向けられる。

 

「グリムジョー! おまえ何言って……」

「偉そうに俺に指図すんじゃねえ」

 

 慌てふためく従属官の声には耳も貸さず、藍染を睨みつけるグリムジョー。片眉をぴくりと動かした藍染は目を細めてグリムジョーを見据えた。束の間の沈黙の後に瞼を伏せ、静かに吐息を漏らす。

 

「……残念だ。君には期待していたんだが」

「だから──」

 

 言いかけたグリムジョーの姿が残像を残して消えた。

 

「てめえは誰だっつってんだよ!!」

 

 瞬きの間すらなかった。

 獣のそれに良く似た脚が力強く地面を蹴り出した直後、グリムジョーの鋭利な爪は藍染の首筋を横一閃に斬り裂いていた。

 ずしゃっと鈍い音がして藍染の身体が倒れ伏す。斬られた首元を中心に地面がたちまち赤に染まる。

 

「な……」

「藍染様を……一撃で」

 

 呆然としているのは従属官だけでなく、それを間近で目の当たりにしたノイトラもひどく狼狽していた。

 

「まさか……藍染様がこの程度でやられるはずがねえ」

「これのどこが藍染だ! よく見ろ!!」

 

 グリムジョーが蹴り上げるとうつ伏せになっていた藍染の身体がごろりと転がった。仰向けになったその顔を見て場の全員が驚愕する。

 

「藍染様じゃない……!」

「どういうことだ!?」

 

 そこにいたのは名も知らぬ下級の破面だった。グリムジョーの一撃で急所を裂かれた男は既に絶命している。

 

「鏡花水月か……」

 

 瞬時に理解したノイトラが呟いた。

 その額にはいまだ脂汗が滲んでいる。幻覚だとわかっても尚、藍染の霊圧にあてられた恐怖は消えない。

 

「くそっ! なんでこんなふざけた真似……」

「どうせまた俺たちをおもちゃ扱いして楽しんでんだろ」

 

 眉間に皺を深く刻んでグリムジョーは舌打ちした。

 藍染にとって自分たちの闘いなど余興のひとつ程度でしかないのだろう。手駒を思うように動かして楽しめればそれでいい。思うようにいかなかったとして、それもまた一興。どう転んでも大勢に影響はない。

 

「おい……なんで藍染様じゃないと見抜けた? てめえだって鏡花水月の催眠をかけられてるはずだろ」

 

 ノイトラの問いはグリムジョーが今まさに自問しようとしていたことだった。

 そもそもグリムジョーの目には最初から見知らぬ男が映っていた。大した霊圧でもない下っ端の破面が偉そうな口をきいてきたから斬り裂いたまでだ。

 だがノイトラや従属官たちの反応を見るに、彼らは鏡花水月の能力によってこの下級破面を藍染だと思い込まされていたのだろう。

 ならばなぜ、自分にはそれが効かなかった? ノイトラが言うようにグリムジョーもまた鏡花水月の完全催眠に捉われているはずなのに。

 そこまで考えて思い出した。少し前にも全く同じ疑問を抱いたことを。

 あれは確か──

 

『大丈夫だってば。グリムジョーだって平気な顔してるじゃない』

『……そういやそうだな』

 

 草薙沙羅とともにここまで向かってくる途中、天挺空羅とかいう鬼道によって藍染の声が届けられたときのことだ。

 鏡花水月がもたらす完全催眠は、一度術中に絡め取ってしまえばいつでも発動できる。囁きひとつでも相手の反抗心をねじ伏せることは十分に可能だ。だからてっきり草薙沙羅も懐柔されたのではと思っていた。結果的にはグリムジョーの取り越し苦労だったわけだが。

 あのときは深く考えなかったものの、先程の状況も照らし合わせるとある仮説が導き出される。

 

「まさかあいつ……」

 

 *

 

「おい! てめえ待ちやがれ!」

 

 急に踵を返したグリムジョーをノイトラが睨みつける。

 

「なんだよ。まだやるつもりか」

 

 グリムジョーはそれを冷めた目で一瞥するだけだった。既に帰刃を解いているノイトラには再び解放する気力はないだろう。

 

「わかっただろ、藍染が俺たちをどう見てるか」

「ンだと……」

「ただの人形だ。暇つぶし程度のな。それでもてめえは自分のために生きてるって言えんのかよ」

 

 低い声音で吐き捨てて、背を向けた。

 

 主人の命令を聞くしか脳がねえ負け犬は、そのまま死ぬまで飼われてろ。

 俺はそんなのまっぴらごめんだ。

 てめえのために闘い、てめえのために生きる。

 それが俺の生き方だ。

 

「グリムジョー! どこ行くんだよ」

「決まってんだろ、ウルキオラのとこだ。あの女と一緒にいるはずだ」

 

 駆け寄ってきた従属官たちにそう告げて、探査神経を研ぎ澄ます。

 強大な黒い霊圧は第4の宮に微かな名残を残したまま消えていた。恐らく天蓋の上へ身を隠したのだろう。草薙沙羅とともに。

 

「あの野郎、やっと目ェ覚ましやがった。どんなツラしてんのか拝まねえと気が済まねえだろ」

 

 ニヤリと口の端を持ち上げて、グリムジョーは響転の体勢に移る。

 

「おまえらもいつまでも腑抜けたツラしてんじゃねえよ。俺は先に行くからな!」

「あっおい! 待てってグリムジョー!」

 

 言うなり疾走したグリムジョーを慌てて追いかける第6十刃従属官たち。あとに残されたのは第5十刃主従のみで、黙り込んだままの主を気遣うようにテスラが声をかけた。

 

「ノイトラ様……」

「人形だと……この俺が」

 

 ぽつりと渇いた呟きがノイトラの喉から漏れる。悔しそうに拳を握りしめる主の姿に、テスラは眼帯に覆われていない左目をそっと伏せた。

 

 

 十刃とは、破面とは何なのか。

 何のために生まれ、何のために生きるのか。

 終わらない闘いに身を投じる彼らが自らの存在意義を見出したとき──未来は、変わるかもしれない。

 

 

 

 ***

 




《Growling Wolf, Creeping Dog…天に牙剥く狼、地を這う犬》

 抗う者と従う者。運命は彼らに何をもたらすか。
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