Dear…【完結】   作:水音.

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第57話 Piercing Silver ―射貫く銀鎗―

「これで終わり……だと……?」

 

 静寂に包まれた玉座の間に、長くこの城の王だった男の声──彼にはおよそ似つかわしくもない掠れた声色が、低く響いた。

 

「こんな小娘に……阻まれたというのか? 百年もかけて築き上げた私の計画が? はっ、とんだ茶番だ──」

 

 崩玉に霊力の全てを吸い取られた藍染はもはや鬼道のひとつさえ放つことはできない。ふ、と自嘲の笑みを漏らすと皮肉めいた眼差しを沙羅に向ける。

 

「それで? 私から奪った崩玉で、今度は君たちが尸魂界と虚圏を束ねるとでも言うつもりか? 死神と破面の和解などという御託(ごたく)を並べて」

「……いえ。あなたのように崩玉には頼りません」

 

 その眼差しに沙羅は怯むことなく向き合った。

 

「必要なのは力じゃない。相手を知ろうとする想いさえあれば、分かり合うことはできます」

「大した自信だな……。精々己の理想に溺れるがいい。じきに思い知るだろう、力無き者に大義は成せぬと。そしてやがては君も崩玉を求めるようになる。その甘ったるい理想を現実にと願うほどにな」

 

 霊力を失い、完全催眠を駆使できなくとも尚、藍染の紡ぐ言葉にはそれがさも真実であるかのように感じさせる重みがあった。それでも沙羅は僅かな逡巡すら見せずに首を振る。

 

「過ぎた力は身を滅ぼします。……私はそんな力なんて欲しくない」

 

 求めるものは──そう

 大切な人との、穏やかな時間だけ。

 

「崩玉は元々浦原さんのものです。浦原さんにお返しします」

 

 どこまでもひたむきな沙羅の想いに呼応するかのように、藍染の胸の中枢に埋め込まれている崩玉が一層の輝きを放った。

 

「ぐっ……!」

 

 崩玉から溢れる薄桃色の光の粒が藍染の身体を覆っていく。たちまち全身を包み込んだ強大な波動に、彼は忌々しげに顔を歪めた。

 

「そう、か……私をも飲み込もうというのか。これが……崩玉の意思──」

「崩玉が……!」

「あの人の霊力どころか、魂魄そのものを取り込むつもりのようだな。沙羅、それ以上近づくな。おまえまで巻き込まれかねない」

 

 身を乗り出しかけた沙羅はウルキオラの制止を受けて踏みとどまった。

 それが崩玉の意思ならば、恐らく止めることはできないだろう。俯いたまま押し黙っていた藍染は、次第に肩を小刻みに震わせ始めた。

 

「私自身が崩玉となる、か。……ふん、それも面白い」

 

 まるで他人事のように呟いて顔を上げる。

 

「この私を出し抜いた褒美にひとつ、教えておいてやろう。私という依り代を失った崩玉が、なんの媒体も持たぬままこれ程の膨大な霊圧を維持できると思うか?」

「え……?」

 

 眉根を寄せる沙羅の後ろでウルキオラは崩玉を注視していた。

 藍染の魂魄もろとも取り込まんとする崩玉は、今にも決壊しそうな不安定な霊力に満ち溢れている。

 元より藍染は多くの死神や虚から抽出した霊子を崩玉に注ぎ込んできた。その数たるや千は下らないだろう。個体によって異なる構成の霊子をそれだけの桁外れな量注入されれば、普通ならどこかで拒絶反応が起こるか、崩玉自体のバランスが保てなくなり、器としての機能が崩壊する可能性が極めて高い。

 それでも崩玉が安定して力を発揮できたのは、ひとえに藍染惣右介という絶対的な宿主があったからだ。

 

 だが、今。崩玉は夢幻桜花の卍解により解放されると同時に、これまで自身を完璧にコントロールしていた支配者を失った。

 そこへ更に藍染の霊力をも取り込んだのだ。崩玉が保持できる許容量を遥かに超えている。力のやり場をなくした崩玉がどうなるか──想像に難くない。

 

「間もなく崩玉は暴走するだろう。この崩玉の内部に蓄積された霊圧が一斉に放出されれば、虚夜宮はおろか虚圏全土を更地にしないとも限らない」

 

 恐ろしいことを淡々と告げる藍染。その間にも彼を覆う光の輪はみるみる狭まっていく。

 

「暴走を食い止める手段はただひとつ……誰かが崩玉の宿主となることだ。自らの意思を持った崩玉が認めるに足る人物が、な」

 

 それは沙羅を置いて他にいない。

 

「崩玉の……宿主」

 

 そう、崩玉を解放した張本人である、沙羅しか。

 

「崩玉を手にした君は、果たして同じような綺麗事を言い続けられるかな」

「……!」

「沙羅はあなたとは違う。根拠のない暴論はやめてもらおうか」

 

 そうは言ったものの、狼狽する沙羅を見てウルキオラも思考をまとめきれずにいた。

 藍染の予言ははったりではないだろう。そしてそれを防ぐための手段も。しかしそれは沙羅の今後の運命を大きく捻じ曲げることになる。

 

「……例えそうなったとしても、私は崩玉の力は使いません」

「君が望むと望まざるとにかかわらず、絶対の力を手にした者を尸魂界の上層部が放っておきはしない。都合よく利用するために厚遇するか、危険な存在として服従させようとするか──いずれにせよ君のような生温い小娘を丸め込むのは造作もないことだ」

 

 愉悦の表情を浮かべて畳みかける藍染。すっと背筋に寒気が走って沙羅は無意識に左肩の副官証を抱いた。

 こみ上げたのは世界を左右するほどの力を手にすることへの恐怖だった。

 もう二度と崩玉を悪しき目的のために使わせたくない。その信念すら覆されそうな、圧倒的な力。

 

「沙羅……」

 

 呼びかけにも答えず無言で立ち尽くしたままの沙羅に、ウルキオラは人知れず奥歯を噛み締める。

 いかに沙羅自身が変わらぬ信念を固持し続けようとも、“崩玉の所有者”に対する周囲の目は確実に変わるだろう。それを彼女の望んだ未来と言えるだろうか。

 突如としてのしかかった重責に揺れる沙羅も、それを案じるウルキオラも、このとき完全に藍染から目を離していた。

 そして、それこそが。彼が待ち望んでいた瞬間であった。

 

「よほど自信がないと見える。ならば──!」

 

 藍染の手から放たれたのは愛刀、鏡花水月。

 ひゅんっと空を切ったそれはまっすぐ沙羅に狙いを定めていた。

 

「私とともに来るがいい!」

 

 

 あとほんのわずかでも反応が遅れていたら貫かれていただろう。迫りくる刃を沙羅は紙一重のところで後ろに跳んでかわした。しかしその直後、鏡花水月から幾重もの鎖が出現する。

 とうに枯渇した藍染の霊力によるものではない。あらかじめ斬魄刀そのものに高位縛道の術式が仕込んであったのだ。

 

「くっ!」

 

 用意周到なこの人らしい、などと感心する余裕はなかった。全方位から襲い来る鎖に絡めとられた沙羅はたちまち引き寄せられていく。今まさに崩玉に飲み込まれようとしている藍染の元へ。

 

「……っ、黎明の(そら)・彩雲の(あめ)!」

 

 最高難度の縛道であるため詠唱破棄の鬼道では練度が足りず解除することは難しい。すぐさま言霊を唱えるが藍染との距離はみるみる狭まっていく。

 

「沙羅ッ!!」

 

 ウルキオラも後を追うが、出遅れた分は縮まらない。沙羅へと向かって伸ばした手が、届かない。

 

(あまね)く神の冥護(みょうご)断截(たちき)りて我慈悲を──!」

 

 詠唱を続けながらもそれが間に合わないことを悟った沙羅は、衝撃を覚悟して目をつぶった。

 

 

 

「射殺せ『神鎗(しんそう)』」

 

 

 

 覚えのあるその声と同時に、ギャリンッ! という金属音が沙羅の耳を掠めた。

 薄く開いた瞳にさらさらと揺れる銀糸の髪が映る。信じられない姿を目の当たりにした沙羅は呆然とその人の名を呟いた。

 

「市丸……隊長……?」

 

 沙羅よりも遥か後方、ちょうど玉座の間の入り口の辺りに彼──市丸ギンは立っていた。

 その手から突き出された刀の長さはゆうに数十mはあり、沙羅を拘束していた縛道の鎖を断ち切って自らの刀身に巻きつけていた。

 

「──乱菊はどうしたんですか!」

 

 救ってくれた、その事実よりも彼とともに残ったはずの親友の顔が浮かんで沙羅は血相を変える。

 

白伏(はくふく)で気絶させただけや。今頃目ぇ覚ましとるやろ」

 

 それに眉ひとつ動かさずに答えたギンは、崩玉の光に飲み込まれつつもギンの刀に絡めた鎖で辛うじて踏みとどまっている藍染を見据えた。

 

「往生際が悪いんとちゃいます? 藍染隊長」

「ギン、おまえ……」

 

 乱れた髪の隙間から鋭い眼光を飛ばす藍染に、貼りつけたような笑みを浮かべて。

 

「薄情やなぁ、ボクを置いていこうとしはるなんて。ずっと一緒にやってきた仲やないですか」

 

「百年以上前から、ずぅーっと」

 

 ぐぐぐ、と藍染へ向かって引きずり込もうとする鎖を刀で押さえつけながらギンは口の端を持ち上げた。顔は笑っていてもその目は決して笑っていない。

 

「ここへきて私に背くか……できすぎた展開だな」

「そのわりにはなんや嬉しそうな顔してはるやん。わかっとったんやろ? ボクがあんたにほんまもんの忠誠なんて誓ってへんことくらい」

 

 ギンの言葉を受けてふっと鼻で笑う藍染。

 

「ああ……そうだな。おまえの本音を聞かぬまま去るのは心残りだった。ずっと私を殺したくてたまらなかったんだろう?」

 

 それを聞いて驚愕したのは沙羅だった。

 長く藍染の右腕として仕えてきたギンの行動は、彼の真意ではなかった? 乱菊を欺いたことも、ルキアを陥れようとしたことも、全て? 

 だとしたら彼の目的は──

 

 咄嗟に隣を窺うとウルキオラも状況を呑み込めずにいるようだった。それ程にギンの裏切りは予想だにしないことだったのだろう。

 

「本音? そんなもん、この先いくらでも聞かせたるわ」

 

「ようやっとこんときが来たんやからなぁ」

 

 いつもは飄々と細められていた瞳が、今は憎悪を浮かべて藍染を捉えていた。

 

「松本くんの復讐だとでも言うつもりか?」

「そや。あんたが乱菊から奪ったもんを取り返すために、ボクはあんたの下についた」

「乱菊から……奪った?」

 

 眉根を寄せる沙羅を肩越しに見やって、ギンは静かに頷く。

 

「知らんかったやろ? 乱菊はな、子供ん頃この男に魂を削られてん。こいつの持っとったまがいもんの崩玉に霊力を吸わせるためにな」

「えっ⁉ でも乱菊は……」

「十分霊力持っとると思うやろ。けどホンマはあんなもんやあらへん。この男さえいなければ、乱菊はボクよりもずっと強い死神になっとったはずや」

 

 軽快な口調の中に怒りを滲ませて再び藍染を睨みつけるギン。

 

「百年越しの復讐とは恐れ入ったよ……。だが、それを松本くんが望んだのか? おまえが彼女との時間を捨ててまで、復讐に身を投じることを」

「……あんたがそれを言うん?」

 

 ギンの声色が一気に温度を失った。

 

「自己満足でもなんでもええ。ボクがあんたに復讐するんは、乱菊を傷つけたから、その理由ひとつで十分や……っ」

 

 そこまで言ったところでギンの足がずずっと前方に引きずられる。

 崩玉の周囲には途轍もない霊圧の余波による空間のひずみが発生しており、今にも藍染を飲み込もうとしている。その崩玉から藍染をこの場に引き止めているのは、ギンの刀に絡められた縛道の鎖一本だった。

 

「早くその鎖を放せ。あなたまで吸い込まれるぞ」

「ああ、ウルキオラ。なんや男らしい顔つきになりおったなぁ──」

 

 解放状態のウルキオラを見てギンは心なしか嬉しそうに笑う。

 その間にも一歩、また一歩と崩玉に引き寄せられている。

 

「前の人形みたいな顔より、よっぽどええ顔しとるで……っ!」

「市丸隊長! 早く鎖を!」

 

 鎖を断ち切ろうと刀を抜いた沙羅をギンは片手を上げて制した。

 

「沙羅ちゃん、頼みがあるんや。ボクがこいつと一緒に吸い込まれたら、崩玉を破壊してくれへんか」

「……何言ってるんですか⁉ そんなこと──」

「無駄だ、崩玉の破壊などできるものか。例えその娘が崩玉の宿主になったとしてもな」

 

 冷めた嘲笑とともに藍染が吐き捨てる。

 

 そう、かつての浦原喜助も幾度となく崩玉の破壊を試みて、そして挫折した。崩玉を生み出した張本人でさえ諦めざるを得なかったのだ。

 

「……そやろなぁ。どないな圧力かけても、崩玉は壊せへん。外側からの力だけやったらな」

 

 ギンの呟きに藍染の表情がこわばる。

 

「あんたが言うたんやろ。崩玉には強固な自己防衛能力があるから外部干渉にはめっぽう強い、内部からも同時に力かけんと破壊は不可能や、て」

「……!」

「ずっとこんときのために準備してきたんや……この手で崩玉を壊すためにな」

 

 鎖に引かれる刀を強く握り締めてギンは続けた。

 

「そやけどボクひとりじゃ無理や。崩玉の内側に入り込むんも、同時に外側から壊す協力者もおらへん」

 

 そこで沙羅に目線を移し、目を細める。

 

「まさか君がその鍵になるとは思わへんかったけどなぁ。感謝するで、ボクに復讐の機会を与えてくれたんやから」

「何を……する気なんですか」

「ボクの卍解は崩玉を壊すために編み出したもんや。刀身の塵が細胞を溶かして内側から崩壊させる。それで崩玉の力は弱まるはずや」

「なんだと……? おまえの卍解にそんな能力は……」

「ああ、前に話したん、あれは嘘ですわ」

 

 訝しむ藍染に涼しい顔で言い放ち、ギンは笑った。

 彼はとうの昔から準備を進めていたのだ。いつの日か、この強大で狡猾な敵を欺くために。

 

「崩玉の自己防衛が解かれたら、あとは外側から壊せるはずや。沙羅ちゃんにはそんときを狙って──」

「だめです!」

 

 強い口調で遮って沙羅はギンを見据えた。

 

「乱菊は知ってるんですか? ちゃんと話したんですか? 何も伝えないままなんて、絶対にだめです! 乱菊はずっと──!」

「知らんでええよ」

 

 今度はギンが遮る番だった。

 

「知らんほうが、ええ」

 

 哀しそうに、でもどこか安堵したように目元を和らげるギンに沙羅は言葉を失った。

 どれほどの力に抗っているのか、刀を握るその拳から血が滴っているのに気づく。早く鎖を放さなければ本当に藍染もろとも崩玉が生み出した異空間に飲み込まれてしまう。

 止めなければ。乱菊のためにも。それで本来の霊力を取り戻せたとしても、引き換えにギンを失うようなことを乱菊が望むはずがない。止めるべきなのはわかっている、のに。

 

 沙羅はもう知ってしまった。

 それこそが彼の本望であるのだと。

 

「無駄だ……無駄だ! おまえが命を懸けて内側から崩玉を弱らせたとして、その娘が本当に崩玉を破壊すると思うか? それで崩玉の暴走を止めたとしても、破壊した者は崩玉の霊圧を直に受けることになる……塵も残らず消滅するぞ!」

 

 声を荒らげて沙羅を睨みつける藍染。

 崩玉の内部に蓄積された膨大な霊圧を間近で浴びればどうなるか──藍染の言葉は脅しではない。

 崩玉の暴走を止めるだけならば、沙羅が崩玉の新たな宿主となれば済む話。命を投げ出してまで破壊するはずがない。そう言いたいのだろう。

 

「……厚かましい頼みなんはわかっとる。けど、崩玉を破壊せな乱菊の霊力は戻らへん。どないしても取り戻したいんや。それがほんまの……ボクが一緒に暮らしとった頃の、乱菊やから」

「市丸隊長……」

「乱菊だけやない。崩玉に力を吸われた死神はごまんとおる。もうこんな石ころに振り回されんのは御免や」

 

 ふ、と哀しげに漏らすギンに沙羅は言いようのない苦しさを覚えた。

 

「だからって、市丸隊長がいなくなったら……!」

「ずっと騙しとったんやし、合わす顔あらへんよ。……最後くらいええカッコさせてな?」

 

 そう笑って、ざっと白装束を翻すギン。その背に大きな『三』の字が見えたような気がした。

 彼は隊長の羽織を脱ぎ捨てたあの日──それとは比べ物にならないくらい重いものを背負ったのだ。

 いや、それよりもずっと昔──藍染の手にかかった乱菊を見つけたあのときから、ただ復讐だけを心に誓って。

 

「時間切れやな。……ほな、あとは頼むわ」

「……市丸隊長っ!!」

 

 踏みとどまっていた脚から力を抜くと、ギンの身体は一瞬にして藍染の元へと吸い込まれていく。

 

 

「卍解」

 

 

 そしてその引力に身を委ねたまま、彼はまっすぐ前方へ刀を突き出した。

 

 

(ころ)せ、神殺鎗(かみしにのやり)

 

 

 長く伸びた刀身が藍染を貫き、崩玉を囲むようにぽっかりと口を開けている黒い闇へと伸びていった。

 

「ぐっ……。こんな最期を迎えようとはな……」

 

 遠ざかる沙羅の姿を中心に捉え、顔を歪める藍染。

 

「やはり……君を配下にしなかったのは正解だった。本当に……扱いづらい娘だ……」

 

 次いでウルキオラへと目線を移すと、その口元には乾いた笑みが浮かんだ。

 

「傀儡に足元を掬われるとは……私もまだまだだな」

「…………」

「傀儡ではない、とは言わないのか?」

 

 黙ったままのウルキオラを皮肉るように肩をすくめる。だが、不思議とふたりを始末しておけば良かったという後悔はなかった。

 どこかで望んでいたのだろうか。この結末を。

 理解しがたい感情をもてあます藍染の肩を、ぽん、とギンが叩いた。

 

「ほな行きましょか、藍染隊長。地獄の果てまでお供しますわ」

「ギン……」

 

 そう言ってニィと目を細めたギンに、まだあどけなさを残した少年の顔が重なる。その笑みの裏に業火の如く燃えたぎる憎悪を隠して、百年もの間付き従ってきた銀髪の腹心。

 はなから信用するつもりなどなかった。手駒のひとつに過ぎなかった。だが、それでも──

 

 瀞霊廷での日常の風景や、虚夜宮での茶会の様子を思い返して、かすかに頬が緩む。

 この腹の読めない男とともにあった百年は、思いのほか楽しかったのかもしれない。

 

 ああ、そうだな……

 退屈では、なかった。

 

 ギンに引かれるまま崩玉の闇の中へ身を投じ、藍染は静かに瞼を伏せた。

 

 

 

 バツン──ッと空間の裂け目が閉じて、玉座の間に静寂が舞い降りる。

 残ったのは、沙羅とウルキオラと、そして哀しげに輝き続ける崩玉だった──……

 

 

 

 ***

 




《Piercing Silver…射貫く銀鎗》

 神をも射貫く銀の鎗。全てはただひとりの想い人のために。
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