私と君はどっちも馬鹿者。   作:あおい安室

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リリカルなのは15周年おめでとうございます!
(投稿時間は狙いました)


私と君はどっちも馬鹿者。

「私のことが好き? 嬉しいこと言ってくれるなぁ」

 

 それは私が二十歳を過ぎて少しした頃の思い出。

 私の仕事部屋を訪れた男性は私に悩みがある、と相談を持ち掛けてきたのだ。

 彼は仕事がとてもできて頼りにしていて、プライベートでも親しいとても信頼している副官だった。

 その相談内容が私への告白だったのは想定外だったが。だけど──

 

「だけど、そういう相手に私を選ぶのはやめておいた方がええよ」

 

 ──私は、彼の告白にYESと答える気はなかった。

 

「私にはヴォルケンリッターの皆がいるから色々と大変よ? 私が良くても全力で反対するかもなぁ」

 

 実際私が「この人、私の彼氏です」と紹介したら多分あの子たちは相当反対するか、相手がふさわしいか試そうとすると思う。

 それに……もう一つ、懸念がある。

 

「私は闇の書の主として見られてるのは君も知っとるやろ? 

 だから、君とそういう関係になったら君も変な目で見られることになる。

 ……はっきりいって気分がいいものじゃないし、正直言って辛いよ?」

 

 それに反論しようとした後輩を制止して、私は言葉を続けた。

 

「君がなんと言おうと、そういう思いはしてほしくない。させたくないんよ。

 大丈夫、君はいい人やから私よりもずっといい女に出会える。

 そばで君を見てきた私が保証する。だから──―

 

「私のことはあきらめてや、な?」

 

 そういうと、副官が少しだけ悲しそうな表情に変わった。そんな顔せんといてや、私がもっと辛くなるやろ……

 私はその気持ちをごまかすかのように小さく笑みを浮かべようとした。親が子供に優しくしかるときのような、笑みを。

 

 だが、その笑顔は歪んでいた。自分の中でぐちゃぐちゃになった感情が表れていたのだ。

 

 例えるなら、たくさんの絵の具を混ぜてよどんだ色。そんな色の、笑顔。

 

 それを見た彼は思わず口を開いた。

 

 ──―それでも、私は──―

 

 

 

 

「……んんっ……」

 

 彼の答えを聞くことなく、思い出から目が覚めた。どうやら私は仕事部屋で眠っていたようだ。

 眠たい目を擦って大きく背伸びして意識を目覚めさせていく。

 

「おはようございます、八神司令。目覚めの一杯にコーヒーいかがです?」

 

「うん……もらおか」

 

 そういうと目の前のテーブルにコーヒーが置かれた。

 

「あちっ、これ淹れたて? すっごく熱いんやけど」

 

「はい。八神司令の睡眠時間を推測してそこから逆算しベストのタイミングでいただけるように調整しました」

 

「ほうほう、相変わらずすごいなぁ『副官』君? ……うん、美味しい」

 

 お褒めいただき、たいへん光栄です。そう言って副官は私に笑みを浮かべた。

 コーヒーの苦みで目が覚めたところで、部屋の時計で時刻を確認する。

 

「もう夜の8時やん……なんで私寝てたんやろ? てか仕事は!?」

 

「椅子の上で眠そうにしていたら、そのまま眠っていたので日々の疲れではないかと。

 お仕事についてはご安心ください。仕事を終えてから眠ったので」

 

「そっか……そこは安心やな。でも起こしてくれたらよかったのに」

 

「お疲れの八神司令を起こすのは忍びなかったのです。

 最近は激務続きでしたし、仕方ないかと。私も配慮が足らず申し訳ありません」

 

「気にせんでええよ。私の自己管理がなってないだけや。

 でもわざわざ私が起きるまで待つとか律儀やなぁ、君も」

 

「あなたの副官ですので、これくらいは」

 

「ふふっ、ありがとな」

 

 軽く笑った私はふとテーブルの上の写真立てを見つめる。

 その写真立ての中ではかつての私──9歳の頃──とヴォルケンリッターの皆が地球の自宅前で並んでいた。

 地球で撮った写真の中でも思い出深いこの写真は私が私物として持ち込んでいる。

 

「ヴォルケンリッターの方々が気になるのですか?」

 

「んー、そうなんかもな。今日は皆臨時の仕事で結構遠い場所で働いとるから今日家に帰れるのは私だけやし。

 リインもメンテナンスでおらんからちょっと寂しい……あ、でも副官君がおるからそれはないか。

 ……機嫌直しや。寂しいって言った瞬間に表情曇るとか君は犬か」

 

「なんと、顔に出してないつもりでしたが……申し訳ありません」

 

「気を配りすぎやで、もう……でも、そういうところは悪くないんじゃないかな?」

 

「そうでしたか」

 

 副官の表情がぱっと明るくなった。いつも思うけど、彼の表情の変化はかなりわかりにくい。

 副官君の表情は無表情が多いが、よく見ればわかるのだ。わかると意外と面白いんよね、これが。

 なのはちゃんとか他の人には「なんでそれがわかるのかわからない」とか言われるけど。

 

「ま、写真立てを見たのはちょっと自分のことで思うところがあってな? 

 ……子供の頃の自分の顔を見て、改めて年を取ったなぁーって」

 

 よく手入れされた写真立ては鏡のように周りの風景を写しており、写真立てを見つめる私の顔ももちろん写っている。

 写っている私の顔は写真の中の子供の頃だった私よりも大人らしい顔つきになっていた。

 そして、わずかに老いが見えていた。もうすぐ30を超えるのだ、いつまでも若い顔つきではない。

 

「ですが、相変わらず綺麗ですよ?」

 

「ほめても何も出んよー……いや、そもそも副官君の評価は参考にならないか」

 

「ええ。私はあなたが一番いい女性だと思っていますから。

 ちなみに告白してから今日で10年になります。時の流れは速いものですね」

 

「うぐっ、み、耳が痛いことを……」

 

 10年前、この部屋で私は彼に告白された。先ほど夢でみたあの光景である。

 そして……彼の言葉の続きを聞く前に、用事があると言って逃げてしまった。

 そのまま有耶無耶になって今も上司と副官という関係を継続している。そのことについて彼は一度も触れることはなかった。今この瞬間が初めてである。

 

「……ところで、私よりいい女には出会えた?」

 

「ごまかしましたね、八神司令……まあいいでしょう。出会えるわけがありませんが何か? 

 八神司令が自分よりいい女と思っている方でも私にとってはそうではないのです。

 もう一度言いますが、私にとっては八神司令が一番いい女性なのです」

 

 ほめてくれるのは嬉しいんやけどいい加減諦めてくれんやろうか。

 

「相変わらずの重症やなぁ……

 私のことを忘れられるように合コンに送り込もうとしたら場をしっかりと盛り上げて一人で帰ってくるし……

 最近では主催してる人から「あの副官を誰が落とすかの賭博」してるとか聞いたし……」

 

「あ、実はそれ私が裏で主催してます」

 

「何しとるん? というかそれバレたら多分君ボコボコにされるよ?」

 

「ハハハ、冗談です」

 

「嘘つくな。君今まで冗談言ったことないやろ」

 

「おや、冗談を言ったことがないことを覚えてくれているんですね。

 ──―そんなことまで覚えていてくれるのに、やはりダメなんですか」

 

 副官君の声色が変わる。その声は、10年前のあの日の時と似ていた。彼が真剣になったときの声色だ。

 これは──―逃げられない。ここで、10年前の答えを出さなければならない。覚悟を決めて口を開いた。

 

「ダメや。例え君以外の誰が言ってきたとしても、絶対に私はOKは出さない」

 

「……やはり、そうですか」

 

 僅かに彼の目が曇る。やはり心の奥がズキリと痛む。だが、ちゃんと言わないといけないのだ。

 

「なあ、副官君。はっきり言うと私は君のことは好きや。

 仕事でも信頼してるし、プライベートでも趣味は結構合うし。恋愛的な意味では……多分、好きかな」

 

「ですが、やはり私には迷惑をかけたくないと?」

 

「そうなんよ。何年も君と一緒に仕事をしていたら君がどんな人間なのかわかる。

 君はとにかく真面目で目の前の仕事に全力で取り込み、最高の成果をたたき出しす。後の仕事の影響も常に考慮してるのも本当に凄いわ。

 部隊の皆のフォローも欠かさず、悩みがあれば解決のためにあらゆる手を尽くす。皆から君が頼れる存在だって聞いてる。

 戦闘面ではリンカーコアが致命的に小さいから前線にこそ出ないが、その分情報収集やオペレート等後方支援をこなす。その質は本当に高くて安心して背中を任せられる。

 君は本当に凄い。私がこれまでに出会ってきた管理局員の中では一番凄いと思う」

 

「高評価は嬉しいのですが、この場ではどんな顔をして答えればいいのか悩みますね」

 

「素直に喜べばええよ。やけど、それ故に……君が本当に私なんかにはもったいない」

 

「八神司令には、もったいない?」

 

 彼は首を傾げ、疑問に思っているのが見て取れた。

 

「だって私は馬鹿な女よ? 

 闇の書の主という悪名を背負わせたくなくて君の告白を振ったんやし。正直この悪名は今でも君に背負わせるつもりはない」

 

「……それは、八神司令が優しいからだと思います。

 あなたが私を思いやるからこそ、告白にこたえてくれなかったのでしょう? 

 だけど、私はそれでも──」

 

「それでも、私を好きだと言ってくれるんか? 本当に君はそういうところがいい人なんよね。

 だからこそ私は自分が許せない。君に答えを伝えずに何年も放置して、今日で10年……本当に馬鹿や。

 君が私を思いやるからこそ、君は私に答えを求めなかった。

 ……君は優しいなぁ。本当に君は私にはもったいない男や……なあ、副官君。私前から考えてたことがあるんよ」

 

 私はテーブルの引き出しの奥から一枚の書類を取り出す。

 その書類を副官に渡す。瞬時に目を通した彼は開いた口が塞がらない様子だった。

 

「私は明日、君を他の部隊へ異動させる。

 大丈夫、向こうの部隊としての格はうちとも遜色ないから君のキャリアに傷はつかん。

 実は前々から準備を進めてた。君がこの部隊にいたら私を忘れることはできないやろ?」

 

「待ってください八神司令、私は!」

 

 反論しようとした彼を制止する。10年前と、同じように。

 

「副官君……私の頼み、聞いてくれ。君が私のことを好きなら……頼む」

 

 

 ──―こうでもしないと、私は君のことを忘れられそうにない──―

 

 

 私がそういった瞬間、彼の手が素早く動き、書類が破かれる。

 

「なっ──」

 

 その光景に私は一瞬頭の中が真っ白になった。ほんの一瞬だった。

 その一瞬で私は彼に詰め寄られ、両肩をつかまれていた。

 

「嫌です、八神司令。俺はあなたの記憶からは消えたくない」

 

「ふ、副官君……何を!?」

 

「闇の書の主? 情けない女? ヴォルケンリッター? そんなことはどうでもいいんですよ!」

 

 怒気を含んだ声で、しかも至近距離で言われてすくむ。彼がここまで怒った姿を見たのは初めてである。

 

「八神司令。俺はですね、あなたのことが好きなんですよ」

 

 そういうと、彼は力強く私を押してきた。小さく声をこぼしながら、私は抵抗できずに後ろへと下がっていく。

 ドン、という感触と共に背中に硬いものを感じる。壁まで追い詰められた。逃がすつもりは、ないのか。

 いつもであれば私は魔法を使ってあっさりと彼を捕縛していただろうが、予想外の状況にそのことが頭の中から抜けていた。

 

「好きで好きでたまらないんですよ……! 

 

 たとえその道の先に何が待っていようと、俺はあなたを愛したい!! 

 

 隊長が嫌と言っても、俺の思いは変えません……絶対に!!」

 

 追い詰められた私は彼の言葉を聞いていた。

 彼の言葉を聞きながら、瞳を見つめる。燃えるような感情がそこにはあった。

 いつも冷静で、表情をあまり出さない彼がこんな瞳をしているのは……初めて、見た。

 それほどに私を想っているのだ、彼は。

 

「……それに八神司令には私も謝りたいことがある。あなたが馬鹿な女なら、私も馬鹿な男なのです。

 10年前のこの日、私があなたに告白した時刻を覚えていますか? 

 10年前のこの日、ヴォルケンリッターやリインフォースツヴァイが何をしていたかを覚えていますか?」

 

「10年、前……あっ!!」

 

 10年前のこの日、告白された時間は今と同じく夜だった。

 10年前のこの日、ヴォルケンリッターの皆やリインは様々な事情があって遠いところにいた。

 

「そうです。仕事が終わって誰もいない職場。あなたの家族が邪魔をできない状況。

 私はそれを選んで告白したんです。どうしても、邪魔されたくなかったから。

 本当なら10年前のこの日今みたいな感じであなたを追い詰めて答えを絶対に聞くつもりだったんです。

 あなたは『私を選ぶのはやめておいた方がいい』、『あきらめて』と明確にNOを言ってくれなかったから」

 

「は、はは……馬鹿やろ君……! ほんっとうに馬鹿やろ!? 

 まさか、今日ヴォルケンリッターの皆が任務でいなかったり、リインのメンテナンスが被ったのって……」

 

「それらは完全に偶然です。ですが、今しかないと思った。

 10年前に勇気が出なくてあなたから答えを聞けなくて、それからずっと私はあなたに答えを聞くことができなかった。

 もしも、私に勇気があれば10年もこの想いを引きずらなかった。八神司令、私は馬鹿な男です」

 

「……本当、馬鹿やな、君は」

 

 呆れた。なんだ、馬鹿なのは私だけじゃなかったのか。

 私のことをずっと好きでいる彼のことを内心馬鹿だとは思っていたが、まさかここまでとは。

 

「八神司令……ごまかすような答えはいりません。ここであなたが逃げたとしても、私は一生追い続けます」

 

 

 ──―だから、あの時の答えを聞かせてください。

 

 

 

 

「そして、私は彼にどう答えたのかというと……

 その、肝心なところで言葉に出す勇気がなくて……

 顔をほんの少し前に出しただけです……状況的に後は察してください……」

 

 久しぶりに飲もう、という話になり、罰ゲームで私は副官君、もとい旦那とのなれそめの話をすることになった。

 ここまででも十分恥ずかしかったのに締めに入ると赤面が止まらない。

 お酒飲んでて顔赤くなっててよかったわー……

 

「あはは、なんかはやてちゃんらしいねぇ。ねえフェイトちゃん?」

 

 なお、飲んでいるメンツは。

 

「そうだね、なのは。こういうところがはやてらしいよ」

 

 なのはちゃんとフェイトちゃんである。

 結婚式の時にもそうとういじられたのになんでまたいじられなきゃならんのか。

 

「二人は私をどういう目で見とるんや……」

 

「あ、でもこの後のあれの話は?」

 

 あれ……? なんだか嫌な予感がしてきた。

 

「この後も続きがあったの?」

 

「うん。副官さんからこの前聞いたんだけど、はやての返答のキスの後にさ」

 

「ちょ、ぼかして言うたのにストレートに言わんといてやフェイトちゃん!? 

 それにその話はマジで内緒にしてほしかったのになんで口走っとるんや旦那ーっ!!」

 

 旦那は今度締める。甘い言葉囁きながら絞めてやる……!! 

 

 

 

 

 八神司令は言葉を発することなく、静かに顔を近づけてきた。

 そして、私は意図を察して少しかがんで唇を八神司令に合わせる。

 そのまま何秒か経った頃、そっと八神司令の手が私の背に回ってきた。

 私も意図を察し、肩から背に手を回し、八神司令を抱きしめた……すると突然背をつままれた。割と強めで。

 

「馬鹿、力強すぎや。私をつぶす気か? 抱きしめてもらえるのは嬉しいけどもうちょい加減してほしいわ」

 

「す、すみませんつい……その、八神司令の背がちょっと低めで加減を間違えてしまいました」

 

「遠回しに私を馬鹿にしとるんかそれは」

 

「背が低いところも八神司令の魅力ですので馬鹿にしたつもりは全くありません!!」

 

「お、おう。堂々と言われるとなんか嬉しいな……

 後ちょっとキス長くない? 息ができんかと思ったんやけど?」

 

「……本当に申し訳ない。あまりにも嬉しくてつい夢中になっていました」

 

 頭を下げるが、別に気にしなくていいと止められる。そうだ、まだ私は答えを聞いていなかったが──―

 ──―やめた。聞こうとして目を向けると「さっきのでお前はわからないのかと」視線で抗議された。

 

「……八神司令。ありがとうございます」

 

「……はあ。副官君、私の言いたいことは分かったと思う。

 その代わり、条件が一つある。これを絶対に守ること。いーい?」

 

 そういって八神司令は人差し指を唇に当てると、子供っぽい笑顔と共に言った。

 

 

「二人きりの時ははやて、って呼ぶこと。わかった?」

 

 

 その時の八神司令──―いえ、はやての笑顔は、本当に綺麗だった。

 

 

 10年前とは違う、ただ喜びの感情一色の、綺麗な笑顔だった。

 

 




その後の二人がどうなったかって?それは皆さんのご想像に任せます。

ただ一つ言えるとしたら……


そして、二人は幸せに過ごしましたとさ。


めでたしめでたし。
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