目が覚めたら経験したことのない記憶が入っていた———なんて事はまず経験しないだろう。
もし、そんな事を言い出す人がいれば、勘違いかホラ吹きのどちらかだろう。
ただし、それは普通の人間の場合である。普通ではない人間はその限りではない。
これはそんな普通ではない少年の話である。
「……何だよこれ……何なんだよ!」
酷く汗を垂れ流し、焦燥しきった表情の少年がベッドの上で頭を抱えていた。
おそらく5歳ほどであろう……が、その言動はとても5歳の少年のものとは思えないものだった。
「頭が……痛い。転生……?何だよそれ……ふざけやがって……」
この少年は転生者である。言動が年齢と一致しないとも当然といえよう。しかし、その言葉からは転生を望んでいなかったかのようなものが飛び出る。
「だったら俺は何のために……それよりも……転生させるなら……せめて、前よりはマシにしてくれよ……」
前よりもマシ……このことについては彼の前世について少し語る必要がある。
彼、『
しかも、普段は全く相手にされないにも関わらず、自分が両親や弟に対して不利益な行いをしようものならば、それを過剰に責め立ててくるのである。——弟は常にガン無視で相手にすらしてくれなかったが。
さらに言えばあることが原因で友達もいなかった。——その理由についてはまだ語らないが。
そして、転生した今世の家族はというと——
「また……ロクでも無い……というか顔も名前も同じだ」
前世と変わらぬネグレクトである。両親も弟も自分のことなど無視である。
さらに今世では別の問題もついてきている。それは——
「こんな余計なものをどうやって使えって言うんだ……この世界で何の役に立つって言うんだ……」
彼が手に入れた特典は少し複雑だが二種類ある。一つは『UNDERTALE』に出てくるモンスター達の魔法の力。……この時点でこの世界には似つかわしくない。しかも、力を与えられたのみで使い方は自分で模索しなければならない。
もう一つはAltenate Universe……通称『AU』の力。こちらはなにしろ数が多すぎるのだ。ものによっては本家以上に危険なものもある。……もちろん使い方は自分で探さなければならない。
そもそもの話、彼はこの特典を自分で選んだわけでは無い。勝手に与えられ、勝手に転生させられた結果、このように特典と世界が噛み合ってないという事態が発生しているのだ。本当に余計なものである。
「……死んじまったほうが楽かなぁ……へへ……」
前世から続く自分を愛してくれない両親と口も利いてくれない弟、今世で背負わされた『転生特典』という重荷。……いきなり記憶を取り戻して思い出したことがこれである。そう思っても仕方ないだろう。享年18歳の彼にはあまりにも重すぎる。
——しかし、そんな彼を見放さない存在が一人いた。
「お兄ちゃん……?死んじゃうの……?」
「…………え?」
前世ではいなかった家族——双子の妹である『
無論、記憶を取り戻す前の記憶がある刃も彼女のことは知っている。が、記憶を取り戻したことによる混乱で一時的に忘れていたのだろう。自分に話しかける家族に驚愕してしまう。
「い、いや……いやだよ……死なないでよお兄ちゃん!!死んじゃいやだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「か、薫!?な、泣かないでくれ!?」
ついには泣き出してしまった薫を慌てて慰めることになってしまう。……これに関しては完全に刃が悪いので彼に同情の余地はない。
「ひぐっ……ぐすっ……もう死んじゃうなんて言わない……?」
「言わないから…な?いい子だから寝ような?」
「………お兄ちゃんも寝るなら寝る」
そう言って布団に潜り込む薫を眺めながら、刃もゆっくりと布団に入り直す。
今の刃に死んだ方がマシという考えはもうなかった。彼女が、現状でたった一人とも言える家族の存在が彼の擦れた心を引きとめたのだ。
——自分を愛してくれている妹を泣かすわけにはいかない。それが今の彼の心境だった。
妹の規則正しい寝息が聞こえ始めたころ、刃もゆっくりと目を閉じた。
そして、次の日から始まるのだ。転生者としての塵山刃の『イナズマイレブン』の生活が。
————彼はなにがなんでも『幸せ』になる決意を抱いた。
リメイク前との変更点
・刃の精神面の状況
リメイク前は荒れ気味でしたが割と平静でした。今回は焦燥した感じに……なってるといいなぁ。
・薫が刃の能力を知らない
リメイク前は1話目でバレてましたが、今回は秘密に。……これもっと暗くなるだけなのでは…?