初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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二度目の助言

 砂浜に恐怖の爪痕が刻まれていた。爪の主は必死に抵抗して動こうとしなかったけれど、砂に爪を立てても意味が無い。ガタガタ震えながら向こうに連れて行かれたけれど、流石に悪戯が過ぎたもの、仕方が無いわ。

 

「それはそうと賢者様、正座」

 

「え?」

 

「ペットの不始末は飼い主の不始末。ほら、早く正座」

 

 何時も好き放題しているアンノウンだけれど、そんな風に育てたのは間違いなく賢者様。数少ない言う事を聞かせられる人なのに、全然躾がなってないから駄目なのよ。今回が良い機会だからアンノウンへのお説教は女神様達に任せて、私は残った賢者様にお説教を始める。具体的に言うと飼ってる動物への躾の重要性について。私だって羊達や牧羊犬のゲルドバへの躾はちゃんとしていたわ。それが生き物を飼う時の義務よ。

 

「大体、アンノウンは頭も良いし能力も凄いんだから変に放置するのは危険だって賢者様にも分かるでしょう? 賢者様なのだから」

 

「そうなのですよ。あの子は本当に賢い上に優秀で……」

 

「ちゃんと反省する!」

 

 私、未だ十一歳なのにどうして三百歳越えの賢者様にお説教しているのかしら? 着替えたレリックさんとナターシャさんだって困った様子で私に話し掛けられずにいるみたいだし。

 

「……なんっつーか、とんでもないな、色々とよ。あの使い魔といい、ポンコツ飼い主だった賢者様といい、その賢者様を叱っている勇者といい……」

 

「結局、幻想や憧れを通して見た光景が伝わっているだけで、本当は人間臭いのよ。でも、そんな所が好きだから愛人にして、賢者様」

 

「未だお説教の途中ですので邪魔しないで下さい! 空気読んで、空気! ほら、賢者様はもう一回レリックさんに謝る!」

 

「私の使い魔がご迷惑お掛けしました」

 

「お、おう……。もう良いわ、別に気にしてねぇし」

 

 第一印象ではちょっと怖い人だったし、さっきアンノウンによっての第二印象は妹萌えの女装趣味の変態ロリコンだったけれど、こうして見てみると悪い人じゃない。私が休暇を貰っているって聞いた時も、てっきり休まず戦えって言われると思ったのに……。

 

「……休暇? はっ! 精々遊びすぎて疲れを残さねぇ事だな」

 

「あっ。要約すると体を休めなさいって事だから。此奴、もの凄いツンデレなの。乱暴な言い方しか出来ないだけで。あと、お兄ちゃん云々は子供好きなだけと……これは黙っておこうか。本人の問題だしね」

 

 それだけに惜しいわ。何せアンノウンに気に入られちゃったみたいだもの。あの子、気に入った相手への悪戯が凄いから。でも、気に入った相手の為には力をちゃんと使うのよね。

 

「さて、小言はこの程度で終わらせましょう。それで、あのスライムは一体何なんですか?」

 

 聞いた話じゃ船の廃材を取り込んで動いていたって話だし、そんなモンスターは聞いた事が無いわ。遠くから知ってる子の悲鳴が響き続ける中、私は賢者様の言葉を待つ。その内容は予想外の物だったわ。

 

 

「あのスライスの名はゴーラ。この世界……いえ、六色世界とも無色の世界とも全く違う世界より召喚された存在です」

 

「えぇっ!? ……まあ、納得ね」

 

「おいっ!? 異世界だぞ、異世界っ!? そんな御伽噺でっかレベルの話を聞いて反応それだけかよっ!?」

 

「レリックさんって常識人なんですね。……今後苦労しますよ」

 

「……嫌ぁな予感がする忠告だな、おい」

 

 アンノウンは興味が無い相手には積極的に関わらない。でも、逆に言えば興味を持たれたら何時関わって来るか分からない所があるの。少し前の私ならレリックさんみたいに驚いていたでしょうけれど、異世界とか今更なのよね。賢者様自体が別の世界の人のコピーだし、アンノウンの部下の人達も出身地がバラバラの異世界らしいし。

 

「少女よ。この様な若者にはあまり忠告をしてくれるな。心構えをされていては反応が楽しめん」

 

「ぬおっ!? 何だテメェはっ!?」

 

「私は鳥トン。まあ、異世界出身の聖職者だと覚えておいてくれ」

 

 例えば急に現れた鳥トンさん。もう異世界の存在を聞かされても今更なのよね。所でゴーラってどんな世界の出身なのかしら?

 

「ねぇ、鳥トンさんはゴーラの出身世界について何か知っているかしら?」

 

「いや、知らんな。それよりも主に頼まれて本を持って来た。私の世界の物語だ」

 

「ありがとうございます!」

 

 私は本が大好きなので異世界の物語だなんて聞いただけで心が躍るわ。その世界ごとの考え方が反映されているでしょうし、内容が全く予想出来ないもの。

 

「……本好きなのか?」

 

「ええ! 小さい頃は寝る前にお母さんに何度も読んで貰っていたわ」

 

「……そうか、俺もだ。って、この表紙の絵だが変だな。この耳ってエルフだろ? 文字は読めないのに何故か意味が分かるのは魔法だとして、この華奢な体とか病気か?」

 

 そうなのよね。賢者様の知っているエルフや鳥トンさんの持って来てくれた本に出てくるエルフって痩せた体で森に住む理知的で美形な種族って感じらしいけれど、凄く変わっているわ。エルフって海に生きる男女ともに逞しく心の熱い種族なのに。

 

「エルフがこんなのなら、スライムだって変でも不思議じゃないわよね」

 

「だな」

 二人揃って同じ意見で頷けば何故か安心を感じたわ。思い返せば女神様は神だし、賢者様も微妙にズレているし、アンノウンはアンノウンだし、常識を共有出来る相手が居るのが嬉しいだなんて今まで分からなかったわ。

 

「ねぇ、レリックさん。私達の旅に同行って出来ませんか?」

 

 だからだと思うけれど、そんな言葉が口から出ていた。これには少しだけ魂胆があって、率直に言うならツッコミ役が私しか居ないのは大変だったのよ。人前でイチャイチャする賢者様達や好き放題にボケをかますアンノウン、ついでに偶に顔を出すイシュリア様はイシュリア様。私だけじゃ捌くのが間に合わないけれど、アンノウンが気に入る程のレリックさんが居れば安心だと思うわ。

 

「ゲルダちゃん、ゲルダちゃん。此奴に頼むならお兄ちゃんって呼んだら効果有りよ」

 

「えっと、お兄ちゃん?」

 

 ナターシャさんに言われて、勢いで口にしたけれど凄く恥ずかしい。アンノウンが女神様達に連れて行かれているのはラッキーだったわ。

 

「……無理だ。まあ、世界を救うのは大変だろうが、他の仲間を捜せや。後一人居るはずだろ? 勇者の仲間は最低三人なんだからよ」

 

「は、はい。えっと、変な事言ってごめんなさい!」

 

 そんな風な思いから口にした言葉だけれど、レリックさんにはレリックさんの都合が有るし、個人的な理由で頼む事じゃなかったわ。流石に自己嫌悪で落ち込みそうになるけれど、レリックさんはそんな私の肩に優しく手を置いた。

 

「気にすんな。餓鬼は好き嫌い無しに飯食って、夜更かしせずにちゃんと寝る事だけ考えてろ。……機会が有れば手助け位はしてやるよ」

 

「はい! その時はお願いします!」

 

 ぶっきらぼうな言い方だけれどレリックさんの優しさが伝わって、私の心の中にポカポカと温かい物が生まれるのを感じたわ。楽土丸に感じた物とは別物で、彼と接すると安心感を与えてくれる。恋ではない何か、まるで家族と一緒の時みたいな……。

 

「……あれ? あの、レリックさんと私って会ったばかりですよね?」

 

「……ああ」

 

「じゃあ、きっと気のせいですね。ずっと昔にレリックさんの声を聞いた事が有る気がしまして……」

 

「……そうか」

 

 会った時に何処かで見た事の有る気はしなかったのに、言葉を掛けられたら何故か懐かしく安心する感じがしたけれど、多分似た声の人が居るのね。

 

 この時、レリックさんが少し嬉しそうで、そして悲しそうな目をしたのだけれど私は気が付かなかった。

 

 

 

 

「仲間に知らせるからって一緒に戻ってるけれど、少し位なら一緒に居ても良かったのよ? だって、ずっと守りたいって思ってたんでしょう」

 

「……別に? あんな餓鬼、賢者様達が居るんだから俺は不要だろ。なら、俺がやるべきなのは勇者の手が届かない場所で人を救う事だけだ。それに気にしなくて良い事を気にしそうだからな、彼奴は」

 

「素直じゃ無いわね。……まあ、アンタがそれで良いなら余計な事はもう言わないわ

 

「……ども」

 

 

 

 異世界より来たりし存在。存在が別物過ぎて仲間が居るのかどうか調べるのさえも困難な中、私とソリュロ様は心当たりの有る場所に調べに行く賢者様とは別行動を選んで……。

 

 

「特盛り中辛カレーのトッピング全乗せお待ち!」

 

「わー、来た来た」

 

 私達は今、イエロアのカレー屋に来ていた。……本当に良いのかなぁ? でも、凄く美味しそう。トンカツにオムレツにエビフライにメンチカツ、ご飯もルーも付け合わせも凄いボリュームで、見ているだけで食欲をそそる。

 

「休む時や遊ぶ時にはそれに集中しろ。私の弟子が任せろと言うのだ、任せておけ」

 

 そう、私達は休暇中だから全部賢者様が解決してくれるって言ったし、こうして遊んで終わるのを待つの。不適に笑うソリュロ様は威風堂々とした佇まいで、賢者様の師匠である女神としての威厳があったわ。

 

「……このパフェ美味いな。果物とクリームの相性が絶妙だ

 

 但し、口にアイスクリームが付いているのに気が付いていない事で台無しだけれど。そんな所も賢者様の師匠だなって思えるわ。

 

「……それにしても白神家かぁ」

 

 レリックさんが別れ際に言ったのだけれど、白神家には関わるな、その忠告は二回目だったわ。前も一度、注意する旨を忠告された事を思い出す。偶然出会ったパップリガ出身の人で、何故か私の両親の事を知っていた人。

 

「確かあの人の嫁ぎ先の領地って……」

 

「なんとゲルダではないか! この様な場所で再会するとは、妾の普段の行いが良い証拠だな!」

 

 噂をすれば何とやら。背後からその人の声が聞こえ、振り向けば太陽の様に明るく温かい笑顔を浮かべる彼女の姿があった。

 

 

 

 

 




何かモブの筈がキャラ立ちして来たレリック君  危ない危ない 私の作品ですよ? 立つよ、例のあれが
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