初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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勇者の休日

「……うぅ、暑い。これ、本当に気持ち良くなるのかしら……?」

 

 楓さんの屋敷に招かれ、白神家に関わるなという忠告の意味を理解した私は不安と後悔に襲われていたわ。これから世界を救う為の旅で訪れる事になるパップリガは獣人の血を引く私には居心地が良い世界とは到底思えず、それが間違っていると思っている楓さんには軽い気持ちでその事を象徴する事件について話させてしまったのだもの。でも、楓さんは気にしないで良いと言ってくれた。凄く辛そうだったのに。

 

 そんな私は今、少し苦しい目に遭っているの。砂漠の暑さとは少し違った蒸し暑さの中、バスタオルだけを体に巻いてひたすら耐えるサウナっていうのを体験しているのだけれど……正直無理だわ。後から入る水風呂が気持ち良くなる為に必要な時間を示す砂時計は未だ半分程度が過ぎただけなのを示しているし、何よりも楓さんと一緒なのが辛かったの。

 

「ソリュロ様、ちょっと変じゃないですか? 勇者としての力で炎や冷気に耐性が有るのにサウナの暑さが堪えるってのは……」

 

「耐性強化が進んだ場合、普通の温度では何も感じなくなっては困るだろう? その辺りは私が調整しているのだ。勇者選別関連に関してもどうにかしたかったのだが、その辺は他の者の担当でな。……私にしか出来ない仕事が減れば良いのに」

 

 楓さんは敢えてソリュロ様の名前を訊ねないから、私は名前の部分は聞こえないようにと隣に居るのに小声で話し掛ける。ソリュロ様も私と同じく汗だくだけれど随分と余裕が有りそうだったわ。

 

「……何かしています?」

 

「サウナというのは一種の我慢比べの場だからな。まあ、勝負の世界は非情だと覚えておけ」

 

「むぅ」

 

 ちょっとだけズルいと思って抗議を込めた目で見れば顔を逸らされるし、ズルいとは思っているらしいわね。そんな遣り取りが見ていて楽しいのかクスクス笑う声が聞こえて来て、ついつい楓さんの方を見てしまうのだけれど、直ぐに後悔したわ。だって、だって……楓さんって服の上から見た時よりもスタイルが良いのだもの!

 

「子供同士のじゃれあいとは見ていて微笑ましい物だ。まあ、女神殿は子供ではないのだが、それでもな」

 

 少し動いただけで揺れるお胸に視線を逸らし、私と同類のソリュロ様を見てホッと安心する。ああ、良かったわ。

 

「私だけでなくて良かったわ。貧乳同盟の仲間が居て」

 

「……ふむ。ならば私がこうすれば同盟は脱退か?」

 

 私の視線に何かを察し、言葉で確証を得たらしいソリュロ様はそっと自分の体を撫でる。この時、私は何が起きるのか理解して、止めて欲しいと願うけれど目の前の神様にさえ願いは届かなかったわ。僅か一回の瞬きの後、私の目の前にいた永遠のお子様体型の筈のソリュロ様は二十代の知的でセクシーなお姉さんの姿になっていたの。

 

「ふふふ、どうだ?」

 

「……ソリュロ様の裏切り者」

 

 私はお母さんが絶壁だったから将来性が絶望なのに、どうして目の前で見せびらかすのかしら! ソリュロ様が女神じゃなければ目の前の駄肉を叩いていたわ、猛連打で! ……サウナから出るまでソリュロ様とは口を利かないんだから。

 

「ど、どうした!? ほれ、もう元に戻ったぞ! お前と同じ絶壁だ!

 

 私が頬を膨らませて顔を背けた事がショックだったのか元に戻るソリュロ様だけれど、余計な事まで口走る。私、絶壁じゃないわ。他の子より少し……多少小さいだけだもの。触ってもペタペタと音が鳴ってお肉を感じないけれど、絶対少しは大きくなるもの……多分。

 

「……自由に胸部に駄肉オプション追加可能なソリュロ様とは違うわ」

 

 何度目になる事だけれど、神様と人間って考え方に大きな違いがあるわよね。何時も下着姿みたいな痴女丸出しの姿で実際に痴女なイシュリア様とか。もう知らない!

 

 

 

 

「……あれ? 何か今、無関係な事で風評被害を受けた気がしたのだけれど、母様は何か知ってる?」

 

「さあ? でも、風評被害では無いと思うわよ?」

 

「妹だけでなくって母親も酷いのだけれど!?」

 

 ……今、何処かの母娘に何かが伝わった気がしたけれど、きっと気のせいね。イシュリア様だったら普段から感じ取っている筈だけれど何も聞いていないもの。

 

 

 

「……はふぅ。水風呂って凄く気持ち良いのですね」

 

 サウナの前は幾ら暑い世界でも、魔法で冷やした水に暫く浸かるだなんて不安だったのに、サウナで十分に体を温めた後は天国だったわ。まあ、神様達が住む世界が正に天の国で、こんな感じではないと思うけれど。

 

「サウナ後に水風呂に入れば疲労の回復にも役立つ。これを三度b繰り返すのがコツなのじゃ」

 

「へ、へぇ、そうなのですね……」

 

 うん、凄いわね。楓さんの胸が水の中で浮こうとして揺れている。凄く揺れて、周りが波打ちそう。私の周囲? 全くの凪よ、ソリュロ様も。何と言うか、レリックさんに感じた物に似た事を感じる人だけれど、この時間は目を向けたく無いわね。

 

「あの、所でお仕事の方は?」

 

 そう、領主の仕事は忙しい筈なのに、こうやって私の為に時間を割いて貰うのは気が引けていたの。折角気を使って貰っていたから口に出さない様にしていたけれど、どうも気になってしまったわ。後で凄く大変になるんじゃないかしら?

 でも、そんな私の心配なんて杞憂だと言わんばかりの笑い声が返って来たわ。

 

「はっはっは! 我がカイエン家には優秀な人材が揃っていてな、領主が危急の事態で働けない時の代理とて可能なのだ。そして世界を救うお主の休暇と聞いたその者達が、今を危急の事態と判断し、妾には接待役を任せて来た。……後は分かるな? 野暮な事は申すなよ?」

 

 ……うん、心に染みるわね。確かに目を背けたくなる酷い現実も有るけれど、こうやって支えてくれる心の温かい人も確かに存在して、私の心を、旅路を支えてくれる。それが嬉しくって堪らなかった。だから世界には守るべき

 

 

 

「あー、美味しかった。イエロアの料理ってスパイスが利いていて刺激的な味ね」

 

 サウナと水風呂を三往復してリフレッシュした私達を待っていたのは、部屋に入る前から鼻を刺激するスパイスの香りだったわ。味も色も鮮やかで食欲を増し、ちょっと食べ過ぎてしまってお腹が苦しいけれど、流石にはしたなかったかしらね。

 

 通された客間に用意されていたのは数人が余裕で寝そべられる巨大なベッド。その端に座ってお腹をさする。時計を見れば未だ時間が有るし、ちょっと読書でもしましょうか。

 

 楓さんに頼んで用意して貰ったのはイエロアに伝わるお伽話の絵本。砂漠に沈んだ王国の話は前に聞いたし、実際に行ったから読まなくても良いとして、一体どれから読むべきかしら? どれも初めて目にするタイトルで、宝探しに出た普段はいがみ合っている三人の王子様達や目を覚ましたら王様になっていた乞食、イエロアの文化や風習が出ていてどの本も面白そうね。

 

「ちょっと良いか?」

 

「あっ、はい。どうぞ」

 

 三冊目の本を選んで、盗賊の宝を横取りした弟の話を聞いたお兄さんが、自分も宝を手に入れる為に宝の隠し場所まで来た所まで読んだ時、不意に扉の向こうから楓さんが声を掛けて来たわ。本に栞を挟んで通したけれど、使用人のお姉さん達にパップリガの衣装を持たせていたの。でも、楓さんのにしては随分と小さいわね。

 

「読書中であったか? それは悪かったな。実は家を出る時に幼い頃の着物も持って来て、思い出の品として仕舞い込んで居たのじゃが……着てみんか?」

 

 着物ってお母さんが一着だけ持っていたけれど、凄く綺麗だったわね。着方が分からないし、未だ私には大きいから引き出しに眠ってあるけれど楓さんが持って来た着物も凄く綺麗だったわ。金色の糸で模様が描かれた紫の着物や色取り取りの花を描いた白の着物。でも、私に似合うかしら?

 

「何やら不安がっているが安心せよ。お主は母に似ているからな。似合う似合わないで悩むより先にお洒落を楽しむのじゃ」

 

 楓さんは少し強引な感じで着物を薦めて来るけれど、そうやってグイグイ来られると私も興味が湧いて来た。うん、確か胸が小さい方が見栄えが良いのよね。それに折角の機会だし、ドレス以外の綺麗な服を着てみるのも経験よね。私だって女の子だし、着飾らなくちゃ。

 

「じゃ、じゃあ、この白い奴を……」

 

「勿体無い! どうせだったら全て来てみせよ。簪も有るし……髪も整えるぞ!」

 

「え? えぇ!?」

 

 どうやら思った以上に楓さんは強引な人だったみたい。着物だけじゃなくって簪も色々試して、どうせならと髪を結ったり紅を差したり、すっかり着せ替え人形だったわ。正直言って疲れたけれど、それでも凄く楽しかった。

 

 私、羊飼いだった頃はお洒落なんて今まで碌々した事が無くって、勇者になってからは宴の席に綺麗なドレスを着た程度。女神様だってお化粧には詳しく無かったし、私は子供だからした事は無いもの。同じ年頃の子はお姉さんやお母さんの化粧道具をこっそり使うらしいけれど、私にはどっちも居ないし……。

 

「あ、あの! 楓さん、お化粧について教えて貰いませんか?」

 

 偶にやって来るイシュリア様は詳しいだろうけれど、ちょっと信用出来ないわ。でも、楓さんは信用出来るし、何故か甘えたい気分になれるの。お父さんと知り合いで、同じ世界の出身だからかしら?

 

「勿論良いぞ。では、未だゲルダは童じゃし、軽い物から……」

 

 だから折角の休暇で、折角の機会だもの。私だって少しは女の子らしく過ごしたい。だから、少しだけ勇気を出して進みましょう。大丈夫、私は勇者よ。勇気だったら誰にも負けないわ……多分。

 

 

 

 

 

 ……この時、私は予想すらしていなかったわ。私達がイエロアに出掛けた後、町とあの人にあんな事が起きるだなんて。

 

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