初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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とあるメイドの絶望報告

 この世には絶望しか存在せず、希望でさえもそれを際立たせる為の罠でしかない。魔族として誕生した数年で私はそれを学びました。

 

 だから今ではあの時の自分が羨ましい。この世に希望を抱いていた頃の自分が……。

 

「……凄い。これだったら……」

 

 粘液にくるまれた状態で内部から卵の殻を割るかの様に誕生した私が始めて目にしたのは、膨大な数の同族の姿。少々残念なのは自分が最初の頃に起きた事から下級魔族でも底辺だという事。私より先に目覚めたのは僅か数人で、私も彼女達に混ざって上の方々のお世話の為に動き出す。

 

 

 だって、私達も誇り高き魔族の一員。戦う力は僅かでも、魔族の役に立てるならこんなに嬉しい事は無いと、この時は思っていたの……。

 

 

「ひひっ! 嬢ちゃん、その格好はどうしたんだ?」

 

「誘ってるんだろ。おい! 野郎共、この嬢ちゃんの望みを叶えてやろうぜ!」

 

 今回魔族が誕生したのは赤の世界レドス。六色世界では黄の世界イエロアと双璧をなす過酷な世界で、世界全体に荒野と火山が広がっていて、人は僅かに存在する住み易い場所に固まっている。だから、こんな盗賊みたいな連中が幾らでも存在したわ。

 

 当然だけれど衣服を着て生まれて来る者は居ないし、仮に衣服を生み出す能力を持っていたとしても生まれたばかりじゃ扱えはしない。だから私は此処に来た。裸で現れた若い女の姿に興奮して不愉快な視線を向ける盗賊を皆殺しにして物資を奪い、そして連中が感じた恐怖や苦痛の感情で力を増して能力を得たら村や小さな町を襲う。

 

 誕生した時点で強大な力を持つ上級魔族の皆様とは違い、私に可能なのはその程度。でも、逆を言えば小さな盗賊団程度なら今の私でも対処可能。まあ、魔族は人を超越した存在。無駄に多い数の中から稀に対抗出来る者が出て来る人と違い、平均値があまりにも違うのよ。

 

 

 

「……はあ? 人間に捕まっていたって?」

 

「そうよ。ほら、彼処に居る確か名前は……ルル・シャックスだったかしら? 十人も居ない盗賊団を襲いに行ったら捕まって、犯され続けたんですって。捕まってから二十日後辺りで向けられていた悪意で得た力で逃げたそうだけど……恥曝しよね」

 

 自分より下の相手が居れば安心するものよ。後から目覚めた同胞、それこそ下級魔族でも、初期に目覚めてから力を蓄えていた私達よりも強い子が居る事に少し劣等感を感じていた時に耳にした明らかな格下の話は安堵感を得るのに十分だったわ。

 

 明らかに鈍臭そうで気弱なのが通じるルルは何も無い所で転んで荷物を周囲に撒き散らしている。彼女を最下級魔族と陰口を叩き、直接的な行動は無かったけれど虐めに発展したのは当然の流れ。特に上級魔族のディーナ・ジャックフロスト様に面倒を見て貰い、友人みたいに接する事が許されてからは手が出し辛くなったけれど、それでも陰口は続いたわ。

 

 そして運命の日が訪れた。魔王様の側近である最上級魔族のレリル・リリス様とリリィ・メフィストフェレス様。お二方のどちらかの指揮下に組み込まれるのか、それが決まる日が来たの。

 

「貴女はどっちが良い?」

 

「そりゃリリィ様よ。レリル様はちょっとね……」

 

 先に配下になるのが決められる上級魔族の皆様だけれど、レリルは気に入った相手を誘惑し、閨に誘い込んでから正式に決めると噂されていて、その美貌と力への嫉妬も有るけれど、同じ女から好かれるタイプでは無かったわ。少なくても魔族の中ではそうだったの。

 

 だから見た目は少女でもフレンドリーな態度で演説する姿を目にした事が有るリリィ様の指揮下に配属になった時は喜んだわ。でも、その喜びはその日の内に消え去った。

 

 

「今日から宜しく頼むよ、諸君」

 

 レリル様の居城にて集められた配下の魔族達。椅子が用意されたのは上級魔族の方々だけなのに不満顔の子も居たけれど、私はその位は当然だと思ったわ。だって魔族は全員仲間だけれど地位を明確にするのは当然だって理解していたの。

 

「あっ、そうそう。椅子が無い事に不満顔の子達が居たけれど死んで貰うから」

 

 リリィ様はそんな風な言葉を少女のあどけない笑顔で口にして、小さな人形の首を捻る。私の周囲から聞こえたのは何かが折れる音で、見たくないのに見てしまう。首が一回転してへし折れた仲間達の姿がそこには有った。

 

「静かにね。私、喧しいのは嫌いなんだ」

 

 耳元で囁いたかに思える小さくてもハッキリ聞こえた声に悲鳴を押し殺す。恐怖に震え、口を手で押さえながらリリィ様を見れば気が付いてしまった。中級魔族と下級魔族に向ける瞳は石ころに向ける物でさえ無い事に……。

 

「先に言っておこうか。私にとって同胞は上級魔族だけだ。ああ、それと……魔族は絶対に滅びるし、自由にやって良いよ。私の命令を聞きながらだけど。……じゃあ、ビリワック。右端から真ん中迄の記憶を弄っておいて」

 

「はっ! 主の(メェ)とあらば」

 

 可愛らしい少女の笑みが今は吐き気を催す程に気持ちが悪い物に見えた。でも、必死に逆流する物を飲み込んで抑え込んだ。きっと吐いたら殺される。それが分かっているからこそ、私と同じ風に涙目で口を押さえて居る仲間達の姿が目に映るけれど、リリィ様に指定された範囲の仲間は不思議そうに見ている。私の直ぐ隣の子も同じ。ああ、どうして私はこの場所に並んでしまったのだろう。後少し右に居れば何も知らないで済んだのに……。

 

 

 

「リリィ様って素敵よね。あの気さくな態度が親しめるわ」

 

「魔法の道具も次々に作り出しているし天才ってあの方の事よね」

 

 リリィ様を褒め称える声が聞こえる。でも、同じ様に褒めていた仲間は昨日死んだ。魔族に対抗すべく誕生時期を見計らって組織されていたクルースニクの情報を探りに行けと命じられ、戦っている最中に転移させられて呆気なく散ったらしい。

 

「期待はしてなかったけれど、手の内を殆ど見れなかったのが残念だよね」

 

 こんな風に軽い口調でリリィ様は言うけれど、別にモンスターをけしかけるだけで良かった筈よね? 本当に魔族の未来は明るいのか、目覚めた時に感じた希望が消え始めると同時にそんな疑問が消えないの。

 

 神は人が絶滅の危機に瀕しない限りは手を出さない。それは先代魔王様が勇者から聞かされた情報で、その勇者は女神イシュリアから聞いたらしい。だから勇者を殺して人を管理して、百年おきに勇者を殺し続ければ魔族は安泰らしいけれど……じゃあ、こんな生活がずっと続くって事?

 

 

 あの時、記憶を弄られた仲間はリリィ様の行いに何も感じない。感じるような事は直ぐ様記憶から抹消されるから。でも、私達は違う。こうやって苦悩する姿を娯楽にしたいからって苦しみ続ける。

 

 昨日、本棚の整理で並べ方を間違った仲間が死んだ。二日前、曲がり角でぶつかりそうになった仲間が死んだ。三日前、只何となく殺したくなったからって理由で仲間が死んだ。

 

 皆、記憶を弄られていない仲間達。リリィに殺された仲間達。少し前は弄られていない事が羨ましかったけれど、何も知らずにヘラヘラと笑っている連中が気持ち悪くて、私は弄られた者の中に入らなくて良かったと思う。

 

 

「ねぇ、聞いた? ルルがオレジナの聖都を滅ぼしに行くんだって。いよいよ勇者が誕生する頃合いだからってさ」

 

「……そう」

 

 正直言って興味が無い。もうどうなっても構わない。下級魔族が減って、人員が足りないからって人を連れて来て奴隷にしてあるけれど、何を考えてかリリィは奴隷に褒美を与えていた。ピンク色の煙が立ち込める部屋の中、記憶を弄られている仲間だった奴が大勢の男に犯されながら普通に話す。このお香の力も有り、しかも一日に付き一人で全員の相手をするのだから悲惨な見た目になっているけれど、彼女は一切動じない。

 

 ……でも、見張りの私は知っている。魔族としての力を封印された状態で不意に正気に戻る事を。自分達を奴隷にした魔族が泣き叫ぶ姿で悦に浸る男達。でも、私は知っている。明日も褒美が有ると聞かされ喜んで仕事に向かった先で犯した魔族に殺される事を。

 

 全くもって気持ちが悪い。ああ、本当に吐きそうだ。もう、どうなっても良いや……。

 

 

 

 この日、私はリリィの食事を目の前でひっくり返した。別に故意にじゃなくてやる気が無かったから。そうしたら私は小さくなっていて、リリィに襟首を摘ままれて外に投げ出される。この下は貪欲なモンスターの巣。魔族でさえも襲う凶暴な鳥が群れている場所。

 

 

 

「…ああ、やっと」

 

 死ねる、そう感じた時、窓から見下ろすリリィと目が合って、心が恐怖に塗り潰される。何故か無性に死ぬのが怖くなって、落下速度も私を狙って来た鳥が飛ぶ速度もゆっくりに見えて……。

 

 

 

 死にたくない私は、漸く死ぬ事が出来た。外に放り出された後、体感時間で一ヶ月間もの間、狂う程の恐怖を感じながら……。

 

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