初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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クルースニク外伝 ⑦

 家では絶対に吸わないタバコを咥え、少し味わった後で迫った少女の顔に紫煙を吹きかける。まあ、マナー違反だけれど相手は敵だし構わないよねぇ?

 

「わっぷっ!? 何するんだ、糞オヤジ!」

 

「そーだ! 失礼だろ!」

 

 いや、人間全てに敵意を持って積極的に殺そうとしている種族に言われてもねぇ。煙が目に入ったのか思わず目を瞑った子の髪を掴み、地面に叩き付けた後で腕を上げる。三人の跳び蹴りを受け止めた腕は痺れるけれど、力任せに弾き返し、足下の子の首を跳ね飛ばしたら二人に増えた。

 

「服まで増えるとか、高価なアクセサリーを持ってたら二つに増えるの? 大儲けし放題じゃないのさ」

 

「いや、ちょっとそれは無理かな? 最低限の物しか増えないし……」

 

「馬鹿! 何正直に教えてるんだ!」

 

「いや、どっちも私だし、どっちも馬鹿だろ? ……あっ、この理屈だと私も馬鹿だ」

 

 アレだよね。この刀南って本当に馬鹿な子だよ。同じ人物なのに連携がなっていないのは、まあ脳味噌が独立しているから仕方が無いんだろうけど、それにしても予め役割を決めた動き方とか有るでしょうに。……それにしても同じ顔がこうもウジャウジャ居ると、ちょっとさ……。

 

「何か君達見てたら気持ち悪いって思えて来たよ。双子とかと状況は同じなのに何故だろうね?」

 

「誰が気持ち悪いだ、誰が!」

 

「そんなんじゃ結婚出来やしないぞ!」

 

「うん? オジさん、もう結婚してるよ? 可愛い娘も居る。……しっかり尻に敷かれて居るけどね」

 

 あははは……どーして結婚前と結婚後で彼処まで豹変するのかねぇ? いや、その程度でオジさんの愛は冷めないけどさ。一度結婚記念日に仕事で帰れなかった時は死ぬかと思ったよ。アレだね。奥さんと子供の誕生日と結婚記念日は絶対に家に居ろってこれから結婚する男性諸君に警告したいよ。

 

「……それはそうと飽きて来たよ。一度に増えられる数とか増えていられる時間とか有るとは思うけれど、まだまだ先みたいだし。もうゴキブリみたいにウジャウジャ居て気持ち悪いしさぁ」

 

 どうせだったら能力を正面から破りたいと思ったけれど面倒になって来たよ。考え事をしながらも斬り続けたんだけど、小指の先でも増えるだなんてさ。髪の毛じゃ増えないし、ナターシャちゃんが先に行かせてくれたのに、追い付いたら未だ戦ってましたじゃ情けないしねぇ。

 

「ゴ、ゴキブリッ!?」

 

「あの仕事を忘れてエステツアーに行った虫女と一緒にするな!」

 

「そーだぞ! アバドンじゃなくってアホドンが似合うのと一緒にするな!」

 

 女の子にゴキブリは言い過ぎかな? まあ、敵だし殺す相手だから別に気にしないでも良いか。でも、奥さんがそんなのに五月蠅いんだよねぇ。

 

「この! 私達の怖さを教えてやる!」

 

「斬れば斬る程に増える斬一倍様だぞ!」

 

「いや、魔族がどれ程恐れられる存在かは知っているさ。特にオジさん達の一族はさ」

 

 実際、強ーいオジさんだから数人分の蹴りを受け止められただけで、常人だったら一人分でも骨が砕けて肉に刺さってしまうからね? ……うん、それと本当にオジさんは知っているんだ。魔族がどれ程の恐怖を人に植え付けているのかをさ。魔族が封印されてから生まれた世代の更に子供世代でさえ恐れるんだよ、君達を。

 

「だったらガタガタ震えて死んどけ!」

 

 顔に向かって拳が振るわれる。それを受け止め、捻り上げた後で地面が砕ける程の威力で叩き付ければ他のが向かって来た。ほぼ同時に左右から来るけれど、オジさんの方がリーチが長いんだ。腕を伸ばせば向こうの腕よりも先に首に届き、全力で気道を締め上げる。

 

「がっは!」

 

「離……せ……」

 

「……死んどいてよ」

 

 腕に爪を立てて引き剥がそうとするのを無視し、脚を振り上げ、地面に叩き付けたのの頭を踏み砕き、掴んだ二人の首の骨をへし折った。

 

「……へぇ。矢っ張り斬らない限りは再生しないんだ。……だったらさ」

 

 背後から迫った子の心臓を貫き、死体を放り捨てる。……矢張り再生はしないらしいねぇ。分裂した相手が消えないのは残念だけれど、相手の頭も残念で助かった。二つに分かれた時に力が分かれたり命を共有しないなら自分を巻き添えにして敵を倒すって犠牲戦力が可能だったけど、それをする仲間が居なくて、頭が足りない奴で良かった良かった。

 

「ぐっ! 私達の体は人間なんかよりもずっと頑丈なのに……」

 

 まあ、そうだよね。強い力で攻撃しても平気って事は、その力に耐えられる肉体って事だもん。オジさんが幾ら強くても、普通の人間が魔族の首を片手で折ったりするなんて考えられない。

 

「まあ、オジさんは普通の人間じゃないって事さ」

 

「抜かせっ! おい! 押さえ付けてボコボコにするぞ!

 

「わ、分かった! じゃあ、私は右足を……

 

「私は左手で……」

 

 最初からそうしなさいって話だよ。まあ、されていたら面倒だから助かったけど。だって、敵の手の内を調べて正面から叩き潰すなら本気は使いたくないんだからさ」

 

「……ねぇ、吸血鬼って知っているかい?」

 

 残念だと思い溜め息を吐くけれど無視されて全身にしがみ付かれる。全員が同じ顔で同じ勝利を確信した顔をしているし、何か不気味に感じる。っと、残りが来たね。馬鹿っぽいし、死ねとかベタベタな事を言いそうだ。……娘には仲が悪い相手にも死ねって言わないで欲しいよね、父親としてさ。

 

「死ね!」

 

「……言っちゃったかぁ」

 

 全身を押さえつけているし、防御も回避も無理な状態のオジさんは好き放題可能な相手……だと思われてそうだよ。でも、無理だった。刀南の拳も蹴りも、オジさんの全身を押さえ込んでいた手も空を切る。オジさんの全身が無数のコウモリに変わった事でね。

 

「吸血鬼だって!?」

 

「あの三代前の魔王様と同じ力を持っている!?」

 

 驚く刀南達の姿を無数に増えたコウモリの目で見下ろすけれど、魔族にさえそんな認識をされているんだねぇ。そう、オジさんは吸血鬼。偶然にも初代勇者に倒された魔王ツェペッシュ・ドラキュラと似た能力を持っているせいで魔族の仲間扱いされて迫害されている種族さ。

 

 

 ったく、それを言うなら人間に近い見た目の方が獣人に近いのより数が居るじゃないのさ。まあ、感情なんて理屈じゃないし、オジさんも種族が違えば迫害する側だったかもだろうけどさ。

 

「……だからこそオジさんの正体を知っていても慕ってくれる家族や友人が大切なのさ。オジさん、生まれ持った力だけれど、それを理由に苛められたから使いたくないのよ。……でも、その家族が傷付けられたなら我が儘なんて言っていられないよ」

 

 無数のコウモリになったオジさんは刀南達の周囲を飛び回る。腕を振り回して追い払おうとするけど、頭脳はオジさんだから無駄だって。こりゃスペック任せで戦闘経験が殆ど無いと見た。魔族自体が生まれてからそれ程経っていないから当然だけれど、放置していれば面倒な事になるね。だから未熟な馬鹿のまま消えて貰おうか。

 

「……本当は奥さん以外の血は吸いたく無いんだけれど、娘にも好き嫌いはして欲しくない以上は父親もそうでないと。……ニンニクだけは生理的レベルで無理だけどさ」

 

「まさかっ!?」

 

「お、おい! 止めろ!」

 

「何でもするから……」

 

 コウモリが一斉に体に張り付いた事で焦りを見せ、自分の体ごと殴るけれど気にせずに牙を突き立てる。見た目とは違って頑丈な肌と血管を突き破った牙の先が触れたのは血液。……何でもするって? じゃあ、吸いたくない血を吸う前に死んでよ。無理だよね? 無理かぁ。

 

 

「じゃあ、全身の血を吸い尽くすしか無いじゃないか。おっと、食事の前に言わないと。糧になる命に感謝を込めて……いただきます」

 

「やめっ……」

 

 もう言葉は喋らせないし、血を吸った相手を操る力も使わない。悪いんだけど怒りを静めたいから殺させてよ。コウモリの牙で開けた傷口から一気に血を吸えば抵抗が激しくなるけれど、直ぐにそれも収まる。残ったのはカラッカラになった死骸。それも浄化されて光の粒子になって消えて行った。うん、この光景を見ていると何度でも思うよ。

 

 

 

 

「ゴミも同じ風に消えてくれればゴミの日に出さなくて済むのにねぇ。魔族だって人間の負の感情なんてゴミみたいな物が原材料なのにさ」

 

 人の姿に戻り、帽子の位置を直しながら呟く。それにしてもお腹が苦しいし、ちょっと食べ過ぎたかな?

 

 




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