初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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クルースニク外伝 ⑧

  所詮、世の中力が一番必要だ。力が無い奴は大切な奴ら所かテメェの身すら守れねぇ。餓鬼の頃、俺は力が無かったから全部を奪われたんだ。

 

 話し合って説得して力を合わせる? 圧倒的な力の前じゃ数だけなんて意味がないんだよ。蟻が群れても竜の鼻息で吹き飛ぶみたいにな。それに力も無い口だけの奴が、一体どれだけの奴を何時まで引き留められるんだ?

 

 じゃあ逃げろ? 立ち向かわなくて良い? はっ! 雑魚が逃げても直ぐに追い付かれる。仮に逃げおおせたとして、何時見つかるのかとガクブルしながら逃げ隠れを続けるのか?

 

 だから俺は力を求めた。名を捨て、過去を捨て、俺から大切な物を奪った奴から奪い返してやる為にな。……それが本当に強いって事なのかは分からねぇが。

 

 

 レガリアさんは俺の求める力を聞いて、否定はせずにこう言った。

 

「うんうん。それも強さの一つだ。でもさ、自分だけの大切な何かを守りながらの方が強くなれるもんさ。君にだって心当たりが有るんじゃないのかい?」

 

 守るべき物、か。今の俺に見付けられるのか? ……ちゃんと兄貴になれてりゃ違ったんだろうがな。

 

 

 朝起きれば毒による体のダルさは消えていた。ちょっとベッドから飛び起きて屈伸してみるが痛みも特に無ぇ。さてと、軽い運動でもするか。窓の外を見れば快晴だ。こりゃ最高の気分だぜ。

 

 病み上がりだ、流石に無茶は出来ないし、軽く地平線の向こうまで走り出し、途中に立ちふさがる岩壁は僅かな出っ張りを頼りに駆け上がり、遭遇したモンスターは蹴散らし、そうしていると予想以上に調子が良い。こりゃ少し速度を上げても構わねぇな。

 

 速く。もっと速く。自分の限界すら越えて風になれ! もう無茶をしない程度とか面倒な事は気にしねぇ。男ならあらゆる苦難を乗り越えて行け!

 

「行っくぜぇえええええ!」

 

 目の前に滝が現れる。結構な流れの速さだが、少し汗をかいて来た所だ。丁度良いとばかりに滝壺目掛けて飛び降りる。正直言ってノリで飛び降りたが岩とかが点在していなくて良かったぜ。空中で何度か回転し、見事に伸ばした指先から着水。この気子ち良さなら面倒な事は忘れられるな。

 

「……わぁ」

 

 背後から聞こえた声に振り向く。俺と同年代位で虎の獣人の女が数人の餓鬼と一緒に水浴びをしていた。まあ、当然裸だわな。

 

 ……レガリアさん。若さに任せた無茶な行動って駄目だな。忘れた側から新しい面倒事がやって来たぜ。

 

「……悪かった」

 

「別に気にしていない。でも、今度会った時に父には言っておく」

 

 女は名をティアというらしい。しかも杖も魔本も使わずに炎を起こして焚き火をしている。確か炎虎だっけか? 炎を自由に操る突然変異の存在。……あの糞共が希少だからって欲しがりそうな奴だ。

 

 そのティアだが、俺は裸をモロに見ちまった。しかも予想外の遭遇に俺は数秒固まっていたしな。なのに特に気にした様子が無いとか、幾ら獣人が羞恥心の薄い種族でも限度があるだろ。一緒に居たチビ共の方がよっぽどだぜ。……おい、止めろ。その女の後ろに隠れながら変態を見る目を向けて来るな。心にグサグサ来るだろうが。

 

「……良し! 俺の不注意だし、殴れ!」

 

「なんで?」

 

「いや、裸を……見ちまったし」

 

「事故。気にしていない」

 

「俺が気にするんだよ!?」

 

 あーもー! この女、どうして此処まで淡々としてやがるんだっ!? 女なら、その上年頃なら男に裸を見られちまったなら、もっと何か有るのが普通じゃねぇの!? ……どうも離れて暮らして居るっぽい親父はどんな育て方をしたんだよ。

 

 

「別にこれでチャラとは言わねぇ。父親に報告はしろ。只、俺の気持ちが済まないんだ。俺の顔を立てると思ってぶん殴れ!」

 

「……分かった」

 

 この女はかなり強い。体を見れば……厭らしい意味じゃなくって……分かる。相当鍛えられてるな。下手すりゃ俺よりずっと上だ。だが、俺は責任を取る必要が有る。嫁入り前の女の裸を見ておいて、事故だから許せじゃ筋が通らねぇんだ。家族じゃねぇんだぞ、家族じゃ!

 

(俺も妹が生まれてりゃ、その辺で苦労したのかね?)

 

 さてと、気を取り直して観察させて貰うか。……だから厭らしい意味じゃ無いからな? さっきは下手すればなんざ虚勢を張ったが、間違い無く体も技も俺より上だ。だから、この一撃で盗める物は盗んでやるよ。俺は渋々拳を振り上げたティアに意識を集中。滝の水音も虫の声も風の音も次第に遮断されて行き、最後に……。

 

 

「あの覗き魔、ティア姉ちゃんの腋とか足とかジロジロ見てる」

 

 ……おい、誤解だ。俺は戦士としてだな……あっ。意識を相手から外して他事を考える。そんな戦士にあるまじき事をしていた俺に拳が叩き込まれる。重く速く巧い一撃。……ちゃんと見てりゃあ良かったぜ。

 

 意識が刈り取られる中、俺が見たのは見事な一撃を叩き込んだ相手の顔……だったら良かったのに、感心して笑みを浮かべた俺に蔑みの視線を向ける餓鬼の姿だった。

 

 

 ……うん、マジで若さ故の勢い任せの行動とか良くないな、レガリアさん。取り敢えず俺は殴られて喜ぶ変態じゃないからな?

 

「……殴ら……れ嬉し……い」

 

 途切れ途切れの言葉を吐き出した後、俺の意識は完全に途切れる。もうこの時点で意識が朦朧としたんだが、何か非常にヤバい事になっていそうな気がするぜ。

 

 

 

「うぇ!? へ、変態だ!」

 

「逃げよう、ティア姉ちゃん!」

 

「……変態? 父が絶対に関わるなって言ってた奴。でも、放置は危ない」

 

「じゃあ、他の誰かに任せれば良いよ!」

 

「……他の誰か? 今、イシュリア様が遊びに来てて、見張りたいけれど忙しいから来れない父達の代理で……アンノウンが来ている」

 

 後々この会話を教えられたんだが、俺って力以外に運も無いんだなって分かったぜ……。

 

 

 

「おーい! レリック君、大丈夫かい?」

 

「んあ……?」

 

 何だ? 一体何があった? どうも記憶がハッキリしねぇが、俺は何故かキグルミを着せられた状態で亀甲縛りにされて木に吊されてやがった。……は!?

 

「何だよ、こりゃ!?」

 

「……まあ、ナンだろうね、どう見ても」

 

 そう。俺が着ていたのはイエロアの名物料理カレーを食べる時に一緒に食べるパンみたいな奴の、ナンのキグルミだ。その上、俺の周囲は地面に埋め込まれたニンニクが描く魔法陣がモンスター避けの力を発揮している。

 

「……いや、マジで何なんだ?」

 

「だからナンでしょう? えっと、好きで着てるんじゃなかったのかい?」

 

「んな訳有るかぁあああああああああああっ!!」

 

 何処の世界に好き好んでキグルミを着た状態で緊迫プレイを楽しむってんだ! 俺は叫ぶ。誰だかは一体全体不明だが、こんな事をしやがったほう奴に声が届く用に。

 

 

 

(ふっふっふ! 彼、弄くれば結構楽しい! 今度会ったら何のキグルミにしようかな?)

 

 何か嫌な予感がするなぁ……。

「さて、漫才を挟んでリラックスした所で本題に入ろうか」

 

「俺は漫才する気は一切無かったがな」

 

 ったく、レガリアさんは急にふざけたり真面目になったりで面倒だぜ。んで、そんな時に限って面倒な話するんだからよ。

 

「なあ、レガリアさん。重苦しい話が苦手なのは知ってるけどよ。偶には最初から真面目に話をしようぜ」

 

「さて、何の話だかオジさんにはさっぱりだねぇ。……まあ、単刀直入に言うとね。この地方には用が無いから別の世界に行こうか」

 

 急な提案に俺は戸惑う。だってよ、俺が返り討ちにするも逃げられた奴と姿を見せていない奴の二人は最低でも残ってんだ。向こうから喧嘩を売って来て、俺達は買って一人はぶっ殺した。このまま去るんじゃ不完全燃焼だろ。飄々と道化を演じちゃいるが、基本的な中身は俺と同じ荒々しいのがレガリアさんだってのによ。

 

「……ヤベェ奴が居るのか?」

 

 なら、理由は一つだ。死んでないなら完全敗北じゃねぇんだし、魔族の能力が相性最悪なら勝つ方法を手に入れるまでだ。

 

「え? 何でそうなるのさ?」

 

「違うのかよ!?」

 

「違う違う。ほら、オジさんって第一級モグラ語検定の資格持ってるでしょ?」

 

「初耳だわっ! てか、何処の誰が資格認定してるんだっ!?」

 

「まあ、そんな事は重要じゃないから聞きなさいって。どうも魔族共は貴重な金属を集めさせると同時に、消えても発覚し辛い場所の住人の誘拐をやってるみたいでさ。……拠点になりそうな所は全部もぬけの殻。これで誘拐事件がグリエーンだけなら残るんだけど……」

 

「他の世界に目星が付いてるって所か。……うっし! 結局トドメが刺せなかったんだ。今度会ったらあの女を確実にぶっ殺す!」

 

 両手の拳をぶつけて気合いを入れる。此処まで関わったんだ。こうなったら最後まで行こうじゃねぇか!

 

 

 

「うんうん。じゃあ、次はイエロアに行かない? 情報持ってそうな人に心当たりが有るわ」

 

 ……いや、どうしてナターシャが同行するって感じになってるんだ?

 

 

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