初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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クルースニク外伝 ⑭

 俺が弱っちくてちっぽけな餓鬼だった頃、偶に会える父親にオンブして貰うのが楽しみだったのを覚えている。母さん達他の家族もしてくれたが、父さんの背中は一際大きく頼もしく思えたんだ。

 

「……お前も何時か誰かを背負える男になれるさ。何時かは私の背中が小さく見えて、お前に背負われる相手はお前の背中を大きく頼もしく感じる事だろう」

 

「そっか。じゃあ、その時は俺が父さんを背負うよ」

 

 生きているか死んでいるかは分からないが、この広い世界が六つも有るんじゃ会える可能性は低いだろうな。だから果たされない約束だと思っていたんだ。

 

 だが、今俺は実の父親じゃないが父親同然に思っている人を背負い全力で走っている。因みに全然嬉しくない。いや、だってよ……。

 

 

「逃げろぉおおおおおおおおおおっ!!」

 

 今、とんでもないモンスターに追われている途中だからだよ。朝日が昇ったから野営を終えて出発しようとした時、砂の中から其奴は現れた。樹齢数百年の大木を思わせる巨大な蛇が砂の中から這い出し、俺達を獲物として見てやがった。上等だ、返り討ちにしてやるよって立ち向かおうとしたんだが、七体追加だ。

 

 流石にヤバいと思って逃げ出す事にしたんだが、レガリアさんは夜行性。何時もだったら俺が棺桶を引っ張るんだが、そんな状況じゃあ無いってんで背負って走っていた。当然蛇共は追って来るんだが、更に驚きの事実が発覚。蛇共の後方の砂が盛り上がり、蛇より更に巨大なタコが姿を現した。

 

 いや、違う。あの蛇、全部タコの足だ。八匹の蛇と一匹のタコ、計十六の目が走る俺達を見詰め、更に速度を上げて追って来る。あーもー! タコが砂の中に出て来るな! 鮫が砂の中を泳ぐ時点で今更? うっせぇ!

 

「ありゃりゃ。確か砂蛇蛸(すなへびだこ)だっけかな? 珍しいモンスターだよ。彼処まで大きいと八百年は生きてるね」

 

「気が散るから耳元で喋るな! んで、弱点はっ!?」

 

 感謝はしている、慕ってもいる。でも、城よりずっと大きいタコの化け物に追われて砂漠を走っている最中に背負っている中年男に耳元で話されたら気が散るんだよ! 俺は耳も鼻も利くからな。ってか、最近加齢臭が酷くなってんぞ、レガリアさんっ!

 

「……さあ?」

 

「投げ捨てて良いか? 正直臭い!」

 

「ちょっと酷く無いっ!? オジさん、ちょっと気にする年齢なんだけど!?」

 

 何か泣きそうな声になって……あ~。そういや、この前娘に臭いって言われてたよな。ちょいと同情しちまうな……。

 

 

「……何かごめん」

 

「謝られても傷付くからさ……」

 

 どうしろとっ!? ってか、こうやって無駄話している間も砂蛇蛸が後ろから迫って来てるんだがなっ!

 

 背後から感じるのは砂臭さと生臭さ。それに加齢臭が間近から臭って来るんだから堪ったもんじゃねぇ。目に染みるんだよ。だが、これだけキツいんなら見なくても大丈夫だ。グレイプニルを振り回し、勢いを付けて放つ。鎖に映ったのは蛇の口から入り脳天から突き出した刃の姿。さてと、これで一匹仕留めて……無ぇ!?

 

 グレイプニルは確かに蛇の一匹をぶっ殺した。だが、蛸の歩みは止まらない。蛇共は地面を這い蠢いて全く速度が衰えて無い。

 

「あっ、砂蛇蛸の足の蛇って殺しても動くよ? 手足に意思が有るだけで動かしているのは蛸だから」

 

「マジで投げ捨てて良いかっ!?」

 

 そういう事は先に言えっ!

 

 

「貴方達、こんな時に遊んでるのよ! ……あのモンスターって血が凄く臭いのよねぇ。私がナイフで切り裂いたら血を浴びちゃうじゃない」

 

「あ~、そりゃ無理も無いか」

 

 隊長なら簡単にぶっ倒せそうだが、臭いのは仕方無いよなぁ。俺は隊長の言葉に納得するしか無い。しゃーねぇ、逃げ切るのは面倒だし、此処はレガリアさんの魔法でどうにかして貰うしか……。

 

 

「……あのさぁ、ちょっと言い出し難いんだけれどオジさんって今は禄に魔法使えないからね。腹ぶち抜かれた傷を癒すのに魔力使い過ぎちゃってさ」

 

 本当に今はお荷物だな、このオッサン! ああ、こうなったら俺が蛸の本体をぶっ倒すしか無いか。

 

「隊長、ちょいと加齢臭がキッツイがパース!」

 

 だからレガリアさんを隊長に投げ渡す。隊長はそれを受け取ってくれなかった。飛んで来たレガリアさんを見て咄嗟に体を捻り、そのまま顔面から砂に突っ込んだ。

 

「……ごめん。生理的に何か嫌だった」

 

「気持ちは分かる」

 

「若者達が今日は酷いっ!? オジさんだって泣くんだからねっ!?」

 

「って言うか馬鹿な事をやってる内に迫って来てるんだけどっ!? ……こうなったら仕方が無いわね! さっさと終わらせて街で水浴びするわよ」

 

 俺と隊長は今は全っく役に立たないレガリアさんを庇う様に武器を構え走り出す。ナイフ(ホリアー)の柄を右手に構え、グレイプニルの鎖を掴んで跳ぶ。蛇共が鎌首を擡げて大口を開けて襲い掛かるが、鎖が揺れ動き蛇の動きを封じ、そのまま隊長は蛇の胴体を駆け上がる。

 

「この時点で臭いのよ!」

 

 ヌメヌメした蛸の胴体に足を踏み入れた瞬間に隊長が泣きそうな顔で叫ぶ。うん、だよな。俺だってこんな臭いモンスターに近付くのも嫌だし。マジで獣人の嗅覚って役に立たねぇ!

 

 でも俺は蛇の動きを封じるので精一杯だからな。頑張れ、隊長! 凄く頑張ってくれ!

 

「何か腹立つから後で殴るわよ、レリック!」

 

 ……理不尽じゃねぇ? てか、心読まれて無い?

 

 蛸も隊長を振り落とそうと暴れるが、隊長はヌメヌメした砂蛇蛸の体の上を駆け回り眉間へと迫り、ホリアーを振るう。どす黒い血が噴き出し、隊長はそれを咄嗟に避ける。あっ、飛沫がこっちまで……臭っ!

 

 

「……水浴びしてぇ」

 

 何かドブ川が腐って生ゴミと混ぜたみたいな臭いがする。服に数滴振り掛かっただけなのにドブ川で水浴びした気分だわ。って、蛸が未だ動いていやがるっ! どんだけタフなんだよっ!?

 

「矢っ張りナイフじゃ浅いかぁ。……良し!」

 

 え? 隊長が腕を振り上げて……砂蛇蛸の巨体を殴り飛ばしたぁっ!? どんだけ体重が有るんだよ、あの蛸! 殴られた部分がすっげぇへこみながら垂直に飛んで行ったぞっ!?

 

 いや、隊長って素早さを活かしたナイフでの近接戦が得意なタイプじゃ無かったのか? どう見てもありゃゴリッゴリのパワータイプ……。いや、寧ろゴリラ……。

 

「私、それなりに鍛えてるから力も強いのよ。ご先祖様に憧れてるからナイフで戦うけど。……仲間だから五発で許してあげる」

 

 だからどうして考えが分かるんだよっ!? ……俺、死んだな、こりゃ。

 

 

 

 

 

「それで情報源が居るって言ってたけれど、どんな奴なんっすか?」

 

 あの後、俺は生きていた。お世辞におべっか、敬語にヨイショ。最後に街で夕飯を奢るって事で何とか助かった。まあ、俺の財布は死んだがな。元々禄に入ってなかったのによ。

 

 ……この話は忘れよう。今大切なのは情報源だ。あのギャードって魔族の居場所だって不明だし、誘拐事件だって手掛かりが無いからな。あの街は毒に侵された連中が大勢居る……一刻も早くぶっ倒さないと駄目だ。

 

「えっとね、王族。ってかお姫様」

 

「はあっ!?」

 

 ちょい待て、王族っ!? 盗賊じゃなくて、王の一族!? いや、貴族とかまでは予想してたけれど、マジで王族っ!?

 

「まあ、ナターシャ学園は六色世界中に分校が有るしさ。ほら、一応隊長もお嬢様だし」

 

「あっ、一応お嬢様だったな、一応」

 

 忘れてたけれど、結構なお嬢様だったわ。家出娘が実家に頼れないって金持ち出して無いから金欠だし。

 

 

「さっきから一応一応五月蠅いんだけどっ!? ……ったく、私も偶に自分がお嬢様だって忘れるから同感だけど」

 

 いや、本人が忘れてどうすんだっ!?

 

「ほら、そんな事より見えて来たわ。ガラム王国首都カレイス。私なら顔パスで王城に入れるし、友達に金借りるから今日の宿は期待しなさい。私の奢りよ」

 

「流石隊長! 一生ついて行くっす!」

 

 良かった良かった。さっさと臭い血を洗い流したいんだよ。正直言って俺達って金欠気味だし、風呂とか有る所の宿代もヤバいからな。

 

 

 

 

 

 

「申し訳有りません。今は何方であっても王族方との謁見は禁止となっております」

 

「あれぇ?」

 

 ……こりゃ暫くは臭いままだな。

 

 

 

 

 




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