初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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クルースニク外伝 ⑮

「ったく、臭ぇ血が取れたと思ったが、今度は石鹸の匂いがキッツいよな。ままならねぇぜ、マジで」

 

 そう、世の中はままならないもんだ。別に大きな事を望んだ訳じゃなく、大切な家族と一緒に暮らしたいってささやかな願いさえも否定されるし、顔パスで入れるってドヤ顔で言ったくせに隊長が入場を拒否されたりな。

 

 いや、でも対応からしてマジで隊長って凄い所のお嬢様だったんだな。今はベッドの上で菓子食いながら寝転んでるけれどよ。

 

「いやいや、それは仕方無いって。石鹸ってのは基本的に香りが強い物だしさ。それに君達は鼻が利くから。オジさんの加齢臭が気になる位に。それに血の臭いが取れて良かったじゃないのさ。オジさんの加齢臭は体から発している物だから取れないけどさ」

 

 城でお姫様から情報を手に入れるって計画が頓挫したのは困るんだが、今一番の問題はレガリアさんだな。……凄ぇ拗ねてる。加齢臭を連呼したのが原因だろうな隊長なんざパスされたのを回避しやがったし。……投げた俺もどうかと思うが。

 

 だが、金欠の筈がこうして宿に泊まれているのはレガリアさんのおかげだ。まさか砂蛇蛸の蛇の部分の鱗が彼処まで高値で売れるとはな。まあ、大丈夫だろうが……。

 

 因みに高値で売れた時も拗ねていた。加齢臭する位に年を重ねているからね、とかな。うん、正直ごめん。

 

「よし! 今から男だけで飲みに行こうぜ! 良さそうな店を見付けたんだ」

 

「飲みにって、一杯で潰れる君と二人で行ったら介抱しなくちゃいけないじゃないのさ。まあ、良いよ。あの踊り子達が居るお店以外なら付き合うよ」

 

 ギク! 実は正にその踊り子の店だ。水着みたいな格好で妖しく踊る美女揃いって聞いたし、行ってみたいが酒には弱い。なら、一杯をチビチビ飲みながら踊り子を眺め、あわよくば触りたいっていう俺の作戦が此処で頓挫だとっ!?

 

「ななな、何言ってんだ、レガリアさんっ!?」

 

「声でバレバレよ、レリック。まあ、普通の店に行って来たら? 私は私で考えが有るし、ちょっと出掛けるから」

 

 隊長は完全に呆れて蔑んだ目を向けて来るが、俺だって年頃の男なんだから仕方が無いだろ! ……仕方無い。街中をブラブラ歩いて冷やかすか。レガリアさんも誘ってよ。

 

 普通の店に行っても綺麗な姉ちゃんが相手をしてくれる訳でも無し、そんな店にはレガリアさんは一緒に来ちゃくれない。なら自分一人でって言うと、酒で潰れちゃ情けない。……諦めるしか無いよなぁ。

 

 結局、俺達は男二人で夜の街に出向く事になった。隊長は何かやる事が長引くとやらで遅くなるってよ。手伝おうかと思ったが拒否されたし、別に良いか。……凄く慌てた様子だったのは気になったがな。

 

 まあ、良いか。今は酒だ、酒。なーんか嫌な予感がするんだけどな。

 

 

 

「本当に君は酒に弱いねぇ。獣人は酒に強いから飲酒可能年齢が低いけど、君の場合は人の方の血が濃いのかな?」

 

「だとしても飲むのを止めろとかは言うなよ? 酒飲みながら飯食うんが楽しいんだからよ」

 

 雑多な料理に軋む床、散歩していたら給仕の女が綺麗だったから入った大衆酒場で酒を飲み始めた俺だったが、どうも半分も飲まない内に顔が真っ赤になったらしいな。レガリアさんは相変わらず強いからアルコール度数が高いのを既に何杯も飲んでも平気な顔だ。

 

 ……何時か俺も同じ位になってみたいもんだぜ。適当に頼んだ揚げ魚や枝豆を口にして、横を通る給仕の尻に目を向ける。良い尻だな、ありゃ。随分慣れてるのか常連らしい連中が触ろうと伸ばす手を簡単に躱してやがる。

 

「君は本当に女の子が好きだねぇ。……言っておくけど娘に手を出したら怒るからね?」

 

「いや、既に妹みたいなもんだしな。出さないし、向こうだって兄貴みたいに思ってるだろ」

 

「そりゃそうだ。じゃあ、変な虫が寄って来た時は手を貸してよ」

 

 相変わらずの親馬鹿に呆れるが、その時がくれば俺も全力で変な野郎を叩きのめすのが目に浮かぶ。まあ、身内に甘いってのはレガリアさんに似たのかもな。

 

 本当にレガリアさんの娘は俺にとって妹に等しい存在なんだ。可愛がりながら守る筈だった弟か妹と重ねているのかとは思うけどな。それでも結構な付き合いだし、大切な奴なのは変わらねぇよ。母親に似ずに大人しい性格に育ったし、美人に育つだろうさ。

 

 所で大人しい性格の美人と言えば……。

 

「……なあ、レガリアさん。この国の第三王女について知ってるか? 何でも凄い美人だってな」

 

 前々からちょいと小耳に挟んだ話だが、第三王女のラム姫は慎み深く清廉で、誰もが目を奪われる美女だとか。

 

「隊長の友人ってのはその王女様……な訳が無いな」

 

「ハッキリ言うねぇ。まあ、気持ちは分かるけどさ」

 

 確かに隊長は英雄の子孫な上に結構な家柄のお嬢様だが、とんだじゃじゃ馬でお嬢様の前になんちゃってってのが付くタイプだ。猫の獣人なだけに猫を被っていても、簡単に馬脚を現すだろ、あの人じゃ。

 

 俺の言葉に賛同なのか苦笑しながら酒を飲むレガリアさんに釣られて俺も酒を流し込んだんだが、三口目で酔いが回って来た。駄目だ、レガリアさんが五人位に見えるぜ。

 

 まあ、酔い潰れるのは直ぐだが、悪くない気分だ。欲を言えば綺麗な女の酌で酔い潰れるのが一番なんだが。

 

 

「おいおい、一杯で潰れそうとか弱いにも程が有るだろ! ヒャハッ!」

 

「……あぁん?」

 

 折角の気分を台無しにする不躾な声に振り向けば知らない男と目が合う。俺は座ってるし、絡む為にわざわざ座り直して……ねぇな。俺に絡んで来たのは狐の獣人なんだが、座っていない、立っていた。

 

「背が低いだけか。いや、餓鬼か?」

 

「だぁれがチビだ、ゴラァ!」

 

「いや、お前だろ、チビ。ドチビ。おっと立ち上がったら見付けるのが大変だなぁ。声は聞こえても姿が見えないってな」

 

 立ち上がって大袈裟にキョロキョロしてればチビは顔を真っ赤にして来たが、俺は手を伸ばして頭を掴んで押さえつけた。はっ! 届かないでやんの。

 

 少し酔っぱらっていた事で冷静さを失ってた俺もチビも今にも殴り合いを始めそうな雰囲気だ。だが、俺とチビの肩に背後から手が伸ばされて無理に引きはがされる。

 

「こらこら、止しなさいって、レリック君。他のお客さんや店の人に迷惑だよ」

 

「お前もだぞ、ルドゴ。……悪いな、兄ちゃん達。先に絡んだのはお前なんだから大人しくしていろや」

 

 俺をレガリアさん。ルドゴって名前らしいチビをエルフが背後から押さえる。こっちはルドゴがチビってのあってか更に大きく見えるな。まあ、元々デッカいエルフだが、更に頭半分位はデカいし、随分と鍛えてるな、此奴は。

 

 只鍛えただけじゃない、戦う為の戦士の肉体だ。其奴に襟首を掴まれ店の外に運ばれて行く間も手足をジタバタ動かすルドゴも雑魚じゃ無い。正面からの戦いになりゃ楽勝って訳には行かなさそうだ。まあ、俺が勝つがな。

 

「ほら、行くぞ。ったく、直ぐに喧嘩を売りおって」

 

「良いじゃねぇかよ。彼奴もどうせ大会目当ての奴だし、先に一発かましておこうぜ」

 

 ……大会? よく分からねぇが、酒場のそこら辺にそれなりに鍛えてそうな連中がちらほら居るのと関係してんのか? まあ、俺には関係無いんだがな。大会? どうでも良いわ、マジで。あのチビには腹立ったが、それで大会に出るってのもな。

 

「何か冷めちまったし、別の店に行こうぜ」

 

「はいはい、しょうがないなぁ。次の店では喧嘩したら駄目だからね」

 

「へいへい。分かりましたよっと。どうせだったら綺麗な女が接待してくれる所に行こうぜ。レガリアさんの奢りででな」

 

「オジさんの命と財布が同時に死亡確定するんだけどなぁ……」

 

「冗談だよ……」

 

 割と本気で言ったんだが、肩を落とすレガリアさんの姿を見ちまったらなぁ。……あと、俺もそんな店に連れて行ったって知られたらヤバい。まあ、半殺しで済むだろうが……って、半殺しも普通に嫌だろっ!?

 

 

 この後、料理がそれなりに美味い店で飯と酒にして、普通に酔い潰れた俺はレガリアさんに背負われて宿まで戻ったらしい。何も覚えちゃいないから二日酔いの状態で聞かされたんだ。正直言って酒場に入った辺りから記憶が無いな。

 

 

 

「じゃあ、二日酔いが治まったら城に忍び込んで来てね」

 

「いや、城に忍び込めとか……アホかぁああああああああああっ!! あー、頭が痛ぇ……」

 

 その後に聞かされた話が衝撃的過ぎて全部吹っ飛んだってのも有ると思う……。

 

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