初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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クルースニク外伝 ⑳

 暫し楽しんだベッドの中、精も魂も吸い尽くされた俺がぐったりとする中、俺の腕を枕にしたイーチャは艶々の肌を擦り寄せて来ていた。……元気だな、此奴。

 

「ふふふふふ。窓が開いていると分かっていながら大きな声を出させるのですから。それにほら、全身にレリック様の匂いが付いてしまったではないですか」

 

「……悪ぃ」

 

 脇腹を強く抓られるが文句は無い。いや、本当に俺はどうにかしていた。行為の時の声なんざ他人に聞かせるもんでも無ぇ。聞くのは俺だけで良い。イーチャを抱いていた俺だけが聞くべきだったんだ。それも途中から暴走しちまった。目の前の女を何としてでも自分の物にしたいって考えちまったんだ。

 

 それ程までにイーチャは最高だった。こりゃ確かに永遠に忘れられそうにないな。だが、調子乗った事は謝らないと駄目と思ったんだが、謝罪への返事は口付けだ。今度は唇を合わせるだけの簡単な物。それでも俺の中を快楽が走る。

 

「おや? 私は責めてはいませんよ? 羞恥プレイでしたっけ? それを楽しめましたから」

 

 あー、糞。ヤってる時は俺が優位だったのによ。誘っておいて窓が開いてるって気が付いた途端に必死に声を押し殺して耐えようって感じだったから声を出させる事に夢中になったり、相手が優位になっても直ぐに逆転してそそる表情にさせたりよ。

 

 それが最終的には俺がヘトヘト、相手は元気満タンだってんだから……いや、待て。精気吸われて俺が消耗すればする程に向こうは元気になるんじゃ?

 

「なあ、イーチャ」

 

「おや、もう一回ですか? 今度はどの様な趣向で? 胸や口でご奉仕しますか?」

 

 矢継ぎ早の問い掛けの途中にもイーチャは俺に密着し、無理にでも連戦をさせようとしてくる。どうせ死ぬなら夜魔族相手に腹上死、それが馬鹿な男の憧れらしいが、実際に死にそうだぜ……。

 

 既に体力は限界の俺はそのまま意識を閉ざす。一部分を除いて元気なんざ一欠片も残っちゃいなかったんだ。

 

「おや、寝てしまいましたが……もう少しお付き合い頂きましょうか。上質な精力を溜め込むチャンスですので……」

 

 

 翌日、俺は立ち上がる気力すら残っていなかったが、イーチャの方は逆に軽やかな足取りで戻って行った。しかし、レガリアさんも隊長も帰って来なかったな……。

 

 翌日、昼頃に帰って来た二人が妙に優しかったのは何故だろうか?

 

 

 

「んじゃ、申し込み完了っと」

 

 更に数日後、俺はレガリアさんと共にアヴァターラに出場すべく申し込みを行っていた。イーチャとの一夜は秘密だ。流石に色仕掛けに負けて大会出場を約束しただなんて情け無くて口に出来ないからな。お願いされて仕方無く、そんな風に誤魔化したが通じて良かったぜ。

 

「うんうん、君ならそうだよね」

 

 こんな感じで少し呆れた様子だったが、どうも俺はお人好しだって思われてるんだな。おいおい、勘弁してくれよ

 

 長い列に並び、最低限の振るい落としでバーサーカゥと抜き打ちで戦った後は必要事項を書いて終わり。結構な数が並んでいたが、眺める限りじゃ一割も残っちゃいない。

 

「雑魚が。身の程を知れってんだ」

 

「こらこら、そんな事を言ったら駄目だって。喧嘩になるよ?」

 

「ならねぇよ。あの程度も突破出来ない連中と喧嘩って呼べる戦いになる訳が無いだろ。一方的な蹂躙だ」

 

 実際、抜き打ち検査で弾かれた連中の殆どは俺の声が聞こえでもうなだれて歩くだけ。他のもヒソヒソと話すだけで堂々と言い返す事も睨む事すら出来ない臆病者。こんな連中、手負いの状態でも相手になりやしねぇ。そんな生温い鍛え方をしなかったのはレガリアさん、アンタだろうが。

 

 そして残る一割の殆ども落ちた連中と五十歩百歩、戦うに値しねぇ。あのルゴドってチビは今居ないが、マシなのは連中位か。こりゃ退屈な大会になりそうだと思っていたんだが、少しだけ興味を引かれる連中がいた。

 

 一人はスキンヘッドの大男。未だ戦わないってのに目が血走って鼻息が荒い。此奴は雑魚だ。デカいだけでパワー任せのウドの大木。足運びでそれが分かる。体格に恵まれたからって動かし方を学ぶのを怠った脳味噌まで筋肉の獣が彼奴だ。

 

 だから他の雑魚よりは幾分かマシってだけで眼中に入らねぇ。俺が見ているのは別の奴だけだ。

 

「連れの方とは大違いだな……」

 

 問題は相方の優男。黒髪を伸ばしてポニーテールにした長身で、着流しに草履に二本差し。パップリガの騎士である侍だ。刀の柄には何処かの家の家紋が刻まれ、柄頭には紐で鈴が吊されて五月蝿い位に鳴っている。周りの連中は侮った感じだが、そんなんだから雑魚なんだよ。其奴が俺と同様に自分達を一方的に蹂躙出来る相手だって理解しな。

 

 この男を見た瞬間、俺の本能が叫ぶ。目の前の相手と思う存分戦ってみたいと。技も肉体も鍛え抜かれた一流の武芸者。逸る気持ちを抑え込み、俺は侍の横を通り過ぎる。擦れ違い様に殺気を向け、向こうは笑みを向ける。

 

「逸るな、強き男よ。大会で待つ。貴様なら決勝まで来れるだろう。お前とは決勝の大舞台で合間見えると拙者の魂が告げているのだ。……青上志郎(あおかみ しろう)、覚えておけ」

 

「上等だ。……レリック。覚えておきやがれ」

 

 互いに名乗り終え、そのまま別れる。アヴァターラの開催は明朝。今は身体を休め、イメージトレーニングにしておこう。奴の魂が告げた言葉が正しいなら最高の試合になりそうだ。

 

 その後の事は特に記する事は無い。試合に向け精神を統一し、只ひたすら思い浮かべるだけだ。奴に打ち勝つ俺の姿をな。

 

 

 そして翌日。朝日が昇り、眠そうなレガリアさんと一緒に会場を目指す。途中、如何にもって連中が妨害を仕掛けて来たが鎧袖一触、準備運動に役立たせて貰ったぜ。大会の会場は街の中央に存在する神殿の中庭。本来は神事を行うべき場所で最強の戦士が決まる。

 

 信仰を捧げし女神シルヴィアよ。何とぞ我に祝福を。

 

「願わくば、かの強者と全力を持って雌雄を決せる事を願います」

 

 静かに神に祈り、目を閉じて精神を統一する。俺の世界から音が消え失せた……。

 

 

 

 ……さてと、レリック君が精神統一をしているしオジさんはお手伝いと行こうかねぇ。オジさんはしなくて良いのかって? 考える事が多くて大変だから嫌だよ。

 

 大会を勝ち抜いた後の謁見とか、ガンダーラの事とか、実はギャードの居場所を既に掴んでいる事とか、レリック君がイーチャさんにメロメロになったら困るとか、面倒なのよ。だから適当で良いのさ、適当で。

 

「おい、彼奴は……」

 

「ちょっと絡んでみようぜ。何か気に入らないんだよ」

 

 そう。こんな場所には何しに来たんだってチンピラが居るもんだ。レリック君もチンピラっぽいけど、保護者のオジさんは知っている。言動チンピラだけど、その実はツンデレなだけの善人だってね。

 

 ……だからさぁ、同類みたいに扱うのは腹立たしいんだよね。レリック君に突っかかろうと寄って来る他の出場者。そのまま肩をぶつけようとした彼は突然動きを止める。急に襲って来た寒気に戸惑い、泡を吹いて真っ青な顔で倒れ込む。駆け寄って来た仲間も同様。

 

 ……雑魚が。この程度の殺気で怯む段階でレリック君と戦う資格は無いんだよ。だって彼は九歳の時から訓練で浴びているんだからさ。

 

 さて、正直やり過ぎた。耐えられない連中は気付きもせず、気付けるちゃんとした子達は……ありゃりゃ、随分と警戒されてるね。中にはそこそこの子達が居るみたいだし、潰し合ってくれたら助かるんだけどねぇ。

 

「取り敢えずこの二人がオジさん達の一回戦の相手なら助かるんだけどなぁ……」

 

 多分そんなに上手く事は運ばない。あの侍は飛び抜けて面倒そうだし、彼等の相手じゃ無かったら良いか。……先に倒したって事でどうにかならないかなぁ……。

 

 

「これより一回戦第一試合を開始する! 前に出よ!」

 

 銅鑼の音が響き、オジさん達は石で造った丸い舞台に上がる。昨日は夜中に寝ていたけれど眠いままだし、弱い相手なら助かるよ。やれやれ、後の方なら軽く眠れたのだけれどさぁ……。

 

「右! レリック&レガリア!」

 

 まさか一回戦第一試合とかさぁ。

 

 

 

 

「左! 志郎&コーザス!」

 

「「……」」

 

 ……うん、そうだろうね。レリック君と志郎君は非常に恥ずかしそうにしていたよ。……其処! 話を聞いていたらしいけれど、笑わないで欲しいなぁ。

 

 

 

 

 どうやら志郎君の魂はいい加減な事を告げるみたい。オジさんと一緒だねぇ。


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