初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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この小説のコンセプトは

第一作のセーブデータを読み込んだら中ボスとフリーバトル限定で第一作の主人公とヒロインが最初から仲間に! です


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魔族の眷属達

「ガウ……」

 

 前脚でダツヴァを押さえ込んで頭を噛み砕くと脳味噌の柔らかさと飛ぶ為にスカスカな骨のパリパリした触感が結結構美味しい。サンダーバードは発電機関がスパイシーで刺激的な味だけど、流石に何十体も食べていたら飽きて来たなぁ。わさび醤油が欲しいよ。あと、ニンニクバター。

 

 って言うか飽きて来た! 頭の上のパンダは未だ上手く動かせないし、パンダビームで向かって来るのを打ち落としてるんだけど、眠い退屈遊びたい! ボスが人を襲っているのは倒したけど他のは放置して僕に押しつけるしさ!

 

 ちょっと不満が溜まって来たから遊びに抜け出したい気分だけど、そうしたら絶対おやつ抜きの期間が増えるし、だけど僕だけでダラダラするのは面倒だし。……そうだ! ちょっと良い事を思い付いたから召喚魔法を発動、今此処に全ての僕は集う! なんちって!

 

 

 

「えー! 今日は君の仕事でしょ、僕」

 

「楽しい事は僕達で、面倒な事はその日担当の僕だけでって決めたじゃん!」

 

「今は留守番をしながらグータラしてたんだよ。マスター秘蔵のお酒を安物と入れ替えて美味しい料理と一緒に味わってさ」

 

 ずるーい! 僕だって美味しい物食べたいのにー! 取り敢えず食べ残したら怒られるから焼き鳥のタレを持って来てー。僕が抜け出したらボスは馬鹿だから誤魔化せてもマスターには分かるしさー。

 

「あー! ボスを馬鹿って言ったー」

 

「怒られるよー」

 

 どうせ連帯責任だよ。関係ない時は理不尽だけど、関係有る時は死なば諸共だからバラすないでねー、僕達。あっ、それとボスにおやつ抜きって言われているから。僕はそれを伝えたら僕達が固まった。うんうん、気持ちは分かるよ。マスターのお菓子って美味しいからね。僕だけ食べられないのは悔しいのさ!

 

 例え相手が僕であっても一切遠慮しない。それが僕クオリティ!

 

「えー!?」

 

「この卑怯者ー! 外道ー!」

 

 ふっふっふっ。所詮世の中ってそんな物なのさ。僕達が何やら言ってるけど無視無ー視! さて、来たからには手伝って貰うからね。来たのに何もしなかったってボスに知られたらどうなるかなー?

 

 

 他の日担当の僕達が何か言っているけど聞こえなーい! さーて、お仕事お仕事っと。あー、早くキグルミを遠隔操作出来る様になりたいなー。そうしたら寝転がりながら好き放題出来るんだけどなー。

 

 

 え? 今でも好き勝手してるって? 別に良いじゃないのさ、僕は獣なんだしさ。じゃあ、皆一斉に空に向かって……パンダビーム!! 上空へと放ったビームは束ねる事で極大になって、無数に拡散してダツヴァやサンダーバードに降り注ぐ。ふっふっふっ。街にちょっと被害が出ちゃったけど、ボスだってマスターが被害を抑えてって言ったの忘れてるから問題無ーし! 僕はちゃんと覚えてるけどね。ボスとは違うのさ、ボスとは!

 

 

「ねぇねぇ、アレってなんだと思う?」

 

 他の僕が空を見上げていたからニンニクを炒めた所にバターを溶かして醤油を回し入れてたけど上を向く。空の彼方から超巨大なアヒルが落ちて来た。

 

 

「ガアー!」

 

 でっぷり太った不細工なアヒルで丸々太った姿はボールみたい。しかも少し見た感じからして羽毛が金属製っぽいと思った時、僕達の目の前にそのアヒル、ヘビーダックが地面に激突して地中に埋まる。激突の衝撃で落下地点を中心に陥没して瓦礫が飛び散ったし、土煙が舞い散って体が汚れちゃうし、もう最悪! こんなのを眷属にするなんて余程性格が悪くて性根が歪んでるんだね!

 

 頭から地面に埋まって脚をバタバタ動かすヘビーダックは漸く抜け出した。自分が土煙を起こしておいて身を震わせて、ガアガア五月蝿く鳴くと僕に嘴を振り下ろし、その勢いで前に転がりだす。ゴロゴロ転がって僕の真横を通り過ぎて建物に激突した姿は隙だらけ。さーて! さっさと終わらせてアヒルの丸焼きにしちゃおうっと!

 

 

 さあ! 皆、行くよ!僕は折角呼び寄せた他の僕にも協力を求めたんだけど、相手は所詮僕だった。

 

 

「君だけでやればー?」

 

「そうだよ、僕」

 

「その間に鳥焼き肉を楽しんでおくからさ」

 

 ぼ…僕の薄情者ー! まあ、僕だってそうするけどさ、絶対。余りに酷い言動の僕達にショックを受けた僕は全力のパンダビームを放つ。だけどヘビーダックに命中した瞬間、四方八方に弾き飛ばされる。ビームは建物や地面に穴を空け、別の僕が吐く火でダツヴァのモツのバター醤油炒めをしていたフライパンにも命中。折角の料理は宙を舞って散らばった。

 

 

「よくもっ!」

 

「食べ物の恨みは恐ろしいぞ!」

 

「お前の肉を食べてやる!」

 

 よーし! 丁度良い具合に僕達も怒ったぞ。ヘビーダックはビームが全く効いていなかったのかのっそりと動くとモタモタしながら向かって来る。あれは体重を支えるだけで精一杯だね。……あっ! 大切な事に気が付いた。

 

 

「僕達、彼奴からはきっとフォアグラが取れるよ!」

 

「なぬっ!? 食べた事無いよ、アレ! マスターもボスも嫌いだからってさ」

 

「だからって僕には食べさせてくれても良いよね」

 

「珍味珍味ー!」

 

 ふっふっふっ! 流石は僕、楽しい事と美味しい物には目がない。全員で一斉に舌なめずりをしたらヘビーダックは何かを感じたのか動きを止めて、ちょっと迷って動き出した。

 

「ガアー!」

 

 ヘビーダックは叫び声を上げるとその場でパタパタと羽ばたいてピョンピョン跳ねる。その度に地面が揺れて罅が入り、足首が地面に深々と突き刺さった。馬鹿みたい、プププー! 思わず僕は吹き出しちゃった。他の僕もクスクス笑ってるよ。んじゃ、僕も次の攻撃をしようかな。

 

 その場で前転、勢いを増してヘビーダックへと接近、間近で跳ねて飛びかかると勢いを乗せた爪を振り下ろす。あ痛っ! ガリガリって嫌な音がして表面が軽く削れただけだ。フーフーって息を吹きかける僕は涙目になっちゃった。もー! 堅すぎだよ、君!

 

 ヘビーダックは僕を尻尾で叩いて追い払う気なのか回転を始める。咄嗟に飛び退くけど回転はドンドン速くなる上に、よく見れば頭と足が体内に引っ込んで完全な球体だ。もう元の体色が分からない位に速くなったヘビーダックは自分でも周囲の様子が見えない位の速度らしくって滅茶苦茶に動き回るけど、重いから地面が削れている上にぶつかった建物も壊されて崩れるし、もう僕も気にせずに良いかな?

 

 よし、遊んじゃえ! 回転しながら動くヘビーダックの上に飛び乗るとそれに気が付いたのか振り下ろそうと回転を増しながら円を描いて動き出す。玉乗り玉乗り楽しいなー! きゃっほー!

 

 

「ガアー!」

 

 あっ、ヘビーダックが飛び上がっちゃた。慌ててバランスを取るけど空中で回転軸を変えるから僕は遂に落とされ、さっきみたいに魔力を噴射して踏み潰そうとして来た。ギリギリで避けたけど地面の欠片がぶつかったよ、痛ーい!

 

 

「ガアガアガア……ハッ!

 

 

 

 

 あっ、今鼻で笑われた。うーん、僕って舐められてる?

 

 

 マスターが創ってくれた僕が? 優秀だって誉めて貰ってる僕を? あんなアヒル如きが? この怒りは僕以外の僕も同じみたいだ。別々に分かれているけど僕は僕、考える事は同じなのさ。

 

「……方向確認」

 

 良し、この方向に無人の建物しか存在しない。

 

「……威力調節」

 

 さっきのお遊びの攻撃よりも力を、何より殺気を込める。

 

「……融合」

 

 此処に居る僕が全て元に戻る。頭の数と体の大きさが膨れ上がって魔力のチャージ、その余波だけで周囲の地面に罅が入るけどヘビーダックの仕業にしちゃえ!

 

 

「ガアガア、ガアー!!」

 

 ヘビーダックが飛び上がる。あの巨体で、あの重量で物見櫓よりも高く飛び上がってお尻から魔力を放出、勢いを付けて向かって来た。うんうん、凄い凄い。

 

 

 

 ……でっ、それで?

 

 僕の頭全てから放った魔力の波動はヘビーダックを飲み込んで一瞬で消し去る。余波が周囲に広がって街の一部が少し消滅したけど人的被害はゼロだし問題無ーし!

 

「もー! お仕置きは君だけね。他の僕は知らないから」

 

「あれれ? 今すぐ帰りたいけど融合が思った以上に……」

 

「うげっ! このままじゃ一緒に怒られちゃう!」

 

 どうせ連帯責任だから僕への怒りは分割されるしね。何か他の僕が五月蠅いけど聞こえなーい! さてと、お仕事も終わったしお昼寝お昼寝っと。寝る子は育つ、もっと強くなる為にお休みだーい! その場に寝転がって目を瞑れば直ぐに眠気がやって来る。良い夢見れたら嬉しいなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの馬鹿、力を出し過ぎだ。街が滅茶苦茶ではないか、全く」

 

 直接目にせずとも感じ取れる魔力の波動によって建物に出た被害を察した私はアンノウンへの追加の仕置きを考えつつ巨大なスノーマン、キングスノーマンと名付けた、の顔面近くへと跳躍して迫る。少し結界に視線を送ったが周囲と違って内部には其れ程冷気が入り込んでいないが幼子や老人が震えている。先ずは引き離す事が先決か。

 

「スノスノスノスノ!」

 

「その程度の攻撃が私に当たるものか」

 

 キングスノーマンの腕の一部が盛り上がり、先端が鋭利に尖った氷柱が飛んでくる。前に進みながら邪魔な氷柱を避ければ突き刺さった部分が凍結して氷が広がって行くが、触れる事で足止めの狙いがあっても私には触れられない。既にキングスノーマンの足元までたどり着いていた。

 

「時間は掛けられんな、うん」

 

 キングスノーマンがその場所に居るだけで極寒の地の様に気温が急速に下がって凍り付いて行く。私の服も霜が付き、人ならば一呼吸するだけで肺が凍結する思いだろう。だが、力の大半を封印しようと私は女神、構造が人とは違うのだ。

 

「スノー!!」

 

 炭が集まって出来た目と口を曲げて怒りの感情を示したキングスノーマンは両腕を頭上に上げて結合、トゲトゲした雪のハンマーにして振り下ろして来た。丁度跳んだ所で方向転換など出来るはずも無い。だから私も真上に向かって拳を突き出した。雪のハンマーが私の拳と衝突した瞬間に爆発四散、直ぐに再生して直ぐに別の形へと変わる。今度は獣の頭、口の中は上下とも細かい牙でビッシリだ。その上下で私を挟み込もうとしていたが、気にせず先程とは違う腕に意識を向ける。その手に持つのは愛用の斧、高速回転する刃は空気摩擦で煙を上げて紅蓮の焔に包まれる。

 

「せいっ!」

 

 名付けてクリムゾンアックス。掛け声と共に投擲すれば回転を増して焔を膨らませキングスノーマンの胴体に着弾すると衝撃波に乗り、激しく燃え盛って広がる。キングスノーマンの全身が炎に包まれ崩れ出した。だが、溶け出した雪を中心に焔が凍って容積を元に戻した雪がキングスノーマンの肉体を形作る。

 

「……面倒な」

 

 手を前に突き出せばキングスノーマンの内部から斧が飛び出して私の手に収まった。この斧の名はミョルド、キリュウとの旅の最中に手に入れた思い入れのある品だ。こうやって手から離れても手元に戻り、あの焔に包まれていても傷一つ無い。壊れでも再生する様にしてくれたのはキリュウだ。

 

「さて、もう少し離すか。多少街に被害が出ても仕方無いだろう。うん、何一つ問題が見あたらんな」

 

 両腕を武器に変えて振り回す度により冷気が強くなって行き、結界内部にも霜が付き始めた。これ以上は限界だ。姉様を崇める街を破壊するのは気が咎めるがな。姉上の姿を思い出した私に僅かな迷いが生まれ、あの人の姿が思い浮かぶ。

 

 

 

 

「ねぇ、アンタの旦那だけど一晩貸して。夫婦がベッドでどうすれば良いのか教えて上げた際に見たけど……凄く美味しそうだったわ。きっと楽しい夜になりそうね」

 

 姉様を信奉する街の被害を抑える。あの方の為に抑え……る。

 

「うーん。アンタに化けて誘惑したけどバレちゃった。こりゃ気合い入れて誘惑しなきゃね。此処まで通じないなんて情欲を司る女神の名折れよ! 何が何でも抱かれてやるんだから!」

 

 抑え……。

 

 

 

 全身全霊、全力で拳を突き出し続ける。一切の躊躇をせずに突き出す連撃は衝撃波によってキングスノーマンの肉体を背後へと吹き飛ばし続け、即座に再生するもキングスノーマンの身体は結界から徐々に離れていった。突き抜けた衝撃波が建物を破壊するも気にせず、今度はミョルドを大きく振り上げ地面に突き刺して地盤をひっくり返せばキングスノーマンの身体は背後へと傾いて倒れ込んだ建物が完全に崩壊、凍り付いた瓦礫も周囲に散って破壊を広げて行く。

 

 

「スノー! スノーマーン!」

 

「五月蠅いな、此奴」

 

 此処までやってもキングスノーマンには一切消耗した様子が見られない。血も肉も骨も無く、細かい雪の結晶の集合体であるが由縁か。消耗した部分も魔法で作り出した雪で埋めて補填。取り込んだ雪を身体の一部にするのも、その雪を作り出すのにも大した魔力は消耗していない。まあ、ちょっとずつ減っているからチマチマ削るのは性に合わん。

 

 大体、キリュウに任せて貰ったのに今現在私の目の前で敵が健在だというのは不愉快だ。さて、だったらどうすべきかと思った時、キングスノーマンの肉体が崩れて吹雪になって行く。忽ち吹雪は私を包み込み、雪が周囲に積みあがって押し寄せて来る。全方向から雪が私を圧迫して来るのだが……どう言った状況なのか分からない。只、真上からキングスノーマンの叫びが聞こえてくる上に私を包んだ雪が動いている気がするんだが……。

 

 

「あっ、成る程。私を体内に閉じこめたのか」

 

 グイグイと雪が押してくる上にこの雪だ、普通だったら動けず圧死か窒息死か凍死なのだろうが私は別に堪えんしな、この程度。あっ、でも放っていたら街で暴れるか。街への被害を抑えるべく私は動いているのだ。……よし、この状況を利用するか。

 

「はぁああああああああああ!!」

 

 周囲で固まっている雪を無理矢理押しのけミョルドを頭上に掲げた私は更に無理矢理上に飛び、縦回転を始めた。先程は腕の力だけだが今回は全身の力を使っての猛回転、その威力は桁が違う。キングスノーマンの体内から無理矢理飛び出した私は宙に投げ出され、激しく燃え盛る。進行方向の建物を蹴って更に上空、キングスノーマンの頭上に飛び上がった私の視界には全身から氷柱を飛ばすキングスノーマンの姿が映る。

 

 

 

「ギガクリムゾンアックス!!」

 

「スノーー!」

 

 空を蹴り、猛烈な勢いで迫る私には氷柱を飛ばしても一瞬で蒸発するだけなのを見た瞬間、キングスノーマンは叫び声と共に身を震わせ姿を変えていく。その姿は正しく巨大な氷柱。螺旋が刻まれた肉体を高速回転して私を穿とうと飛び上がった。両者が激突するのに一瞬も要せず、勝負は呆気なく済む。我が斧はキングスノーマンの巨体を両断し、地面に激突した瞬間に火柱が天高く伸びて其の身を完全に蒸発させた。もはや一切の気配無し。

 

 

「これにて決着!」

 

 

 

 

 炎が燃え移ったり、さっき方向転換する為に蹴った建物が崩壊したが人的被害を避ける為だ。キリュウも誉めてくれるに違いない。だって誰も死ななかったのだからな!

 

 

「さて、今夜はどの様な褒美を貰うとするか。……アレだな。キリュウの魔法で増えた私が一方的に攻め立てる奴、アレをしたい」

 

 建物が崩れ落ちる音を聞きながら私は今夜が来るのが非常に待ち遠しかった。




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アンノウンはまだ喋れませんが自分同士なので言葉が通じています

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