初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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狼と外道の眷属
出会いとは結構大切って思う


 ゲルダが勇者に選出された日より七年ほど前、ブリエルにて一つの村が滅びていた。採掘物の質も量も低い鉱山以外に特徴も無い貧しい村。周囲は険しい山に囲まれて一本の道のみが外と村を繋ぐばかり。

 

 その村は今、毒々しい赤紫の霧に包まれている。見えない壁でも存在するかの様に道の途中から先に霧が行く事は無く、霧に包まれた村や道には大勢の村人が倒れていた。苦悶の表情を浮かべ、助けを求めて外に向かおうとしたのか、足には靴が脱げながらも必死に走った形跡が有る者も居るが誰も霧から先に辿り着けていない。辿り着く前に苦しみながら死んだか、矢で射殺されてしまっていた。

 

「……これは酷い。あんまりですねぇ」

 

 赤子を抱きしめたまま倒れている女性の亡骸に靴先を引っ掛け、そのまま石ころでも蹴りつける時の乱雑な動きでひっくり返したウェイロンは一切の同情が感じられない声で呟き、母の手から赤子の亡骸を摘まみ上げた。全身に浮かぶ斑状の模様。周囲を包む霧と同じ赤紫色だ。

 

「病魔の呪詛の類でしょうが酷い物ですねぇ。殺すのが目的ならば即効性が無く逃げ出す余裕が有り、苦しめるのが目的にしてもこれでは苦痛が中途半端。才能も美学もコンセプトも感じられない。あんまりですよ、これでは。……ねぇ」

 

 赤子の亡骸をゴミでも投げ捨てる風に放り出した彼が呆れながら声を掛けたのは霧の境目付近に建てられた簡易的な詰め所の兵士達。内部から人が出ない為に見張り、今は誰かが入って行かない様にしていた。……そう、していただ。地に倒れ伏して呻き声を上げる男性以外の兵士は殺されていた。

 

「さて、興味は有りませんが物は試しです。……ちょっと呪われて下さい」

 

「ま、待ってくれ! 俺にはもう直ぐ生まれる子供が……」

 

「おや、それは幸運な。育った後なら父親が亡くなった事を悲しむのでしょうが、生まれる前から居ないのならそこまでではないでしょう。子供に与える悲しさが生まれた後に比べて小さいのですから運が良いですね、貴方」

 

 何をされるのか察した男の命乞いを聞き入れず、ウェイロンは霧の中から手を伸ばして彼を霧の中に引っ張り込む。必死で息を止める彼だが、それでも霧は口や鼻から入り込み、全身に例の模様を浮かび上がらせながら転がり続けた。

 

「あがぁああああああっ!?」

 

「五月蠅い。……あっ」

 

 その叫びが耳障りだったのかウェイロンは彼の顔を蹴り飛ばし、頭が宙を舞う。観察する筈が途中で終わらせてしまった事に僅かな後悔の色を浮かべるも、直ぐに表情を切り替えた彼は霧が一層濃い村の方へと平然と歩き出した。

 

 途中に転がる亡骸を踏みつけ、或いは蹴り頃がし、死者の尊厳を文字通りに足蹴にして踏みにじりながら進む彼の表情は退屈そのもの。分かり切った物を一応確かめに来たが、結局予想通りだったらしい。

 

「淀んだ怨念もそれほど発生していませんし、適当なのを実験用に持ち帰って……ははっ! ははははははっ!」

 

 退屈そうに村を見て回り、飽きたのか踵を返そうとしたウェイロンの表情が一変し、歓喜に染まりながら走り出す。心底嬉しそうに笑い、少し驚きの色さえ浮かび上がらせた彼の視線の先には男女の亡骸と、その横で泣き叫ぶ幼い男の子だ。彼の背後で開け放たれた家の住民らしく、倒れた男女と彼、そして彼の姉らしい少女の肖像画が飾られていた。

 

「やあ、少年。名前を教えて下さいますか? 私の名はウェイロン。旅の者です」

 

「……ネルガル」

 

 突然現れた見知らぬ相手に警戒しながらもネルガルは生きた相手に会えたのが嬉しかったのだろう。糸が切れた様に倒れ込み眠り、ウェイロンは彼を丁寧に抱き上げた。

 

「この呪詛の中、幼いこの子は一切呪われていない。ははっ、ははははははっ! 此処までの潜在魔力の持ち主は実に珍しい。そして君は運が良いですよ。こんな村で才能を腐らせずに済んだのですから」

 

 狂った笑みを浮かべ、ウェイロンはネルガルと共に何処かに転移する。両親らしき亡骸も同じくその場から消え去っていた。

 

 数日後、村は疫病で滅びたと発表され、二年後、この地の領主一族が何者かに皆殺しにされる。深い怨恨が有る相手なのか幼子も含めて惨殺されていたという噂だった……。

 

 

「いやはや、本当に立派に育って。……正直言って私の百年の研鑽は何だったのかと思いますよ」

 

「ケケケケケ! 殺るか? 用無しを消しちまうか、ネルガル?」

 

「駄目だって。先生を殺しても今は得しないし、骨が折れそうだもの。それよりも次は何処に行くの?」

 

「ちょっと気になる子が居るサーカスが有りまして。魔族からの勧誘も気になりますが、今は地盤を固めましょうか」

 

 朗らかな会話を続ける一行。此処で彼等が居る場所を記して置こう。とある国の草原だ。最近増えてきたモンスターの討伐に派遣された兵士達の亡骸が転がり、モンスターに貪られる光景を目にしながら呑気に話をしていた。その光景を作り出した事に一切の躊躇も後悔も無くだ。

 

「サーカスかぁ。父さん達が忙しいからってあの人が連れて行ってくれたな。……何処かで生きてて欲しいよ。じゃないと僕が殺せないもん」

 

 この日、大勢の兵士が死した事で一層被害が広がる結果となった。その原因である一行は悪意を悲劇を振りまきながら世界を巡り、今後も世界に影響を及ぼす事だろう。そして、誰かに打破されるその日まで決して止まる事は無い。

 

 

 

「明日でお休みも終わりかぁ。ちょっと残念ね」

 

 サウナで汗を流し、体が芯まで温まったら水風呂に直行。これを数度繰り返すと凄く気持ち良いだなんて今まで知らなかった。勇者としての半年ちょっとの旅で広い世界の一部を知った私だけれど、本当に世界って色々な事が有るのね。思えば羊飼いの時もこうして纏まった休日をのんびり観光しながら過ごすだなんて初めてじゃないかしら?

 

「まあ、明日は一日体を休めながら休暇中の事を二人に話すのだろう? それも楽しみではないか。旅行とは出掛ける前の計画と帰った後の思い出話も楽しみと聞くぞ?」

 

「私も遊び目的の旅は初めてだけどそれは聞いた事が有ります。今からでも楽しみだわ……」

 

 今回の休暇中の観光旅行に一緒に着いて来てくれたソリュロ様も水風呂に浸かって気持ち良さそうにしていたわ。私一人だとどうしても使命について考えてしまうだろうし、こうして一緒に楽しむ人が居てくれるのって本当に嬉しい事ね。……それと、胸が私と同じなのも安心だわ。

 

 自分の胸をペタペタ触りながらソリュロ様の胸に目を向ければ同じく断崖絶壁が存在していた。大人の姿になったら大きいけれど神様って肉体の年齢は自由自在らしいし、普段の姿が比較対象で構わないと思うわ。って言うか思いたい。

 

「楓さんが急な仕事で部屋に籠もりっきりになったのは残念ね」

 

「領主とは領地に関わる全ての責任者だからな。何かあれば動かねばならぬのさ。万物を司るミリアス様とて忙しい方だぞ? 何せ馬鹿共が手を抜いたりして出来た穴埋めも仕事の内だからな。……此処数百年はイシュリアが酷いが。神が必要以上に干渉しない事で文明が発達して、興味を引かれて頻繁に出掛けているのだ、あのアホ女神は」

 

「イシュリア様らしいですね……」

 

 よし、この話題は終わりにしましょう。神様への敬意を忘れそうだもの。それにしても本当に楽しかったわ。大切な使命を忘れちゃう位に……。

 

 

「安心しろ。休暇は状況を見てまた貰えるさ。お前と旅をしているのは私の弟子と女神だぞ?」

 

「それと性格が悪いけど頼りにはなる使い魔の……」

 

「あれの名前は出してくれるな。……最近ではパンダの絵を見ただけで胃がキリキリ痛むのだ。パンダは好きなんだがな。……パンダのヌイグルミをやるんじゃなかったよ」

 

「え、えっと! そろそろ遊びに行きませんか! お祭りが有って出店も沢山出るそうですし!」

 

「そうだな! どうせ金はキリュウから沢山渡されているのだ。羽目を外して遊び回るぞ!」

 

 急に落ち込んだソリュロ様は顔まで浸かってブクブクと泡を出していたけれど、気を取り直したのか急に立ち上がると水風呂から飛び出して行ったわ。私も慌てて追い掛けるけれど、ああやって見ると本当に私と同じ年齢に見えるわね。大好きな人間に恐れられる悲しい神様なのに、それを感じさせない明るさを見ていた私も世界を救うって使命へのやる気が湧いて来た。

 

 

「よし! 張り切って行くわ!」

 

 両方の拳を強く握りしめて誓う。私は私のままで世界を救う。その後で絶対に幸せになってやるってね。だって、世界を救っても私が不幸せなら賢者様も女神様もソリュロ様だって気にしちゃうもの。そんなの嫌よ。

 

 

「では、さらば……いや、また会おう」

 

 そして休暇最終日。ちょっと寂しいけれどソリュロ様と別れて賢者様達の所に戻ったのだけれど、なんであの人が居るのかしら?   

 

「……よう」

 

 私と同じ灰色の髪の毛で少し怖い顔のお兄さんがアンノウンの引く馬車の前に立っていて、ぶっきらぼうな態度で私に声を掛けて来る。確かこの人の名前は……

 

 

「えっと、ミニスカセーラー服の……じゃなくて、クルースニクのレリックさんがどうして此処に?」

 

 ……悪気は無いのよ? でも、ちょっと話した後で直ぐに再会した時の格好がパンツ丸見えのミニスカートのセーラー服だったのだもの。




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