初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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僅かな願い 捨てられぬ物

 この世の全ての事柄には、それを司る神が二名ずつ存在する。でも、一つだけ例外を挙げるならば最高神である私だよ。最高神ミリアス。普段は少年の姿で己の神殿に籠もっているのだけれど、別に暇で引きこもっている訳じゃない。

 

 神の仕事だけど大抵は祝福を与える事だ。例えばイシュリアならば大規模な戦争の兆候を見張り、民族間の争いの様な場合は犠牲が最低限で済む様に祝福で戦力を調整する。ディロルみたいに鍛冶技術の向上の為にドワーフの街に住んでいる例外も居るけど、基本的にそんな感じなんだ。

 

 じゃあ、最高神の仕事は何かというと……全部なんだ。神ってのは人間と時間感覚が違い過ぎるからね。必要だからって恩恵を与えるにしても、ちょっとボーッとしていたら数年経っていたとか色々あるし、与えるかどうか、どの程度の規模なのかも神によってバラッバラ。だから最高神として必要か不必要かの判断を下しているんだ。

 

 一枚の報告書を手に取り、数百ページにもなる分厚い本並の情報を頭に流し込んで横に置けば既に担当の神に指示が飛んでいる。あっ、提出期限を過ぎた案件が混ざっているや。

 

「って言うか、また圧政関連か……」

 

 神が六色世界に過剰な干渉をしていた頃は悪政が始まりそうになれば正義と執政の神が降臨して止めていたけれど、干渉を最低限にしてからは滅多に手を出さない。あくまで人の営みの範疇だからね。何時までも神が徹底的に管理していても人は成長しないし、神に振り回されるばかりだ。

 

 良識と倫理で我欲を自制して政務に励む、どうやら言葉で聞くよりも難しかったらしく中々悪政を敷く権力者は減りはしない。これも人に干渉過剰だった弊害だろうね。何故駄目なのか、それを学べないなら人は変われない。人にとっては長い三百年、されど三百年ぽっち。僅かだけれど減り始めた悪政の情報が今読んだ書類に混じっていた。

 

 五十にも届く男が十代半ばの少女を手に入れようと権力を悪用し、逃げられたら腹癒せに村を滅ぼす。そんな事をしていれば家の取り潰しだってあり得るけれど、それより前に滅ぼした村の生き残りの少年によって殺された。

 

「……七年前か」

 

 この悪徳領主については何度か経過報告が有ったので印象に残っているよ。……最後に寝たのもその辺りだったよね。馬鹿がサボった仕事の穴埋めが増えていた頃だったよ、確か。その上、魔族の出現まで重なって……不老不死だし最高神だけあって倒れたりはしないんだけれど……いっそ倒れたいよ。……あっ、イシュリア案件だ。

 

 

「……この子はどうしようかな? 勇者の心にのし掛かりそうだし、キリュウかシルヴィアに始末を命じるべき?」

 

 誰にも聞かせない呟き。だって最高神の決定は絶対だから、それ故に自分で考えなくちゃならないんだよね。……あー、ベッドに入って爆睡したい。イシュリア、マジで反省しろ!

 

 

 

「あの子は確かに魔法の才能が有ったのでしょう。呪いの霧の中で五歳の子供が生き残った事が何よりの証拠です。ですが、幾ら才があっても教える者が居なければ無意味。村からネルガルを連れ出し、今の様に育てた者が居るはずです。……私は絶対に弟を取り戻します。完全に壊れていたとしても、この命に懸けて、例え弟の命を奪う事になったとしても其奴の好き放題にはさせません」

 

 会話の最後、そう語った時のイーチャの声には覚悟と悲しみが混じった物だった。間違い無くイーチャは弟を愛している。例え人を殺そうとしていても、実際に大勢殺していたとしてもだ。

 

「……」

 

 イーチャと別れて戻る最中、俺は無言で横を歩くゲルダに目を向ける。魔族が起こした悲劇でなく、糞みてぇな豚が引き起こした悲劇だ。人間の嫌な部分、俺は何度も見ているが、平和に暮らしていた此奴は別だろうなと思うと心に重くのし掛かる物が有る。俺が此奴にしてやれる事は何だろうな……。

 

 戦うしか能の無い俺に、自分の都合で兄貴だって名乗って家族らしく振る舞ってやる事すら無理な馬鹿野郎に何がしてやれるってんだ。全く思い浮かばない。……俺がされて悪い気がしなかった事をしてやるか。

 

「おい、あまり気にすんな」

 

 そっとゲルダの頭に手を伸ばす。餓鬼の頃、父さんは会う度に頭を撫でてくれていた。目の前の小さな妹にも同じ事をしていたかは分からないが。俺が足りない頭を振り絞ってもこの程度だ。せめて願おう。その小さな肩にのし掛かった世界を救うって重い使命。それを投げ出したくなる程に人が嫌いにならない事を。

 

「よっし!」

 

 うおっ!? 手が頭に触れる瞬間、ゲルダが急に大声を出したのに驚いて手を引っ込める。顔を見れば晴れ晴れとしてやがるし、もしかして杞憂だったか?

 

「……落ち込んでたんじゃなかったのか?」

 

「ええ、落ち込んでたわ。でも、それだけよ。今まで出会った沢山の素敵な人や物を守る使命が有るのだし、何時までも沈んではいられないわ。だって世界は目を背けたくなる程に醜い物だって有るけど、それ以上に美しい物が有るのだから

 

「こっぱずかしい台詞だな、おい」

 

 やれやれ、無駄な心配だったな、こりゃ。どうやら俺の妹は随分と楽観的に育ったらしい。両親と一緒に過ごしたからか? ……あっ、ちぃーっと嫉妬した。なので俺はまたゲルダを掴むと三度目の肩車だ。まあ、諦めたのか馴れたのか恥ずかしがって抵抗はしないがな。

 

「このまま二人の所まで帰るぞ」

 

「仕方無いわね。……本当に太股マニアなんじゃ」

 

 ……聞こえない。俺は何も聞いちゃいない。だから今は只、普通の兄妹みてぇに過ごそう。くっだらねぇ意地と復讐心で結果的に妹から兄貴を奪っている俺だが、こん位の事が有っても許されるよな?

 

 長年固めた意地と決意だが、実の妹が生きているのを知り、こうして接していると決意が揺らぎそうになる。だが、消えないんだ。獣人だから、そんな理由で家族を殺された怒りと絶望が。そんな風にどす黒い感情を出していたからか、僅かな望みでさえ否定されちまったらしい。俺の目の前には武器を手にした熊の獣人が三人。今にも泣きそうな顔で立ちふさがっていたんだ。

 

 よく鼻を効かせれば周囲から漂う血の香り。三人からも同じ香りが漂う。……そうか。復讐も家族もなんて贅沢は許さんって事なんだな。俺が動きやすくする為にゲルダを降ろせば三人が武器を構え、口を開いた。

 

「逃げ……ろ……」

 

「早く逃げ……ろ……」

 

「じゃないと……君達を殺してしまう!」

 

 ……あ~、こりゃ何か有るな。とびっきりの面倒事が。

 

 

 

 

 

「……アヒャ!」

 

 

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