初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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偶にはパンダ報いが下る……のだろうか

 ……やり辛ぇ。目の前の三人を相手にした感想がそれだ。動きは適当に武器を振り回してるだけだってのに、力自体は中々のもんだ。英雄候補……とは違うな。勇者やその仲間になる可能性がある連中は他の連中を超越した身体能力やらを持ってるが、三人は力だけだ。

 

 俺が横に飛んでハンマーを避ければ勢い良く振り下ろされるがまま地面を砕く。蜘蛛の巣状に広範囲に広がって、同時に聞こえたのは骨に罅が入る音。力は大した物だが、体がそれに耐えられてねぇ。

 

「これで単純に敵とか脅されて襲って来たとかなら……いや、そっちはそっちで面倒か」

 

 勇者を狙った場合、相手が勇者かどうかの認識の有無に関わらず大抵が死刑だ。脅されていたとか理由が有れば減刑の可能性も有るらしいがな。仮に脅されて襲って来た此奴達が死刑になったとして、ゲルダはそれをどう感じる? 背負っちまうんだろうな、必要も無いってのに。

 

 だから俺が背負わせたりしない。

 

 腕の痛みに悲鳴を上げた男の顎に靴先を叩き込む。手加減した一撃だが、地面を砕いた反動程度で骨にヒビが入る程度の肉体ならこれで十分だ。ほら、白目剥いて気絶して倒れ込み、そのまま後ろに仰け反った上半身が何かに引っ張られる様にして起き上がった。気持ち悪ぃ動きだな、おい。

 

 だが、これで確信したぜ。この三人、操られてやがる。しかも意識は残して他人を傷付けるのを見せ、無理に引き出した力の反動の苦痛も感じさせるってんだ、随分と性格が悪い……性格が悪い?

 

 その言葉でアンノウンを思い浮かべる。別に犯人だって思ったんじゃない。奴なら直接的な肉体への被害よりも精神的な被害の方を好むし、悪質極まりないが悪戯の範囲だ。……胃痛を与えるレベルだがな。

 

 確か戦いの前にゲルダの頭に飛び乗った筈だ。ムカつく野郎だが、奴なら何とか出来るだろ。

 

「おい、アンノウン! パンダ操ってるテメェだったら何か分かる事が……」

 

 何か止める方法を見付けろと、そう言おうとして言葉を失う。ナイフを両手に持って振り回す男の懐に潜り込んだゲルダの膝が股間に叩き込まれ男の体が浮いていた。ありゃ酷ぇ。潰れちゃいまいが泡吹いて気絶してやがる。思わず見ていただけの俺も体の一部がキュッとなる中、当然だが泡吹いたまま男は動く。ゲルダがデュアルセイバーを真横に振るって二つとも弾き飛ばせば、今度は拳を振り被った。

 

「レリックさん、この人達変よ!」

 

「何処かの性悪が操ってるんだよ! その位気が付け!」

 

「ええっ!? アンノウン……じゃないわね。流石にやる事の方向性が違うわ。あの子は訳の分からない展開に右往左往する姿を楽しむタイプだもの」

 

 一瞬奴を疑うが、直ぐに違うと思い直した。だが、賢者様の使い魔が性悪って認識なのはどうなんだ? しかも初代勇者だってのに。思いっきり駄目な飼い主だからな、あの人。ペットの躾をちゃんとしないで甘やかすタイプの。

 

 てか、そのアンノウンは一体何処に行きやがった!? 何時の間にやらゲルダの頭の上から姿を消している。いや、姿を消していると言えば三人目の姿も見えないぜ。俺が気絶したまま腕を振り回し、当たった物と自分の腕が傷付いても止まらない。血が流れ出し折れ曲がった腕に俺が反撃を躊躇した時、横から何かが伸びて来て男を引っ張る。

 

「待たせたかい? 僕、参上!」

 

 伸びて来たのはパンダの舌で、男はそのまま丸呑みにされる。ゲルダが相手をしていたのも同様だ。まあ、これで一旦は大丈夫だが、一言言わせて貰うぜ。

 

「いや、さっきまで居たのが急に姿を消しただけじゃねぇか」

 

「細かい事は気にしなーい! レリッ君ってば、そんなに繊細だから頭頂部周辺の毛が……」

 

「……矢っ張り」

 

 おい、今ゲルダが矢っ張りとか言った気がするが気のせいだよな? 頼むから誰か気のせいだって言ってくれ。ってか、俺はハゲてねぇよ!

 

「まあ、ストレスから来る円形脱毛症については放置するとして、操られていた三人に襲われた人はキグルミを着せた上で治療と記憶操作をしてから安心してよ」

 

 此奴、あくまで俺をハゲ扱いする気だな。俺はそれを確信する。これだよ、これ。下手に物理的危害を与える奴よりも厄介なんだよ、この野郎はよ。

 

「てか、キグルミの意味って何だよ?」

 

「そこに一切意味は無い。僕の趣味があるだけさ! ……しかし普通に『それに何の意味が有るんだよ』とかだったら操られて起きた事件後のあれやこれやを語って、そんな事も分からないのかって馬鹿にする気だったんだけれど……レリッ君はそんなんだからレリッ君なんだよ」

 

「潰すぞ、テメェ!」

 

 あー、疲れた。マジで疲れた。ぶっ殺して終わりにならない相手じゃないのが面倒だったぜ。…ん? パンダの口から何か出ている。いや、違うな。

 

「糸? 糸がパンダの口の中に繋がっているの? もしかして誰かがあの糸で人を操っていたのかしら」

 

「だろうな。つまり、あの糸の先に糞野郎が居るって事だ」

 

 パンダの口の中に伸びるのは触れる事すら出来ない不可視の糸。いや、不可視の糸だった、だ。パンダの口の中から糸が徐々に白黒に染まって行く。それにだ。さっきまで存在するが存在しないっつう矛盾だらけの存在だが、染めている物によって存在が確かな物になった。

 

「まあ、テメェにしたら十分な働きだ。よくやった!」

 

 俺は糸を掴み、強く引っ張る。少し抵抗が有るがこの程度なら問題にならねぇ。遠くにまで続く糸の先に繋がる奴が見えて来た。

 

「……ん?」

 

「アンノウン、まさか……」

 

 糸の先に繋がっていたのは不細工なピエロの人形。三本の糸が一体に繋がっていたのか。マジでアンノウンの仕業だったのかと思ったが、ピエロから漂って来た臭いが違うと告げる。人と魔族が入り混じった嫌な臭い。この臭いを俺は知っている。

 

「アヒャヒャヒャヒャ!」

 

「アビャク!」

 

 この妙に腹が立つ笑い方も記憶のままだ。イエロアですよ会った謎の道化師アビャク。声を聞くだけでイライラする上に何か嫌な予感がする。その時だった。

 

 

「レリッ君、人形を掴んで!」

 

 アンノウンの声に咄嗟に手を伸ばして人形を掴む。布製の安っぽい見た目の癖に表面は少し固い感触で、そして脆い。まるで卵の殻だ。表面に指が食い込み、グシャリと割れる。中身はドロドロでヌルヌルの嫌な感触な上に鼻が曲がる程に臭い。いや、これって爪の間にまで入り込んでるよな。俺は咄嗟に掴んでしまった原因の一言を放ったアンノウンを睨むが、向こうはヌイグルミの分際で器用に呆れ顔を浮かべていやがった。

 

「掴んで・・・・・・しまったら大変だよって言おうとしたのに、どうして君は最後まで話を聞かないんだい?」

 

「いや、俺が掴むように仕向けただろ、テメェ」

 

「うん! 因みにその液体は嫌がらせだけみたいだから暫く臭いだけみたいだよ。・・・・・・あれ? ゲルちゃん、どうして僕を掴んでるの?」

 

 ドブ川を煮込んだみてぇな強烈な悪臭に耐えかね、アンノウンの挑発に耐えられなくなった時、パンダの両脇をゲルダが掴んで俺に差し出す。何をされるのか察して身をよじらせるが逃げられそうになかった。

 

「レリックさん。取り合えずこれで手を拭いて」

 

「わわわっ!? 流石にそれは酷いよ、ゲルちゃん!」

 

「助かったぜ。丁度手を拭く物が欲しかったんだ」

 

「いーやー! これパンダだから! パンダだからー!」

 

 必死に暴れて逃れようとするアンノウンだがゲルダがパンダをがっちり掴んで離さないし、俺も容赦無しで行くぜ。偶にはテメェを酷い目に合わせてやるよ! 臭い液体を拭き取るべく俺はパンダに手を伸ばし、そのまま擦り抜ける。パンダに触れるはずだった俺の手はゲルダの胸を正面から触っていて、パンダは俺の肩の上で座っていた。

 

「これぞ新技パンダイリュージョン! にしてもレリック君、ゲルちゃんは十一歳だよ? そんな子の胸を掴むだなんて変態さんだね」

 

「誰のせいだ!」

 

「僕のせいだ!」

 

「分かってんじゃねぇか! 大体掴んでないだろ、掴めねぇだろ、この貧乳じゃ! ・・・・・・やべ」

 

 アンノウンが鬱陶しいせいで俺は固まっていた。つまりゲルダの胸を触りっぱなしだったって事で、慌てて話した俺の手首が掴まれ、骨を砕く勢いで握られる。俺を向いた顔は笑みを浮かべていたが目は笑っていない。この顔、母さんがマジギレした時の顔だわ。

 

 

「誰が貧乳よぉおおおおおおおっ! レリックさんの変態!!」

 

 両足の親指の間から頭頂部に向かって突き抜ける衝撃。この日、俺は死んだ家族の顔を見たした。起きたのは次の日で場所はベッドの上。

 

「・・・・・・全員笑っていたな。両親以外は苦笑いだったけれど」

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