初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

166 / 251
兎の憂鬱

 国家を家に例えるならば敵国や賊の類は白蟻等の家を痛ませる害虫や災害であり、貴族や王は柱に当たるでしょう。民という住人が住まう家を支える重要な存在。故に腐敗した柱や直せない程に曲がった柱・・・・・・要するに内憂となる権力者は不要だという事です。

 

「停戦など不要である!」

 

「憎き敵を蹂躙し、全てを奪えば国は潤い死んだ同志も報われるのだ!」

 

 国も民も疲弊させ、得る物等皆無に等しかった戦争。戦時下には技術が発展するケースも有るそうですが元より暴君の類だった王族や大半の貴族は技術の発展や人材育成に回す費用を私欲を満たす事に費やす愚か者。戦時下になって新兵器開発を命じられても人材も資材も設備も足りる筈も無く、理不尽な怒りで技術者研究者達を罰した辺りから何時かは、そんな風に思っていたのですが、腐敗が私の想像以上だと知ったのは疲弊からの停戦協定を結んでからでした。

 

 凡夫ではありましたが何とか国勢を回して来た先代達が戦が要因で死に、若くして王位や爵位を継いだ若者……いえ、馬鹿者達は国の情勢も見ず、見合った言動はしないが高い誇りと見栄、捕らぬ狸の何とやらで協定の一方的な破棄からの再戦を望み、もはや従う道理無しと判断した私と賛同する他の貴族によるクーデターを起こしたのです。

 

 結果は圧勝。敵方の主力であり一応王族の血を引く若者は旧政権側の顔を立てる意味合いから私の婿にしました。今の王は駄目だが、それでも尊い血を絶やすのは云々と五月蠅いですが力は持つ重鎮達が居ましたからね。王座? 私は文官ではなく武官寄りでしたからね。相応しい能力を持つそれなりの血筋の者を王に据えましたし、私の子と王の子を婚約させましたから問題は無いでしょう。

 

 此処までが私の過去。あの腐れパンダ擬きによって連れてこられたこの世界とは全く別の世界の、ゲルダさんの旅が勇者の物語だとすれば全く本編に関係しない、描かれても描かれなくても何も影響しない脇役の物語。ただ、私はそれまでの物語に後悔は残していません。やるべき事をして、選ぶべき選択肢を選んだ、それだけですから。

 

 ただ一つ、後悔があるとすれば……。

 

 

「あっ、姉様。アンノウンデパートで五千円以上買い物をしたら回せるガラガラ目当てに金をつぎ込み過ぎまして、生活費を貸して下さい。何とやら魔法少女風の格好をした姉様のフィギュアは手に入れましたよ!」

 

 後悔は一つだけ。クーデターの際に行方不明になった弟の捜索依頼をする相手を間違った事。他の誰も手掛かりすら見つけられない中、アンノウンは十日後に連れて来たのです。……何故か重度のシスコンな上にオタクになった状態で。

 

「ほら、彼って政権側だったでしょ? 自害するって五月蠅かったから洗脳したらこうなった。面白くなりそうな方向に誘導したし、反省はしていない」

 

 ……ええ、弟が生きて戻り、ちゃんと新政権側の一員として働いているのは別に良いでしょう。少々社会不適合者になっていますがっ! ……生きていればそれで良いのですよ、姉弟ですから。

 

 だから後悔は一つ。アンノウンに依頼する際に渡された契約書が炙り出しの項目が有ると見破れなかった事。そのせいで今、私は灰色の兎のキグルミを着て異世界で戦っているのです。正直言って意味不明過ぎませんか?

 

 

「あの腐れパンダ、何時か剥製にしてあげます」

 

「え? パンダ? パンダが居るんだ! ねぇ、パンダは何処かな、オバさん!」

 

「お姉さ……いえ、別に構わないでしょう。七歳児というのが本当ならの話ですが」

 

 思わず漏れた恨み言に反応するアビャクの姿は子供そのもので、青年位の姿とはアンバランスでしたが、それがいっそうの事、七歳という事を真実ではと思わせます。魔族の気配が混ざっていますが魔族そのものではなく、何らかの方法であの姿になったとすれば……被害者ですね。

 

 戦いとは時に非情になる事が求められる、それは戦争を経験した私なら痛い程に分かっています。何せ時に友すら手に掛けなければならなかったのですから。子供といえども敵は敵。この世界は私の住まう世界とは全くの無関係ですが契約は契約であり、放置すれば多くの命が奪われる。ですが……。

 

「なーんだ、パンダ来てないんだね。つっまんないの~! じゃあ、風船で遊ぼうか!」

 

 周囲をキョロキョロ見回してパンダが影も形も見つけられない事を残念そうにしているアビャクが取り出したのはバルーンアートに使う縦長の風船。色とりどりの風船を一度に五個咥えて一気に膨らませますが、顔が真っ赤になっていました。

 

「遊びたいなら家で遊びなさい。……それと私が言っているパンダには関わらない方が良いですよ」

 

「やっだよー! それじゃあ必殺の風船花火~!」

 

 空気を入れた状態で口を結ばずに手を離せばどうなるか、それは子供でも分かる事です。いえ、彼は狙ってやったみたいですね。動物が描かれた黄色い子供向けの傘を取り出し広げれば風船から空気に混じって周囲に金色の粉が飛び散っています。成る程、確かに花火みたいで綺麗ですね。そして粉は危険な物らしい。

 

 風を操り、全てアビャクに跳ね返すも傘を盾にして防がれてしまう。おや、返されたのが不満なのか地団駄まで。矢張り子供というのは本当なのですね。技は子供の発想レベルで態度もヤンチャな子供にしか感じない。だからこそ本当に厄介に感じるのですよ。

 

 この距離でも飛んで来る火の粉は地面を燃やし、熱で前方の景色が歪んで見えます。ですが、このキグルミは一切の熱を通さない。アンノウンが用意しただけの事をはあるでしょう。私はアンノウンの力は認めているのですよ。生存は認めていませんが。

 

「それに喰らったら面白いと奴が判断すれば一切の防御性能が失われそうですね。いえ、奴なら絶対にします」

 

 おっと、またしても独り言。無視されたと思ったのかアビャクは頬を膨らませていました。

 

「オバさん、僕の事を侮っているね? 言っておくけど全然本気じゃないんだよ」

 

「奇遇ですね、私もです。そして貴方相手に本気は出しませんので悪しからず」

 

 これは挑発でもなく、ましてや強がりでも有りません。歴然たる事実。悪意が人の形を取っただけである魔族の年齢など気にしませんが・・・・・・元が人の子で年齢も子供なら話は別。

 

 

 理由? 私も同年代の息子を持つ母親である、それだけですよ・・・・・・。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。