初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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ハシビロコウと貫く物

「おやおや、嫌な相手に会った時の様な顔だな、少女よ。流石の私もショックでこの通り顔が曇ってしまう」

 

 本当に嫌なタイミングで嫌な相手が来たわね。今まで会ったアンノウンの部下の中で多分一番性格が悪い人。キグルミだから表情は伺えないのに何故かどんな笑顔を浮かべているのが分かる人。ハシビロコウのキグルミの下で鳥トンさんは実に楽しそうに嗤っていたわ。

 

「顔が曇るって言われても……」

 

「確かに私はキグルミだ。顔など見えないか。これは失敬。私とした事が礼儀を欠いていた。だが、このキグルミを脱いで良いのはオフの時だけなのだ。私の表情は想像してくれたまえ」

 

 丁寧なお辞儀をしながら謝罪の言葉を口にするけれど一切の誠意が伝わって来ない。これはキグルミを着ているからじゃなく、本人の性質ね。礼儀作法は知っているけれど、他人を敬い慮る心が足りていない。こんなのを慇懃無礼って言うんだったかしら?

 

「あー、えっと、試練として知人を呼び出して戦って貰うんだけど、もしかして仲良くなかった?」

 

 もしかしてとは思ったけれど、勝手に現れたんじゃなくて試練で呼び出されたのね。アンノウンなら試練の為の空間に送り込めそうだもの。でも、アナスタシアさん、他の誰かじゃ駄目だったのかしら? アンノウンの部下ってだけで不安が残るけれど、黒子さんとかグレー兎さんとか居るじゃない。

 

 私達の様子から呼び出すべきでない相手だと気が付いたのか戸惑うアナスタシアさんだけれど、鳥トンは手を前に出してそれを制したわ。

 

「気にしなくて結構だ。まあ、私の事は互いの利益の為に手を組んだ協力者とでも認識してくれれば良い。試練にはそれで十分なのであろう?」

 

「そうだけれど……」

 

 うん、この人は矢っ張り嫌いで気に入らないわ。アンノウンだって私達を仲間だと認識しているのに、鳥トンは自分の楽しみを満たす事しか考えていないのが伝わって来た。鉄串を構える鳥トンに向かい合いながら私はレリックさんをお姫様抱っこしている腕に力を込めた。

 

「それでは開始するが、君に抱かれている青年には正式に名乗っていなかったな。私の名は鳥トン。まあ、この姿の時の仮の名だがな。アンノウン直属部隊である確か……擬獣師団(ぎじゅうしだん)の団長をしているよ」

 

「いや、確かってなんだっ!?」

 

「私の雇い主は適当で移り気でな。部隊の名がコロコロ変わるから日毎に使い分けているのだよ」

 

「なんだそりゃ……」

 

 レリックさんの呟きに賛同しか出来ない。所属する組織が日替わりで別の名前になるってどうなっているの!? ……有料なる差し歯とか変な名前の盗賊団が居たって聞いた事が有るけれど少しは名前に拘ったら良いのに。

 

「本人事態が三つも名前を持っているのだ。名には特に愛着が無いのだろうさ。団員の中にも唐突に名が変わる者が居る程だ」

 

 とても口にせずにはいられなかったから伝えたら、鳥トンさんからの返答がこれ。もう名にも言わない方が疲れないから良いと思った時、長い串の先端が床を引っかく音が響く。背筋がゾクリとした。これは間違い無く殺気。今まで戦った相手に向けられた物。だけど今までとは比べ物にならない。思わず後退りしそうになるのを堪え踏みとどまったけれど、息が少し荒くなったのを感じる。暑くもないのに汗が頬を伝った。

 

「ふむ。引かぬのは結構。だが、それで戦いになれば良いが」

 

「おい、ゲルダ。一旦俺を適当に放り出せ。じゃねぇと戦いにならねぇぞ」

 

 私と同じく殺気を浴びて焦りを見せるレリックさんだけれど、それは駄目よ。だって絶対にレリックさんを狙って来るもの。なら抱きかかえたまま戦った方が良いわ。その事を伝えても不満そうにしていたけれど、今のレリックさんが私の腕の中から抜け出そうとしても無駄だって分かっているのか暴れはしない。

 

「戦いを始める前に言っておこう。私を敵だと思って掛かって来るのだ、少女よ。その青年を姫抱きに……ククッ……したままで迷いながら戦える相手ではないとは分かっているだろう?」

 

「……」

 

「沈黙を肯定と受け取ろう。では好きに準備をしてから向かって来たまえ。先手は譲ろう」

 

 手に持った鉄串を床に突き刺して腕を組んだ鳥トンさんは不動の構えで私の動きを静観する。なら、お言葉に甘えて本気で行くのが普通よね? 私はレリックさんに頼んで腹ポケットから取り出して貰った魔本を開く。選んだのは全ての羊を融合させて最強の一匹を生み出すと同時に私自身も強化する『羊の王様(Sフュージョン)』。一匹ずつ順番で召喚するから一対一の戦いでは事前に唱えなくちゃ使えないし、消耗も激しいから短期決戦向け。でも、そのリスクに見合うだけの力がある。

 

「メー!」

 

 融合の核であり、一番年上の羊であるカイチが現れ、上から降って来る他の羊と融合して行く。本来だったら敵はこんなの見逃してくれず邪魔をするから私が守らなくちゃ駄目。だから私はカイチの前に出て、蹴り飛ばされ先端を向けて飛んで来た鉄串を蹴りで弾き飛ばした。

 

「テメェ! 待つんじゃ無かったのか!」

 

「無駄よ、レリックさん。だって最初に言ったじゃない。本当に敵だと思えって」

 

「左様。敵が出した都合の良い提案など虚言と心得、精々が本当だったら幸運だ程度に思うべきだ。……そして当然だが戦いの最中に手を緩める敵は三流だ」

 

 器用にキグルミの手で数本同時に串を掴んだ鳥トンさんはそのまま投擲。バックステップで避ければ足があった場所に次々に突き刺さって行く。体勢を整える間すら与えられず、私の背後の直ぐそこにはカイチの姿。融合まで漸く三分の二。ちょっと厳しいかしら? いえ、大丈夫。この程度なら少し位無茶をすれば何とかなるわ。

 

「……しゃーねぇ。ちっとばっかし無茶をするか。このままお荷物ってのは趣味じゃないんでな!」

 

 偶然にも私とレリックさんの思考が重なり、彼は懐から黒い札を取り出した。何となくだけれど見ているだけで嫌な予感がするそれをレリックさんは迷わず自分の額に貼り付け、私の腕から飛び出した。ええっ!? あんな恥ずかしい状態だけれど受け入れざるをえない位に弱まってたのに、どうやったの!?

 

「……ちっ! この時点で体中がミシミシ悲鳴を上げてやがる」

 

「身体能力強化……いや、それに加えて他者を操る術か。だが、身体能力以外に魔力も弱まっている筈ではないのか? 実際、少女の方は魔法が使えなかっただろう」

 

「知ってるって事は見てやがったのかよ。ったく、この試練ってのは最悪だな、おい。まあ、良いや。質問に答えてやるよ。札術は予め魔力を込めてりゃ発動するんだよ。後から追加で威力が更に、うおっ!?」

 

「おや、反応したか」

 

 敵と呑気に話をする暇など無いとばかりに投擲された串を驚きながらも受け止めたレリックさんはグレイプニルの鎖を腕に巻き付ける。どうやら戦えるみたいだけれど……。

 

 一瞬だけれど辛そうな表情が目に入った。多分相当な負担が有るのだわ。

 

「レリックさん……」

 

「何も言うな。男ってのは意地が有るんだ。お前はそれを察して黙って見てろ。んで……この糞野郎に一泡吹かせろや!」

 

 レリックさんが鳥トンさんに飛びかかって突き出した拳は鉄串で受け止められる。拳にも巻いた鎖と串がぶつかる音が響き、拮抗している風に見えたけれど、鳥トンさんはもう一本の手にも鉄串を握り締め、それをレリックさんに突き出す。先端が腹に突き刺さる瞬間、彼の服の内側から電流が迸った。鉄串を通って鳥トンの全身に電流が走り、レリックさんも少しダメージが有るみたい。

 

「服の下に何枚札を隠して……敵に答える馬鹿は居ないか」

 

「ったりめぇだ! 取り敢えず一撃入れさせて貰ったぜ!」

 

 レリックさんは得意そうに笑いながらも追撃はせずに後ろに飛び退く。だって札を懐に入れた状態で術を発動したレリックさんも少しダメージを受けているけれど、鳥トンさんには一切堪えた様子が見られなかったもの。顔は隠れていて分からないけれど、苦悶の声すら漏らさないだなんて……。

 

「……確かに一撃は一撃だ。これで良しとしよう。さて、問おう。まだ戦いを続ける気はあるか?」

 

 再び溢れ出す殺気。それは先程の比じゃない。さっきの殺気は全然本気じゃなかったのよ!

 

 

「「当然!!」」

 

「ふむ。良い答えだ。感謝しよう」

 

 相手が幾ら強くても試練を投げ出したりなんか出来ないわ。アナスタシアさんが何か言っているけれど今は鳥トンさんに意識を集中させる。……性格が悪いのにこんなに強いだなんて狡いわね。

 

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