初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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閑話  蠢く悪意

 闇で蠢く悪意達。今日も悪意は止まらない。より醜悪に、より凶悪に。己の渇望する物の為、何処までも何時までも膨れ上がり続ける。

 

 多くの者を攫って強制的に重労働をさせて建設中の城の中に子供部屋があった。壁紙には蝶や動物が可愛らしい描かれており、散らばったクレヨンによる落書きもされている。読んだら読みっぱなしなのか絵本も散らばっていて、お菓子の包み紙がゴミ箱に詰まっている。どうやら好き放題が許された子供の部屋らしいが、ベッドだけは妙に大きい。見た目自体は子供の物だがサイズは大人向けだ。

 

 そんな部屋の真ん中に部屋の主が座っていた。大人の体格を持ちながらも実年齢は子供な存在、アビャクである。手元にクッキーの入った皿とジュースが注がれたコップを置いて何やら作業に熱中している様子だ。

 

「ふんふふんふふ~ん」

 

 鼻歌交じりに上機嫌のアビャクは慣れた手付きで針を動かしヌイグルミを完成させて行く。既に同じ物が数十体程山積みにされていた。左右が青と赤という色違いの熊のヌイグルミで愛嬌のある間抜け面だが、色が変わる境目に存在する粗い縫い目が少しだけ不気味に見えた。全て前足を上げての威嚇のポーズだが可愛らしい見た目なだけあって少しも怖くは感じない。大人な見た目のアビャクではあるが実年齢は七歳。アンノウンが操るパンダの話に食い付いた所からしてこういったのが好きなのだろう。

 

 ただ、ヌイグルミを縫うのに使われている糸は少し妙だ。糸よりは毛に近い材質であり、その近くで小さなピエロ人形が何やら布を作っているが、その布も何かの皮に見える。よく見れば血がが少し付着しているようだ。

 

「さて、先生に言われたノルマまで残り半分だし……飽きちゃったよ」

 

 作りかけで乱暴に放り出されたヌイグルミは宙を舞い、キチンと縫われていなかった事で中身の綿を散らばらしながら床に落ちるのだが、既に興味を失った様子のアビャクは大の字に寝転がって手足をバタバタと動かしていた。

 

「暇、暇、暇、暇、暇っ暇~!」

 

 思い付きの適当なリズムで今の心情を歌うアビャクだったが、ドタドタと乱暴な足取りで誰かがやって来るのを察してムクリと起き上がるなり悪戯を開始した。入って来た者に見えにくい高さにロープを張り、それに蹴り躓くと赤い液体の入ったバケツが逆さまになって落ちて来る。当然この部屋は彼の部屋なので妙にドロドロで鉄臭い液体によって汚れたら後で困るのだろうが、悪戯がしたい幼い子供がその様な事を気にはしないだろう。

 

「アヒャヒャ……」

 

 悪戯の成功を見届けようと正面に陣取り、笑い声が漏れないようにと口を手で押さえて押し殺す。遂に相手がドアの前で立ち止まり、ドアノブが回されて……爆炎によって内側に向かって吹っ飛んだ。当然ながら正面に陣取っていたアビャクに激突。ロープは勢いで千切れ、バケツはひっくり返って部屋の中を汚すだけ。

 

「もー! 酷いじゃないか、ネルガルくーん!」

 

「君が僕の言いつけを破ったからだよ、アビャク。それにどうせ罠を仕掛けていたんだし、この程度はするよ」

 

 吹っ飛んで来たドアと壁に挟まれた事よって壁に少しめり込んでしまったアビャクは少しふてくされた顔で抗議の声を上げるが声には怒った感じはしない。反対にドアを吹き飛ばしたネルガルは表情も声も不機嫌そうだ。

 

「僕が君の言いつけを破っただってっ!? 困った、心当たりが有りすぎる!」

 

「いや、僕相手にオーバーリアクションされても困るだけだよ。まあ、困らせて楽しんでいるんだろうけれど」

 

「モチのロンさ! それでどの件?」

 

「ザハクだよ、ザハク。甘やかさないで欲しいんだけど。餌、沢山あげたでしょ? これから出るのに満腹で動きたくないって我が儘言って困るんだけど」

 

 どうやら普段からアビャクには振り回されているらしく、おちゃらけた態度にも慣れた様子で少しウンザリとした表情のネルガル。服装は何時もの絵本の魔女を思わせる物だが、使い魔であるザハクの姿は見えない。帽子の中に潜んでいる様子すらない所を見ると言葉の通りに満腹になってゴロ寝でもしているのだろう。本来使い魔は主には忠実な筈なのだが……。

 

「御しきれてないネルガル君が悪くない?」

 

「うっさいな。彼奴はちょっと特殊な使い魔だって知ってるだろ? 僕だってお前みたいに魔人になれば忠実になるさ。……いや、本当に僕は何時になったら魔人に覚醒させて貰えるんだろう? 先生に聞いても教えてくれないんだ」

 

 色々と不満が溜まっているのか腕組みをして眉間に皺すら寄せるネルガル。彼にとって魔人とやらになるのは重要な事なのだろう。もしかすれば目の前に居る魔人を名乗っている七歳児が羨ましいのも有るだろう。

 

「じゃあ、僕は先生から出された課題をサボって遊びに行くけど、ネルガル君は何処に行くんだい?」

 

「相変わらず自由な奴だね、君ってさ。どうせ材料集めの時も予備だとか言って余計に連れて来たんじゃないのかい? ……墓参りだよ、皆のね」

 

 この時、ネルガルが浮かべたのは年相応の少し悲しそうな表情。今にも泣き出しそうな彼に対し、アビャクはヘラヘラとした不気味な笑顔を浮かべたままであった。

 

 

「ふふふ~ん。実験台の僕がこの力だし、ネルガル君は一体何処まで強くなっるのかな~? 楽しみ楽しみ~! だってだって! たっくさん人が、死ぬもんね。アヒャヒャヒャヒャ!」

 

 この時のアビャクの浮かべた笑顔はネルガルと同じで本来の年齢を感じさせるあどけない物だ。目をキラキラと輝かせ、それこそサーカスに行くのを楽しみにしているよう。だが、その中身は残虐だ。心の底から多くの人が苦しむのをサンタを待ちわびる子供みたいに心待ちにしているのは不気味でしかない。

 

 しかし、それこそが子供らしさなのかも知れない。何せ子供とは残酷な顔を覗かせる事が有る。虫を殺すのを遊びと認識する等、幼く純粋が故の残酷さとは確かに存在するのだ。

 

 

「アヒャ、アヒャ、アヒャヒャヒャヒャ! さ~て、どれで遊ぼうっかな~。あまり使い過ぎると先生にお小遣い減らされるし困ったぞ! 材料を取った後で全部ザハクにあげなかったら良かったよ。回復させて遊べたのにさ」

 

 手に持ったクッキーの食べかすを落としながら鼻歌交じりに廊下を歩くアビャクは外に目を向ける。彼によって大幅に人数が減った事でより過酷になった作業を進める中、小さな子供が運んでいた荷物の下敷きになっていた。

 

 

「……アヒャ」

 

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