初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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小さな竜とノーパン魔族

 ケケケケケ! 俺様が誰かって? 俺様はザハク様だよ! 見た目は確かにチビだが、上級魔族だろうが俺様には勝てない。まあ、最強って所だな。……この前のパンダ? いやいや、あれは次元が違うとかじゃなくてジャンルが違うだろ。

 

 そんな俺を創造したのは僅か十一歳の天才魔法使いネルガルだ。まあ、俺様を創り出せる時点で此奴も上級魔族を越えてるんだが、今は建設途中の城の一室で飯を食っていた。

 

「おいおい、どんだけあるんだよ……」

 

 俺様が呆れちまうのも無理は無い。なにせネルガルが持ち帰った姉貴の弁当箱ってのは外から見たら二段重ね程度だったのに、いざ包みを開けりゃ縦にも横にも増えて五段重ねの特大サイズの重箱だ。それこそ数人が宴会でもしながら食べる量と種類なんだが、ネルガルは一種類ずつ食べて行ってる。まあ、育ち盛りっつっても無理だよな、完食はよ。

 

「そりゃ家族全員の好物ばかりが詰まってるからね。多分お供えの意味もあったんじゃないのかな? ほら、慰霊碑の周辺は荒らされない為にってモンスター除けの結界を張ってるでしょ? だから食べ物を置いていても安全なのさ」

 

「……あー、確かに。なのにテメーは俺様と一緒に慰霊碑に通ってやがったよな。無茶苦茶居心地が悪いってのによ」

 

「悪かったって。ほら、君も食べるかい? ピーマンの肉詰めのピーマン」

 

「嫌いな物を押しつけてるだけじゃねぇか! 肉食わせろよ、肉! せめて肉詰めの中身と一緒に寄越せ!」

 

 台の上に置かれた俺様用のベッドに置かれたのは肉詰め肉の部分だけ食べた後のピーマンだ。ネルガルの野郎、相変わらずピーマンが苦手なのかよ。……にしても、さっきから俺様の力が増大してやがるな。ったく、飯ってのは楽しみながら食うもんだろうが。だから城を造らせている連中の食事は酷ぇモンにしてるんだろうがな。

 

「あれか? 姉貴の飯を食ってたら家族の事でも思い出したかよ? テメーの場合、既に人生の半分は家族と別れてからだろうによ」

 

「思い出してなんかないさ。……元から忘れていないだけだよ。例え一緒に居なくても、例え憎く思う事が有ったとしても、家族の絆は消えない。僕の心の中に皆は生き続けているんだ」

 

 とても姉貴を核にした魔法儀式を作り出して実際に行った奴の言葉とは思えないよな、マジで。それでもって本心からだってんだ。ネルガルは今でも姉貴が大好きだし、大勢を不幸にする儀式を行った事に気が咎める優しさだって持ってやがる。

 

 まあ、結局本人の心の中で終わっちまうがな。碌々行動には出やしねぇし、だからこそ俺は強くなり続けてる。

 

「ケケケケケ! あの粘着質な糸目野郎には感謝だな」

 

 俺は基本的にこの城に居る連中は嫌いだ。マッチョオカマもトロい緑髪の狸女も無口な赤髪の狐チビもガサツな黄色女も見ているだけで腹が立つ。だがな、ウェイロンの奴には感謝してんだぜ? 彼奴は無駄に終わるはずだったネルガルの才能を見出して育て、狂っていない風に見えて狂わせて育てた。だからこそ俺は育ち続ける。ネルガルが罪悪感だの何だのを覚える度にだ。アビャクみてぇに完全に壊れてりゃそうは行かないもんな。

 

「さて、この城も完成が近いがよ……俺が派手にぶっ壊してやるよ。見物だぜ。浚われて無理に造らされた城が実は自分達の目の前でぶっ壊す為の物だったなんてな!」

 

「元から人にとって魔族の城だなんて無駄を通り越してるけどさ。実際に完成当日に目の前で瓦礫になったらどう思うかな? あっ! 家族で浚われて来た人達は城の中に家族が居る状態で壊すのを見させるってどうかな? それか一晩眠って目が覚めたら瓦礫の山になってるってのも……」

 

「性格が悪いな、テメーはよ。って、オムレツの中のアスパラを除けんな。野菜はちゃんと食え!」

 

「沢山有るし、全種類食べるには何処か減らさないと駄目だろ。お姉ちゃんももう少し小さな弁当箱にすれば良いのに、何で特大サイズの魔法の重箱にするのかなぁ……」

 

 ってか、確かに使い魔は主の為に働くもんだが、幾ら何でも好き嫌いに口出しするのは別だろ。あー、馬鹿馬鹿しい。何で俺様はこんな事をしてるんだ? くっだらねぇし、ちょいと寝るか。

 

「……セロリ」

 

「ちゃんと食えよ。姉貴の最後の料理だろ」

 

 駄目だ。見張ってなきゃ偏食するな、此奴。俺がちょいと出掛けたら菓子の食い過ぎで飯が食えなかったとか有るし、あの粘着糸目の野郎はその辺無頓着だからよ。一応保護者だろ、確か!

 

 取り敢えず嫌いな物を残さないように見張りつつ好きな物を食べ過ぎないように見張ってたんだが、二段目に箸を伸ばした時、ノックもせずにアポも取っていない奴が入って来た。

 

「入るわよ」

 

「もう入ってんじゃねーか、ノーパン白髪」

 

 入って来たのはレリルの側近のアイリーンだ。この片目隠れ男装女と出会ったのは確かレリルの城に三人と俺が揃って招待された時だったな。顔を見るなり敵意を向けて来たんだが、レリルの奴に叱られてたよな。

 

「こら! アイリーンったら仕方が無い子ね。ほら、これお詫びにご覧なさい」

 

「レリル様っ!?」

 

 正に一瞬の出来事で当時の俺様じゃ動きが見切れなかったんだが、やった事と言えばアイリーンのズボンを下までズラしただけだ。下半身を丸出しにされて慌てたせいで前のめりに転んじまって尻まで見せちまったのは笑えたよな。見事に三人が無反応だったがよ。初恋拗らせたストーカー思考の野郎と餓鬼二人じゃ当然だがな。

 

「私が穿かない主義なのがお前に関係有るのかしら? 全く相変わらず五月蝿い奴ね」

 

「部屋の主の許可を取らずに戸棚開けてる奴が何言ってるんだよ、バーカ」

 

 このアイリーンは兎に角大食いだ。三大欲求の内、食欲に残り二つが吸収されてんじゃってレベルで食う。んで、視察で訪れた時にネルガルが部屋に菓子をため込んでるって知った後はご覧の有り様だ。人間に遠慮する必要は無いって感じで部屋に入って菓子を食いまくる。偶にレリルにお仕置きだって感じで全裸で逆さ吊りにされてるらしいが、んな事されても俺様達は嬉しく無いんだがよ。

 

「貴方の計画は聞いたわ。随分と回りくどい方法を取るのね。予兆を感じ取られて邪魔が入るんじゃないのかしら?」

 

 クッキーの缶を片手に持ち、瞬く間に腹の中に入れてやがる。こ、此奴、一口一秒だが、その一秒間にちゃんと三十回以上噛んでやがるだと!?

 

「予兆? まさか。準備が完全に整うまでは何一つ起きないよ。発動したら既に最終段階さ」

 

「あら、それなら結構ね。所で美味しそうな物を食べているじゃない」

 

 再び無許可で手を伸ばすアイリーンだが、ネルガルが手に持った二段目に向けられた手は一段目に阻まれた。おっ! ちょいとムッとした感じだな、ノーパン女。手を出そうとしたら俺様が動く口実になるんだがな。

 

「僕が全種類を一個ずつ食べるまで待ってよ。これは既に食べてるからどうぞ」

 

「なら貰うわ。そして貰ったわ」

 

「速っ!?」

 

 少しだけ機嫌を良くして重箱を受け取ったアイリーンは直ぐに机の上に置く。中身は一瞬で消え失せていた。てか、あの細っこい体の何処に入るんだよ……。既に何度目かになる疑問を俺様が浮かべる中、アイリーンは素直にネルガルが食べ終わるのを待ってるが、既に幾つかのオカズに狙いを定めてやがるな。口元に涎だって溜まってやがる。あー、こりゃ我慢の限界が近いな。犬ッコロでも教えれば待てが出来るのに情けない奴。

 

「『今度余所様の所で盗み食いをしたら十日間は裸エプロンね』、とレリル様に言われてなきゃ直ぐにでも奪うのに惜しいわね。そして凄く美味しいわね。作った奴を連れて来なさい。私専属の料理人を増やすわ」

 

 ……いや、既にクッキーを黙って食ってるよな? この城に来る度にやってるから感覚麻痺してねぇか? レリルなら見抜いてそうだし、此奴十日間は裸エプロンで仕事か。

 

「作ったのはお姉ちゃんだし、計画では死んで貰うから無理だよ。だから最後の料理をこうやって味わっているんじゃないか」

 

「ああ、家族の絆って奴かしら? 私には理解不能だけれど、それでも歪んでいるとは分かるわ」

 

「愛の形は人それぞれだよ。僕はちゃんとお姉ちゃんを愛しているし、誰にもそれを否定させない」

 

「いや、別に否定はしないわ。……にしても、間怠っこしい!」

 

 遂に我慢の限界が訪れたのかアイリーンはネルガルの手から箸と重箱を引ったくる。これでかき込みだしたら重箱ごと頭を焼いてやろうと腹の中で炎を燃やすんだが、何故かアイリーンは箸の先をネルガルに差し出した。

 

「一個ずつ食べるんでしょ? なら、私が食べさせて、残りを直ぐに食べれば話が早いわ。ほら、口を開けなさい」

 

「……自分のペースで食べたいんだけど?」

 

「奇遇ね、私もよ。ほら、口開けなさい。それと三十以上は噛む」

 

 ……あーらら、強引なペースに完全に押し切られてんな。にしても、前の彼奴なら有無を言わさず奪い取ってただろうによ。何があった?

 

 

 

 

「餌付けか。菓子貰って親密度上げたな。……単純な奴」

 

 このまま見ていても退屈そうだし、本当に寝るか。俺は瞼を閉じてベッドに寝転がる。あー、マジでくっだらねぇ。何か面白い事起きねぇかな。例えば城に住んでる誰かが死ぬとかよ……。

 

 

 

「それにしても海辺は潮風でベタベタするし、シャワー借りるわ。いや、確か猫足の浴槽が有ったわね。魔法でお湯を張りなさい。ついでに背中を流して」

 

「面倒だなぁ……。アビャクったら何処に行ったんだろ?」

 

 

 

 

 

 

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