初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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甘味対決! 妖精vs大熊猫

 妖精、それは数多くの絵本や伝説に登場するけれど、実際に会った事が有る人は数える程しか居ない種族。でも、目にしなくても関わったって人の話は偶に聞くわ。例えば森の中で迷子になった子供が何処からともなく聞こえた声を頼りに歩いたら無事に森から出られたり、旅人がうたた寝をしていたら荷物の中のお菓子が消えて、代わりに沢山の木の実が入っていたり。

 

 妖精達は滅多に姿を見せないし、余程の相手じゃないと自分達の住む国に人を招待しないし、招待されないと入る事が出来ない。悪戯好きで無邪気だけれど警戒心も強い、それが私が知っている妖精よ。だから絵本に載っているのは招かれた人の話からの再現だけれど、私の目の前に広がる風景は正に絵本の通りだったわ。

 

「……悪戯好きなのまで本当だなんて。しかも想像の上を行ってるわ」

 

「あはははは! ゴメンね。僕達もイメージって奴が有るからさ。ほら、アフターケアだってバッチリさ」

 

 顔に張り付いたクリームパイを掴み取り、持っていたハンカチで顔を拭おうとしたら妖精さんの一人が濡れタオルを差し出して来た。まさか顔を拭いたら変な模様が顔に着いてるとかは無いわよね? 少し警戒しながらタオルを調べるけれど不審な点は無い。少し安心し、疑った事を悪く思ったのだけれど、そもそも向こうが仕掛けた悪戯が原因だからその必要は無いわよね。タオルでベタベタするクリームを拭い、レリックさんが居ないか周囲を見回す。

 

「私より先に来た人は何処かしら?」

 

「あの不良っぽい顔の人? だったら木の陰に隠れているよ」

 

「あら、本当ね。レリックさん、さっきのは謝るから出て来て。賢者様だって直ぐ来るでしょうし」

 

 花畑の周囲に生えている不思議な木達。さっき投げつけられたクリームパイを小さな妖精さん達がどうやって作ったのかと思ったけれど、木を見れば直ぐに分かったわ。木の実じゃなくてお菓子が生っているのよ。可笑しな木ね。痛んだりしないのかしら? ここ、温暖な気候だし、雨だって降るんじゃないの?

 

「……こっち来んな。いや、マジで頼むから来ないでくれ」

 

 そんな木の陰からチラリと見える銀髪。間違い無くレリックさんが居るのは彼処なのだけれど、どういう理由か姿を現さない。あっ、察したわ。

 

「そんな酷い事されているの?」

 

 多分見られたくない姿にされているのね、と私が察すると門が開く。どうやら賢者様も来たみたいね。私は賢者様まで悪戯のターゲットになるんじゃないかって心配したのだけれど、実際は違ったわ。門はゆっくりと開き始めたのだけれど、妖精さん達は途端に慌ただしく動き始めたのよ。

 

「楽隊の準備を!」

 

「整列しなさい、整列!」

 

「楽器構えて。早く!」

 

 私やレリックさんを出迎えた時と違い、まるで外交でやって来た他国の王族を出迎える時みたいに綺麗な隊列を組み、賢者様の姿が見えるなりラッパの音が鳴り響く。

 

「ようこそいらっしゃいました、賢者様!」

 

「偉大なる女神様の夫!」

 

「妖精郷に足をお運びいただき感謝の極みです!」

 

 ……成る程ね。随分と畏まった様子の歓迎だし、賢者様も少し困った様子だわ。挨拶が済むなりお絞りや飲み物を差し出しているし、まるで敬虔な信者が信仰対象に出会った時みたい。女神様が少し重いって言っていたのはこの事ね。

 

「確かに此処まで歓迎されたら逆に気が滅入りそうだけれど……私達との差が開き過ぎてやしないかしら?」

 

 かたや顔面にクリームパイを叩き付けられ、方や歓迎のファンファーレでの丁重な出迎え。しかも私って勇者だと認識されていたわよね? そりゃ勇者より賢者様や神様達の方がずっと上の存在だろうけれどモヤモヤするわ。

 

「俺とは真逆だな、おい……」

 

 それはレリックさんも感じた事なのか木の陰から思わず身を乗り出して賢者様への歓迎の様子を眺めて呟いたわ。そのせいで私には見えちゃったの。ピンクのフリル付きのドレスを着たレリックさんの姿を。向こうも私と目が合って、自分の格好を見られているって気がついたらしい。何処かに走り出して行っちゃった。

 

「あれは追いかけない方が良いわね、きっと」

 

 あんな服を着せられて、翻ったスカートの中もピンク色の女性用下着にされて、それで顔をクリームまみれにされた程度の私に慰められてもショックが大きくなるだけよ。だから私は信じるだけよ。レリックさんなら絶対に立ち上がれるって……。

 

「頑張って。私が応援しているから」

 

 それはそうと流石に悪戯にしては度を超しているとしか思えない。未だに賢者様の接待をして今は歓迎の演奏を始めた妖精さん達に一言は言ってあげないと時が収まらないわ。アンノウンだって悪戯によっては女神様にキツく叱られているし、私が叱るべきね。

 

「ちょっと……」

 

 妖精の年齢は分からないけれど黙ってはいられないので声を掛ける。でも妖精さん達が意識を向けたのは私じゃなくて、花畑の中心に立つ門。それがゆっくりと開き始めていた。一体誰が来るのかしら? あれ? アンノウンが居ないわね。もしかして来るのはアンノウン?

 

「賢者様。どうしてアンノウンと別々に?

 

「幾ら招かれなければ入れない場所でも騙したり脅したりで案内させれば来れますからね。一度になだれ込まない為に妖精以外は一度に通れるのは一人まで。私なら魔法でどうとでもなりますが、アンノウンが必要無いと言いまして。

 

「それで残したのね。……あ~あ」

 

 大量のクリームパイを構える妖精さん達。さっきの反応から来る相手がどんなのか分かるみたいだけれど相手が悪かったわ。

 

「これでも食らえー!」

 

「うん、分かった!」

 

 パンダの姿が見えるよりも前に一斉に投げつけられたクリームパイはパンダの口から伸びた長い舌が全て絡め取り、妖精さん達が驚くよりも前に何かが降って来たので慌てて賢者様の近くに行く。空からクリームがたっぷり塗られた特大のフワフワドーナツが落ちてきたのはその瞬間。中心の穴に丁度私と賢者様が収まり、妖精さん達はドーナツの下敷きになってしまったわ。

 

「アンノウン、これって大丈夫なの?」

 

「暫くは痛まないから問題無し! 好きなだけ食べて良いよ、ゲルちゃん」

 

「いや、遠慮するわ。甘ったるい香りが漂い過ぎているもの」

 

 多分食べたら凄く太るとか何か罠があるのでしょうけれど、それ以前に食べる気がしない私は鼻を押さえる。クリームパイを顔面に叩き付けられた事で気が付いたのだけれど、この辺り一帯ってお菓子ばかりだわ。木の実だってお菓子だし、よく見れば花だって砂糖菓子。甘い香りは花じゃなくてお菓子の物だったのね。

 

 そうと気が付いた途端に周囲の匂いが気になった私は手で鼻を押さえる。所で私は食べても大丈夫かって意味で訊いていないけれど、アンノウンだって分かっていてズレた返答をしたわね。……なら大丈夫でしょう。アンノウンは一切油断ならないけれど、敵ですらない相手の命を奪う悪戯はしないもの。

 

「な、な、な、何をするんだー!」

 

「いや、先にやったのはそっちじゃない」

 

 ほら、クリームが盛り上がったと思ったら妖精さん達が怒った様子で出て来たわ。何時もだったらアンノウンに呆れる所だけれど、今日だけは別よ。だから今回だけはアンノウンの味方をしましょうか。必要無いとは思うけど。

 

「何をするんだって、クリームパイのお礼に超巨大なクリームドーナツを落としただけだよ? 虫歯確実の砂糖の量の特別製さ!」

 

「ちょっとアンノウンっ!? 貴方、私に好きなだけ食べて良いって言わなかったっ!?」

 

「言ったよ? 一分も経ってないのに記憶があやふやとか、ゲルちゃんはゲルちゃんだなぁ……」

 

 前言撤回! 私、絶対にアンノウンの味方はしない事にしたわ。一瞬でも味方になろうと思った自分が恥ずかしい。だって相手はアンノウンよ。

 

「おやおや。喧嘩は駄目ですよ? 仲良くしましょう」

 

「僕とゲルちゃんは大の仲良しだよ、マスター!」

 

「賢者様がそう仰るのなら……」

 

「……」

 

 賢者様ったら相変わらず身内が関わるとポンコツよね。多分少しじゃれ合いがエスカレートした程度に思っているのでしょうけど。

 

「しかし妖精って大変だよね。キャラ付けで悪戯とかしなくちゃ駄目だなんて。僕はしたくない事は基本しないし、やっちゃ駄目な事でもやりたいならするよ」

 

 ……え? 今、妙な事をアンノウンが言ったわよね? 基本的に妙な事しか言わない子だけれど。妖精さんの悪戯がキャラ付け? 

 

「えっと、それは一体……」

 

 どういう意味かとアンノウンではなく賢者様に教えて貰おうとした私の視界にレリックさんの姿が映る。金色に光る羽を持つ人間サイズの妖精のお姉さんと腕を組みながら歩いて来ているけれど、何故か目が死んでいたわ。……あと、服装は女装のままだった。

 

「……一体何が有ったのかしら」

 

 知りたいけれど、知らない方が良い気もするのよね……。

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