初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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勇者への試練 ③

「無理だよ。私は、風狸美風(ふうり みかぜ)は不死身だもん! 心臓を貫かれても、体を真っ二つにされても蘇るの!」

 

 心臓を貫き、体を袈裟懸けに切り裂き、首を切り飛ばしても美風は平気な顔をして蘇って来る。不死身? いえ、流石にそんな筈が無いわ。何か復活の種が有るに決まっている。回数か何か……。

 

「おらおらっ! 飛鳥にばっかし気を取られてんじゃねぇぞ!」

 

 

 空から降り注ぐのは小さいけれど無数の火の玉。数が多くて全部跳ね返すのは無理。だから捌ける物だけ捌き、残りは避ける。でも、相手は彼女だけじゃない。ブリューも美風も被弾を気にせず襲って来ていた。ブリューの体は火の玉をすり抜けさせ、美風はどんな怪我を体に負おうが怯みながらも襲って来る。……痛みは感じるのね。なら、絶対に復活の条件が有る筈だわ。

 

「……でも、先ずは倒せる方から倒しましょうか」

 

 ブルースレイヴを片手で持ち、美風の懐に入り込むと踏み込みながら腹に拳を叩き込んで殴り飛ばし、そのままブリューに向き直る。振り下ろしたブルースレイヴは矢っ張り当たらないけれど、すり抜けるなり反撃の爪を頭を下げて避け、腕を掴みに掛かった腕もすり抜けた。そのまま腕を突き出せばレッドキャリバーが私の手元に引き寄せられ、両手で武器を握りしめブリューに猛攻を仕掛けた。

 

「……無駄。誰も私を傷付けられない」

 

「ええ、そうね。さっきから私の攻撃は一回しか当たってないわ。一回、当たっているわよね? 貴女のその能力、制限が有るんじゃないのかしら? 任意発動なのは分かっているけれど……回数? それとも連続して使う時間に制限が有るのかしら?」

 

「……っ!」

 

「あら、焦りが見えたわね。ならこのまま徹底的に攻め続けるだけよ」

 

 私は更に攻撃の速度を上げ、ブルースレイヴを大きく振り抜く。その刃はブリューを真っ二つにする事無く体をすり抜け、そのまま空中から私を狙っていた飛鳥に向けて剣を振るった。

 

「魔包剣・飛空(ひくう)!」

 

 振り抜いた勢いのままブルースレイヴに刃に纏っていた魔力の刃が飛んで行く。刃と同じ赤い三日月の刃は飛鳥へと迫り、咄嗟に横に避けた彼女を追って進行方向を変える。でも、刃が切り裂いたのは片翼。胴体を真っ二つにするつもりだったのに、扱い慣れていないから少し狙いが外れちゃったのね。

 

「ぐっ……」

 

「飛鳥!」

 

 ……仲間思いなのね。翼を半分失って落ちて来た仲間の方を向くだなんて。でも、私との戦いの最中だって忘れているでしょう? さっき飛鳥に向かって振り抜いたブルースレイヴだけれど未だ動きは止まっていない。私から意識を逸らしたブリューの脇腹にブルースレイヴが叩き込まれる。今度こそすり抜けず、ブリューを吹き飛ばした。それと同時に着水する美風。三人共立ち上がるけれどダメージは大きいみたい。美風の蘇生能力も致命傷じゃ無ければ発動しないみたいね。

 

 

「三人共、動きに迷いが有るんじゃないのかしら? 魔族ってのは戦う時は一人なのが誇りだって聞いたわよ」

 

「……迷いか。んなもん、有るに決まってるんだろ。おい、二人共見せてやれ」

 

 美風は私の言葉に苛ついた様子で自分の服の胸元を破いて胸を見せる。美風は見た目がそっくりなナターシャさんと唯一違って胸が大きいけれど、二人はそこまで大きくない。でも注目すべきなのは其処じゃない。私が目を奪われたのは胸じゃなく、胸に寄生した黄土色の肉の塊。心臓みたいに脈動する肉の塊は三人の体に根を張り、皮膚の下から盛り上がっていた。中心にあったのは小さな口。まるで女の子みたいだけれど、それが余計に不気味さを助長していた。

 

「それは一体……」

 

「……糞女に埋め込まれた物だよ。魔族の誇りに外れた行動だろうが奴の命令通りにしなくちゃ他の奴が死んじまう。なら、やるしかねぇだろ!」

 

 ……その糞女って呼ばれている相手に心当たりが有るわね。本人じゃなくって他の誰かの為に誇りを捨てざるを得ないだなんて性根の腐った物を仲間に埋め込むだなんて私は一人しか居ない。

 

「リリィ・メフィストフェレスね? その糞女って呼んでる相手って……」

 

「……勇者が即答。見抜かれてる」

 

「あの方、性根が腐っているのが敵にも知られているんだ」

 

「はっ! 勇者に随分と執着してるみてぇだけどザマア見ろって奴だな」

 

「……酷いなぁ。私は君達より地位が上なんだぜ? 君達の地位は興味が全く無いから忘れちゃったけどね」

 

 同じ魔族相手でも随分と嫌われているのね。三人共、私が言い当てた事に納得しているじゃないの。少しだけ共感して戦意が削がれた時、美風の胸の肉塊の口が開いた。聞こえて来たのは予想したけれど聞きたくはなかった声。楽しそうな少女の声なのに吐き気がする程に悍ましい。リリィ・メフィストフェレスの声が聞こえた途端、三人の顔色が変わり、飛鳥が胸を押さえて苦しみ出す。

 

「あっ……がっ……」

 

「飛鳥ちゃんっ!?」

 

「……飛鳥に何をしたの?」

 

「お仕置きだよ、お仕置き。……ねぇ、ゲルダ。カースキマイラって覚えているかい?」

 

「カースキマイラ……」

 

 私はその名前を忘れない。イエロアで戦った上級魔族ディーナ・ジャックフロストを取り込んだモンスター。誇りも何も踏みにじって狂った怪物に変えてしまったモンスター。その時は存在を知らなかったけれどカースキマイラを操っていたリリィに初めて怒りを覚えたのを確かに覚えている。

 

 

「あははははっ! あの時は上級魔族を取り込まなくちゃ動かなかったけれど今度は別さ。強い憎悪とそれなりの力を持っていれば充分生け贄に出来る。数もそれなりに用意してあるよ。私は暫く動けないけれど、代わりに相手をしてくれよ」

 

「飛鳥ちゃ……」

 

「あす……」

 

「あぁあああああああああああっ!?」

 

 膨張を続ける肉塊は遂に飛鳥の大きさを越え、体を完全に飲み込んでグネグネと蠢く。必死の形相で駆け寄ろうとする二人は光に包まれて一瞬で何処かに転移させられ、完全に球体になった肉塊を内部から長細い脚が突き破って出て来た。

 

 基本的なフォルムは巨大なアメンボ。但し全身を赤紫の甲殻に覆われお尻からは鋭い牙を持つ無数の大蛇が生え、背中には鋭利な突起。……そして額には苦悶の表情を浮かべた飛鳥の顔。

 

 

「殺……してく……アギャァアアアアアアアアッ!!」

 

 ディーナの時と同じく死を望み、その意志さえも狂気に飲み込まれて叫ぶ。その姿に私は怒りと悲しみしか感じない。

 

 

 

「……分かった。直ぐに終わらせるわね」

 

 

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