初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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ツンデレは気付けない

「ほれ、超激辛担々麺の超激辛チャーシュー超激辛メンマ超激辛煮卵増量辛さ増し増しの特盛りだ。代金はそこの黒子が支払うから安心して食べると良い」

 

「代金は兎も角、料理自体に安心出来る様子が……ゴッホッ!?」

 

 有無を言わさず俺の前に出されたのは一抱えも有る巨大な丼と、その中で煮えたぎる真っ赤な何かだ。もう真っ赤過ぎて何がなんだか理解不能なそれの前で喋っただけで咽せちまう。目と喉と鼻が焼け付くみてぇに痛ぇ。目の前のハシビロコウがキグルミの中でニヤニヤ嗤っているのが伝わって来ると無性に腹が立って来やがった。

 

「……ビール大ジョッキで三つ寄越せ」

 

このまま目の前のハシビロコウをぶっ倒して出て行くのが最高なんだが、今の俺でもそれは無理だ。腹は立つが此処は何食わぬ顔で完食してやるのが意趣返しになるだろうな。目の前の奴が望む悶え苦しむ姿だけは絶対に晒してなるものかよ。

 

「あっ? おい、何の真似だ」

 

「……」

 

 息を吸い込んで漂う辛さに咽せそうになるのを何とか堪えて箸を手に取った時、一人前の担々麺を悶えながらも食べ進めていた黒子の手が俺の肩に置かれ、無言で静かに顔を横に振る。食うなって言ってやがるみてぇだな。

 

 アンノウンの部下の中でも此奴は全く分からない奴だ。ハシビロコウの鳥トンならテメェの娯楽の為に好き好んで力を貸していやがるし、ウサギのグレー兎は嫌々だが契約が有るとかで従っている。だが、この黒子は全然どんな奴か分からねぇ。第一、全く喋らないからな、此奴。

 

 取り敢えずチビで気弱な性格ってのだけは伝わって来るんだがな。俺の事を無言で止めた時もビクビクした様子だし、それを見かねたのか鳥トンも困った様子で苦言を呈して来た。

 

「前から思っていたのだが、お前は気弱が過ぎるな。一応は幹部なのだ。もっと堂々としたらどうかね?」

 

「幹部っ!? この黒子が幹部なのかよっ!?」

 

「おや、不思議かね? 確かに年若いし小柄で気弱だ。だが、その様な些細な事。私以外にとって貧乏くじを引かされる(主にキグルミ達の幹部に選ばれる)のはどれだけ面白い者かどうかだ」

 

「いや、色々と最悪だな、おい。後、途中で言葉が二重に聞こえたんだが気のせいか?」

 

 幹部に選ばれる云々に別の言葉が重なって聞こえたんだがな。まあ、どうでも良い。アンノウン関連については難しく考えるだけ損だからな。俺は追求を諦めると真っ赤なスープに箸を入れて麺を口に運ぶ。泥みてえに濃厚なスープは麺に絡み付く所かへばり付き、一口目で俺は一瞬意識が飛んだ。

 

 辛いよりも痛く、全身から汗が噴き出すのを感じた俺はビールを流し込むが一切味を感じない。信じたくねぇが、たった一口で俺の味覚は麻痺しちまった。だったら激辛も大丈夫かと思ったが、麻痺した味覚が強制的に呼び覚まされる。これは料理じゃねぇ。絶対新種のモンスターだろ……。

 

 目眩や手足の痺れ、そして息切れや震えを感じながらも俺が箸を手放さないのは意地だけが理由だ。俺は負ける訳には行かないんだよ!

 

「ギブアップするかね? どうせ代金は君が払う訳じゃ無し、逃げ出したいなら逃げたまえ。残した事への罰金も黒子に請求しようではないか」

 

「!?」

 

 おい、明らかに慌ててるぞ。にしても逃げて構わない? 俺も随分と馬鹿にされたもんだぜ。

 

「誰がギブアップなんざするかよ! ハッ! 俺にギブアップさせたきゃこの十倍の辛さのを持って来いよ、雑魚がっ!」

 

 正直言って限界だが、こんな時こそ不敵に笑うもんだ。俺は箸を持ったまま鳥トンを睨み、鼻で笑う。黒子は心配そうにしてるが、そんなのは無駄だって今直ぐに見せてやるよ。

 

「安心したまえ。スープは三層になっていて、二層目は一層目の二十倍、三層目は五十倍の辛さだ」

 

「ギブアップ!」

 

 諦めて逃げ出すんじゃねぇ。これは戦略的撤退だ!

 

 

 

 

「さて、食事も終わった事だし、雑談でもするとしようか、青年。幸いな事に私の本職は神父だ。何か悩みがあるなら言いたまえ」

 

「テメェが神父とか最悪だし、今現在進行形でテメェとテメェの主に困ってんだよ。てか、テメェに相談する前に賢者様かシルヴィア様に相談するわ」

 

「ククク、了承した。生憎私のこの性格は変える気はないし、主に関しても断らせて貰おう。何せ主から提供された担々麺によって私の長年の悩みは払拭された。人を無意味に苦しめるのが悪なら、建前上の大義名分を得れば何一つ問題無い、、それを気が付かせてくれたのだ」

 

「何も問題無いって、人道的には問題有るんじゃねぇのか? ……どっちにしろ胡散臭い奴に話す悩みなんざ有る訳無いだろが。余計拗れるとしか思えねぇ」

 

「ならば悩み抜いて答えを出すのだな。それもまた人生だ、青年よ。私も気が向けば陰ながら応援しよう」

 

 まあ、今はちぃっとゲルダが心配だな。落ち込んでたし、まさか彼処までこ小っ恥ずかしいキグルミを着せられるだなんてよ。笑わないように思考や意識から外したし、アンノウンが俺にのみ伝えたが、時間が経てば勝手に消えるし、外で過ごさなかったら自覚も無いってんだ。留守番任せたし、そっちは大丈夫だろ。

 

「……所で誘拐された者達が居る場所が新発見されたのだが、君だけで向かうかね? 勇者は助けた者達に関わる事で落ち込んでいると主から報告を受けている」

 

「いや、彼奴も連れて行かなくちゃ意味が無いだろ。その場に居なかったから平気ですって分厚い面の皮を持ってるんなら悩まねぇんだよ。寧ろ気を使わせたとかで落ち込むし、行かなきゃ功績も糞もねぇだろ」

 

 出来るなら逃がしてやりたいし、目を逸らせるならそれが一番だ。だが、それが無理だってんなら、俺達は側に居て転んじまっても立ち上がれると信じて待つだけだ。手を貸す時も有るが、色々押し付けでおいて信じてやらなくてどうするんだよ。彼奴の今までを否定する事だぞ、信じないってのは。

 

「……その場所に集められているのがパップリガの貴族と獣人の子供達だと聞いても同じ事が言えるかね?」

 

「性格悪いこったな、おい……」

 

「おや、どっちに対してかな? 先に言っておくが、この情報が入ったのは先程だ。それを信じるかどうかはお前次第だがな」

 

 どっちに対して? 両方に決まってるだろが。世界も種族も無作為今までと違って故意に最悪な組み合わせをした魔族と、偶然にしてはタイミングが良すぎる情報提供。偶々その場所に行かなかったのは幸いだが、都合が良すぎるんだよ。

 

 

「……場所を教えろ。それにわざわざ言って来るって事は足も用意してるんだろ?」

 

 だけど、それがどうしたってんだ。幾ら信じていたとしても、見せたくない程に汚い物だって存在する。今回のこれが特にな。迷いは……無い。

 

 

 

「当然用意しているとも。大熊猫流風船式移動術で送ってやろう」

 

 迷いは無い……無……多分。

 

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