初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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ツンデレとロリコン 人助けに行く 上

「……おい、何だよこりゃ」

 

「何って、見ての通りの風船だが?」

 

 ゲルダに見せたくない物を見せない為に単独で魔族の拠点に乗り込む事を決意した俺だが、その場所について情報と移動手段を提供するというキグルミに連れられて向かった先には巨大な風船が浮かんでいた。見た目はパンダの胴体だ。

 

「せめて頭にしとけや。なんで頭が無い胴体なんだよっ!?」

 

「その事については三日前に討論がなされてな。頭だけの場合、何度か似たような事をしていているから面白くないと判断されたのだよ」

 

 いや、これも全然面白くないんだがな。言うだけ無駄なので俺は風船を更に膨らませるキグルミを観察し、風船から糸が伸びて全身を固定する頑丈そうなベルトに繋がっているのに気が付いたんだが、同時に嫌な事が頭に浮かぶ。

 

「おい、風船式移動術とか言っていなかったか?」

 

「正確には大熊猫流風船式移動術だ。では、あのベルトで体を固定したまえ。途中で落下はしないぞ、恐らくだがな」

 

「不安しかねぇ。不安しかねぇが……これしか方法は無いんなら我慢してやるよ」

 

 アンノウンの事だ。他に方法が有っても黙ってるだろうし、心底嫌でも仕方無いって諦めるしか無いんだろうよ。どの道、ゲルダに気取られ無い内に終わらせる必要が有るんだ。賢者様やシルヴィア様ならさっさと終わる? だろうな。だがよ、それだったら稼げる筈の功績が稼げねぇ。それで得られた筈の力が足りなくて救えない奴が出たらよ……。

 

「さっさと行くぞ。速攻で終わらせて酒飲んで帰る。……今回の件、絶対にゲルダには知られないようにしろ」

 

 俺はベルトを手に取り、遠くから眺めるだけじゃ分からなかった事に気が付いた。このベルトは一人用じゃなく、二人用だ。よく見れば背中合わせに二人が体を固定するようになっていやがる。わざわざ二人用にしといて誰も来ないってのは……有り得るな。

 

 誰も同行するだなんて言っていないのに、とかアンノウンなら言うわ。想像だけで苛立って来たな。……よし! 囚われてる貴族が東側の糞共だったらイチャモン付けてぶん殴れば解決だな。俺も功績によって能力が上がるようになったし、手加減の練習に使うサンドバックには最適だろ。何度か素振りをした後でベルトを自分の体に固定すると、背後で同じく体を固定する奴が居た。黒子だ。俺より大分小柄だから少し体が浮いてるんだが、此奴も付いて来るのかよ。

 

「……おい、鳥トン。この黒子は足手纏いにならねぇ位の力は有るのか?」

 

「まあ、邪魔にはならんさ。どうも大勢の子供が虐げられている現状に憤っていてな。是非君に力を貸したいそうだ。子供好きなのだよ、性癖で」

 

「!?」

 

「おい、凄く否定してるぞ。顔を左右にブンブン振ってるんじゃねぇかよ」

 

 いや、でも本当に大丈夫か? 俺も散々ロリコン扱いされてるから他の奴を表立って疑いたくはないんだが、それでも実際に餓鬼に欲情する変態を餓鬼共の救出に連れて行くのは抵抗が有るんだよな。もしもの時はぶん殴って気絶させれば良いけどよ。

 

 そんな俺の迷いやら黒子の必死に否定する姿も楽しみの一つなのか鳥トンは肩を震わせていやがった。笑い出したいのを堪えてやがる。此奴をぶん殴るひつようがあるんじゃ8ねぇのか、マジで?

 

「ククク、気にするな、其奴は一途だ。好みの相手に心奪われても一瞬の事。本命への熱き想いは冷めはしない。では、詰まらない事は此処で終わらせて出発しよう。では、風船を飛ばしたまえ」

 

 風船に結い付けられたロープが切られる度に俺の体を固定するベルトから上に持ち上げる力が伝わり、俺は直ぐに感心した。当然、黒子にだ。

 

「……まあ、邪魔にはならなさそうだな、お前」

 

 俺と黒子は背中合わせに固定されている状態だが、黒子は俺より小さい。言ってみれば俺の背中に余計な重りを固定してる状態だ。にも関わらず俺に対して変に力が働いて体勢を崩そうとしてないって事は、足が浮いている状態でバランスを取ってるんだよ、速攻でな。流石に俺の後から体を固定する時に気付く程度の事は有ったが、今じゃ誰も居ないのと大して変わらない。それなりにやれなきゃ無理なバランス感覚だぜ。

 

「?」

 

 本人は急に誉められてビックリしてるが、一々理由を教えてやるのも面倒臭ぇ。

 

「彼はツンデレだから素直に誉められないだけだ。変に思う必要は無い」

 

「おいっ!? 何言ってんだ、テメェッ!?」

 

「ククク、最高高度に到達するまでは良いが、それから後は喋らない事をお勧めしよう。舌を噛んだりはせぬだろうが、吐瀉物を空中から吐き散らすのは嫌だろう?」

 

「あっ? そりゃ一体どういう意味だよ」

 

「……まあ、数秒後には分かる」

 

 俺が思わず聞き返すも鳥トンは愉しそうに返事をするだけで答える気は無いらしい。どうも此奴がキグルミ共のリーダーらしいが、こんな人望の欠片さえ生涯得られそうにない奴がどうしてそんなポジション何だよ。適当に選んだか、そっちの方が面白いからなんだろうが、リーダーってのはな……。

 

「……ん?」

 

 そんな風に他事を考えて居られたのはその瞬間迄だった。急激に上昇する風船にぶら下がる俺達に掛かる圧力は凄まじく息をするので精一杯だ。歯を食いしばって耐え抜き、目を閉じて圧力が収まるのを待つ。数秒か、はたまた数分なのか判断出来ない時間が過ぎて圧力が収まった時、俺の視界の先に広がっていたのは絶景だった。

 

「……へぇ。中々だな」

 

 目の前には一面の雲海、そして雲一つ無い青空。余程の高山に登らなきゃお目に掛かれない光景に俺は思わず感嘆の声を漏らす。こりゃゲルダにも見せてやりてぇもんだ。賢者様に頼んで空の上に連れて行って貰うか。頭に浮かんだのは空飛ぶ絨毯の上でのピクニック。此処は少し寒いし風も強いが、それをどうにかするのが魔法だろ。そういった特殊な魔法を手間掛けて作る奴は珍しいだろうが、あの賢者様なら絶対やってそうだしな。

 

「気分転換には丁度良いだろ。どうせなら早速明日の昼飯にでも……ん?」

 

 俺も少し疲れていたんだろうな。想像だけで楽しみになっているのを感じつつ弁当の中身を考えていたんだ。だから鳥がクチバシを真っ直ぐ向けて風船に向かって来る事に。

 

 

「……あれ? 何だこりゃ……」

 

 一瞬視界が暗転して俺の目に映る腕が別物に変わる。俺はキグルミを着ていた……。

 

 

「えっと、実は店に入った時には既に……あっ、喋っちゃった」

 

 喋ったッ!? いや、喋るか……。

 

「えっと、アンノウン様に喋らないキャラを命じられているのでどうか黙っていて下さい」

 

「お、おう……。まあ、俺が損する訳じゃ無ぇし……」

 

 何となく気まずい雰囲気になった時、頭上の風船に鳥が刺さる。直ぐに空気が抜ける音が聞こえ、俺達は上下左右に振り回されながら何処か遠くに飛んで行った……。

 

 

 

 大熊猫流風船式移動術ってこの事かよっ!?

 

 

 

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