初代勇者な賢者と嫁な女神、ハッピーエンドの後に新米勇者の仲間になる   作:ケツアゴ

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ツンデレはマゾかも知れない(冤罪)

 研究者系の魔法使いが使用する各自のオリジナル魔法を使う為の道具である魔本。私の魔本は村を襲おうとしていた……えっと、有料なる差し歯? の一員だった人の物を賢者様が持ち主じゃない私に手直しした物で、その人の魔法だって使えるけれど、私も賢者様に指導して貰っているからそれなりに魔法を創っているわ。

 

「緑の恵みよ、彼の者共を癒したまえ!」

 

 地中から現れた木の滴が岩から助け出した楽土丸を癒して行く。助け出した時には気を失っていた上に出血多量で顔色が悪くなっていたけれど、今は正常な状態よ。

 

「……終わったのか?」

 

「ええ、後は放置していても大丈夫……なのだけれど、この状態で放置してたら流石に駄目よね」

 

「天井に穴が開いてるからな。あのデカブツの姿は遠くからでも見えただろうし、近寄るのも禁じるだの何だと言っても居られねぇだろ」

 

 空を見上げれば雲一つない澄み切った青空で太陽は少し西に傾きながら輝いている。この後の事は賢者様に丸投げする予定だけれど、楽土丸をどうにかする必要が有るのよね。勢いで助けに来ちゃったのを後悔してはいないけれど、レリックさんまで巻き込んだのは少し心苦しいし、二人揃って待ち受ける面倒な事の数々に気が重くなったのを感じたわ。

 

 ……えっと、何か話題を変えましょうか。でも、お話しするにしても話題は直ぐに終わる天気の……そうだわっ!

 

「ねぇ、レリックさんは太陽と美の女神アテス様の伝説を知っているかしら?」

 

「そりゃ有名な話だからな。神殿に入ったこそ泥が起こした火事で大勢死んで、それを嘆き悲しんだアテス様が閉じこもった事で太陽が現れなかったって……おい、まさかとは思うが事実は全くの別物じゃねぇだろうな」

 

「あら、正解よ。実際はイシュリア様との親子喧嘩が発端で、その喧嘩の理由がプリ……」

 

「あー! あー! 聞ーこーえーなーいー!」

 

 プリンを食べた食べないでの喧嘩の末に不貞寝をしたのが理由だと話そうとしてもレリックさんは耳を塞ぎながら大声を出して聞こうとしない。それどころか私が黙っても恨みがましそうに見てくるんだから困っちゃうわね。

 

「いや、神様達の裏話を聞かせるのはマジで勘弁しやがれ。俺、それなりに信仰心が有るから今までの旅でダメージ受けてるんだぜ?」

 

「慣れたら大丈夫よ、慣れたら。私だって最初は衝撃的だったけれど、今は呆れる位になったわ。特にイシュリア様とかイシュリア様とかが原因で。主に九割方はイシュリア様ね」

 

「……否定はしないでおく」

 

 レリックさんったら大変ね。私も旅の当初は神様や賢者様の意外な一面に悪い意味で驚かされていたから気持ちは分かるもの。でも、今じゃ慣れちゃって、だからこそ気が付かない方が良かった事に気が付いちゃった。

 

「レリックさん……道連れになって欲しいわ」

 

「断る!」

 

 これ以上は何も知りたくないのか逃げ出すレリックさんだけれど、私だって今までは同じ意見だったから予想していたわ。そして勿論気持ちが分かるからって逃がしてあげない。彼が動くより前に私は動いて背中にしがみついた。これなら絶対に聞かせられるわ。聞きたくないだろうけれど、だって私だけで抱えるのって大変だもの。

 

「太陽と美を司るアテス様って女神様とイシュリア様のお母さんって伝わっているけれど、美と恋の女神であるフィレア様も同じなのよね。イエロアで閉じこもったのがプリンが理由の不貞寝だって教えて貰った時にアテス様の事も母様って呼んでいたし……何か凄いドロドロの予感がレリックさんを見たら浮かんだわ」

 

「おぃっ!? どうして俺を見たらドロドロの関係が浮かぶんだって、そりゃそうだよな、余計なお世話だっ! 俺だって好きでドロドロな男女関係を結んでねぇし、マジで神様のそういった話を知らせるのは勘弁しろっ!」

 

「だって私だけで抱えたくないし、仲間なら助け合いましょう?」

 

「道連れは助け合いって言わねぇよっ!? ……あー、糞。今日は不運だ。何か凄く嫌な予感がするんだよな……」

 

「戻ったら妖精女王がエプロン姿で待っているとか?」

 

「勘弁しろっ! ……マジで頼むからよ」

 

 今にも泣き出しそうな声を聞いて少し苛め過ぎたと反省する。前にアンノウンの影響を受けてるって指摘されたけれど、あの時は否定したのに今になって思えばそうかもね。だってレリックさんって弄くったら楽しいし可愛いもの。でも、大の男の人が泣きそうになるのはよっぽどだし、そろそろ止めておこうかしら。

 

 洞窟の奥、賢者様達が待っている方からは洞窟全体を揺らす大きな音が響いていて、まるで目と鼻の先に落雷が有ったみたいだわ。あれがお尻叩きの音だなんて……。

 

「お母さんも私が悪さをした時は凄い力でしたけれど、此処までじゃなかったわね。まあ、比べる相手が悪いだけで、あの人の平手打ちは本当に凄い音がして痛かったけれど……」

 

「……だな。俺もちょいと悪さしたら尻を叩かれたが、あの音は忘れられねぇよ」

 

 あら、レリックさんったら私の独り言に反応しちゃう程にお仕置きでお尻を叩かれたのが印象に残っているのね。ついつい可笑しくなってその事を指摘したら随分と慌ててたけれど、今回の事で親近感が深まったわ。……それはそうと私は何時までレリックさんの背中に乗っているのかしら? もう一切抵抗も違和感も無かったから忘れていたけれど、普通に人に見られれば恥ずかしいわよね。

 

 それに何故かレリックさんったら私が落ちないように腰の辺りを支えてくれているんだけれど、そのせいで今度は降りられないわ。……この人、肩車もそうだけれど、ロリコンやらの汚名を自分から被りに行っていないかしら?

 

 

「……レリックさんって実は変態扱いされるのが趣味なのかしら?」

 

「いや、どうしてそんな発想に至ったか説明しろ……いや、絶対にするな。町に戻ったら何か奢ってやるから絶対にするな。兄ちゃんとの約束だからな」

 

「分かったわよ……お兄ちゃん」

 

 レリックさんったら嫌がる振りしてノリが良いわよね。兄ちゃんとの約束、だなんて。年下の女の子にお兄ちゃん呼ばわりされる趣味の疑惑を前に向けたけれど、今度は向こうから振って来たから乗ってみる。あら? 少し嬉しそうに見えるけれど、多分私が振りに乗って来るとは思っていなかったからよね? うん、そうに決まっているわ。

 

 

 

 

 

 ……お兄ちゃんって呼ばれるのが嬉しい筈がないもの。そう思いたいわよ……。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 目を閉じれば瞼の裏にあの子の顔が浮かぶ。一緒に暮らしていた時に私に甘えていた時の顔。でも、それは直ぐに別物へと変わりました。姉ではなく憎い敵に向ける顔に。……ええ、分かっています。私が逃げればどうなるかだなんて分かっていたのに。

 

 だから理解しました。あの子は、ネルガルは私の弟ではなくなってしまったのだと。目を開ければネルガルが犯した罪の光景を見せ付けられる。幾つもの魔法陣が繋がり、そこに捕らえられ苦しみ続ける精霊の姿が嫌でも目に入って来る。

 

 どれだけ謝っても取り返しが付かない事を私はして、そのせいでネルガルは取り返しの付かない罪を犯してしまった。もう、私を家族として見てはくれないのだと心の底から理解しました。

 

「イーチャ!?」

 

 あれから何日経ったのかも分からない中、誰かの声が聞こえました。聞き覚えが有るのですが、朦朧とした意識では判別が付きません。今の私が考えられる事は一つだけなのですから。

 

「待っていろ、今助けてやる! ……それにしても一体誰が……」

 

 ああ、どうやら声の主は私と親しい仲だったらしい。声には心配した様子と、私をこんな状態にしたネルガルへの怒りが籠もっていたのですから。

 

 甘えん坊で優しかったネルガル。姉の私が大好きで何時も傍に居たネルガル。でも、そんなあの子は二度と戻って来ない。もう、私の弟を辞めてしまったのですから。

 

 だから私は告げる。朦朧とした意識だからこそ、有り得ない犯人であっても偽りなど無いと信じてくれるでしょう。

 

 

 

「幼い……少女で……した……。全く見覚えが……無い……」

 

 あの子が私を姉として見なくても。あの子の中で私が敵でしかなくても、それでも……私はネルガルの姉を辞めたりはしません。何があっても弟は私が……守るべきなのですから。

 




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